約束の明日

出会い


















 ネオ・ロアノークはドイツ貴族の大富豪であり、ドイツでも有能な軍人である。

 連合軍との戦いで、指揮を務めては多くの戦績を上げていた。

 タンネンベルク会戦での戦闘間で右足を失い、義足になってからは現在は前線を退いているものの、彼は優秀な戦略家として活躍している。

 彼には養子の息子が二人居る。

 一人はクロトといい、正式な跡継ぎとして現在軍の寄宿舎に居る。

 そしてもう一人の彼の息子、アウルはネオの忠実な部下の息子だった。

 彼女は彼の手足となり、戦場を駆け巡っただけではなく、時には作戦の妨げとなるものの排除――暗殺者としての役割をも果たしてきた。

 そんな彼女もタンネンベルク会戦で命を落し、アウル一人が残されたが、少年は訃報を聞いても顔の筋肉一つ動かさず、淡々としていた。 

 いずれその日が来る事が分かっていた事、そして覚悟は出来ていた事。

 彼女はわが子より任務が優先だったらしく、アウルとの親子らしい関係はほぼ皆無だったを聞くと、ネオは部下への罪滅ぼし、と自分の息子として彼を引き取ったのだった。

 
 皮肉にも。


 ネオにとって好都合な事にアウルは平凡な暮らしより、母と同じ道を切望した。

 幼少時より母親から訓練を受けていたらしく、体術に優れ、戦闘の要となる基礎はほぼ完成の状態にあった。

 ネオはそんな少年を不憫に思ったものの、確かに後釜は早急に必要だった。クロトも暗殺者として育てていたものの、やはりクロトには自分の跡継ぎとしての勤めを果たしてもらいたかったから……今後のドイツのために。

 その過酷な運命をアウル一人に背負わせるのは非情だとは思いはしたけれど。

 この時勢に感傷は無用だと自分の気持ちを押し殺し、ネオは少年を引き取ると、自分の持ちうる限りの知識と戦闘技術を教え込んだ。
 
 表向きは自分の息子として、実際は自分の手駒――暗殺者として育て上げるために。


 少年はよほど力を欲していたのだろう。


 ネオの過酷な訓練にも文句一つ言わず、こなして行った。

 基礎体力とバランス感覚の練成から始まり、銃火器やナイフといった刀剣類の扱い方格闘技の訓練。

 そして読み書きだけではなく、人体の仕組み、薬物や生物兵器といった専門知識まで叩き込んだ。

 少年は身体的能力に優れていただけではなく、頭もよく、まるで砂が水を吸い込むかのように知識を吸収していった。




 そして生まれもった射撃センスと人を殺す才能。



 約2年の歳月を経て、アウルは完璧な暗殺者として成長した。


 ……ネオさえも与り知れぬ憎悪を胸に抱えて。





* * * *





 月日は留まることなく過ぎていった。


 当初の戦況は同盟国側が優勢ではあったが、徐々に連合側に押され始めていた。

 1916年初頭でのヴェルダンの戦いでは敗北を期し、西部戦線膠着。そして続くソンムでの戦況は芳しくなかった。

 上司であるジブリールの館を訪れていたネオはその報告を聞き、苦渋の表情を浮かべて卓上の地図を見つめた。

 ソンムの敗北はどうしても避けたかった。

 敗北すれば海上封鎖の可能性があり、物資の輸送・補給が難しくなるからだ。

 この情勢下でドイツ将軍ルーデンドルフが強力な力を付け始めており、参謀本部を牛耳るまでになっていた。

 タンネンベルグ戦でルーデンベルグはドイツ国民の英雄となっていたが、ネオとしてはあまり喜ばしい状況だと考えていなかった。



 独裁は失政を招く。



 この事実は人類の歴史で幾度と無く繰り返されていたことだったからだ。


 ネオがそう思っていても、直属の上司であるジブリールはルーデンドルフを熱烈に支持しており、ドイツこそが世界の覇者であるべきだと訴え、秘密裏に新兵器の開発を進め、陸海空軍を強化していった。


「この間の仕事はご苦労だった。わが国の繁栄を阻む愚かな者共への良い見せしめになったな」


 ネオは表情を押し殺し、血のように赤いワインが揺れるグラスの向こうで満足げな笑みを浮かべるジブリールを見つめ返した。

 ジブリールの手の中にあるグラスワインもまた、赤。そして自分のも、赤。

 血塗られた自分達にふさわしい赤だと、ネオは心の内で自嘲した。

あれからアウルはさらに数人の有力な貿易商とルーデンドルの反対派を殺し、フランス領内の連合将校も殺していた。

 商人たちにおいても武器商人から物資や鉄鋼材を扱う商人など実に様々であったが、その中には他国だけではなく自国の商人までもいた。

 皆、ジブリールら有力なドイツ貴族達の協力を拒んだものや連合側に武器を横長しした者。

 同じドイツ軍の中にはネオやジブリールを疑うものもいたが、彼らはドイツ国民の間では英雄視されているので証拠なしでは手出しは出来ない。

 それを知っているからこそ、ネオらはアウルのような手駒を見つけては育て、利用しているのだ。

 自らの手を汚さず……それをやっている自分に吐き気さえ覚えたが、国を想えばこそ仕方のないことだとネオは自分に言い聞かせている。

 ごまかしだ、と分かっていても。


「デュランダルと違って、君は忠実でいてくれて心強いよ」


 ギルバート・デュランダル。

 その名にネオの肩が震えた。

 デュランダルはネオのかつての親友であり、幼馴染だった。

 理想のドイツを語り合い、同じ軍人の道を歩んできたというのに、今のドイツのやり方に異を唱えた彼とは袂を分つ事になってしまった。

 プロイセンの、ドイツのやり方は間違っている。

 このまま歩み続ければ、いずれは独裁国家を作り上げ、そのために失脚したナポレオンと同じ道をたどる事になるだろう、と主張したデュランダルは国を追われた。

 今や彼はイギルスで優秀な参謀として活躍し、女王陛下より爵位までもらったと聞いている。

 あんなにドイツの理想に燃えていたのに、何故このような事に。

 たしかにデュランダルの言うとおりにやり方は間違っているのかもしれない。

 例えそうだったとしても時代の流れに逆らえるだろうか。

 そう簡単に祖国を捨てられるものなのだろうか、とネオは疑問だった。


「あの裏切り者、デュランダルにはいずれ目に物を見せてやる!!」


 いきりたつジブリールの声を遠くで聞きながらネオは唇をかみ締めた。


「これからも頼むぞ。われらがドイツ帝国の繁栄のために!! 」

「ドイツ、のために……」


 嫌悪と苦い想いを押し隠し、ネオはジブリールと共にワインをあけた。とたん。


 ……血の味が、口に広がった……。









* * * *







ネオがジブリールの館から戻った日の夜中だった。

辺りは静まり返り、雲の間から覗く月だけが弱々しく地上を照らしていた。

風も無く、聞こえてくるのは虫の音。

車の音も馬車の音も、話し声も。

生活の音が一切途絶えている闇の中でアウルは何の前触れも無く、閉ざしていた瞼を開いた。

物音を聞いたわけでも何者かの気配を感じたわけでは無い。

ただ漠然と目を覚ましたのだ。

 第六感とでもいおうか――自分の勘が警鐘を鳴らしていた。



 何かよくない事態が起こりつつある、と。



 アウルは音も無く寝所を出ると、ネオの部屋へとまっすぐに向かった。

 長い廊下を駆け抜ける。

 月が雲の間に隠れてしまったのか、辺りには明かりは無い。

 そんな状況にも拘らず、闇夜になれたアウルには昼間と変わりなく辺りが見えた。

 ネオの部屋の近くまで来るといったん足を止め、全神経を研ぎ澄まして辺りの気配をうかがう。

 空気の変化を一片たりとも逃さないように神経の網を張り巡らせた。



――アウルのマリンブルーが凶悪な光を帯びてすっと細められた。



 口元に酷薄な笑みが浮かぶ。

 この屋敷ではごくわずかな使用人たちしかおらず、それも皆離れの屋敷にいる。

 ネオは人あたりはよかったが、プライベートでは彼が寄せ付けるのはただ一人、アウルだけだった。

 自分達以外誰も居ないはずの母屋にアウルは知らない気配を感じとっていて、その気配は無謀にもそれはネオの部屋へと向かっている。

 大方ネオに差し向けられた暗殺者だろう。

 そういった者達は幾度と無く母に、そして自分に始末されてきた。

 ここしばらくは途絶えていたが、再びここを襲撃してきたようだ。


「久しぶりの来客だなー。さーてどうしてやろっか」


決して楽感的にとる事が出来ない状況であるはずなのに、アウルは楽しげだった。

 久方振りの客を驚かせてやろうとイタズラを考える子供の無邪気な顔。

 だが根底にあるのは冷酷な人殺しの顔。

 アウルはすばやくネオの部屋に滑り込むと、闇に溶け込むように気配を消した。


 とくに物陰に隠れたわけではない。

 気配を消しただけだったが、人は意外と周囲のものには無頓着なものである。

 他のものに気を取られていたり、気配を感じなければ気づく事はないものである。

 相手が同じ暗殺者となればそう簡単にはいかないが、アウルには気配を悟られずに相手を屠る自信はあった。

 この部屋から続く隣の部屋ではネオが寝ている。

 彼を目覚めさせること無く、そしてもちろん彼の部屋に踏み込ませること無く、侵入者を殺す――
 
 アウルは刻々と近づいてくる相手を待ちわびて、手元のナイフを強く握り締めた。

 再び月が地上を照らし出す。

 すると。

 ベランダの扉が音も無く開いた。

 カーテンがゆらりと風に揺れ、再びベランダの扉が閉まる。

 滑り込んできた侵入者は闇に溶け込む出で立ちで、全身漆黒だった。周囲を警戒しながら少しずつネオの部屋へと身を滑らせて行く。背後を取られないように。いつでも攻撃の態勢をとれるように。

 まるで部屋の中にアウルの気配を感じ取っているかのようだった。

 気づいているのかとアウルは感心したが、それはどうでも良い事だった。

 相手どうでようが、殺す。

 自分の主を――ネオを――狙った事をあの世で後悔すれば良いのだ。



 
 ゲームは月が翳った時、始まった。




 銀色の光が翻ると同時に澄んだ音が響いた。

 アウルが投擲したナイフを暗殺者が持っていたナイフで叩き落したのだ。

 闇夜の中で、それも直前まで気配を絶っていたはずの投擲を叩き落した動きはまさに神業だった。

 思っていた以上に相手の腕が立つことにアウルは喜びを感じていた。

 どんな渇望してもいまだ戦場に立つ事が許されない、自分。

 命を賭した戦いへの飢え。興奮。

 強いものと遣り合っているときだけ、それを忘れる事が出来た。

 夜気に冷えたナイフ同志がぶつかり合い、火花が散った。

 力で競り負けた相手が後ろへと飛びのくと、アウルが追撃する。

 急所を狙って突き出されたナイフを腕でなぎ払い、アウルもナイフで応戦すると、相手はもう片方のナイフではじいた。


「両手利きかよ」


 舌打ちをするとアウルは半歩下がり、うなりを上げてなぎ払ってきたナイフを銃のグリップで受け止めて払った。

 この狭く、暗いところで銃は不利だった。

 狙いが当たるとは限らないだろうし、はずれる可能性の方が高い。

 反面、ナイフは小回りが利く上、反撃のスピードは驚異的に速く、こちらが次を打つ前に反撃を受けてしまう。

 その上、相手はナイフ戦のエキスパートのようだった。簡単には撃たせてくれないだろう。


 鋭い音を立てて、ナイフがぶつかり合う。

 力の反作用で二人はお互い後ろへとはじかれた。




 其の時、タイミングを計っていたかのように。




 隠れていたはずの月が再び姿を現し、乱れた部屋を照らし出した。
月光の中でアウルの青みがかかった銀髪と相手の金髪が燦々と輝く。

殺意を宿した相手のすみれ色の瞳は刃物を思わせる鋭さでアウルをにらみつけていた。

華奢な身を包む漆黒の衣服は激しいナイフ攻防戦のあとを思わせるようにところどころきり裂かれていて、白い肌が露出し、血がにじんでいる。


「女……か」


 吐き捨てるようにアウルはつぶやいた。

 驚く事はなかった。母親も暗殺者だったくらいだ、女の暗殺者なんて珍しく無い。

 母であるよりも女であるよりも、暗殺者だった母。

 人間より機械のようだった母。

 母を思いおこしたアウルの中でふつふつとこみ上げてきたのは少女に対する憎悪だった。

 それは愛してくれなかった母に対する憎悪かどうかはアウル自身わからなかったが、アウルは今、少女を憎悪していた。


 力をためて踏み込む。


 これを直で受け止めようとすればその腕ごとへしるくらいの破壊力。

 だが、少女は受け止めた。

 ――ふたつのナイフを交差させ、両手でその衝撃を。


「……ぐっ! 」


 カウンターで飛んできた強烈な蹴りを腹にくらい、アウルは吹き飛んだ。

 肩から突っ込んだ調度品たちが大きな音をたてて砕け散る。
 
 幸い肩からつっ込んだおかげか、脳へのダメージは少なかったが、肩は酷く痛み、頭は鈍い痛みを訴えている。

 眩暈と痛みをこらえ、跳ね起きると、アウルはナイフを構えなおした。



 強い。だが負けるわけにはいかない。


 血の混じったつばを吐き出すと、アウルは少女を睨みつけた。

 再びお互い肉薄しようとした時、アウルが背後に守る扉が開いた。


「一体何の騒ぎかと思ったら……」


 金の髪に寝癖をつけたネオが部屋から出てきてのん気にあくびをしながら交互に二人見やった。

 命が狙われているというのにまるで危機感の無いネオに自分の立場が分かっているのかとアウルが心底呆れていると、少女はその隙を逃さず、手にしていたナイフをネオめがけて投じた。

 夜気を切り裂く、一瞬の狂いもない、鋭く、正確な投擲。

 自分の意思か。それとも母の意思が働いたのか。

 アウルは自分でも信じられないくらいの反応でナイフの軌道に自身の身を割り込ませ、間一髪、狙い済ました一閃で虚空のナイフを打ち落とした。

 だが、少女の攻撃はそれで終わらず、投じたナイフのあとを追うように少女は疾駆し、二本目のナイフをアウルめがけて突き出してきた。

 アウルはステラのナイフを打ち落としたままの姿勢でその迎撃に間に合わなかった。

 
 彼女のナイフはそのままアウルの胸へと――。



 鈍い衝撃と共に鮮血が飛び散った


「……!! 」


剣呑な光を帯びていた少女の目が驚愕に見開かれた。
少女のナイフはアウルの胸では無く、彼の左腕を貫通していたのだ。

いつ、彼は反応できたのか。

少女は反撃を避け、ナイフを離して後ろへと飛んだ。

 あとを追うように飛んできたナイフを叩き落し、少女が顔を上げたときは、アウルが彼女の目の前まで迫っていた。

 ナイフを振りかざす前にアウルの底掌が彼女の胸板に炸裂した。

 激痛と共に横隔膜が一瞬痙攣し、少女は息を詰まらせて顔をゆがめた。

 続けざまに全体重を乗せたアウルの鋭い蹴りが少女を床へと叩きつけた。

 辛うじて腕で防御してきたものの、アウルの脚から伝った鈍い感覚から彼女の腕にヒビが入ったのが分った。


 もんどりうって床に叩きつけられる少女。

 必死に体をおこそうとしていたが、アウルの底掌と蹴りの連続攻撃でそれ以上動くことは叶わず、少女はそのままゆっくりと意識を失った。

 シンと……空気が静まった。


意識を失った少女を見つめる、凍えたマリンブルー。


 アウルは容赦しなかった。

 する気もなかった。

 自分の主を狙い、自分を傷つけたのだ。

 息を整えると、血を流す傷にかまわずにナイフを拾い上げ、ゆっくりと少女の方へと歩み寄った。

 靴先で少女をひっくり返す。

 まだあどけなさを残した顔から自分と同じくらいの少女であることが分かったが、アウルは冷ややかな一瞥を送るだけで、特に感じるものはなかった。

 ただプライドを傷つけられた憤りだけがあった。

 この少女は一度ならずも二度も自分の攻撃を無駄にしたのだ。

 はじめはナイフ戦だった。

 ナイフごと叩ききるはずだった重い一撃を少女は二本のナイフでしのぎ。

 二度目は彼女の胸骨を折り、肺をつぶすはずだった底掌を生き延びた。
 
 疾走のスピードと自分の体重を乗せた攻撃はそれだけの破壊力はあったはずなのに、それを少女はとっさに後ろへと飛ぶ事でその威力を半減させたのだ。

 アウルは少女に意識が無い事を確かめると、おもむろに手にしたナイフを頭上に振りかざした。

 少女にトドメをさすべく。


「待て。殺すな」


 部屋に響いた落ち着いた声にアウルの手が止まった。

 自分を制止したネオに怪訝な顔を向ける。

 たった今、自分の命を狙った張本人を前にこの男は何を言ってるのだろう。

 ネオはそんなアウルにかまわず、血に濡れたアウルの腕をあごで指し示した。



「お前の怪我が先。それからメイドを呼んでその子の手当てもさせようか」

「はぁ? 」



 今度こそ驚きを隠せずにアウルは素っ頓狂な声を上げた。

 一体全体この男は何を考えているのだろう。

 そんなアウルにネオは何を勘違いしたのか、にやりと笑って言った。



「あ、それともアウルがこの子を手当てしたいのかい ? 」

「あほかぁ!! 」


 先ほどまでの命をかけた殺し合いなどなんでもないといわんばかりのひやかし。

 あまりといえばあまりな展開に主従関係を忘れ、アウルは無事だった方の腕でネオを殴り飛ばしていた。





* * * *





 
「なんでこいつを生かしておくんだよ」

 手当てを受け、寝台に寝かされた少女を横目に見やりながらアウルは早速文句をたれた。

 傷を受けた左腕が酷く痛む。
 あのまま横に薙ぎ払われたら切り落とされていたかもしれない。

 無謀とおもいながらもそうするしかなかった自分の浅はかさには腹が立った。


「この子は殺すつもりは無い。この子も怪我をしてるからしばらくは大人しくしているだろう 」


 そもそもこうなったのはネオの乱入が原因だというのに、この男はまるで他人事のようにものを言う。

 それも腹立たしかった。


「尋問なら多分無理だぜ。口を割るまえに自殺がオチだ 」

「そのつもりもない」


 尋問する気も殺す気も無い。
 それならばこの女が役立つ事はただ一つ。
 アウルは嫌悪を隠そうとせず、ネオに露骨な眼差しを向けると吐き捨てた。


「ふ……ん。妾にでもするつもり?ロリコン」

「綺麗な顔をしてなんでそういうこと言っちゃうのかなぁ……まったく」


 ネオはそんなアウルに憤る様子も無く、おどけた調子で肩をすくめて頭を振った。

 あーこれだからダメダメです、といつぞやの誰かのように。

 アウルは眉間の皺をますます深くすると、鼻を鳴らした。


「違うワケ」

「違うね 」


 いつに無く、真面目な顔でネオはうなずいた。

 意味ありげな表情で眠る少女を見つめると、再びアウルの方へと向き直った。


「この子は殺すつもりも死なせる気も無い。怪我をさせてしまって上でこう言うのも悪いが……今は何も聞かないで欲しい 」


 まっすぐな眼差しを向け、アウルを見据える。

 こんな時のネオは至極真面目な命を下すときだ。


 逆らえない。


 大体の命令を察したアウルは諦めたように溜息を吐きだした。








つづく

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