カーニバル


中編





「はいはい、カーニバルのメインの始まりだよ!!音楽に乗って踊れや踊れ!!」


高台に立った男が大声でそう言い放つと、あちこちから歓声が上がり、音楽が変わった。

アップテンポな音楽が鳴り響き、街の者が輪を作ってダンスを始める。

ステラは珍しそうにそのお祭り騒ぎを
輪の外から見ていた。

ステラも踊るのも歌うのも好きだ。ただこの輪には行っていいのか分からなかった。

知らない者との接触は極力控えるようにネオから言われていたから。


「お嬢さん、中にお入んなさいな」


だが街の者は立ちつくすステラを見つけると口々にそう呼びかける。


「今日は収穫祭だ。今日は街の者もよそ者も関係ない。戦争もな」


ステラに追いついたアウルは「戦争」という言葉に眉をひそめた。


「分かってんのにこのバカ騒ぎ?」


彼の言葉に口ひげを生やした中年が応えた。


「戦争だからこそ、だよ。ぼうず。戦争だからこそ特別な日は忘れない。戦争があっても腹は減る。

眠くなる。時間は流れる。ふさぎ込んでたら人間おしまいだよ」


中年はそう言ってて大口を開けて笑うと、一転して真面目な顔でこう付け加えた。


「いつなにがあっても後悔はしたくないからな」


「ほら、輪の中に入りなさいよ。あなた達。この日にこの街に来たのもなんかの縁だから」


「あ・・」

「おい」


ステラと同じくらいの少女が彼女の手を取ると輪の中へと引っぱっていった。

アウルはとっさの事で行動が取れないでいると少女の近くにいた少年がすまなそうに

頭を下げてきた。


「ごめん。アイツ強引で。でもせっかくの祭りなんだから楽しまなきゃ。

ワインの飲み放題に食い放題だよ」

「あんた、何やってんのよ?さっさとその子連れてきなさいよ!!」


さっきの少女が輪の中からその少年に檄を飛ばしてきた。

とたん震え上がる少年。この騒ぎの中良く声が通るモンだとアウルは感心した。


「わ、わかったよ・・」


青い顔をしておろおろする少年をおもしろく思ったアウルは彼に意地の

悪い笑みを向けた。


「あの女、あんたの何?」

「女房」


予想外の言葉にアウルは目を見張る。


「は?あんたいくつ?」

「へ?えっと16だけど。女房は17」


僕より年下かよ?

驚きを隠せないアウルをよそに少年は愚痴り始める。


「アイツ幼馴染みでこの間結婚したばかり何だけどさ。結婚前から凶暴で性別

間違えて生まれてきたような女で、毎日のようにいじめられてきて」

「あっそ」


俺らと同じ、幼馴染みか。

自分より年下で、さらに幼馴染みと幸せな結婚をしたヤツ。

俺らとは世界が違う。

そんなモノは望めやしない。

本当に欲しいモノは手に入らない。

ふとステラの姿が思い浮かんだ。




嫉妬めいた感情が蠢くのをアウルは感じ、少年の手を振りほどこうとした。

が少年の力は思った以上に強く、自分の袖を掴んで離そうとしない。


「でさ、結婚すれば少しはしおらしくなると思ったらますます男らしくなっちゃって・・・」


女々しいあんたにお似合いじゃねえの?

とアウルが言いかけたとき再び少女の怒鳴り声が飛んできた。



「この宿六!!言葉が分からないの!!」

「ひっ、さ、さあ。君も輪の中に入って踊ろう?君の恋人も待ってるし」

「恋人なんかじゃ「アーウールー!」


そこへステラが満面の笑みを浮かべてこちらへやって来る。。


「なんだ」


よ、と言い終わらないうちに手を取られ、輪の中へと引き込まれた。

途端町の人に囲まれる二人。


「良く来たな、ご両人!!」

「可愛いカップルじゃないの、目の保養になるわぁ」

「二人だけで来たのかい?」


アウルはうるさい、と毒づきつつ、ステラに手を引かれたまま檜垣をかき分けていく。


「アウル、踊ろう」


輪の中心に来るとステラが微笑んだ。


「・・・・・」


滅多にみられないその微笑みにアウルが何も言えないでいると

ステラはスカートの両裾をつまんで軽く膝を曲げてお辞儀をした。


「??何だよ、それ」

「あのね、踊りを申し込むときの「作法」と教えてくれた」

「ほら、あんたも。お辞儀する!相手に対する礼儀だよ!」


先ほどの少女がアウルの背中をどんと、押す。


「いってぇ・・」


腹立たしげに振り返ると少女の後ろで少年がしきりにアウルに手を合わせていた。

その姿にすっかり毒気を抜かれ、やれやれとステラと同じように軽く頭を下げた。


「えっと、よろしくお願いします・・・でいいわけ?」


「うん!」


嬉しそうに頷くとステラはアウルの肩に手を回し、ぴたりと身体を寄せてきた。

至近距離が苦手なアウルは体を硬くしたが、やがてあきらめたように

音楽に合わせてステップを踏み始めた。

ステラが笑い声をあげる。


「アウル、じょうず」

「これくらい普通だっつーの」


、アウルは口をへの字に曲げてそう言ったが、内心はそう悪くなかった。

むしろ楽しんでいる自分がいた。

アウルの手を取ってステラがくるくると回る。

淡い色のスカートがふわりと舞い、まるで華のようだった。


今だけだけど。

今のステラは自分だけの、華。

彼女を咲かせるのも咲かせないのも自分の意志ひとつ。

手を軽く引き寄せ、戻ってきた彼女の腰を抱き上げると、そのままくるくると回る。

それによっておきる風にアウルとステラの髪が。衣装がふわりとなびく。

太陽の光を受けて重なり合った蒼と金の髪がきらめく。


「綺麗・・」


誰かのうっとりとした呟きにアウルは誇らしげに笑みを浮かべた。


当たり前だっての。

だってステラは僕の「華」なのだから。


アウルはステラをそっと降ろすと再び彼女を抱き寄せた。









後書き

一緒に踊るアウルとステラ。
アウルはやっぱりステラが好きなんです。
でも認めたくないという気持も存在する。
それは一度大切な存在を失っているから。

それでもなお。

ステラを自分のモノにしたい。

・・でも彼女に幸福であって欲しい、
と言う願いもあるので
無理強いはしたくない。

かといって誰にも渡したくない。

・・ジレンマですね。

だらだらと長くてすいません。次で終わります。



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