カーニバル

前編






久しぶりの上陸日。

外出許可がおりて街に出られると聞き、アウルは朝からご機嫌だった。

支給された例の私服に着替え、鼻歌を歌っている。

 

「朝早くからテンション高ぇな、お前。初日からそんなに高くてどうする」

 

スティングは一日を寝て過ごすことに決めたのか、ベットの上から呆れたように息を吐く。アウルは

そんな彼に向かって大げさに肩をすくめて見せた。


「いやだねぇ、これだから年寄りは」

「なんだと!!」

「久しぶりの外出日だってのに、ゴロゴロしてさぁ。じじくさいって

言うんじゃねぇの、それって!」

 

アウルはずかずかとベットの傍らに来ると、布団をかぶったままのスティングの布団を掴み、懸命に

引きはがそうとする。スティングはスティングではがせれまいと必死に引っぱり返す。

 

「うるせぇ、いつもお前らのお守りで休みはねぇみたいなんだよ!たまには休ませろ!」

「はあ?ステラはともかく、何で僕までさ?」

「手がかかるのは同じだ!!」

「なーんかあったま来た!!こうなりゃ意地でも!!こぉンのやろぉ!!」

 

スティングの言葉に大いに気を悪くしたアウルは、意地の悪い笑みを浮かべると引っぱる力を

さらに込めた。布団が妙な音を立て始め、ステイングは焦って怒鳴りつける。

 

「俺は休むと言っただろーが!」

「はっ、のんきに寝てられると思うなぁ、よっ!」

「やめれ、このバカ!!」

 

そんな押し問答をやっているとしゅんと扉が開き、ネオとステラが中に入ってきた。

布団の引っ張り合いをしている二人を見て、ネオは口元に笑みを浮かべ、ステラは状況がつかめず、

目をぱちぱちさせる。

 

「何してるの・・?新しい、遊び・・・?」

「あ、ステラ!手伝え!!」

 

 首だけ動かして、アウルがステラにそう命じると彼女は言われるがままアウル側に

加わった。
2倍となった力に流石のスティングも青くなった。体重をかけて踏ん張ろうとするが、

二人分の力にかなうはずもなく、徐々に引きずられてゆく。



「はっはー!もう少しだぞぉ!引っ張れ、ステラ!」

「分かった・・」


「オーエース!オーエース!」


 止めるべき立場にいるネオまでが一緒になってはやし立てている。哀れにもスティングの布団からは

限界だ、と言わんばかりにすり切れる音が。


「や、やめろ!!布団がぁ〜。や、やめて〜」

 

最後のは最早悲鳴に近かった。

 

 

 

 

結局二人につきあう羽目となったスティング。

車に二人を乗せて海辺の街を走るが、途中で渋滞に巻き込まれた。

渋滞といっても、車の、ではなく人人人の波。

 

「なんだ、こりゃぁ」

 

 スティングは呆れて車を止めると、後ろのアウルが軽やかに車から飛び降りた。

状況を掴もうと近くの人間を捕まえる。中年の男は美少女めいたアウルの姿に一瞬目を奪われたが、

すぐに説明してくれた。



「今日は歩行者天国さ。この先、車は通行止めだから、このまま車でいっても引き返すことになるよ」

「なんで」

「何でって、わっ!!」

 

不意に男は声を上げると後ろを振り返った。

その視先の先に一人の子供が人混みをかき分けて逃げていく。

とっさに男は自分のポケットを探ると有るはずの財布がない。

 

「あのガキ!!スリだ!!つかまえてくれ!!」

「おいっ!!」

 

男は怒鳴るとアウルをおいて子供の後を追って行ってしまった。

人混みに紛れてすぐにその姿が消える。

マヌケ、と毒づくとアウルはスティング達を振り返った。

 

「この先歩行者天国で通行止めだってさ。どーすんの?」

「この人混み気になるな。ちょっとおりてみるか。その辺停めるぞ」

 

 

街の中は文字通り人でごった返し、あちこちで音楽が鳴り響き、人の笑い声や歌声が

する。あちこちの道ばたで露店が店を開き、商店街も負けじと声を張り上げている。

 

「うわぁ、何処見ても人!人!人!何の騒ぎだよ、これ」

「あ・・」

「あ、ごめんよ」

 

後ろから中年女性にぶつかられ、ステラはアウルの背中に倒れ込んだ。

アウルも危うく前のめりに倒されそうになるが、普段から鍛えていたこともあり

うまくバランスを
取って踏みとどまった。そしてその反動で身を軽く反転させると

ステラが腕の中にすっぽりと収まった。

彼女の柔らかい感触と甘い香りにアウルは不覚にも鼓動が早くなるのを感じた。

こうして彼女に触れると毎度ながらどきりとさせられる。普段は裸を見慣れているせいか、

見ているときは何も感じないのに。こうして触れたりするとこいつも一応女なんだなと

認識させられるのだ。ただそれはステラだけには気付かれたくなかった。つまらない意地

だと思う。けど絶対に知られたくなかった。

 

「気を付けろよ、バカ」

「・・ごめん」

「ったく、はぐれんなよ、ほら」

 

自分の鼓動に気付かれないようさっさと身を離し、ステラを軽く立たせると

アウルは彼女の手を取った。

 

「迷子になんなよ、この前みたいにさ」

「この間・・?」

「あ・・・。いや・・べつに。なんでもないよ」

 

アウルの言葉にきょとんとするステラ。

そんな彼女にアウルは自分の迂闊さに舌打ちした。

この間とは海に落ちたときのこと。

彼女はそのことは何も覚えていない。

・・記憶を消されたのだから。

・・あの男のことを思い出させたくない。

 

紅い瞳の少年が脳裏に浮かぶ。


敵のくせに、何が守るだよ。

軽々しく言ってくれる。

口だけなら何とでもいえるさ。

でもお前がいなくても俺らはステラを守ってきたんだ。

それに敵として向かい合ってしまえば、殺し合うことはあっても

守ることなんてあり得ない。

あの男もバカだが、ステラはそれ以上にバカだ。

 

 

「・・スティング、いない」

 

 

ステラの声に我に返る。

顔を上げて見慣れた黄緑の角刈りを探すが、辺りは人ばかりで見つけられなかった。

 

 

「はぐれたのかよ・・・」

 

 

アウルにしては珍しい、盛大な溜め息が漏れた。

 

 

 

「ったく、電波もつながんねぇ」

 

舌打ちをして携帯をポケットにしまった。

こうなるとステラのお守りは自分だ。

彼はどうするべきか頭をフル回転させた。

最大の課題は彼女から目を離さないこと。

だがステラの行動は予測不可能な上、夢中になることがあるとこちらの言葉なんぞ

右から左へ、なのだ。

 

とにかく側から離れないように先に釘を刺しとこう。

 

「・・ていうそばから離れるし!」

 

盛大に響く音楽の方に興味が行ったらしく、ステラの姿が人混みの中へと入っていく。

 

 

ここでステラを見失ったらネオとスティングに殺される・・・!

 

 

アウルはあわてて後を追った。




中編

 




長くなりそうなので一旦切りました。
兄さんはその頃二人とはぐれてあうあうしてます。

時期は22話のちょっと後で23話の前です。
ステラの記憶はありませんがアウスティは
シンを覚えております。