さ・・・・て。
誰からにしようか。
そうせくなよ。
人生は一瞬だけれど、一日は長いぜ?






















きっと笑える僕でありたい

エピローグ



















そうだな、ステラに贈り物くれたヤツらからはじめようか。


シン。
そしてカガリ。


シンは短い間だったけれど、ステラの彼氏の座を射止めた幸せなヤツ。カガリを止めようとしたけれど、逆に説得されて花火の打ち上げを手伝ってくれたらしい。見つけて駆け寄ってくる病院の職員をルナと一緒に邪魔をして花火点火までの時間を稼いでくれた。
戻ってきた時はステラはもう既にこん睡状態だったけれど、一瞬だけど意識の戻ったステラの事を聞いて泣いていたっけ。
葬式の時は涙も無く、ただずっと押し黙っていて。
ルナはまるで死人だって心配していた。
悲しみが強すぎると逆に泣けないんだろうな。
僕やスティングが何を言っても説得力はないだろうし、困り果てた。


何ヶ月も何ヶ月もアイツは落ち込みぱなしで。
部活も出ないわ、ロクに授業にも出ないわ。
自分のしている事がステラを悲しませる、なんて思っていないんだろうか。


そうはいってもシンはいわば恩人でもあるんだ。
このままだとステラに合わせる顔がない。
でも俺らはどうしたらいいのかわからなくて。


そこへ喝を入れたのはいつも一緒だったルナじゃなくて、犬猿の仲だったカガリだった。



「おまえ、みっともないぞ!!ウジウジするしか能がないのか!!」
「あんたに何が分かるんだよ!!大事なもの亡くしたやつの気持ちが分かるのかよっ!?俺は、ステラに何にもしてやれなかった!!」


燃える紅を色濃くし食って掛かるシンに負けじとカガリは怒鳴り返していた。俺らはただ見ているだけで・・・・とめられなかった。其の気迫がカガリにあったんだ。


「ああ、私はお前じゃない!!お前も私じゃない!!」
「だったら!!」
「だからお前はこのまま情けないヤツで終わるのか!?お前が自分の人生終えて、ステラにまた会う日が来たとき、お前はどんな面下げて会うつもりだ!?」
「え・・・・?」


カガリの言葉にシンは暴れるのをやめ、目を大きく見開いた。
そして僕もスティングもまた、同様だった。


「貴方に先立たれて情けない人生送りました、と言うのかっ!!」
「・・・・・!!」


襟首をつかまれてゆすられながらシンは心を突かれたようだった。
そして俺らも。
この言葉は・・・・昔、親父たちが死んだときに聞かされた言葉そのまんまだったから。


「それを聞いてステラは喜ぶヤツのか!!」
「ち・・・ちがう・・・・。ちがうっ!!」


ステラが死んでから流れた事のなかった涙がシンの頬を伝った。
首を激しく振り、違うとうわごとの様に繰り返す。


「ちがう・・・・だろ?」
「ちがう・・・・よ・・・・っ」


シンの身体は力を失ったように地にへたり込んだ。ただ大きく目を見開いて涙を溢れさせたままカガリを見上げていた。


「悲しむな、とは言わん。でもそれを乗り越えて、前を向いて生きろ。それが遺された者の勤めだ」
「う・・・・・」


肩を震わせて嗚咽を漏らすシンをカガリは静かに包み込んだ。
まるで母親のように背中をさすってやりながら、彼を諭すように言う。


「・・・・ステラを安心させてやれ」


トントン、と時折背中を叩いてやているのを見ると、僕は母さんも同じ事をしてくれたっけな、とぼんやりと思い出していた。


「私も父を亡くした。血は繋がっていなかったけれど、大事な人で。私にとって父が世界だった」


シンの背中をなでてやりながらカガリは穏やかに語る。


「父は口癖のように言っていたよ。いつか旅立つ日が来たとき、それなりの人生だったと言っていたい、と」


向こうにいる大切な者達に再びあったとき、恥ずかしくない人生だったと言えるように生きたいと。
立派な人生でなくても良い。
ヒトとして、男として、親として恥じない人生でありたい。
だからお前もそうであって欲しい。
いずれ私はお前を置いて旅立つ日が来る。
どんなに悲しい別れであっても残された者の人生は続く。
いや、続けるのだ。
再び出会えたとき、胸を張っていられるように。


「それが私の父の口癖で・・・・・遺言になってしまったがな。だからお前も・・・・しっかり生きないとダメだ」
「ステラの分まで頼む」


カガリのあとにスティングがそう言うと。
シンは驚きに顔上げ、やがて顔をくしゃくしゃにして。


「う・・・・・うわぁああああっ」


堰を切ったように泣き出した。
タカが外れたように泣きじゃくるシンをカガリはただ抱きしめてやっていた。
俺らが言いたかった事、だけど言えなかった事をカガリは言ってくれて。
俺らが伝えたい事を伝えるきっかけを彼女はくれたのだった。
そして俺らの隣で。
ステラの親友だったルナも嗚咽を漏らしていた。





それから3年・・・いや4年か。
あれだけケンカばかりだったシンとカガリがさ・・・・・。
カガリが短大を卒業すると同時に二人は結婚したんだ。
出来ちゃった結婚らしくて。
大きなお腹を抱えての式だった。


「女の子!」
「男だ!!」


なーんてお約束のケンカまでして。
生まれたのは結局男。
シンそっくりだったね。
あれだけ女ぁと騒いでいたくせにコロリと手のひら返しちゃってさ。
もううるさいのなんのって。
寝返りしただの。パパと言っただの。
いちいち電話かけてくるんだぜ。
極めつけはガキが立ち始めたとき。
俺ら全員呼び出して、ビデオまで持ち出して。


『たっちをした記念』


だぜ。
閉口したね。



スティングは・・・・・というと。


アイツ、大学は本当は諦めるつもりだったらしいんだ。
僕とステラの学費。結婚費用のために貯金までしていたくせして。
ステラの保険金が下りたとき、妹の命から出た金なんざいらねぇってまた泣いて。
ステラの病気は難病と国が認定しているものだったから入院費とかは公費が出ていたし、見舞金もあった。保険金も結構な額で貯金を合わせればスティングの大学に行くにはなんとかなりそうだった。
スティングの志望は国立の医学部だった。
お前の事があるからって、渋るスティングに痺れを切らした僕は高校を自主退学してさっさと就職した。
それを知ったスティングはカンカンだったけれど、もう決めた事だって僕は突っぱねた。
元々僕は勉強が好きじゃなかったし、やりたい事があったから。
そんな僕にスティングはすまない、と繰り返してまた泣いた。


そのあと、スティングは見事ストレートで合格。


長くて苦しい(本人は楽しくて仕方ないと言っていたけれど)6年を経て、今年スティングは国家試験にも合格して晴れて医者になれた。
・・・・といっても生活は楽なるワケじゃあない。
初めはペーペーだから給料も安いし、仕事も大変だ。
課題はたくさんあるけれど・・・・スティングは元気いっぱいだった。

ステラの親友だったルナは高校卒業後、看護専門学校へと進路へ決めた。彼女もステラの事で何かしたかったけれど、何も出来なかったからって、看護師の道を選んだのだった。
今や彼女は立派な看護師で・・・・・・。
そしてこの春。


ルナは僕の義姉さんとなる。


ステラを通したくらいの知り合いだったのに不思議な縁だよなぁ。
ステラ、きっと驚いてんじゃねー?



まぁこんなもんだ。
ステラ、皆精一杯生きているよ。
いつかお前と逢う日、しっかりと笑って頑張ったぞ、といえるように。


僕?


僕は・・・・その。
笑うなよ?
電気関係の整備をやってる。
電気がまから配電、パソコンの修理まで何でもござれ。
たまに、合間に趣味でアクセサリーを作ったりしていて、よく出来たものはステラの前においてある。
結構たまったぜ?


スティングは人を治す職業。
僕は物を直す職業。


兄弟揃って『なおす』職業ってわけ。


今の仕事って楽しい。
直りました、ありがとうございます・・・・って声をかけられるたびに僕は嬉しくなる。中には徹夜作業のもあったりしたけれど、喜んでもらえると頑張ってよかったなぁと素直に思える。


人には色々あるもんだ。
哀しい別れ。楽しかった過去。
後ろばっか見てたらロクに前に進めないぜ。
ほら、後ろ向きで歩くのって大変だし、先が見えないから誰かにぶつかったり、転ぶかもしれねーだろ。
そんな感じ。


人間の人生って一つの道だからね。
人は歩き続けるしかねぇけど、長いようでホント、短いもんだよ。
あっという間に6年たったからなぁ。



可愛いステラ。
そこから見えてる?
僕もしっかり生きているよ。
立派に、じゃなくても良い。
「まあまあだったんじゃねー?」と笑って振り返られる僕でありたい。



なぁ、ステラ?













おわり
















あとがき

『俺の人生まあまあだったなぁ』

死んだ祖父の言葉でした。
遊び人だった兄が家に持ち込んだ結核で自分を除いた親兄弟が死に。自身も結核に蝕まれ片肺を亡くして、医者への道を絶たれた祖父。そして兄に先立たれた嫁をほっておくわけにもいかず、結婚の決まっていた婚約を破棄して一緒になりました。他にもいろいろとエピソードがあって波乱に満ちた人生だったと周囲は言います。それでもまあまあだったと、祖父は言っていて。
必死に生きてそういえたら良いね、と母もまた。

私は其の人生とは程遠いですが、私も人生のたびを終えて、先立った人たちに逢えたときまあまあだったよ、どう?って笑える人生でありたいと思います。


生きていて嬉しいですか?


嬉しいと思うよ。
つらい事もあるけどね。
生きているうちにああよかったって思える日はきっとあると思います。
人生谷あり山ありですから。
七転八起して、なんとかなるさ。

ここまで読んでくださってありがとうございました。





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