『絆』という名の架け橋の下に(後編)




「ディアッカ!!貴様というヤツはぁーーー!!俺はともかく、シホが風邪を引いたらどうする!!」


頭から床に着地した態勢のまま気絶しているディアッカに指を突きつけて説教を始める銀髪の男に周囲の視線が集中する。
ディアッカの耳はカウンターの床に突っ込んだ頭に付属しているうえ、本人の意識は既にどこぞの夢の中。だが、カウンターの向こうのディアッカの本体にかまわず、イザークはY字に伸びる足に向かって機関銃のようにまくし立てた。


「全く貴様はこのクソ忙しいのに引っ張りまわした挙句、のん気に立ち話かっ!!今のプラントの状態を貴様も知っているだろうに、よくそうのん気に構えてていられるなっ。しかも後ろで待つ俺たちにかまわずにくっちゃべってぇーーー!!今外は何度だと思っている!?マイナスだぞ、マイナス!!雪も降り始めていたんだぞ!!いいか、雪はなっ!!溶けると」
「はいはい、ストーップ」


いつ終わるかも分からない言葉の雨に能天気な声が割り込んだ。イザークの言葉の嵐にブレーキをかけた命知らず。無敵のキラは面白そうに彼の言葉を聞き入ったまま、慣れきっているはずのディアッカは気絶中。泣く子も黙るイザークに横槍を入れられる人物は考えうる限りあと一人くらいしかいない。


「お客さまー、立ち話もなんですから席へとご案内しマース」
「なんだとぉっ!!」


鋭い眼光を軽く受け流して、アウルはお得意のスマイルを見せると、ちらりとイザークの傍らに立つシホを見やった。


「連れの女の子、立たせっぱなしにしておくんですかー?」
「む・・・・確かに。おい、席へ案内しろ」
「た、隊長っ。私は」
「いいから腰を落ち着けよう。話はそれからだ」






「アスランと待ち合わせ?ここで?」
「そうだ。大事な話だ。それ故余計なギャラリーはいらん。さっさと他の客は追っ払え」


あの後強制的に意識を回復させられたディアッカだったが、席にふんぞり返って早速無茶の事を要求するイザークに頭を抱えたくなった。予約も入れていないし、この店はイザークをよく知らない。そんな無茶な要求が通る分けないのが目に見えている。眼球だけ動かすと愉快だといわんばかりにそうに紫苑の瞳を三日月の形を形度っていているキラが少々憎らしくさえ思えた。だが当たって砕けろ。粉々になる覚悟でその要求を述べたところ。


「今いる客は追い返せないが、あとは閉店にするよ。おい、アウル、閉店の看板下げてきてくれ」
「アイアイサー」


軽く敬礼し、ドアの看板をひっくり返しにいくアウルを目で追いながら、無茶な要求があっさりと甘受された事に驚いてディアッカは目をしばたたかせた。


「いいのか・・・・?」
「わけありのようだからな。アスランはいつ来るんだ?」
「それが約束の時間をとっくに過ぎていてさぁ」


アスランを待たせてやるっ、と意気込んで遅刻して来たイザークだったらしいのが肝心の本人は到着しておらず、そのせいでイザークの機嫌が悪いのだとディアッカはぼやいた。


「忙しいんだろうな」
「俺も忙しいんだっ!!」


会話に割り込んできたイザークの声にアウルは地獄耳っと驚きの声を上げる。窓辺からカウンターのひそひそ話をキャッチするとはさすがはコーディネーター。


「いや、それは関係ないと思うぜ」
「そういう芸当が出来るのはラクスとイザークさんぐらいかなぁ」
「そ、そうか」


いつどこで聞いているか分からない恐怖にキラがさらされているのかと思うと、アウルは他人事ながらふきだしそうになった。いつも余裕こいている彼がピンクのお姫様の尻の下にしっかりと敷かれていると思うと面白くて仕方ない。そんな彼らの姿が見たい、見たいぃっという心の声を押し隠しながらアウルはイザークの元へ注文をとりに行った。


「エスプレッソ!!」


腕を組んでえらそうに注文をするイザークとは対照的に、シホはメニューを手に遠慮がちな視線をアウルに投げてよこした。


「え・・・・わたしは本日のケーキセット・・・・でよろしいのでしょうか?」
「遠慮などするな!!支払いは遅れた罰としてアスランにもたせる!!」
「は、はあ・・・・」


注文を終えるとイザークは押し黙り、じっと窓の外へと目をやった。外は雪が舞い散る灰色の風景。プラントの人口雪と違い、その形は不ぞろいで湿っていて。でも温かみがあるように感じるのは何故だろうか。元々はコーディネーターも地球にその起源があるのだ。懐かしくも暖かく思えるのもそのせいなのだろうか。


「しかし、遅い!!」
「会議が長引いているっぽいね」


イザークたちの席とは隣向かいの席に腰をかけてコーヒーを供にパスタをほおばっているディアッカが応える。彼らが到着してから大分立っており、既に客の姿はない。アウルもステラもそしてキラも暇をもてあまして、テレビに目をやっていた。


「なぁ腹へらね?メシ食ったほうがいいんじゃね?」


アウルはテレビから目を離すと立ち上がってと窓辺の席へと歩み寄った。


「軽くでも食べた方が良いんじゃないですか?」
「・・・・そういう気分じゃないっ!!」
「腹が減っては戦は出来ぬ、って昔の人言ってたじゃん?すきっ腹でまともな話し合い出来るの?」
「・・・・・」


空腹の事を忘れるほど気が張り詰めていたイザークはそういわれてようやく空腹を覚えた。同時に同伴のシホの事も思い出してさすがに彼女に悪いと思ったのだろう。彼は適当なディナーセットをというとまた窓辺の風景に戻っていった。


「いいのでしょうか?」
「支払いは利子つけてはハゲ予備軍に請求すっから。この人が注文したのも、そうでないとあんたも付き合って空腹抱えっぱなしでいると思ったんじゃない?」


アウルの言葉にイザークの肩がわずかに揺れたところを見るとどうやら図星だったようだ。戸惑いながら同じものをというシホに軽くウィンクするとカウンターのスティングにディナーセット二つと声をかけた。


「ところで」
「はい?」


声をかけられて振り返るとイザークがじっとアウルを見上げていた。値踏みするわけでも無く、探るわけでも無く。何の感情も無く、ただ無表情に。どうしたんだろう、珍しいものだとディアッカはコーヒーを口にしながらその光景を見守る。しばらく黙っていたイザークだったが、やがて口を開くとディアッカ予想だににしなかった言葉が出てきた。


「アスランをハゲ予備軍と言ったのか?」
「言ったけど?」


イザークは押し黙ったままアウルを見つめている。なんともいえない緊張感が空気に漂いはじめ。
アウルはけんかを売られるのかとわずかに目元を鋭くしたが、次の瞬間イザークは表情を崩して笑い出した。


「はーっはーっはっは!!素晴らしい!!素晴らしいセンスだ!!気に入った!」
「は?」


テーブルを叩きながら大笑いするイザークにシホとディアッカは驚きのあまり反応できずにその場に固まり、アウル自身もまた同様だった。そんな彼らを見てカウンターにいたキラがスティングにそっとささやいた。


「ほら。今までアスランに散々煮え湯飲まされてきたから。誰もアスランの事をそういう人がいなかったから嬉しかったんじゃないの」
「・・・・煮え湯の話ならお前のほうがよっぽど飲ませたと聞いているが」
「もしかしたらアウルとウマが合うかもよ。彼もアスラン嫌いでしょ」
「お前・・・・都合の悪い事は聞き流すのかよ」


アウルの一言をきっかけにイザークとアウルは意気投合したようであれだけ緊張感の漂っていた空気が緩み、テンポの良い会話が展開された。


「昔からそうだった、あいつは!!」
「大変だったんですねぇー。きっと母さんは苦労してるんだろーな」
「母さん?」


母、という単語に反応したイザークが問い返すと、アウルはうなずいて説明をする。


「オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハ。一応、ザラ姓になってるけど、そう名のってる」
「むぅ、お前のような子がいる年なのか、あれは」


やや驚きの表情を見せた相手にアウルは少し得意げな顔になった。
カガリは自分の誇りでもあるのだ。


「あ、血は繋がってない。戦中母親のように面倒見てくれたんだ。そのおかげで立ち直れたんだぜ。母ってすごいよな」
「そうか!!やはり母は偉大だよなっ!!俺も母が女で一つで俺を育ててくれたっ!!」


ドンとテーブルを叩いて力説するイザークにアウルも大きくうなずいて同意した。
同じ思考の持ち主どうしは同調したように更に会話を加速させ、一人会話に残されてしまったシホはただ呆然とその光景を見ている。ディアッカはそんな彼女が気の毒に思えて心の中で合掌した。


「そうだね!!母は偉大だよな!!」
「その通り!!お前気に入ったっ!!!同席許す!!おい店主!!ディナーセット一つ追加だ!!」
「了解」


カウンターに飛んだ追加注文にスティングは手を挙げて応えると、追加の野菜を切り出した。その間も彼らの会話は絶え間なく聞こえてくる。


「母親は理想だよね、やっぱっ」
「そう!母は敬愛すべき存在であり、目標だ!!」

みしり。


不意に近くから生じた不吉な音にぎくりとしたスティングが顔を上げるとキラが珍しく表情を引きつらせているのが見えた。嫌な予感に視線をずらすと、ステラが盆を手にアウルたちのほうを睨んでいる。手にした盆は先ほどの音の正体が分かるほどにひびが入っていた。


「アウル・・・・ステラの事、忘れてる。ステラだってアウル、面倒見た」
「いや、落ち着け。忘れてねーと思うぞ」


ステラのトーンの下がった声にこりゃぁ戦闘スイッチが入ったなとスティングはカタカタとその身を震わせ、彼は危うく野菜の代わりに自分の手を切りそうになった。戦中、インパルスに撃墜されたショックで精神が幼児と化したアウルを守り続けたのはステラだ。アウルだってそれを忘れてはいない・・・はず。キラも顔色を蒼くしながらステラのご機嫌を取ろうと必死だった。


「会話のノリだよ、ね?絶対に忘れてないから。どうどう」


からんからん。


そのとき、鐘が来訪者を告げ、一同はアスランかと思って視線を入り口に集中させたが、顔を見せたのはシンだった。自分にふりもった雪を払いのけながらシンは壁にかかった古時計を見やって、スティングのほうへと視線を戻した。


「なぁ、閉店にはまだ早いじゃないか。なんかあったの」
「あ、シン」


パタパタと嬉しそうに駆け寄るステラと裏腹に不機嫌さ全開のアウルの声が飛ぶ。


「閉店、が目に入らねーのかよ、てめーは」


迷惑そうなアウルの態度にむっとしたシンが時計を指差して怒鳴り返す。


「まだ早いはずだと思ったんだ!!それにここのオムハヤシを週一は食うわねーと気が済まないんだよ、俺は!!」


スティングのオムハヤシはシンの大好物で、彼の言葉通り彼は週一は訪れ、そのメニューを注文する。


「威張って言える事か、シスコン!!」
「なんでそれが関係あるんだよ、マザコン野郎!!」
「待て、貴様!!母親を侮辱したな!!」


アウルとの言いあいに横槍を入れた人物をシンは不機嫌な面持ちで睨みつけた。
見た事の無い、銀髪のおかっぱ。
今時ある髪型かよと心の中で一人ごちて、イザークをまっすぐ見返す。


「あんた、誰?」
「ジュール隊隊長、イザーク・ジュールだっ!!!たった今貴様は母親を侮辱しただろう!」
「は?」
「そういう意様だって母の腹から生まれ、育ててきてもらったのだろう!!母がいなければ貴様は存在さえ許されない!!」
「そ、それはそうだけど」


イザークの迫力に気おされながらシンがしどろもどろに答えると、イザークはしてやったりとシンを更に厳しく追求した。


「そうだろう!それを分かっていながらそのような言葉が出てくるとは!そんなやつは俺はあえて言おう!!」


ひょおっという空気を切る音ともにイザークはシンを指差すときっぱりとこう締めくくった。


カスだとっ!!」


「どっかで聞いた台詞だと思うの気のせい?」
「あー。イザークのやつ、選挙のために過去の偉いやつの演説ビデオ見て研究しているんだ、その中にあったかも」


キラとディアッカのヒソヒソ話を尻目にスティングはため息をつきながら鍋を覗き込んでかき回した。


早く来てくれ、アスラン。でないと俺達の平和な店がとんでもない事になる。


イザークにカス呼ばわりされ、悔しさに体をプルプルさせたシンは腹を抱えて笑うアウルをきつく睨みつけると大泣きの素振りでステラのほうへと振り返った。シンがステラに甘いようにステラも何かとシンに甘い。


「ステラァ〜〜〜〜〜!!」


慰めてもらおう、ザマーミロ。


とシンがそう思った瞬間。


「そうかそうか!胸をしてほしいのかぁ。どんと来い!!」


ところが。
両手を広げてステラに抱きつこうとした矢先。
目の前に飛び込んできたのはママオクレことスティングの男らしい胸。
誤って彼の胸に飛び込んでしまったその気色悪さに、シンは今度こそ本物の涙目になりながらスティングに抗議した。


「何邪魔するんだよ!!男の胸で泣く趣味はないんですがっ」
「やかましい!!俺だって気色悪いんだよ!!だけどここでアウルまでも暴れだしたら収拾つかなくなるだろうが!!」
「鳥肌がぁっ!!」
「どうなろうと俺の店は死守する!!」
「ぎぃやぁああああ!!」
「シン・・・・スティングの胸、大きくてあったかいから・・・・よかったね・・・」


阿鼻叫喚とも言える地獄絵図が理解できずにステラはニコニコと二人を見るが、そんなステラがアウルは面白くない。
スティングの胸だけが温かいなどと言わせない。
人目をはばからずにステラを抱きしめると、自分の胸の暖かさを主張してみせた。


「なにおっ!!僕だってあったかいぞ!どうだ!!」
「・・・アウルは母さんがいいんでしょ」
「ちがう!母さんは好きだけど・・・・」


冷ややかに取り澄ますステラにアウルは眉尻を下げて弁解を始めた。
彼としては母親も特別だが、それ以上にステラの存在があったから今の自分がいることを痛いほど知っている。


ラボの頃。
開戦時、戦中。そして・・・・今。


いつも3人一緒で。一時期三人ばらばらになったけど、再び巡り会えて。
ステラとスティングがどんなに大事な存在だったか改めてアウルは知った。


「お前は特別だから・・・・その・・・・お前にも感謝してるんだ・・・・って人前でそういえるわけない・・・・じゃねーか・・・・」
「アウル」
「ステラ」


アウルに腕を回し、きゅうとシャツの裾をつかみながら、ステラはアウルを見上げた。


「あのね、アウル」
「ん?」


アウルの腕の中ステラは前々から言っていたことを再び口にする。


「赤ちゃん・・・・欲しい」
「う・・・・」
「だめ・・・・?」


戦後、外の世界で生きるようになってから
今まで知らなかった物ものがたくさんあって何もかもが新鮮に映った。
特に人との交流に大きな変化があった。
殺しあうのでも。観察する、される側の人間でもなく。


『おじょうちゃん、ここに越してきたばかりなのかい。分からないことあったら何でもいいな』
『今日はこれだけ買ってくれたからおまけしちゃおうか』
『たいしたものじゃないけどおそすわけ』


見知らぬ他人のぬくもりを感じた。それもたくさん。
狭かった自分の世界が次第に広がって行ってとくに幸せな子供が目に付いた。
血にまみれ、生きるために殺気をまとった子供ではなく、純粋に愛し、愛される子供たち。

喫茶店を始めて彼らの一面を垣間見るようになった。
店を訪れる家族連れ。
町の中で。
海で見かける子供たち。
下校時間に立ち寄る学童たち。
笑いあってじゃれあって。
そして身近に触れる機会もあって
赤子を抱かせてもらったときの柔らかさと暖かさ、そして甘いにおい。
母親にほめてもらおうと目を輝かせる子供。
子供自慢をしたり学校の行事を楽しそうに、そして誇らしげに語る親。
それを見るたびに、それを聞くたびにどんなにうらやましかったか。

「そういうわけじゃないけど・・・・」
「何をためらう?貴様は母が偉大だと言っていただろう?」

そこへ割り込んできたイザークの声。
他は遠慮して(むしろ遠慮したいと)近寄ってこないのだが、この男は別のようだった。


「そりゃあそうだけど」


イザークは戸惑いと恐れの入り混じった表情を見せるアウルに穏やかな眼差しを向けた。
いつもの高圧的な態度はなく、アウルを諭すように静かに語る。


「だったら好いた女の望みを叶えてやれ。母になることはひとつの大きな仕事であり、奇跡でもある。何よりも俺たちコーディネーターより望みはあるんだからな。父親になる自信が無いというのは贅沢な悩みだ」
「簡単に言ってくれるよな」
「アウル」



苦笑交じりのため息をつくアウルの腕の中でステラは不安げな目で見上げていた。
自信。
そう、アウルには自信がなかった。
血で手を染め続けた自分は生まれてくる命を慈しめるだろうか、愛せるだろうか。
父親となる資格はあるだろうか。
それをイザークは見抜いていたのだ。
アウルはイザークの言葉をかみ締めるように父親・・・かとつぶやくと
もう一度イザークを見やり、そして腕の中のステラに微笑んだ。
まだ不安げなものだったけれど、一つの決意の込められた微笑。


「はは・・・・僕、ちゃんとした父親になれるかな」
「・・・・大丈夫。アウル、だから」
「・・・・ん」


ステラはそんなアウルに力強くうなずいてみせると彼の胸に頬を寄せた。
不安と幸せと。嬉しさ。
胸にこみ上げる強い感情の本流に耐えながらアウルもうなずくと、イザークは満足げに笑った。


「うむ。よく言った!!」




「俺たちの目なんぞ気にしちゃいねぇー。あれ見てるとパワーに押されるよな。つっこめねー」


呆れたようにアウルとステラ、そしてイザークのやり取りを見ながらディアッカがそうコメントすると、スティングに抱きついたままのシンも感心した面持ちでうなずく。


「無敵のマザコン同士。すごい、すごすぎる」


ベシ。


「いい加減離れろ」
「あ、忘れてた」

スティングの軽いチョップで我に返ったシンが離れるととスティングはイザークのほうに歩み寄る。


「イザーク・・・・さんだっけ。アウルの背中を押してくれて礼を言うぜ」
「当然のことを言ったまでの事だ」


苦笑いしながら礼を述べると、イザークは鼻を鳴らして自分の席へと戻ってゆく。


親を知らない自分には言えなかったことを彼は言ってくれた。
感謝の気持ちで涙があふれそうになり、彼は無理やり笑って見せた。


「なかなか言えるもんじゃねぇんだ、これが。俺は親をしらねーから説得力ねーし」


母親の記憶も父親の記憶もはスティングには無い。
消されたのかもとからないのか、声さえ知らない。


「僕はちょっとやややこしいしね」


キラには生みの母と育ての母がいる。
そして産みの母といっても彼は人工子宮で生まれたのだから更に複雑だ。
だが、イザークは馬鹿か、貴様はと呆れた顔でキラを見やった。


「何を言う、キラ・ヤマト。例え母が二人いたとしてもは母は母だ。そして母親というものがいなかったらお前はこの世に生を受けることさえ叶わない」
「・・・・うん」


生まれは異なれどお前も同じだといわれたような気がして、キラは静かにうなずいた。
その言葉が嬉しくて危うく泣きそうになるのを何とかこらえるのが精一杯でそれ以上何もいえなかった。


「母親・・・・か」


スティングはカウンターに寄りかかると、仲よさそうに寄り添う弟分と妹分の方に優しいまなざしを向けた。
いずれステラも母となるのだろう。そしてアウルもまた父親に。
命をはぐくむ存在となる。
自分はそれを傍で見届けるのだ。
新たな仕事を得てスティングの胸は喜びに震えた。


「コーディネーターもナチュラルも根本は同じなのだな」
「どうしてまた?」


カウンターに戻ったスティングの問いにイザークはさも当然の事ように答えた。


「同じように笑い、怒り、悲しみ、生きている。同じ、命だ」


同じ人間だからだから間違いも起こす。同じように笑いあうことだって出来る。


「今のように。そしてナチュラルの文化から多くを学ぶこともあるからな」


アスランとディアッカから聞いたイザークの趣味のことを思い出し、興味を覚えたスティングはカウンター越しに彼に声をかけた。


「あんた民俗学が趣味だってな。メシでも食いながら話し聞かせてくれよ」
「なに?」


眉を顰めて自分を見るイザークにスティングは置くにおいてある民俗学の専門書を掲げて見せた。


「俺も好きなんだ、その話。独学だが、少々・・・・勉強中なんでね・・・・聞かせてもらえたらありがたい」
「フン。暇つぶしにいいだろう」


そしてイザークもまた。
心底嬉しそうにその要求に応じるのだった。




アスランが到着したのはそれからしばらくたった後。
4時間半に及ぶ遅刻だったが、イザークはまだ店内に残っていたうえに怒りの表情もなかったことに彼は心底驚いた。
それどころか。


「そういうところに東洋の神秘というものがある!!」
「儀式一つでも土地がかあるとその意味合いが変わってくるものなんだな」


テーブルに向かい合って熱心に議論しあっているイザークとスティング。
女の子らしいおしゃべりをしながらポプリ作りをしているステラとシホ。
野球中継を食い入るように見ているディアッカとシン。時折野次が飛んでいる。
アウルはキラと共に今日の売り上げをまとめていて、誰一人としてアスランの来訪に気づいていなかった。


「あの・・・・俺ってお呼びじゃない・・・・?」


少し寂しそうなアスランのつぶやきに気づいたイザークが勢いよく彼のほうへと振り返ると怒鳴った。


「アスラン!!貴様遅刻だ!!ここの支払いは貴様につけておいたからな!!」
「はは・・・・好きにしてくれよ」


シホは二人に気を使い、カウンターの方へと席を外すとアスランは軽くシホに礼を言うと、コートを脱いでイザークの真向かいに腰を下ろした。


「連絡が来たときは驚いたよ」
「フン」
「ここまで呼び出したからにはあるんだろう、何か」


アスランの問いに答えず、イザークは外の景色を見やった。
昼間より雪が激しくなっていて、外を行き交う人は傘を差して忙しく歩いていた。


「・・・・アスラン、地球での生活はどうだ」
「どうって・・・・もう4年以上たっているけど・・・・そうだな」


自分の生活を省みて、アスランは満足げな笑みを浮かべた。


「忙しくもあったけれど充実している」
「そうか。プラントは?戻る気はないのか」

その言葉にアスランはクスリと笑うと外の風景を見やった。雪がちらちらと降り続いている。外はもう暗く、町の街灯、そして民家から漏れる明かりがあたりを照らし、その光を受けて積もった雪が淡く光を放っているように見える。


「もうここが俺の第2の故郷みたいなものだよ」
「プラントは今、揺れている」


イザークが口にした言葉はアスランの心に波紋を作った。
ずっとプラントを離れていたアスランとてそれが何を意味しているか知っていた。
プラント最高評議会の総入れ替えがあるのだ。
それはプラント、そして地球国家の今後を左右する重大なことだった。


「知っている。オーブの政界でも結構騒ぎになっている。表立って見せてはいないけれど」
「失礼します」


かちゃん。
アスランの目に香り立つホットコーヒーと具沢山のサンドイッチが置かれた。
注文した覚えはないのにとアスランが顔を上げると、キラの紫苑と目が合った。
キラはにこりと笑うとこれはマスターたちから、と短く告げた。


「寒かったんだから何か口にしないと、ね」
「ありがとう」


アスランがとカウンターへと会釈するとをやるとスティングたちが笑みを返してくる。彼らの気持ちとキラの心遣いが嬉しくてアスランが微笑みを返すと、キラは二人を邪魔しないようにとそれ以上言葉を発すること無く、テーブルを離れた。


「関心を持っているのか、ナチュラルも」
「両国家の今後に影響するんだ。ないわけがないだろう」
「・・・・そうか」


その言葉の後はしばし静寂が訪れ、二人は黙って食事を口に運びながら外の景色に魅入っていた。


「プラントよりはるかに寒い」
「四季を忘れないようにと季節が設けられているけど快適さを優先するプラントと違って自然は容赦ないからな」
「だが暖かみがある」


ポツリとそうもらしてイザークは手元のコーヒーに目を落とし、また外へと目をやった。


「プラントの雪はまるで氷を削ったようにさらさらて味も素っ気もない。だがここの雪は」


まるで命を持っているかのようだ。


不規則な形。
その温度も感触も異なる。
光の加減によって変わる表情。
その音。




純粋な賞賛の響きにアスランもそうだなとうなずいた。


「俺も初めて来たときは驚いて、興奮したものだ。今は当たり前のように思っているけど」


ダンとこぶしを打ちつけ、イザークは身を乗り出した。
カチャン、と落ちたコーヒースプーンの音に我に返るとイザークは再び座りなおした。
そして一呼吸置くと、正面のアスランを見据える。


「それがいかんのだ!!素晴らしいことを当たり前のように甘受するその姿勢が!!」
「イザーク」
「恵まれているのに気づかず、気づこうとしない。それが悪いのだ、ナチュラルは!!」


彼らが生み出した文化も素晴らしいと思えた。
それからか感じ取れる命の息吹。
生きようとする生命力。
だが今は。


「兵器などに固執するから。発展だ進化だなどといって大事な物を忘れている」


一息で全てを吐きだすとイザークは更にポツリと小さく付け加えた。


「だが愚かなのはナチュラルだけではない。俺たち・・・・コーディネーターもだ」



進化だ、優秀さだといって遺伝子操作を繰り返し、いまや出生率の低下を続けるプラント。
もとは同じ命であっただろうにパトリック・ザラのように地球を滅ぼそうとした者。
ユニウスセブンを地球に落下させたもの。
ディスティニー・ープランに逆らおうとしたオーブを粛清すると大量破壊兵器を地球に向けたデュランダル。


憎しみは更なる憎しみを生む。


ラクス・クラインがかつて言った言葉。


やがてどちらが滅びるまで殺しあうというのですか。
同じ、命だというのに。


「2度にわたる無駄な戦争でどれくらいの命が失われた?こんなことがもうあってはならない、そうだろう」


イザークの態度に何かを感じ取ったアスランは表情を固くして彼を見やった。


「・・・・何があった」
「プラントにはまだナチュラルに憎しみを持つものも少なくはない。評議会議員にもいた。今でもナチュラルとの馴れ合いは進化の妨げなどとほざく連中がいる。戦争の最前線は若者に行かせ、ぬくぬくしていたものがそう言うのだ、許せるか?」
「・・・・」


プラントの元議員たちか。
ナチュラルの差別意識はいまだ根強い。
それはナチュラルにもいえることで、アスランはオーブでそれを傍で見てきて、イザークの言わんとしている事が痛いほど分かった。同じ人間だというのに。何度そう思った事か。


「プラントもナチュラルも互いを知らなすぎる。コーディネーターはナチュラルから生み出され事をナチュラルは忘れ、そして・・・・プラントもこの地球が母なる大地であったことも忘れつつある」


プラントの文化は元々地球の文化から派生したもの。
それゆえ似通った部分もあってそのたびにやはり同じ人間であることを再認識させらる。
昔の俺は認めたくなかったが、薄々わかっていたと語るイザークののアイスブルーには生き生きとした光が瞬き、彼が民俗学という学問をどんなに愛しているかが見て取れた。


「俺も戦争で地上を降りるまでは資料や映像でしか知らなかった。どこまでも続く、表情豊かな空。海。命溢れる大地。そこに根付く文化。俺たち中でもその血は流れているはずなのにな」
「どうしたいんだ、お前は」
「ナチュラルとコーディネーターの融合は可能だと思うか」
「・・・・!」


テーブルをひっくり返しそうになり、慌ててカウンターの方へと視線をやったが、周囲は気づいていないようだった。アスランは声を潜めてその真意を確認するとイザークはうなずいて続けた。


「大それた話だと思っている。だが。不可能な話でもないだろう?俺はプラントの最高評議会の議員の候補者として今回の選挙に参加する。候補者の情報はプラントの外に出せないが、お前にそう言っておきたかった」
「イザーク・・・・!お前」


プラント最高評議会議員選挙。
今月末に行われるとプラントから発表されたが、候補者については緘口令でも敷かれているのか、情報がまるで無かった。その選挙にイザークが参戦するという事実はまさに寝耳に水だった。
あれほど軍人である自分を誇りにし、政界を嫌っていたイザークが政界に入るなどアスランは思いもよらなかった。


「俺としては不本意だがな、母上の名前は多大な影響力があるらしい。抜かりはない」


イザークは少し寂しそうな笑みを浮かべたがすぐにもとの表情に戻すと、コーヒーカップに口をつけた。
コーヒーの心地よい苦味に俺はコーヒーより紅茶が好きだが、このコーヒーなら良いなと一人ごちると再びアスランに向き直った。


「俺の隊の中でナチュラルと結婚した者がいる。そしてそいつは可愛い子供にも恵まれ、後悔はしていないと言った。アスラン、おまえもナチュラルと一緒になった者だろう。ナチュラルとコーディネーターは折り合っていける。そう思えないか」
「そうだ・・・・な。だからこそ俺は今、ここにいる」


アスランの脳裏にカガリとの生活が浮かんだ。
仕事中のりりしい顔。
おいしい物を食べたときの幸せそうな顔。
すねて膨れっ面になる顔。
本気で怒ったときの顔。
あまり見たくない涙にぬれた顔。
ついでに小指を立てて笑う紫の男と。
褐色のいかめつい男や口うるさい大柄の女性という余計な顔も浮かんだが。
この数年間、オーブにいてつらい事も多く、何度も逃げたい思いにかられ、プラントを恋しく思うこともあった。
悲しくて泣きたくなる事もあった。
でもそれ以上に大切なものが出来て。あって。
そのたびに立ち直ってきた。
それは自分は一人ではなかったから。
例えコーディネーターであったとしても受け入れてくれたナチュラルがいたからこそ、自分はこうしてここにいる。


「お前、どうしてまた、そんなことを」
「ずっと考えていたことだ。6年前のあの戦争に身を投じた頃から」


過去に思いをはせるようにアイスブルーを遠くにやり、イザークは昔を懐かしむ面持ちになる。
平和だった時代。
訓練生として生活したアカデミー時代。
クルーゼ隊として行動した日々。
懐かしく、そしてもう見ることもない顔、聞くこともない声を記憶に蘇らせた。


『お疲れのようですから、一曲、いかかがですか?』


はにかむような笑顔を見せ、ピアノが好きだったニコル。


『やっぱザフトのためっしょ?・・・・なーんてね』


明るいムードメーカーだったラスティ。


『死ぬなよ、ヒョッコども』


そして自分たちを何かとサポートしてくれた、陽気なミゲル。


「ニコルもラスティも・・・・そしてミゲルも。ナチュラルを滅ぼしたかったわけではない。自分たちの居場所を、故郷を守りたかったのだろう」


戦中散って逝った者たちの生き様。そして死に様がイザークとアスランの記憶をよぎる。
決して忘れる事の出来ない記憶。
彼らの望みは。
それはきっと大事な者たちの未来。


「それを遺されたものが殺しあってどうする?」


憎しみは更なる憎しみを。
血を血で洗ってどうするのかとラクス・クラインは二度の戦争にわたって世界に問うた。
ナチュラルが悪い。
コーディネーターが悪い。
そうやって憎しみあってどうするのかと。


「それにナチュラルは思っていたほど・・・・捨てたものではないからな」


ふっと笑うとイザークはちらりとカウンターの方に目をやると、つられてアスランもその方向を見やり、その光景に口元をほころばせた。


「ステラ、その野菜をまとめて切っておいてくれ」
「分かった。・・・・このにんじんも?」
「それも頼む!!」
「あ、それなら私が」


スティングは明日の仕込みに忙しく動き回っていて、ステラもその手伝いに追われていた。いつの間に仲良くなっていたのかシホもそろいのエプロンで懸命にその手伝いをしていた。シンは山のような皿を手際よく洗っては落ちきらないのを食器洗浄器に放り込んでいた。そしていつのまに買出しに出ていたアウルが派手にドアを開けて、重そうな箱を抱えたディアッカがよろよろと入ってくる。二人とも雪の中を歩いたらしく、頭にも肩にも白い雪が降り積もっていて真っ白だった。


「ディアッカさーん、その野菜の箱は倉庫の奥に持ってってよ」
「こんな重いもんっ何入ってるんだよ?」
「いいじゃない、力強いんだから」
「だったらキラ、お前手伝えよ!!」
「僕、ペンより重い物持ったこと無いんだ、お役に立てると思えないなー」
「うそつけ!!」


ぼーん、ぼーん、ぼーん。


「なぁ、俺そろそろ帰らないとヤバイんなんだけど」


キッチンで皿ふきをしていたしていたシンが夜の9時を告げた鐘の音に弱りきった声を上げた。
アウルが時計を見ると8時過ぎ。シンの門限は11時半だが、明日のための機体のデータチェックなど、彼にもやる事はあるのだ。


「そういやぁ、そうだったな。わりぃ、わりぃ」


さすがに悪いと思ったアウルが、懇願するようにディアッカに手をあわせた。


「ディアッカさん、車だろ。それ終わったらシンのやつ送ってやってくんない?
「俺はアッシーかよ」


文句を言いながらも、ディアッカはシンに帰る準備を促し、ステラがお土産にとシンにお菓子と夜食を持たせていた。
賑やかな彼らを見てイザークとアスランは心が自然と暖まるのを感じた。
人の暖かさ。
それはいつでもどこでも万国共通な救い。
だからこそ守りたい。
守らなければならない。


視線を戻すとイザークは少しためらいながら。
けれどはっきりとした決意をアスランに告げた。
散って逝った者たちの思いを無駄にしないために。
平和のために。


「コーディーネーターとナチュラルの融合・・・・俺はその架け橋となりたい」


コーディーネーターとナチュラルの融合、その日がいつ来るのかもわからない。
完全にわかりあう日など来ないかもしれない。
それでもその行く先を担う一つの橋となりたいと彼は言った。
今回の選挙はその第一歩であると。


「平和を守るのは軍人だけの仕事ではない。それはお前自身もよく知っていると思う」
「・・・・ああ。イザーク」
「なんだ」


いつもの厳しい表情に戻ったイザークにアスランは一拍置き。
精一杯の激励をこめて言葉をかけた。


「頑張れよ」
「・・・・誰に言っている」








イザークが腰を上げたのは十時を過ぎた頃だった。


「会計は」
「イザーク」
「いらん。貴様に請求するほど俺は落ちぶれていない」


イザークは会計をしようと立ち上がったアスランを追い越して、彼を一瞥するとずかずかとマスターのほうへと向かった。その背には反論は許さんぞと言わんばかりの迫力を感じ、アスランは苦笑交じりに彼の行為に甘えることにした。だがスティングは首を振ると、イザークを押しとどめるかのように手を差し出した。


「お代は結構です」
「なに?」


いぶかしむイザークにスティングは笑みを見せると、彼に深々と頭を下げた。


「貴重な話をしてくれましたし、何よりもアウルたちのことで礼を言いたい」
「何もしていないのだが」

この人は本当に何の意図もなく、ただ純粋にアウルたちに新しい道を指し示してくれたのだ。それがとても嬉しくてまた泣きそうになる。


「いや、十分です」
「ディアッカさんやシホちゃんにも手伝ってもらっちゃたし」

アウルの脳天気な声が飛ぶ。
スティングはあきれてアウルに一言言ってやろうと彼を省みたがイザークに向けられたアウルの感謝の眼差しに何もいえなくなった。アウルのすぐ隣でステラも微笑んでいた。


「もう帰るぅ、イザーク?」


チャリインという車のキーの音ともに能天気な声がイザークの鼓膜を打った。少々むっとしてディアッカを見ると、彼はヒラヒラと手を振っていて、志保もイザークのコートを抱えてニコニコと笑顔で彼の返事を待っていた。


「フン、帰るぞ」
「あいよ。じゃ、またな」
「ご馳走様でした」
「こちらこそありがとうございました」
「またのご来店、首をながーくしてお待ちしてまーっす」
「・・・・お待ちしてます」


イザークは入り口でいったん立ち止まるとスティングたちを見やり、おもむろに一枚のメモを差し出した。
スティングがそれを受け取るとその紙面に並んでいたのはHPアドレスと、メールアドレスだった。


「連絡先だ。民俗学に興味があるといっていただろう。暇なときは来い。たまにチャットもやっている。何かあったらメールをよこせ。ただし、つまらん事でメールをよこしたら承知しないからな」


スティングたちがそれを受け取るのを見届けると、イザークは再び背を向け、入り口の扉を開ける。
吹き込む雪にわずかに顔をしかめたが、イザークはすぐにかすかに笑みを浮かべると雪道へと踏み出した。
背後にいるスティングたちには見えなかった口元のかすかな笑み。
それは新たに芽生えた親愛の情と無意識のうちに固められた彼の決意の表れだった。
ディアッカとシホはスティングたちに軽く会釈をすると大またで雪道へと消えたイザークの後を追い、スティングたちとアスラン、そしてキラも彼らを見送ろうと店から出た。

まもなく明るいフロントライトを灯した彼らの車がふぁんたむ・ぺいんを横切っていった。

運転手にディアッカ。
助手席にシホ。
そして後部座席にイザーク。

彼らが雪の向こうまで消えるまでスティングたちはじっと彼らを見送った。


「・・・・行っちゃったね。これからが大変だろうね、イザークさん」
「ああ。でもがんばってもらいたい。そう、思う」
「・・・・だな」


キラの言葉にスティングは強い希望を込めてうなずく。
そしてアスランもまた。


『俺はコーディネーターとナチュラルが共に生きる未来への一つの架け橋となりたい』


今のお前ならできるかもなと、アスランは誰とも無くつぶやいた。


アスランやディアッカとの絆。
そして新たなる絆の下に彼は立派にやり遂げるだろう。
一つの架け橋として歴史の一部となるかもしれない。
それも大きな。


アウルとステラが次はいつ来るのかなぁとはなしあっているのが聞こえる。
その間中も雪は激しくさえなって彼らの上に降り注いでいたが、彼らは不思議と寒さは感じなかった。




そして。



それから数週間後。
プラントや地球国家間は史上最年少最高評議会議員の誕生を一斉に報道し。
それを記念してふぁんたむ・ぺいんに新たなメニューが加わった。
ディアッカやシホの協力を得て、イザークの好物でまとめられた『銀』のメニューだった。


















あとがき


YUNさまの35000ヒットリク、イザークの来店でした。
コメディにするはずがちょっとシリアスに。・・・・それとも重くなってしまったのか。
前編と後編に分かれてしまった上、後編が遅くなってしまってすいませんでした!!
イザークは好きなキャラでもあったので精一杯の気持ちを込めました。
ナチュラルとコーディネーターはもともと同じ人間。
このテーマは結構繰り返していると思いますが、種運命を見ていてずっと思っていたことなのでこれからも出てくると思います。すいません。


駄文ですが・・・・YUNさま、受け取っていただけたら嬉しいです。
素敵なリクエスト、ありがとうございました。
そして
二部にわたる長い文を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!!



back  前編へtop
html : A Moveable Feast