■冬日和
窓際にいると日差しがなんともまぶしい。
暖房はまだ早いという理由で差し込んでくる日差し以外の暖気のない部屋にひやりとした外気が窓越しにじわりじわりと侵食してくる。もうそろそろ暖房が欲しい、そう思うようになってきたこの頃。
ぴんと張り詰めた空気。
灰色のかかった空。
ああ、もうそろそろ冬かぁ。
くるくる。
くるくる。
小さくなってゆく薄紅色の毛糸の玉と反比例して淡い水色のセーターから伸びる両腕に巻きつけられている糸の輪は大きくなってゆく。ふわああとアウルはあくびをすると、瞬きを一つ。そして向かい合っている少女を見つめた。
日差しを受けて柔らかな金の光を放っている少女は一心不乱に毛糸の玉を解いてはアウルの両腕にその糸を左右交互に巻きつけている。先ほどから飽きもせずに黙々と。
最初は淡い水色の毛糸。
今は薄紅。
「なあ、ステラぁ。いつ終わんの」
「もうちょっと」
もうちょっとってさっきも同じ事言ってたよなとアウルは諦めの溜息をつくと、自分が着ている水色のセーターに視線をやった。この水色のセーターは去年ステラからプレゼントされた手編みだった。ところどころ網目が間違っているし、雑に見えるけど。彼女の心の篭った物。
よく雑誌のアンケートで男子が上げる”もらいたくない物ナンバー1”は手編みのものだったりするが、アウルとしてはこれ以上の心の篭ったものはないじゃんと首をひねったものだった。そして手編みを嫌う理由として篭められた”心”が”怨念”だという男性陣の意見にアウルはますます分からなくなった。
意中の女からの物じゃないからだろ、というスティングの意見にああなるほどと思ってみたりはするけど、やはり分からない。
まぁいいか、他所は他所。
自分たちは自分たちだしね。
そう思ってアウルはステラを再び見やると、彼女がまだ毛糸と悪戦苦闘しているのを見てマリンブルーを細めた。
決して器用ではないステラにとって編み物も例外ではない。自分のセーターだって半年以上かかっていて、本来バレンタインのプレゼントだったのだが、実際に手渡されたのは5月上旬。季節が既に夏に入り始めたときだった。
「もう夏だぜ」
「・・・・そう・・・だね」
とてもサマーセーターには見えないセーターを前にアウルが困った顔をするとステラもしょぼくれてうつむく。
間に合わなくてごめんなさいと消え入りそうな一言を付け加えて。
お世辞にも出来が良いと思えないセーター。
スタートしたのは10月の終りごろだったといっていたから・・・・。
計算して見てアウルはめまいを覚えた。
それでも根気よく編み続けて完成させてくれた彼女の気持ちに応えたくて、彼は敢えてそれを一日着て見せた。
5月といえば梅雨時で途方も無く蒸し暑い。
暑苦しさで倒れそうになりながら。
周囲を行き交う人々の奇異な視線に絶えながら。
アウルは本当に一日それを着通したのだ。彼の友人であるスティングやシンは呆れて彼をステラバカだの阿呆だの言っていたが、ステラが頬を染めて嬉しそうに笑っていたから、結果オーライ。彼としてはそれらを差し引いてもおつりが来るくらいだった。
「今度は何編むんだよ」
いい加減ボーとしてるのにも飽きてきたアウルがステラにそう問うと。
彼女はいったん手を止め、ゆっくりと唇に人差し指を当てて微笑んだ。その仕草にはいはい、秘密ねとアウルは肩をすくめて笑う。
クリスマスプレゼント、と前にちらりと聞いている。ステラは言った事など忘れているだろうけどね。
彼女の作業効率と考え合わせるとマフラーあたりが妥当。毛糸は水色と薄紅色だから多分僕とステラ、御揃いのやつではないかとこっそり予想はしているけど。
僕がそう思っている事は秘密。
お前が秘密なら僕も秘密。
ステラの作業が再開されるとアウルは毛糸の間から覗く自分の腕時計を見やった。
もうすぐ午前10時。お茶の時間。
毛糸の玉は大分小さくなって来ているからその時間までには終わるだろ。
終わったらステラにお茶を淹れてもらって。
僕は家の木からもいできた柿でもむいてやろうか。
その後は午後の予定を話し合って町へと出よう。
ステラの誕生日も近いことだし、ステラの誕生日プレゼントを一緒に探して。
一緒においしいお昼を食べよう。
早く無くなれ、毛糸の玉。
お茶の時間が待ち遠しい。
そして二人で外に出ような。
寒いけど、穏やかな冬の空が待っている。
あとがき
冬ですねー、もう。
ずっと前に書きたいと思っていたマフラーネタです。
クリスマスにマフラーが間に合うようにと奮闘するステラ。
そんな彼女を手伝いながら、ステラと外に出かけようと計画するアウル。
外は寒いけど二人ならそう寒くはないでしょ〜?と管理人は思ってみたり。
高校アウステは穏やか、ほのぼのカップルで管理人としては気に入っています。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。