ジョーンズ。
ファンタムペインが所在するその戦艦は今日も軽快に海の上を走っていた。
そのジョーンズ内で定着しているゲームがあった。

今回はそのゲームで勝負をした3人+αの武勇伝である(笑)










Vending Time











「ジュースジャンケンしようぜ、ジュースジャンケン」


訓練を終えるなり、アウルはマリンブルーを輝かせて右拳を突き出した。
スティングはそんな彼の言葉の意味が理解できず、まじまじとその拳を見つめ、ステラもまたスティングと同じようで頭上に疑問符を浮かべていた。

「だ・か・らジュースをかけてジャンケンしようっての」

自分の意図を理解してくれなかった二人に軽い失望を感じながらもアウルは二人に分かりやすいように説明した。

「なんか整備員の間では恒例みたいだぜ。何かを賭けてジャンケンして最終的に負けたヤツが参加者全員の分を持つんだってさ」

ジュース一本分の値段は大した金額ではないが、複数となると事情が変わってくる。
しかもこの手のゲームは多人数参加が当たり前となっていた。そうでないとスリルがないというのだろう。だから数回くり返されるジャンケンで負け続け、最終的に2,3人となると対戦者同士の間に何とも言えない緊張感が漂う。

負けてたまるかと言わんばかりに殺気立つ者。
既に負けの空気を漂わせ、逃げ腰の者。
何とかなるさと楽天的に構える者。
まあ、持ち合わせ在るしと大きく構える者など実に様々な顔を見せてくれる。

早々に勝ち、傍観者となった者にとってはその光景は滑稽なものに映るらしく、勝負の隣でヤジを飛ばしたり、誰が勝つかでまた賭けていたりしているのだ。
勝ち負けよりその光景が見たさに参加するやつもいるくらいだった。
給料日前だとその緊張感は更に増し、ぴりぴりとした殺気が空気を振るわせるという。

「賭博は厳禁だ」

澄まし顔でそうのたまうスティングにアウルは不満げに口をとがらせた。

「なんだよー、ジュース一本ぐらいいーじゃん」
「良いか、これはけじめという・・・・」
「おー、ジュースジャンケンか。俺も入れてくれよ」

大まじめに説教を始めたスティングのタイミングを見計らっていたかのようにネオが割り込んできた。アウルと同じように拳を突き出し、仮面越しでも分かってしまうくらい意気揚々としている。せっかくの話の腰を折られたうえ、やる気満々の上司にスティングは呆れたように溜め息をこぼした。そしてそのネオの横でネオがやるならステラも!とステラが桜色の目をキラキラと輝かせていた。

これだけのメンツがやる気を見せているのに水を差したら自分が一人が悪者になってしまう。やれやれとスティングは溜め息をつくと、渋々ながら彼等を真似て拳を突き出した。

「いっくぜー、最初はグー!!じゃーんけーん」

アウルのかけ声で皆一斉に拳を引いた。

「ぽん!!」

パー。
パー。
パー。
チョキ。

「あ・・・。勝った・・・・」

チョキを形作った手を嬉しそうに挙げてそうつぶやくステラを面白くないと言わんばかりにアウルは口元をへの字に曲げている。
だが勝ちは勝ち。
ステラの抜けた輪の間でジャンケンが再開される。
元々の参加人数が少なかった上、一人が抜けたのだ。
次は負けられない、という緊張感が彼等の間で漂う。
残された3人は息を止め、相手の顔色を伺う。
皆真剣だ。
拳は対戦相手に見えないようにひねられた身体の影だ。
見える見えないは勝負に関係ないのだが、何となくそうしてしまう。
やがてアウルはゆっくりと息をすって吐き出すと、早口でまくし立てた。

「出さなきゃ負けよ、じゃんけーん!」

スティングとネオが鬼気とした表情で右手を振りかざした。

「ぽん!!」

チョキ。
チョキ。
パー。

「ぎゃーーーーっ!!」

アウルが大ダメージを受けたようにその場にうずくまった。
ネオはしたやったりと大人げなくはね回り、
スティングは両手を空中に掲げて喜びを全身で表現していた。
その真ん中で最初に勝ったステラが嬉しそうにおめでとう、と手を叩いていた。
何とも滑稽な光景である。

「くっそー、好きなのを持っていけ!!」

アウルは心底悔しそうに悪態を付くと自販機に金を入れ、勝者達の方を見やった。

「んじゃ、いっただきぃー。俺はこのペット・・・・」
「おい」

そう言って一番値段の高いペットボトルのボタンを押そうとするネオをアウルはギロリと睨み付けた。前もって特別な規約がない限り通常サイズがこのゲームの暗黙の了解だ。

「むむっ、ケチ」
「うっせえ!!」

アウルに睨み付けられたネオは肩をすくめると、渋々ながら隣のコーヒのボタンを押した。

がちゃん、ゴロゴロ。

青い缶コーヒーが飛び出す。
続けざまにスティングがスポーツドリンクのボタンを押し、
ステラも嬉しそうにイチゴソーダのボタンを押していった。
アウルも自分の分を買って顔を上げると、残りの3人はそれを待っていたかのように自分の缶をアウルの前へと掲げた。

「「「いっただきーまーす」」」
「はっ、勝手にしろ!!次は勝つかんな!!」

荒々しく自分の缶を開けながら負け惜しみを言うアウルにネオは口元をゆがませてこう言った。

「アウル知ってるか?言い出しっぺが負けるというジンクスがあるんだぞ、これには」
「て、てめー」

途端アウルの顔色が変わった。ヒクヒクと引きつった笑いをネオに向け、今にも食いつきそうな勢いだ。だがネオをちっちっ、と指を振ってみせると、更にこうつけくわえた。

「あ・く・ま・でジンクス、だからな?それとももうこの勝負は良いのかなぁ、あーちゃんは?」
「あーちゃんやめろ!!気色わりぃっての!!」

ネオの挑発的な言葉にアウルが足を悔しげに踏みならした。

「次は勝つ!!」

そしてそんなアウルに状況の分かっていないステラがニコニコと悪気のない横やりを入れる。

「・・・・あーちゃん、頑張って」
「ステラ、てめ!!誰があーちゃんだ!!」
「けんかはやめろ」

ちょーしにのるなっとステラの口を左右に引っ張るアウルをスティングが止めにはいる。ネオはそんな3人を遠まきからほほえましく見つめていた

この日を境に彼等の間で幾度となくジャンケン勝負が繰り広げられるようになり、
それはジュースだけに及ばず、おやつに昼ご飯ジャンケンと次々に広がっていく事になるのだった。

















あとがき

久し振りの日常。
ジュースジャンケン。
通称ジュージャン(笑)
なかなか白熱しますよー。