なにかと不器用な俺たち、手を取り合っていこう。























HappyValentine

アスカガ


















停戦宣言よりしばらく後。
全世界が見守る中、プラント代表ラクス・クラインと地球代表カガリ・ユラ・アスハの間で停戦調停が行われ、長くもつらい戦争が終結した


「カガリ・・・・ただいま」
「・・・・!アスラン・・・・!!」


停戦調停の場から戻ってきたカガリを待っていたのはアスランだった。




国のためにあえて自分は残り、アスランはキラ達と共に宇宙へと旅立った。
キラがいるから大丈夫。
そうは思っていたけれどやはり心配で。

そして本当は。

先の対戦のときのようにアスランと共に戦いたかった。
アスランの名前を呼んだっきり、動けないでいたカガリを
アスランは照れくさそうに微笑むと、ぎこちなく。
彼女の前に腕を広げた。


「アスラン・・・・!!」


ずっと張り詰めていた糸がきれ、視界が曇ってゆく。
顔をくしゃくしゃにしたカガリはアスランの腕の中へと飛び込んだ。


「アスラン!!アスラン!!」
「よく頑張ったな、カガリ」


泣きじゃくるカガリをアスランは優しく抱きしめ、頭をなでる。
ずっと聞きたかった声。
いつも恋しかった体温。
それが今ここにある。
今までの厳しかった事、つらかったことが全て報われた気がしてカガリはアスランの腕の中で泣き続けた。


国を導くという仕事は自分には荷が重いのだろうかとずっと思っていたけれど、自分は大丈夫。大丈夫だと、カガリは涙ながらそう思うのだった。





それから数ヵ月後、カガリとアスランはオーブのために相変わらず忙しい日を送っていた。

ユニウスセブンの落下の傷跡の癒えていない国への支援や援助。
戦時の国内で受けた被害の復興。
そしてやはり戦争で被害を受けた国への支援など成すべき事は山ほどあり、目の回るような忙しさ。

だが、お互いあるべきところに戻れたからと。
カガリとアスランは幸福だった。


書類に目を通していたアスランはふとカレンダーを見やって今日の日付に気づくと、カガリのほうへと視線を走らせた。カガリは書類を手に忙しそうに電話をしていて、そんな彼に気づかない。

仕方ないか。

アスランは一つ深いため息をつくと、自分も書類に戻っていった。










夜も大分更けてアスランは仕事に区切りをつけると、書類をかたしながらカガリへと声をかけた。


「カガリ」
「なんだ?」


書類から顔を上げずに答えるカガリにアスランは苦笑しながら時計を指差した。
一秒の狂いもなく時刻を伝える電波時計は壁の上でコチコチと規則正しい音を立てていて、其の針は11時を過ぎてなおも時を刻み続けている。


「そろそろ区切りを付けないと日付が変わるぞ。明日に響く」


アスランの言葉にカガリはようやく顔を上げて時計を見やった。
針の指し示す時刻に琥珀が揺れる。
カガリは勢いよく立ち上がると急ぎ足で隣の給湯室へと向かった。
アスランはカガリの突然の行動についていけずに呆然としていたが、我に返ると彼女のほうへと。


だが。


「アスランはそこで待っていてくれ。飲み物をいれてすぐに戻ってくる」
「だったら俺が・・・・」
「わたしがやる!!お前は座って待っていてくれ」


有無を言わせぬカガリの様子に気おされたようにアスランがうなずくと、カガリははにかんだ笑顔を浮かべると給湯室へと消えた。


何事。


残されたアスランは頭を傾けるとしばし考えこんだ。


それから10分前後。
お茶を入れる荷しては遅い、とアスランが腰を浮かせたところ、2つのマグカップを持ったカガリが戻ってきた。
頬をほんのり染めて期待に満ちた表情でマグカップを渡すカガリに疑問を覚えながらもアスランは微笑むと其のマグカップを受け取った。
湯気のたった褐色の液体に鼻を近づけると甘い香り。
口にすると程よい甘さが口に広がり、今日の疲れをやわらげてくれた。


「ココアか」


アスランがそうつぶやくと、カガリはやや落胆した顔を見せ、ちがうっと首を振った。


「チョコレートだ!!ホットチョコレート!!」


カガリの言葉にようやく彼女の意図を理解できたアスランは頬が熱くなってゆくのをかんじてうつむく。其の口元を隠し切れない嬉しさと照れくささが浮かんでいて。頬も燃えるように熱かった。


「忘れていなかったんだ」
「当たり前だ!私がこういうのもなんだが、バレンタインに限らずこういうイベントって大事なもんだぞ!?」


ムキになるカガリにアスランはクスリと笑った。
イベントは大事だとカガリは言ってくれた。
暦は大切だと。
暦を大切にすることはそう。
心の持ちよう。
無感動に月日を過ごすことは人形と同じで、仕事にかまけていて人間性を失っては元も子もない。
人を導くのもまた人なのだから。


「で、でもさ・・・・」
「ん?」



顔をあげて穏やかな微笑を向けるアスランにカガリは頬の赤みを濃くしてそっぽを向いた。
そして決まり悪そうにしどろもどろになりながらこう告げた。


「その・・・チョコじゃなくて・・・・ごめん」


他の子たちならちゃんと手作りチョコを渡していただろうに。
・・・・自分は。
それでもアスランにどんな形でもいいからチョコをあげたくて。
手作り用にと買ったまま作れなかったチョコをホットミルクに溶かした。


「来年・・・こそは・・・・っ」
「ありがとう、カガリ。嬉しいよ」


アスランはマグカップを降ろすと彼女の華奢な身体を包み込んだ。
カガリの身体はこんなにも細くて頼りなさげなのに、彼女は国を背負ってしっかりと立っている。
なんて強さだろう、とアスランは思う。
そしてそんな彼女が国を想う様に自分を想っていてくれる、と思うことは傲慢だろうか。


「嬉しいよ、本当に」
「アスラン・・・・」
「ん?」


自分を呼ぶ声に視線を下げると自分の胸元に顔をうめていたカガリが自分を見上げていた。彼女は瞬きを一つすると自分の気持ちを伝えようとゆっくりと言葉を紡ぐ。

「お前がいるから私でいられる。お前がいると分かっていたから離れていても私はやっていけた」


太陽を宿す琥珀が揺らぐ。


「私はお前に逢えてよかった。傍にいてくれて幸福だと、心の底から思う」
「カガリ」
「そしてありがとう。これからも傍に・・・・いてくれるか・・・・?」


琴線に暖かく、そして深く触れる旋律。
胸の中からこみ上げてくる熱い感情を抑えながらアスランはきつく、きつくカガリを抱きしめた。


「・・・・ああ。もちろんだ」


そして。

君に会えてよかった、と。
先の大戦での言葉を再び口にした。


聖なる愛の日の、告白。
これからも一緒にいよう。
一緒にいたい。
この日に限らず誕生日を。
桃の節句に復活祭。
クリスマスを。
たくさんの時を共にすごそう。


ありがとう。
お前に出会えてよかった。
君に出会えてよかった。
互いがいたからこそ今日までこれた。

為すべきとはたくさんある。
けれど時にはたちどまって。
共に歩いて行こう、ゆっくりと。



そう、共に。

















あとがき


拍手以外ではお初のアスカガ。雑誌にあったDVDの得点映像に触発されて出来ました。
結構好きなんです、アスカガ。

暦や季節は大切だというのは私の母の言葉です。
クリスマスやお正月だけでは無く、桃の節句やお彼岸、子供の日などなど。
特に国元を離れていた頃ほどそれを忘れないように、と。
仕事や自分のことでいっぱいいっぱいになって(私もそうですが)
季節や暦に無関心に生きてゆくとちょっと寂しいんじゃないかなぁと思います。
家族一緒に、それが出来なくとも。
食事にでもちょっとしたイベントを取り入れたら大分違いますよね。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
HappyValentine!