トゥルルルー。
トゥルルルー。
トゥルルルー。
トゥルルルー。

「ピ−ッ」


きっちり4回のコールで留守電のスイッチが入る。
と同時に俺の天敵とも言える人物の馬鹿でかい声が部屋に響き渡った。


「おーい、シーン!!生きってか、このバーカーっ!!」


その声はただでさえ痛みで悲鳴を上げていた俺の頭に
更に3割り増しの痛みを与えてくれた。






After The War
番外編

第2話
男はつらいよ




「見舞い持っててやっからきっちりと起きとけよ!
お前が被面会人になってくれねーと
基地の中にも入れねーんだから。
今から30分後には着くからなっ」

ブッ。
ピーッ。

「5月×日 午前10時47分」




廊下まで響くかと思われるようなデカさで喚くだけ喚くと電話は一方的に切れた。

「くそっ」

俺は舌打ちすると、これからやってくるというはた迷惑な存在のため、
俺は痛む頭とだるい体を無理やり起こした。

や、みんな元気かいっ?
俺はシン・アスカ、デスティニーガンダム専属パイロットさっ。
今をときめく18歳・・・。

・・・て何言ってんだ、俺は。
食中毒の毒が頭にまで回ったんだろうか?
俺は先日食中毒を起こし、今士官の寝泊りする宿舎にいる。
原因は・・あえて言わないでおこう。
・・というか聞かないでくれ、頼むから。
男の沽券にかかわる。
話を戻すよ。
そこ、笑うなよっ!
ええとどこまで話したっけ。

俺はザフト軍のディスティニーガンダム専属のパイロットだ。階級は中尉。
原則として軍の仕官はある一定の階級に昇進するかまたは結婚するまで基地の中の宿舎での生活が義務付けられている。特に専属パイロットなるとなおさらだ。そして一般人が基地の中に入るには当然許可が要る。面会人となると、その身元保証人として被面会人、つまり面会の相手の許可が要るんだ。今回来る,はた迷惑な水色の悪魔は俺の面会人としてくるわけ。ムカつくから門前払いを食らわしてやってもいいけど、あいつならそのまんま乗り込んできそうだ。いや、絶対そうする。

「絶対、そうだ!間違いない!!」
「何がまちがいねぇんだよ、ボケ」


ん?
今誰か何か言ったか?
空耳だろうか?
だが空耳にしては明瞭すぎる響きに嫌な予感を覚えながらゆっくりと顔を上げると、案の定、水色の悪魔ことアウル・ニーダがニヤニヤ笑いを浮かべて入り口の前でいた。

「生きてるみたいじゃん」
「悪かったなっ」

ふざけた侵入者を俺は精一杯の悪意を込めて睨み付けてやる。
だいたいいつからいたんだよ。っつーかどーやって入った?

「あ?顔パスでは入れた。
アビスのパイロットって覚えてくれてたお偉いさんがいたから。
なんつってたっけ?」

そういうとアウルは少し考えてぽんと手を打った。

「そうそう。『ええ〜っ、艦長ぉ〜〜〜』っとか良くやってた、気の弱そーなおっさん」

・・・アーサー艦長だ。
しかし、真似うまいな、アウルのヤツ。すぐ分かったよ。
艦長、アウルにまでそう思われていたのか。
あははは、笑える。
アーサー艦長は戦時中、ミネルバ艦の副艦長をやっていた。
気が弱いところはあったけど、いざとなると凄かったんだぜ。
・・・多分ね。
でないと功績なんて認められるわけないし。
そのアーサー艦長は今、新艦の艦長をやっている。
それにしても『ええ〜っ、艦長ぉ〜〜〜』か。
おかしくて笑える、あははは。
ふと頭上が翳って顔を上げると、アウルが傍らにいつの間にかいて、
手を伸ばして俺の額に触れていた。
男の癖してその手は白くて冷たい。
しばらくそうしていたが、やがて手を離すと、ヤツはまたにっと笑って見せた。

「思ったより元気そーじゃん」
「お前の馬鹿でかい声のおかげで頭痛は3割り増しだよ」
「へえ、お前の図太い神経もさすがに弱ってるって事?」
「てめぇ・・」

ヤツの皮肉にただでさえ具合が悪くて高めの体温が更に急上昇していく。
こォンの野郎、何でいつもいつも俺をおこらせたがる?
面白いのかよ?
はっ。
いかん、いかん。
ここでキレたらヤツの思うつぼだ。
悪いが乗ってやらない。
乗らないといったら乗らないからなっ、この性悪!!
何とか怒りをこらえて俺が笑ってみせると、
アウルは何笑ってンだよと、奇妙な顔をして見せた。
こんちきしょう。
なんてノリの悪いヤツだ。

「??? と、とりあえず、水分は取っておけよ。
腹冷やすのはよくねぇけど、
食中毒って脱水も起こしやすいんだからさ。
あと食欲無くても消化の良いモンで栄養も採れよ」
「ああ」
「素直でよろしい」

アウルは満足そうに頷くとよしよし俺の頭をなでる。
こいつ、スティングの真似をしやがってと思うもなんだか払う気もしない。
やっぱり食中毒の毒が頭に回ったのかもしれない。
そこ、笑うなっ!!

「ところでルナに何食わされたんだよ?」

げ。

室内の椅子に腰掛けるなり、アウルが出してきた話題に俺の全身の血がサーーと下がっていく。食中毒の原因となったルナの手料理のことは俺の腹、じゃなかった胸に収めておいたはずなのに、どっから洩れたんだよ?

「あ、やっぱそう?」

・・やつの悪魔の微笑に、はめられた事に俺が気づいたのはそれから数秒後のことだった。


「ルナのヤツ、何でカレーをあんなにまずくできるんだよ、ある意味才能だっ」

すっかり開き直った俺はアウルに数日前の地獄を話し、涙した。
数日前のことだ。
ステラと一緒にスティングから料理を習ったから自信があるといってルナが出してきたカレー。香りからして妙だなぁと思ったけど、その味ときたら・・・。その強烈な味に俺は持っていたスプーンをひん曲げてしまった。

「・・何入れたんだよ、コレ」
「ルーだけじゃあつまんないじゃないだから隠し味入れたの」

俺の素朴な疑問にルナのヤツ、あっけらかんとしてそう答えやがった。
そんときの俺の表情を見て異変に気づかなかったのかよ、全く。
おかしいなっ、と思うだろ、フツー。
その隠し味が何かって聞いたんだ、そしたらなんといったと思う?

「マヨネーズと砂糖」

・・だってさ。

聞くなりうげぇとアウルが奇声を発した。
ま、当然の反応だ。
けど、俺は実際食ったんだからな、そいつをっ。
ルナに惚れた弱みで文句も言えない。
男ってホント、辛いよ。

「分かってるよっ、それを口にしたんだからさっ。
この世のものとは思えないほど奇怪な味だったよっ」
「へいへい。で?まさか、全部食ったのかよ」

答えは分かりきってるんだろうね。
お前のそのニヤニヤ笑いがそれを切実に物語っているよ。

「ああ、食いました。食いましたともっ!!だってさ、期待のまなざしで俺を見るんだよ?俺のために手をぼろぼろにしてまで一生懸命に作ってくれたんだよ?まずくて食えませんなんて言ったら男が廃るってもんだよ、なあ?」
「僕は命が惜しいね」

こいつ、3行に渡る俺の力説を一言であっさり否定しやがった。
それでも男かよっ。

「ステラが作ったとしたらどーなんだよ」
「あいつはそんなもん作らねぇもん」

そしてうらやましいだろ、と言わんばかりに舌を出す。
覚えてろ、畜生め。
ステラにお前がマヨネーズと砂糖入りのカレーを食いたがっていたぞ、
とあらぬ事吹き込んでやる。
そしたらお前の愛しいステラの作ったもんを食えねぇって言えるかぁ?
お前の反応を特等席で見てやるぞ、はっはー!
・・・やべ、だんだんアウルのやつに似てきたような気がする・・・。

「くわばら、くわばら」
「は?」

怪訝そうなヤツの表情から見るに
俺が電波飛ばしてやがると思ってやがるなっ。
俺は体調が悪いうえ、やけくそになってんだっ。
いつもこうなわけじゃないぞ!
断じてっ!!


「あ、僕もう帰るわ。仕事残ってるからさ」

しばしの談笑(罵り合いともいう)のあと。
アウルは立ち上がると、見舞い品と言って籠を取りだした。
中には綺麗にラッピングされた色とりどりのゼリーとプリン。
そして野菜ジュースが二本。
ゼリー類はアウル、野菜ジュースはスティングから。
ラッピングはステラがやったと聞き、と俺は不覚にも涙しそうになった。
アウル、お前っていいヤツだったんだなっ!
単なる性悪だと思っていた俺が悪かった!

そんな俺にアウルは何かを思い出したように一枚の紙切れを取りだした。
何だろうと受け取ってその紙切れを見ると、一番上に請求書とでかでかとあった。

「おい。なんだよ、これは」
「請求書」

アホか。
馬鹿の一つ覚えのように紙切れと同じ事をのたまうこの馬鹿に請求書を突きつけて事の顛末を問いただす。

「みりゃ分かる!俺が聞きたいのは何で請求書をもらわなければいけないんだって事だっ」

そしたらアウルはすました顔でこう言った。

「ルナがぶっ壊した電子レンジその他備品の修理費」
「げ」

その言葉に俺は固まった。
体温が急降下していくのが手に取るように分かる。
確かにルナに料理をレクチャーしてくれと頼んだのは俺だけどさ・・・。
この金額はないよ・・・。

「それでも皿代と店のクリーニングは勘弁してやったんだよ。最低限の金額だからな、それは!」

アウルのヤツは珍しく大真面目な顔でそう言う。
確かにルナにそんなの請求できるわけないし。
これも惚れた弱みってヤツかなぁ・・。
男ってホント、つらいよ。







あとがき
拍手でリクエストして頂いた2700hitリクのシンレイ・アウステ前提のアウシンでした。
シンの受難は当分続きます。
つたない文ですが、精一杯頑張ってみました。よろしければお持ちくださいませ。
リクエスト有り難うございました。