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何を泣いているの?

























遠い記憶。

優しかったあの人が夢の中で微笑む。

覚えているのは金の髪。

優しい瞳。

顔はおぼろげで良く覚えていないけど。

また会えるだろうか?

もしまた会えたら昔のように抱きしめてくれるだろうか?

あの人は。




『何を泣いているの?』



ロドニアで出会ったあの人。

まだ僕は一人で

毎日のように行われるサバイバルで

辛くて隠れて泣いていた頃。



『ち、違うよ。目にゴミが入ってとろうとして・・。その、違うよ!』


少しでも弱いところを見せると、使い物にならないと言われて

処分される恐怖に怯えていた僕。



怖くて。

悲しくて。

寂しくて。

泣かないと胸が張り裂けそうで。

研究員の目をかいくぐっては僕は一人泣いていた。

そんな頃、僕は彼女に出会った。

彼女は弱い僕をとがめず、抱きしめてくれた。


『わたしの前では泣いても好いのよ。

何も恥じることはない。

それがあなたが「人間」だという証拠なのだから」


「人間」


生きた兵器として扱われていた僕にとっては

程遠い言葉のはずだった。

もう諦めてしまっていたはずのモノ。


彼女は僕を一人の「人間」として

僕の存在を認めてくれた最初の人だった。



「何も出来なくてごめんね。

でも生き延びて。

生き延びて顔を見せて頂戴ね」


その言葉だけが救いだった。

それから僕は泣かなくなった。

「僕」という存在を見てくている人がいる。

その人にあって抱きしめてもらうためだけに。

殺して。

戦って。

また殺して。

日々生き抜いた。

会えるのは決まった時間。決まった場所。

監視の目をかいくぐっての、僅かな時間だった。


「ねぇ・・あのね・・」

「なあに、アウル」

「お母さんって・・・呼んで好い?」

「嬉しいわ、アウル」

「お母さん」

「なあに、アウル」


番号ではなく、名前を呼ばれるのがこんなにもくすぐったい。

辛くはあったけれど僕は幸福だった。


けれど。


そんな日も唐突に終わりを告げた。

いつもの場所に「母さん」はいなかった。

次の日も。

そのまた次の日も。

母さんは姿を現さなかった。

同じ被験体や研究者にそれとなく聞いてみたけど、

誰も彼女の居場所は知らなかった。

被験体の一人が殺されたんじゃないかと言ったけど、

僕は信じなかった。

きっといつか会える。

その想いを胸に僕は生き延びる事を決意した。

でも。

ロドニアを出る日となっても彼女に会えなかった。

戦争が終わったら会えるだろうか?

僕は後ろ髪引かれる思いで

スティングとステラと共にロドニアを後にした。




母さん。



会いたいよ。

名前を呼んで。

抱きしめて。

僕は「在る」んだって証明して。

・・母さん。







「何泣いているの」


気付くとベットの上。

隣で眠っていたステラが僕をのぞき込んでいる。

・・・ああ。ここは海の上。

ジョーンズの船の中。


目が腫れぼったくて、瞬きをしたらと水滴が頬を伝った。

僕はどうやら泣きながら眠っていたみたいだ。

不覚。

ステラにこんなところを見せてしまった自分を呪った。

これ以上触れられたくなくて、彼女を

拒絶して背を向けた。


「泣いてなんかいねぇよ」

「・・・・・」


でもステラは何も言わずに僕の頭を撫でる。

馬鹿にするなっって振り払ってやりたかったけれど、

その暖かさに。心地よさに僕はそれが出来ないでいた。

するとぽつりとステラがつぶやいた。


「・・ロドニアの時も泣いていた」

「・・泣くか、ボケ」


いつ泣いてたんだよ?

あのときはもう涙はかれていたはずのに。

でも今のように知らず知らず泣いていたのかもしれない。

僕はまだ弱い。

分かっているけど、ステラやスティングに知られたくない。

もちろんネオにも。

僕が「アウル」であるために「強く」あらなければならないのだから。

そんな僕の気持ちを分かっているのか。分かっていないのか、

ステラはそれ以上何も言わず、

ただ身を寄せてきた。

認めたくないけどステラの体温は安心する。

だから彼女を抱きたくなるんだけど。

そしてステラは僕を拒まない。

それが今の僕の救い。




ぬぐい去れない慕情は僕の足かせ。

いつかは解放される日が来るのだろうか。















後書き



暗くてすみません。
母の日のSSですが・・ニュータイプを
みると連合ってつくづく非道だと思います。
別のお題で挑戦してみます。
アウルの救いを目指したいです。
読んでくださって有り難うございました。