11月27日。
 オーブの港町は感謝祭で賑わいを見せていて、あちこちから大きな買い物袋を抱えた町の人々が忙しく道を行き交う。
 港の海の見えるところに位置するふぁんたむ・ぺいん。
 本来なら営業中の小さな喫茶店では『休業』の看板がぶら下がっていた。




 ざばっ。


 アウルは流し場で大事そうに抱えていたかごの中身を流し場にあけると、蛇口をひねった。勢いよく飛び出してきた水が跳ね、キッチンにある窓から差し込む光を受けて水しぶきがキラキラと光る。水からぷかぷかと顔を出した真っ赤なイチゴを見て、流し場を覗き込んでいた、双子たちの目が喜びに輝いた。

 双子たちよりの丸い頬より真っ赤なイチゴ。
 プクプクとして大粒のイチゴはめったに手に入らない、モモイチゴ。今日のためだけに用意された、特別なものだった。


「おいしそう・・・・」


 大きなマリンブルーを瞬かせてそうつぶやいたのは。もっと近くに見ようと乗っていた台の上から爪先立ちに懸命に伸び上がるのを兄のがはらはらと見守っていた。


「コラ、危ねーだろーが」


 上から降っていえ来た声と共に、伸び上がったを押しとどめる手。口ではそうは言っても可愛くてたまらないというように口元をほころばせたアウルが娘のスカートの結び目を軽く引っ張って降ろさせた。


「ぶー」
「ぶーじゃねーだろぉ。ほれ一個やる」


 頬を膨らませてむくれてみせる愛娘にやれやれと笑って見せると、アウルはたくさんのイチゴの中から一粒だけ水の中から出して差し出した。


「わーい」


 は待ってましたと言わんばかりに嬉々として小さな手を伸ばして大きなイチゴを受け取った。
 大きなイチゴがやっと収まるくらいの丸々とした、小さなもみじのような手。

 生まれたときよりは大きくはなっているけどまだまだちっちゃいなぁ。

 アウルは笑みを深くすると、反対側に同じように立っていた小さな息子にも一つ差し出した。自分とよく似た容貌、だが異なる色の瞳を瞬かせ、自分を見上げるにうなずいてみせるとは目を輝かせて受け取った。



「ほれ、ちゃんと座って食え。用意が出来るまでおとなしくしてろ」


 双子たちをキッチンダイニングのテーブルの方へと追いやると、アウルは手早くイチゴをざるにあけて水気を切った。あとはケーキの土台が準備できるまで冷蔵庫だ。イチゴをしまいこむと同時に生クリームのパックと氷を取り出す。氷を大きいボールに入れて氷水を作るとそれより少し大きめのボールに生クリームをいれ、バニラエッセンスと少しの砂糖を加えrると泡だて器を取り出すと勢いよく泡立て始めた。
 泡立てる作業は電動より手作業の方が綺麗に出来るというのがアウルの持論だ。何よりも耳障りな電動音が気にくわない。


 シャカシャカという軽快な音が響く。


 その音に、アウルの手首の動きに双子は注目しているが、じきに飽きるだろう、さてどうするとアウルが考えているとキッチンダイニングルームの扉が開いてスティングが顔を見せた。


「お、やってるな」
「スティング」
「「あ、オクレ」」


 ぶーっ。


 双子たちの言葉でふき出すアウルにスティングの鋭い視線が突き刺さる。


「てめぇ、チビどもになに教えやがった」
「べっつにぃ〜〜〜」
「アウル、あとで裏口来い」


 変わらず手を動かしながら嘯いてみせる弟分に親指をさかさまに立ててそう告げるスティングだったが、アウルは舌を出してお得意のあっかんべーをしてみせる。


「僕は忙しいんだ、やだよーん」
「ガキか、おまえは」


 ったく、と一つ息をつくとスティングは優しいまなざしを子供たちへと向けた。


「大人しくしているようだな」
「今んとこはな。はともかく、に目を光らせておいてくれよ」


 アウルが生クリームの絡まっている泡だて器をイチゴに忙しい娘の方へと向けると、スティングは困ったように眉尻を下げた。


「俺も準備あんだぜ?仕込みとかよ」
「わーってる。ちょっとの間だけ、な?」
「・・・・分かったよ」


 スティングはふっ、と笑うと双子たちの傍に腰掛けた。イチゴのついたの口元に気づくと、彼はハンカチを取り出してふいてやる。そしてふいてやりながら昔のアウルやステラにも同じ事をやってやっていた事を思い出し、口元をほころばせた。


「なぁ、ステラは?」


 アウルの言葉にスティングは顔を上げ、ダイニングキッチンにかけてある時計を見やった。


「シンとルナマリアが連れ出している。準備が終わるまで連れ回す算段だ。ソキウスとレイは買出し。キラにラクス、ミーアが店の飾り付けをやってくれている」




「ねー、この花は入り口からすぐ見えるとこの方がいいんじゃないかなぁ。
入ったらすぐに目に飛び込んでくるように」


 ソフトピンクに咲き誇る、見事なイングリッシュローズの花束を抱えたミーアがそう言うと、ラクスも微笑んでうなずいた。

「そうですわね。そのために選んできたんでしょう?」
「うふふ、分かるぅ?」
「うぎぎっ。なんでこんなに長く作ったんだよ、ネオさんっ!飾り付けが大変じゃないぁ。ラクス、ミーア〜〜〜」

 ネオ作とでかでかとたすきをつけた子連れステラウサギを上からぶら下げようと悪戦苦闘していたキラがはしごの上から助けを求めるように彼女らを見下ろすと、二人申し合わせたように同じタイミング、同じ調子でこう応えた。


「「男でしょう。何とかなさいな」」
「い、いじめるぅ」


 困り果てて顔をゆがめるキラに仕方ありません事ね、仕方ありませんわねぇと二人は顔を見合わせて微笑み、キラに手を貸すべく彼の方へと歩み寄った。






「おーい、手はいるか?」


ひょっこり顔を出した金の髪にアウルの顔が輝いた。


「かーさん!来てくれたんだ」
「こんな日に執務室で腐っていられるか」

 あの様子じゃあ、多分ユウナにまた押し付けてきたな、とスティングは軽く察し、ユウナには気の毒だが、戦中までは押され気味だったカガリもずいぶんと強くなったものだと感心した。後で土産を持たせておこう。


「買出しは間に合っているか?」
「オマケも一緒か」

 続いて現れた紺色にアウルの口元がへの字に曲がる。分かり易過ぎるっ、とスティングはアスランが気を悪くしやしないかとはらはらと彼らを交互に見やったが、アスランは慣れているらしく、苦笑しただけだった。


「料理の方は手伝うぞっ!」


 腕まくりをして大張り切りのカガリにスティングは笑っていすから降りるとアスランの方を振り返った。


「すみませんが、双子たちをお願いします」
「・・・・う。わ、分かった」


 少々嫌な予感がしてアスランは少し口元を引きつらせたが、懸命に作り笑いを作って彼の要望に応じた。そして恐る恐る双子たちの傍に座ると彼らに顔を寄せて、アウルたちに聞こえないようようにささやいた。

「好い子だからな。髪、特に前髪は引っ張るんじゃないぞ?」
「こう?」

 アスランがそう言うなりが手を伸ばしてアスランの前髪を引っ張った。その後ろでが目をまん丸にしてぽかんとしているのが見える。

「いでで。そうそう、そんな感じ・・・・じゃなくってやめてくれない・・・・かなぁ」

 引っ張られた拍子にはらりと落ちた数本の毛にああっ、貴重な髪がぁっと心の中で叫びながらアスランは引きつった笑いを浮かべた。



 店を臨時休業にし、このように皆が集まっているのは他でもない。ステラの誕生日のためだった。

 地球国家とプラントが和平の道から共存の道を模索し始めてから数年。
最年少でプラントの最高評議会議員となったイザーク・ジュールを初めとする親善派やクライン派、カガリたちオーブやスカンジナビア王国などの尽力によって両者は今までにない歩み寄りを見せていた。
 そして双子たちもまもなく幼稚園に上がるというそんな時。皆で集まろうという話が出たのだった。



























After the War

アウステベビー物語

番外編


FRIENDS

Happy Birthday, Stellar!

























「きゃぁー、これ可愛い。ステラに似合いそう」
「・・・・可愛い・・・ね。ステラ、似合う・・・・かな」
「あたしが言うんだから間違いない!!よおし、まとめて買っちゃおう!!あたしからのプレゼント♪」
「いいの・・・・?」
「もっち〜。あ、でもちゃんと着て見せてよ?」
「うん」


 同時刻、シンとルナマリアは誕生日パーティーの事をステラにばれないようにシンの洋服の見立てという名目で二人で彼女を街へと連れ出していた。だが、それはじきにルナマリアとステラの買い物にすり替わっていていて、シンはおとも兼荷物持ちと化していた。


「ま〜だ?まだ買い物するのかよぉ」


 自分が抱える荷物のタワーから顔を覗かせて、シンが辟易とした調子でぼやくと少し先を行っていたルナマリアとステラが振り返った。


「あともうちょっと」
「さっきからそればっかりじゃないか」


 ぶすっとした顔でそうは言うものの、約束の時間までステラを店に返すわけには行かない。これなら一緒に準備をしていた方がよかったかな、という考えが横切ったが。


『ならば俺がエスコートしよう』


 レイの顔が浮かび、ルナマリアとステラのエスコートは譲れない!と思いなおす。一緒にお茶をして、一緒にものを選んでやったり、二人の試着姿が見れるのだ。次いでに(もはやついでだったとしか思えない)自分のも見立ててもらったし。

アウルの奴、ザマーミロ。

 荷物は重いがそれなりにいいかなぁとにやけてみたりする。


「あ、あのブディック、可愛い子供服あるのよ。ステラが喜びそうだってこの間から目をつけてたの」
「ほんとう・・・・?」
「もっちろん!いこいこ♪」


 嬉しそうにステラの手をとって店の中へと入ってゆくルナマリアの姿をみてシンは青ざめた。


「ま・・・・また荷物増えるの・・・・?俺、死ぬかも」





「新鮮な野菜や果物はたくさんあったほうがいいだろう」
「・・・・分かりました」


 レイとソキウスの無表情コンビはサラダとデザートとなる新鮮なものをと、青果店の前にいた。2対のアイスブルーは品定めしながら商品の間を行ったり来たり、コンピューターのように正確に良いものだけをピクアップしてゆく。


「これとこれ、そしてこれをまとめて買おう」
「へい、毎度」

 
 レイが新鮮な果物をいくつか選び出し、購入の旨を告げると、大量の買い物を前に店員はホクホクとした顔でそれに応じた。だが、レイは不満そうに眉をひそめて言葉を繰り返す。


「これだけ買うといっているのだ」
「だから分かりましたと・・・・」

 
聞こえてますけど・・・・と頭をかく店員にレイはずずいっと詰め寄ると低い声でささやいた。


「2割とは言わん。1割と半分まけろ」

 2割負けろと言いたいんだろうと文句を言いたくもなったが、レイの背後でちらちらと燃える青い火と彼の隣で鋭い眼光でその様子を見守るもう一つのアイスブルー。もはや脅迫に近い。


「へ・・・・へい」


 レイの気迫に負けた店員がレイの言い値で会計を済ませるとレイとソキウスは何食わぬ顔で青果店をあとにした。その手には他の店でも値切って買った戦利品が多数。


「好い買い物をしたな」
「値切りは基本ですね」






 再びふぁんたむ・ぺいん。


「ふりーだむ、はっしーーーん♪」
「ひぃ〜〜」

 アスランにまたがったが定規を片手に嬉しそうにそう宣言すると、先ほどから休みなしに走りまわされていたアスランが勘弁してくれといわんばかりに悲鳴を上げる。

 
 「もびーるすーつは黙ってるの!!」


 尻への容赦ない一撃にアスランはまたもや悲鳴を上げそうになりながら必死に走り回った。


女の子というものは大人しいんじゃなかったのかっ!?
何をどう間違ったらこんなじゃじゃ馬に・・・・。
そんな考えがぐるぐる頭の中を巡る。


「次、僕・・・・乗りたい」
「じゃあ一緒に乗ろー、おにいちゃん」


 大人しいまで乗り出したいと言い出したので、が兄を背中へと引っ張りあげると、二人分の体重にアスランはへばりそうになった。ちょうどそのとき、キッチンからアウルの声がかかった。


。クリームの準備が出来たぞー。ぬるのは任せたからな」
「「はあーい」」
「や・・・やっと・・・か」


 アウルの声に待ってましたと、双子たちがいすから飛び降りてケーキの方へと駆け寄る。それと同時に先ほどまで面倒を見ていたアスランが糸の切れた人形のように床ににつっぷした。心なしかまた髪の毛が後退した様な気がした。


「このへらですくって丁寧にな」


 歓声を上げて作業に取り掛かる双子たちを視界の隅に入れながらアウルもスティングたちの手伝いに入る。


 準備は着々と進んでいた。









 冬は日没も早い。
 すっかり暗くなった頃、真っ赤なスポーツカーが店の前を横切って近くの駐車場へと泊まった。ギアとサイドブレーキを引き、エンジンを止めると、ルナマリアはとうちゃーくと車のキーを抜いた。


「楽しかったぁ〜〜〜」
「うん」
「女のパワー・・・・ってすごい。すごすぎる・・・・」


 満面の笑みと共に降りてくる女性人と裏腹にシンはよろめく足取りで後部座席から降りた。シンが腕時計を見ると午後6時5分前。打ち合わせどおりの時間きっかりに3人はふぁんたむ・ぺいんの前まで戻ってきていた。もちろんステラは中での出来事を知らない。ルナマリアがシンにそれとなく目配せをすると、シンも分かっていると、うなずく。


「どーぞ、お姫様」


 先立ってシンたちの先に行くとドアを開けてルナマリアが二人を手招きした。ステラはその意図が分からずからず、きょとんと立ち尽くしていると、シンが後ろから軽く後押しをする。


「さ、ステラ。行こう?」
「・・・・?うん・・・?」


 扉をくぐると真っ先に目に飛び込んできたのは幾重も重なったアプリコット・ピンクのイングリッシュロース。ステラを出迎えるかのように置かれたバラからはレモン香に似たオールドローズの香りが辺りにだだよわせている。その美しさに見惚れてステラがその鮮やかなピンクに触れようとその手を伸ばした、そのとき。


ぱんぱん!




『SURPRISE!!』


 歓声と共に同時に無数の色鮮やかなテープが飛び交い、たくさんのクラッカーがはじけて飛んだ。


『お誕生日おめでとう!!』
「あ・・・・」


ステラのすみれ色が大きく見開かれた。


 決して広くはない店内にひしめくたくさんの仲間の顔。アウルやスティングを初め、多くのメンバーたちが顔を見せていた。
 キラをはさむようにラクスとミーアが並び。
 クラッカーを持って満面の笑みを浮かべるオーブ代表カガリとその夫アスラン。
 手を叩いてステラを迎えるメイリン、その後ろにレイとソキウス。
 パイロット教官のネオとマリュー夫妻。
 ピーピーと口笛を鳴らしているヴィーノとヨウランの整備員コンビ。
 カメラマンのミリアリア。
 シホとディアッカ同伴でなんとプラント最高評議会議員のイザークがいて。
 そして懐かしい顔のイアン・リーまでもがいた。


 紙ふぶきをかぶってステラが立ち尽くしているとが駆け寄ってきて彼女の手を取り、引っ張った。


「ママー、ケーキ、見てみて」
「僕たちで飾り付けしたんだよ」
「うん・・・」


 二人に導かれるまま中央のテーブルへと行くと真っ赤なイチゴに彩られた大きなケーキ。その上にはステラの名前が入ったプレートがどうどうと飾られ、周囲にはステラの年齢分の蝋燭が周囲を囲む。


「ろうそく点火の前に記念写真撮らない?」
「お、プロのミリアリアちゃんにとってもらえるとは光栄だねー」

 ネオがそう言うとミリアリアは何も出ませんよ、微笑む。

「さ、皆ケーキの前に集まって」


 ミリアリアがカメラを取り出してウィンクをすると皆は待ってました、と言わんばかりにステラの周囲に集まった。


「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「おほん」


 イアンが大きく一つ咳払いをした。
 ステラは自分の後ろを見上げて目をぱちぱちさせ。
 はぽかんとやはり同じ方を見上げている。
 アウルは不満そうに頬を膨らませ。
 スティングは頭痛がするのか頭を抑えていた。
 皆も中心に陣取った人物に何か言いたげな視線を向けている。


「おい・・・イザーク」


 いの一番いステラの後ろに陣取ったイザークにアスランの遠慮がちの声がかかる。イザークはうでをくんだまま、上半身だけをかつての同期に向けるとじろりと彼をにらんだ。


「む、なんだ、アスラン。言って置くが真ん中は譲らんぞ」
「主役の後ろでふんぞり返らないでも・・・。それに普通は家族がステラの一番近くにいるものじゃないか。スティングとかアウルとか」


アスランの言葉にイザークの眉が見る間につりあがった。


「お前はこのおれに端に行けと言うのかっ」
「そうじゃない・・・・ちょっと真ん中からずれても」
「断固拒否する!!」


 端による事はプライドが許さない。
 だがそれ以上にアスランに意見されたのが気に入らないらしく、アスランの言うとおりにしてたまるかと彼は地に根が生えたように動こうとしなかった。


「つべこべ言わないで動きなさいよ!殺されたいの、このおかっぱ!!」


 飛んできたミリアリアの怒声にさすがのイザークも飛び上がった。今にもテーブルも飛んできそうな剣幕に(実際にテーブルの端を掴んで待機中。やめてくれ。オクレ談)おかっぱことイザークは慌てて端に回った。


「な、なんて凶暴な女だ」


 そんなイザークに写真を撮る輪の中に入っていたシホの声がかかった。

「隊長、こちらにいらしてください。この辺は真ん中よりで、隊長にふさわしいかと」
「うむ」


 シホは軍にいた頃の名残か。未だにイザークを隊長と呼ぶ。皆が道を開ける中悠々とイザークは輪の中へと入って行き、満足そうに胸をそらして自分の位置に陣取った。その後ろでディアッカが懸命に皆に頭を下げていた。なんとも哀れ。


「タイマーセットするわねー。わたしが合図したら3秒後」


 ミリアリアはそういってたタイマーのセットをすると急いで皆の中に入った。肩を組もうとするディアッカに軽く肘鉄を食らわしてやりながら掛け声をかけた。


「3,2,1!Smile!」


 まばゆいフラッシュと共にミリアリアのカメラはステラと彼女の大切な人たちを。ステラの誕生日パーティの瞬間を記録の中に収めたのだった。





 スティングは懐からライターを出すと、蝋燭の一つ一つに火を灯していった。そして全てに火を灯すと、ステラを顧みて微笑んだ。


「ステラ、ちゃんとまとめて消せよ?」
「うん・・・・」
「おっと、電気電気。イザークさん、そこの電気消してくれるー?」

 アウルの言葉にイザークの片眉が跳ね上がったが、組んでいた腕を解くと近くのスイッチに手を伸ばした。


「この俺を使うとは・・・・今日は特別に許してやろう。ありがたく思えよ、民間人」
「民間人って・・・お前。議員になったんだからお前も民間人・・・・」

 そう言いかけたディアッカのみぞおちにイザークの肘鉄が炸裂した。

「うるさい!!議員となっても俺の魂は軍人のままだ!!」
「うぐぐ・・・ちったー・・・・手加減して、くれよイザーク」


 体を二つに折ってうずくまるディアッカをミリアリアとシホの二対の瞳が冷ややかに見つめる。


「馬鹿な奴」
「ほんとうですね」



 明かりが落とされた店内ではゆらゆらと揺れる蝋燭の光だけが辺りを照らしている。


Happy Bithday to You.
Happy Bithday to You.
Happy Bithday Dear Stellar〜〜〜.
Happy 〜Bithday〜〜 to 〜〜〜You.


 皆はステラを囲み、揃ってステラへの誕生日の歌を歌い、ステラは照れくさそうにその歌に耳を傾ける。スティングは手元のグラスを叩いてメロディを奏で、が仲良く手を繋いで声を合わせ。その二人を後ろから抱きしめるようにアウルが歌う。皆もゆっくりと心の篭った歌声を響かせた。そして歌が途切れると辺りは静まり返り、皆は蝋燭が吹き消されるのを静かに待った。

じじじと、蝋燭は音を立てて燃えている。


「・・・・」


ステラは揺らめく光をじっと見つめると、すうっと息を吸った。
蝋燭は一本残らず、消す。
それが暗黙の了解。


「ふぅ・・・・・っ」


 突如生まれた空気の変化に抵抗するかのようにろうそくの火が揺らめいた。その芯はと持っている火を手放すのを拒むかのように揺れ、その火も風をしのごうと上に向かって背伸びをする。


ゆらゆら。
ゆらゆら。


そして。


 観念したかのようにろうそくの光はポッと、音を立てると消えた。あとに残ったのは一筋の煙。


『お誕生日、おめでとう!!』


 同時に静まり返っていた店内が拍手と祝福の言葉に包まれ。ステラは頬を染めて周囲の一人ひとりの顔を見回した。


 再び電気がつけられ、再び明るくなったふぁんたむ・ぺいんでにぎやかなパーティが始まった。


「一番!!アスラン・ザラ、歌います!!はっぴぃ〜〜〜〜〜〜ずでぃ〜〜〜」
「やめれー、この音痴!!」

 カコーンと軽い音を立てて、誰かが投げた紙コップがアスランの頭に当たった。

「おいっ、誰だ、このシャンペンをここまで飲んだのは!!!・・・・てストライク、カブ飲みするなぁっ、いくらすると思ってんだ!!!」
「ええ〜〜っ、だったら持ってこなければ良いじゃん」

 言ってるそばからシャンペンを注ぎだすキラにイザークの怒りのボルテージが上がってゆく。


「なんだとぉっ!!ストライク、貴様ぁ!!」
「いい加減僕の名前覚えてよ」


 ギャスカギャスカケンカをしている傍でラクスとミーア、シホが穏やかに歓談をしている。


「ところでイザーク様とのご進展は?」
「それがあの通りなので・・・・」
「あー、あれじゃあねぇ〜〜」


 髪を振り乱し、キラとシャンペンの奪い合いを展開しているイザークの姿に3人ははあぁ〜〜と深くため息をつくと互いに顔を見合わせて笑った。






「ミリィ、しばらくは地球にいる事になったんだ」
「あっそ」


 変わらずそっけないミリアリアにディアッカのテンションが下がってゆく。
 だが、ここで引き下がっては男が廃る。
 今手にしているチケットはミーアに頼み込んで手に入れたミーアのコンサートチケット。ミリアリアが取材がてら行きたいといっていた事を覚えていて必死の思いで手にしたもの。そのコンサートチケットを見て、彼は玉砕覚悟で声をかけた。


「ミーアのコンサートチケットがあるんだ。今度の日曜日に・・・・」
「いいわよ」
「そっか、そーだよな。やっぱだめだよな・・・って・・・・本当か、ミリぃ!!」
「ドサクサにまぎれて抱きつかないでよ!」


 抱きつこうとしたところにミリアリアからカウンターパンチをくらいながらもディアッカは幸せそうだった。


「ヴィーノでーす」
「ヨウランです」
「「二人揃って凹凸整備ブラザーズ!!」」
「モビールスーツから電気釜まで何でもござれっ!!」
「俺たちって器用貧乏だよなぁ」
「貧乏って一緒にするな。お前また無駄遣い?」
「ちがうって。来るとき財布落としたんだよ〜〜。金貸して」
「抱きつくな、コラっ!!」
「給料日もうすぐだから返すよー。昼飯代〜〜〜」


 漫才のはずがなにやら私事になってしまい、収拾のつかなくなった二人の前にメイリンが慌てて出て来て二人の間に割って入った。

「ご飯だったらあたしがお弁当作ってあげるから」
「やりっ」

 とたんに元気になったヴィーノにヨウランが呆れる。

「お前、現金だな」
「これが本当の現金・・・・なーんちゃって」
「「失礼しましたーーー!!」」


「くだらないわねー」


 そう言いながらもルナマリアの顔は笑っている。彼女の隣ではシンが忙しそうにから揚げをほおばっていた。そしてシンの近くでアウルもまた。二人の手が同時に同じ鳥の足へと伸びる。


「・・・・・」
「・・・・・」


 無言でにらみ合う二人。
 シャキン。
 ナイフとフォークが白くきらめき、二人の間で座頭市顔負けのちゃんばらが展開された。彼らの手さばきのあまりの速さに手元は見えず、時折ひらめく銀色の光だけが見える。
 オオーっと周囲から感嘆の声が上がった。


「あんたら・・・・」


 ルナマリアはワインのグラスを片手に笑いをこらえながらその様子を静観する。客人に食事を取り分けながらスティングもまた苦笑いを浮かべ、ソキウスは黙ってアウルたちの手の動きを目で追っていた。

「君は見えているのかね?」
「?はい」


 最近の若者はすごいものだとイアンは感心してうなずくとスティングの方へと向き直った。


「元気そうで安心した」
「いえ。リー艦長も元気そうで・・・・。ネオやアウルとステラには?」
「はは。ロアノーク大佐も彼らも私が苦手なようでね。それに」
「それに?」

 手にした茶をすすりながらイアンは続けた。

「わたしはもう艦長ではない。しがいない郵便の配達人だよ」

 その言葉にスティングは微笑み、取り分けていたチキンの皿をイアンに手渡した。

「では俺たちは郵便事故の心配はないわけですね」
「そう高く買わんでくれ」

 目じりを下げて穏やかに笑うイアンを見やり、そしてアウルたちの方へと視線をやって戻すとスティングは口を開いた。


「あなたをここに呼びたいと言い出したのはアウルたちです」


スティングの言葉にイアンのフォークが止まった。


「ネオもあいつらも分かってます。あなたが厳しい事を言っていたのは自分たちのためだという事が」
「・・・・」
「連合の軍人たちがが俺たちファンタム・ペインを奇異な目を見る中、あなただけは普通に俺たちを見てくれた。皆それが分かってます」


 厳しさは心配や親愛の表れだということが。
 でも怒るものと面と向かいあうのは苦手なのは人間としては当たり前で。

「誰だって怒られるのは嫌ですから」
「はは・・・そうだな」

 料理がかすむ。
 それはまばゆい光のせいだけではないことがイアンには分かっていた。

「あなたが好きなんですよ、皆。俺も。アウルたちも。声をかけてやってください。きっと喜びます」
「・・・・ああ、そうだな。そうさせてもらうよ」


 店の奥の席では主婦陣が子供たちと和やかに食事をしていた。

「ほら、野菜も食べろよ」
「ニンジンやー」


 膝の上のをなだめ透かしながらカガリが何とかニンジンを食べさせようと悪戦苦闘していた。もこっそりピーマンをどかして知らん顔。こればっかりは言うこと聞かないのとステラが困った顔をすると、マリューもうちのネオもそうなのよーと笑った。そのあとマリューは少し声を落とすとてこんな事を告げた。

「うふふ、あのね、ステラ。わたしもしかしたら・・・・の」

そっとささやかれた一言にステラとカガリの顔が驚きに変わった。

「え・・・・」
「それは本当かっ?!」
「まだ病院行って確かめてないけど・・・・もしかしたら、ね」
「ネオ・・・・知ってる・・・?」
「まだ確かじゃないから。それまで内緒・・・よ?」


 マリューは人差し指で口元を抑えて見せると、自分の腹部を優しくなで。幸せそうに、また笑った。
 一方、レイとネオは少し離れたところで向かい合って食事をしていた。正確にはネオが彼のテーブルに押しかけたのだが。


「元気にやってる〜〜?」
「はい」
「相変わらずクールビューティーだなぁ」


おどけて見せながら、ネオはふと真顔になって、レイを見やった。


「なんかあったら遠慮なく言えよ。俺たち親子っつーか兄弟のようなものだからな」
「ありがとうございます」


 二人の距離はまだまだ遠い。
 けれど手が届かないわけではない。


 もくもくと食事を続けるレイの向かいで食事を採りながら今はまだ遠いけれど。
 その距離を徐々に徐々に縮めていけばいいさとネオは思った。
 レイの父とも言えたギルバードの死。そして一度指揮を離れたとはいえ、上官で。そして母のような存在だったタリアの死。どうなるかと思っていたが、レイはレイなりの心の整理をつけたのだろう。
 自分を少しでも頼ってくれれば。
 そう思うってザフト基地に任官したネオだったが、それは彼の父の犯した事への贖罪だけではなく、遺された唯一の肉親を心配するの純粋な気持ちだった。














 パーティが佳境を迎える頃。
 子供たちはすっかりくたびれたのかソファーの上で寝息を立ていた。


「チビ達、顔も洗わないで・・・・」


 とても起きそうにない双子たちの頭をなでてやりながらアウルは双子の片割れ、自分と同じ蒼髪の息子を抱き上げた。それに習うようにステラも娘を抱き上げる。


「チビ達寝かせてくる」
「おう」


 そんな彼らの後ろでシンの困った声が聞こえてくる。


「ルーナァっ!!寝るなよ、もう!!」
「あたしもうダメ・・・・。ワイン飲んじゃったから・・・・・車も運転できない・・・・。グウ」
「もう遅いから泊まっていけ。部屋はあるから、先着2名様でご案内。お前も泊まっていけ」
「・・・・悪い、スティング」
「言っておくが、部屋は別々だからな」
「わ、分かってるよっ!」


 スティングの揶揄するような表情にシンはわずかに頬を染め、懸命によこしまな事を考えていないと腕を振り回してアピールした。そんなシンにアルコール臭と共に彼の背中にどっかりと体重がかかった。


「ちぇー、って思ったでしょー。このラッキースケベー」
「ヴィーノ、お前酒くせ!!」

 シンに抱きついて、頬をつんつんとっついたのはヴィーノ。
 彼の吐く息のアルコールくささににシンは顔をしかめて、彼を押しのけようとしたが、相手は酔っ払い。その行為がかえってヴィーノをあおってしまった。ヴィーノの大きな瞳にみるみる涙が溢れてゆく。


「なんだよ〜〜〜、可愛い彼女がいるくせにぃ〜〜〜。僕なんかせっかく合コンで知り合ってもすぐにフラれるんだよぅ。グスン。それに比べてお前は〜〜〜。オーイオイオイ」


 今度は泣き出した。


「泣くなー!」
「デート先がジャンクやばっかりじゃあな」

 やれやれと肩越しに声を投げてきたのはヨウラン。
 彼がヴィーノを連れて帰るつもりなのだろう。シンにヴィーノを大人しくさせておいてくれと言うとラクスたちを手伝って後片付けを始めている。

自分はお守りか。

 両脇にルナマリアとヴィーノの酔っ払い二人を抱えてシンは途方にくれた。
困り果てて助けを求めようにも皆は後かた付けだったり、同じようによっぱらっていたり。


「イザーク、よっぱらってるな?」
「俺は正気だ、この腰抜けぇーーーーっ!!」
「完全にダメです。キラ・ヤマトやアスラン・ザラと張り合って飲んでましたから」

「俺はっハゲじゃなーーーーい!!おでこが広いのは父上の遺伝だぁ〜〜〜〜」
「・・・・自分で墓穴を掘ってどうする!!あ、コラ!こんなとこで」
「カガリ、チュー」
「いい加減にしろ、この馬鹿たれ!!」

「キラ、これも運んでくださいな」
「ちょっとキラ、そろそろ上のもの降ろしてちょーだい」
「ま。待ってよ。・・・・アスラン、勝手によっぱらって僕に皆押し付けて・・・・。ブツブツ。後で覚えておいてね。君が忘れても僕は絶対に忘れないからね。未来永劫このうらみ忘れないよ」

「お−い、このテーブル動かすの手伝ってくれよ」
「俺が手伝います」
「・・・・そのテーブルはこっちです」
「あいよ、っと」


 皆は自分の事で手一杯のようだった。




 双子たちの部屋に行き着くと、アウルはを抱えなおしてドアを開けた。


「よっとっと」


 その拍子にの頭が肩から滑り落ちそうになるのを慌ててなおしながら自分が抱える重みにアウルは苦笑した。


「こいつら結構重くなったな」
「大きく・・・・なったね・・・・」


 をそれぞれベットに下ろして布団をかけてやると、アウルは二人の頭を交互になでた。


 あれほど元気に騒ぎまわっていた双子たちはいまや夢の中。
 どんな夢を見ているのだろうか?
 無邪気な表情で穏やかな寝息を立てる二人が愛しい。

 アウルとステラの目が細められる。





「・・・・お休み。


ステラは子供たちのすべすべとした額に軽く口付けると
アウルはステラの手をとった。
ステラもしっかりと握り返す。

「いこっか。後片付けもあるし」
「うん」


 眠る二つの影を起こさないように。
 足音を殺してゆっくりと戸を閉める。
 明るい部屋から差し込む光が徐々に細い光の筋へと。
 やがて一本の光となったかと思うと、子供たちの眠る部屋は真っ暗闇に包まれた。
 だが人の闇を知らない双子たちにとって闇夜は優しい安らぎの導き手であって恐れるものではない。





「なぁ、喜んでもらえた?」
「うんっ。こんなに楽しくてにぎやかなの・・・初めて」


 手をつないでゆっくりと店に戻りながらアウルがそう言うとステラは満面の笑みでうなずいた。


「皆都合つけてきてくれたんだ。いいよな、トモダチって」
「うん」
「うん、ばっか」


 階段のところで立ち止まるとアウルはステラを顧みて笑った。皮肉げでも裏のある笑みでも無く、純粋な笑み。


「あ、そうそう。邪魔ものはいないし・・・・」

 ふと思い出だしたかのようにそう言ってポケットから出したのは小さな小箱。蒼いベロアで貼り付けられたる、重厚なそれはステラの手に小さく収まった。

「あけていい・・・?」
「ん・・・・」

 あけると真っ白なパールのイヤリングが姿を現した。艶と照りは申し分なく、照明明を受けて淡く輝いていた。


「・・・・綺麗」
「前のとは種類が違う白いやつな。核がないから長持ちもするし、真珠って双子、という意味もあるんだって、双子のママになったステラに。さすがに手作りというわけにはいかなかった」


 本来真珠は核に分泌物を巻きつけ、真珠が出来上がる。その年月はおよそ半年から、3年。だが真珠貝の種類によっては核が必要が無くいにもかかわらず、真珠を作り出すものもある。10ミリ前後が出来る年月はなんと9年はかかるという代物。アウルは偶然立寄った装飾店でそれを見つけ、大分前から頼み込んでとっておいてもらった奴だった。


 だけど、その辺はステラには内緒。


「つけさせてもらって良い?」

 アウルの言葉にステラは無言でうなずくと、彼は手を伸ばし、壊れ物を扱うようにそっととパールのイヤリングをつけてゆく、。耳元に触れるアウルの暖かい体温と共にひやりとした真珠の感触にステラはうっとりと目を閉じた。


「はい」


 アウルの声と共に彼の体温が離れると、ステラは耳元のパールに手をやった。つやつやとした、滑らかな感触。


「鏡・・・見てくる」


 パタパタと自分の部屋に駆け込み、鏡台の前に座るとステラは映し身を覗き込んだ。
キラキラと目を輝かせた少女のような、一人の女が自分を見返してくる。耳元には大粒の、真っ白な真珠。鏡台においてあるランプの光を受けてやわらかい光を放っていた。


「綺麗・・・・」
「だろ?よく似合う」

 ステラの後ろに来たアウルがステラの金の髪に細いあごを乗せて鏡越しに微笑んだ。ステラも肩に触れる手を伸ばしてアウルの手をきゅうと握った。


「あらためて誕生日おめでとう」
「ありがとう」


 窓の外では冬の冷たい空で、星が鮮やかに瞬いていた。












































































あとがき


ほぼオールスターでステラの誕生日を祝ってもらいました。
ステラ、誕生日おめでとう!!



補足
タリアとギルバートはアニメ同様戦中お亡くなりになっている設定です。
お二人が好きな方はごめんなさい。