「一緒に騒ぎたいタイプは」 「ルナ」 「一緒に訓練したタイプは?」 「ルナ」 「好きなタイプは?」 「ルナ」 「彼女にしたいタイプ」 「ルナ」 「母性を感じるタイプ……」 「ルナっ!」 「結婚したいタイプは?」 「ル「だ〜〜〜っ、おんなじ答えばっか!耳にタコ出来るよ!」 答えつまらなすぎっつーかお前其れしかないのかよそれよりルナルナが耳から離れないじゃんどうしてくれんだよ、と切れ間無く文句を綴るヴィーノ・デュプレ。 機関銃のように文句をまくし立てる彼に、だったら聞くな、とシンはしかめっ面になるのだった。 〜勝手にやってろ、バカップル〜 アーモリーワンの強奪事件をきっかけに大きな犠牲が出た戦乱が終結して数ヵ月過ぎたある昼過ぎ。 ヴィーノは来月の部内新聞のための取材に当たっていた。部内新聞は毎月誰かかしら編集長に当たっているのだが、今回じゃんけんに負けたヴィーノが来月分の編集長になったのだ。 企画を考えるのがめんどくさすぎて身近の有名人、ザフトのエースのインタビューにしようと安易な考えにいたったのだが、シンの口から出るのはルナばかり。 他に出す名前はないのか、と突っ込みたくなる。 皆のアイドル、メイリンやアビーとか。 歌姫のラクス・クラインにオーブ代表カガリ・ユラ・アスハ。 マリュー・ラミアス。 ちょっと考えれば無尽蔵に出てくるはずなのに。 「うるさいな」 眉間に皺を寄せて腕組をするとシンはそっぽを向いた。 ヴィーノはてこでも意見を変えようとしないであろう彼の姿勢にため息をつくと、手元のメモ張を放り出したい衝動に駆られた。 来月こそじゃんけんに勝ってやる。 否、こんな馬鹿らしいことを避けるためにも今後も勝ち続けなければならない。 そんな考えをヴィーノはめぐらせるながらシンを見やった。彼はもはやあのピンクの携帯を手にしていない。 ちょっと前までは携帯で『マユ』が多かったのだからたいした進歩だとは思うのだが、これでは記事ならない。 ヴィーノはそうそうに諦めると次にあたろうと席を立った。 そんな彼をシンは座ったまま目だけを動かして見送っている。 「じゃーね。次はルナんとこに聞きに行くよ」 少しばかりの皮肉をこめてルナ、を強調すると、ヴィーノはきびすを返して出口へと向かった。 がたんがたん。 「いでーーーっ!」 するとテーブルに何かがぶつかる音がして、シンの悲鳴が聞こえてきた。 何事かと視線を戻すと、シンが片足を抱えてぴょんぴょんと奇怪なダンスを踊っている。 大方足でもぶつけたのだろうと、ため息をつくと再び視線を戻して出口へと向かう。 そのすぐ後をバタバタと追う足音がして、シンがすぐ横に並んだ。 「俺も行く」 「……」 やっぱりそうなりますか、と二度目のため息をつきそうになりながら、引き剥がすのは無理だと判断する。 ヴィーノは仕方なく、くっついてくるシンを引き連れてルナのいる格納庫へと向かうことになったのである。 「インタビュー?部内新聞のことだよね。はいはい、話聞いてるわよ」 インパルスのメンテナンスにあたっていたルナマリアは笑顔でヴィーノとシンに手を振ると、少しだけ待つようにと声を投げて、再びコクピットの中へと姿を消した。 待つこと十数分。 遅い、と文句をたれるシンを尻目にお前が記事書くわけじゃないのに態度でかいよ、とヴィーノは心の中でぼやいていた。 間もなくルナマリアがやってきて、無関係のはずのシンを交えたインタビューはスタートした。 「理想の男性は?」 「アスラン」 ガタン、と隣で椅子が倒れる音。 邪魔だけはしないでくれよ、と内心祈りながらもヴィーノは続ける。 「最強だと思うタイプは?」 「キラさん、じゃないかしら」 今度は音はしなかったが、ちくちく自分を刺して来る殺気に答えているのは俺じゃないよぉとヴィーノはなきたくなった。 「えーと包容力のあるタイプ……」 「そうねぇ、ネオ・ロアノーク?」 ちらりとシンの方を見やると彼の形相からして、アスラン、キラ、ネオはシンの殺すリストに上げられたようだった。 「じゃあ、一緒に馬鹿をやりたいタイプ」 「一緒に……ねぇ、シンかな」 ああ、よかったぁ、神様っ!! ルナマリアの答えにヴィーノは普段信じていない神を信じてみたい気持ちになったが、収まらないのはシンのほうだった。 「なんだよ、それ!!其れって俺が馬鹿みたいじゃないかっ!」 「馬鹿だもの」 すました顔で一刀両断するルナマリアにシンが石化した。 うわっ、言うてはならんことをっ。 神を信じる気になっていたヴィーノの気持ちもルナマリアの言葉であっという間に霧散していった。 ああ、カミサマ。この二人のけんかにまたもや巻き込まれる運命なのでしょうか。 被害にあってきた今までが走馬灯のように脳裏をよぎって行く――。 俺、ただ記事のネタが欲しかっただけなのに。畜生、神なんかもう信じるもんか!ぺっぺっ。 簡単だと思っていたのが逆に災難関(誤字にあらず)だったかもしれないと彼は己の選択の甘さを後悔した。 一時の沈黙が場を漂う。 其れを打ち破ったのはルナマリアだった。 「でも馬鹿な子ほど可愛いって言うでしょ?」 「「……へ」」 シンとヴィーノの声が重なる。 何言ってんだよ、トドメだよ、と頭を抱えるヴィーノとは裏腹にシンの表情が晴れて行く。 その変化においこら待て喜ぶ台詞じゃないじゃん、とヴィーノは大いに突っ込みたかったが、当人同士は彼の存在など忘れてしまったようだった。 「そうかな……でも理想じゃないんだろ」 あのデコが後退しているようなやつに負けるなんてとシンが頬を膨らませて不満を漏らす。 口まで尖らせてこどもかよ、とヴィーノが突っ込んでみても、彼の声などまるで届いていないようである。 「馬鹿ね……理想と現実は違うの。あたしが好きになったのは無鉄砲でお馬鹿なところがあるけれど、優しくて可愛いシンなんだから」 「可愛いってなんだよ」 可愛いといわれたら烈火のごとく怒るシンだが、ルナの場合はどうやら別格のようだ。 嬉しいような照れくさいような表情でルナをちらちら見ていて。 ルナマリアはそんな彼が可愛くて仕方ないと紺青を細めて笑っている。 「別にいーじゃない。あたしはそんなあんたがすき」 場の空気がなにやらピンク色になっていく様子をヴィーノは辟易とした表情で見つめた。 こうなったらもう誰にも二人は止められない。 ……つーか関わりたくない。 ヴィーノはインタビューは企画倒れだとがっくり肩を落とすとこれ以上付き合ってたまるかと席を立った。 わざと音を立てて立ち上がって見せたのだが、二人は彼のことなどまるで眼中にないようだった。 スパナでも投げつけてやりたい気持ちになりながらヴィーノはすごすごと格納庫を出て行く。 気の毒そうに彼を見送る整備員達の視線が酷く痛い。 出る間際にもう一度シンたちの方を見やると、先ほどまでとは打って変わってご機嫌になったシンがルナマリアの手をとってなにやら言っていた。 おそらくいつの日かアスランやキラを超えてみせるなどと言っているのだろう。 勝手にやってろ、バカップルとつぶやくと、ヴィーノはただでさえ少なかったやる気をすっかりなくしてその場をあとにした。 次の月、部内新聞は休刊になっていたという――。 |