寂しいってなに?


 僕には分らないな。


 だってずっと一人だったし、なんの役にも立たないモノを傍においても邪魔なだけでしょ。







「ばいばい、またね」
「また学校でねー」

 ドア越しに手を振るとアーシェはドアの向こうへと消えた。パタン、と軽い音を立てて扉が閉まる。

 カーテンの隙間から覗くと、帰って行くアーシェが見えた。銀色の髪をなびかせ、こちらを振り返ることもなくしっかりとした足取りで歩いて行く。名残惜しい、と思ってくれなかったのかなぁと瀬名は眉尻を下げて苦笑した。

 胸に吹き込む寒々とした隙間風……そして鈍く悲鳴を上げる胸の内。

 これは一体何なんだろうと自身、不思議に思いながらもアーシェの背を見送る。


「うーん、やっぱり途中まで送ってあげた方がいいんじゃないかな〜」


 彼女は一人でいいと言っただけれど、夜道は何かと危ない。
 敵は天使だけじゃない。


 自分に言い訳をするように椅子にかけてあったパーカーを取り上げた時、アーシェの前に現れた一つの影に、瀬名の動きが止まった。
 食いるように外の光景を見やる。
 月明かりの中、腕を組みんで静かに佇む青年。
 口元には皮肉げな笑みが浮かび、月明かりに照らされた闇の色がキラキラと輝いていた。


 そして闇の下で瞬くエメラレルドグリーン。


 ――セイジュ。

 彼の姿に瀬名の琥珀が揺れ……曇った。

 瀬名に気づくことなく、二人はいくつかの言葉を交わすと手をつないで歩き出した。月明かりに照らされた二人の影が長く伸びてゆく。
 笑顔で歩調を合わせて歩く、二人。
 何を話しているんだろう。

 唇を軽く噛むと、最後まで見送ることなく瀬名はカーテンを引いて外界を遮断した。手にしていたパーカーを無造作にテーブルへと放ると、ベットの上にその身を投げ出す。首だけを動かして部屋をみまわした。

 いつもと変わらないはずの自分の、部屋。
 ……だけど、今日はいつに無く寒々として見えた。



「また……ね、か」


 誰とも無くつぶやく。


 明日になればまた彼女に逢える。
 だから、大丈夫。
 大丈夫。


 鈍く悲鳴を上げる胸から痛みを吐き出すかのように大きく息を吐きくと、瀬名は目を閉じた。








 ……これが「寂しい」のだと瀬名が気づくのはまだもう少し先のお話。










あとがき

セイジュ+アーシェ←瀬名
愛憎編の瀬名。ヘラヘラしているように見るけれど、本当は愛情に飢えた寂しがりや。それが瀬名だとおもいます。