「夏といえば肝試し〜」 懐中電灯の光の中でぼんやりと浮かび上がったシャニの顔はまさに妖怪のそれだった。 そのあまりの不気味さにクロトとアウルがお互い抱き合って涙目であごをかくかくさせている。 彼のキャラクターなのかポリシーなのか、何故だかは本人のみがあずかり知れることなのだが、 ……彼は時たまこのように意味不明な事をする。 真夏の肝試し編 シャニはにやり……と笑うと、ステラを除き額に縦線を走らせる一同を見回した。 「ちょうどいい時期だし……?涼しくなるために、肝試し、やろう……?」 ちなみに反論するやつは呪う、と恐ろしい事を付け加えるとシャニは懐からくじを取り出した。 「ペアは3組……。脅かし役は、俺を含めて、もう一人……」 「シャニ、脅かす……?」 ステラが小首をかしげながら繰り返すと、シャニがそう、とうなずく。 とたん、後ろでアウルとクロトの大爆笑が起こった。 「ぎゃはははははは、ぴったりぃ〜〜!!」 「まさに適・役っ!!腹いてぇ!!」 笑い転げる二人にシャニはふうぅとため息をつくと、懐から木槌を取り出した。 ――暗転。 「ル〜ルは……簡単。同じ番号同士が……ペア。女と男、それぞれの分、あるから……」 長い台詞ってだる〜いとぼやくシャニの後ろで五重塔たんこぶを作ったアウルとクロトが折り重なるように転がっている。 ステラはそんな二人を面白そうにツンツン、と突っついていた。 スティングとオルガは冷や汗をたらしながら、眼球だけを動かしてアウルたちを見つめ。 あの二人は大丈夫か、と心配するナタルにフレイはあの二人の生命力はゴキブリ並ですから大丈夫です、とかぶりを振る。 あれで少しは頭がよくなるかしら、と非情とも言える台詞をつけくわえながら。 さて、強制的に復活させたアウルとクロトを交えてのくじ引きが始まった。 (ステラステラステラステラステラステラ) (フレイフレイフレイフレイフレイフレイ) アウルとクロトはそれぞれの目当ての名を念じながら血走った目でくじを引いた。 フレイはその異様な光景を見てみぬフリをしてくじを引き、ナタルらは頭痛を訴える額を押さえながら同様にくじを引く。 マイペースに、全く変わらないのはステラと主催者のシャニだった。 さて、その結果。 オルガとナタルペア。 クロトとフレイペア。 スティングとステラのペア。 ハズレ、すなわちシャニと共にお化け役となったのはアウル……であった。 「いやったぁあああああっ!!」 「インチキーーーーーっ!!」 くじを握り締め、喜びに沸くクロト。 くじを叩きつけ、踏みにじって悔しげに叫ぶアウル。 二人のあまりのうるささにシャニの木槌が再びうなったのは言うまでもない。 * * * * * 肝試しがスタートしたのは日がとっぷりと暮れた後。 風にざわめく樹影や虫の音を背景に新月が辺りを弱々しく照らしている。 スタート地点は館裏にある小道から村はずれにある墓地へのコース。 墓地の門にくじの番号を書いた小石を置いて帰ってくるのだ。 なかなかの距離である。 その中間地点にアウルとシャニが陣取っている。 おじけついて途中で放り出した者には1週間の罰当番というルールだった。 「クソクソクソ。呪ってやる〜ケケケ」 肝試しがスタートしたばかりだというのに頭に大きなたんこぶを作って呪詛を吐くアウルの周辺では 早くも怨念の篭ったダークなオーラが発散されていている。 その様子にシャニは自分の後釜の素質があるとニヤリ……とほくそえんだ。 最初に来たのはクロトとフレイだった。 懐中電灯を持つクロトの隣をフレイは気丈に背筋をまっすぐに伸ばし歩いていて、クロトのほうはもう少し自分を頼ってくれれば良いのにと文句をたれている。 「ムードもへったくれもないな〜カワイソ……」 「ケケケケ、あいつばっかにいい思いをさせてたまるか」 気の毒なクロトに合掌するシャニの横でアウルはなにやらごそごそとやっていて。 取り出したのは一本の釣竿。 さきっぽには……。 「こんにゃく……?」 シャニが頭上に疑問符を浮かべると、邪悪な笑顔を浮かべたアウルがうなずく。 イ〜ヒッヒヒヒ〜と薄ら寒くなる笑い声を漏らし、クロトたちがやってきたところに竿を振りかぶった。 直後。 クロトの絶叫が夜気を揺るがした。 * * * * * 「ナタル艦長」 「なんだ?」 少し前を歩いていたはずのオルガが唐突にたちどまってナタルを顧みた。その顔に怪訝な表情が浮かんでいる。 「あんた、俺の肩、叩かなかったか?」 「……?いいや」 オルガの言葉にナタルも怪訝な顔をした。自分はオルガの斜め後ろを歩いているのだ。誰かが彼の肩を叩いたとしたらしたら嫌でも気づくとはずだった。 二人は顔を見合わせ、首をかしげると再び歩き出した。 しばらく歩いた後だった。 急にオルガの肩が重くなり、ひんやりとした冷気が彼を包み込んだ。 この真夏の蒸し暑い時期にこのように急な温度変化があるはずがない。 悪寒を覚え、ゆっくりと肩のほうを見やると、ブルーの瞳とかち合った。 この場にいるはずのない、色。 暗いはずなのに、ぼうっと浮かび上がる影にオルガは悲鳴を上げそうになった。 「ひどい〜じゃないですかぁ〜。僕のナタルさんと〜二人っきりでお散歩なんて〜」 恨めしそうにオルガを睨みつける発光体は徐々に輪郭を明らかにしてゆき、やがてかつてのブルーコスモス盟主を形作った。 「ず〜る〜い〜」 「おおおおっさんっ?!」 「アズラエル理事?!」 オルガとナタルの驚愕の声が辺りに響いた。 アズラエル理事はブルーコスモスが行ってきた数々の罪状にとわれ、現在オーブの刑務所で服役中のはずだった。 本来ならば極刑もおかしくなかったが、ナタルの説得に応じて投降した事とオルガ達の懇願もあって終身刑となった。 だがいつかは罪を償って許され、彼らの元へと戻れる日を待っている……のが何故ここにいるのだろうか。 ……よくよく見ると彼には足がなかった。 「ユーレイ?!」 とうとう死んだのか、と恐怖に全身の気を逆立てるオルガにアズラエルは違いますよ、と怒る。 「僕は生霊です!!僕のナタルさんへの愛の力が奇跡を呼んだんです!!」 「怨念だろーが!!」 「失礼な!!」 幽体離脱してねぇで大人しく刑務所へ帰れ、と怒鳴るオルガに帰るもんですか、と頭にかじりつくアズラエル。 夜に騒ぎだてたら近所迷惑だ、といさめるナタルの声など全く耳に入らないようで。 困り果てたナタルはどうしたものか、と深いため息をついた。 * * * * * 「アウル、この野郎〜っよくもこのボクに恥を〜!!抹・殺!!」 「はっはー!!てめぇだけ良い思いさせてたまるかっての。お尻ペーんペーん!!」 舌を出して逃げ回るアウルを烈火のごとく怒り狂うクロトが追う。 「あんたら、やめなさいよ!!」 「あ〜なったらもう無理無理〜。罰当番はアイツラに決まり〜」 そんな喧騒の中、一番あとに出発したペアが無事肝試しを終えて合流地点へ向かっていた。 「大した事なかったな」 「そう、だね」 スティングとステラは手をつなぎあって道を歩く。 時折、虫の音に耳を傾けながら。 肝試しという大きな試練を終えたせいか、その足取りも軽かった。 「アウルの声、する……」 「なに騒いでるんだ、あいつら」 合流地点に近づくに連れて、遠くからアウルたちが騒ぐ声が聞こえてきていた。 あとがき 拍手のつもりが長くなったのでここに。 なかなか報われないアウルとクロト。 彼らが騒ぐと連鎖的に周囲も騒々しくなります。 アズラエルさんは現在、罪を償うべく服役中で、定期的にオルガが面会に行っています。 青春家族の続編でした。 ここまで読んでくださってありがとうございました。 |