陽のあたる場所

     
〜シード学園スペシャル〜
       

























 5月の大型連休のとある日にフレイ宅での昼食会が催される事になった。
 招待客はロック部の面子、フレイの親戚とも言えるオルガたちアズラエル家。キラの姉のカガリ、その従者ともいえるアスラン。もちろんフレイの後輩のステラ、シンやルナマリア達の姿もあった。
 そうそうたるメンバーである。


「ようこそ。我が家へ」


 にっこりと微笑んでフレイが客人を迎えた。
 とたん、彼女の両脇を風のように通り過ぎてゆくふたつの黒い影。


「うおおおっ!!スッゲーご馳走!!このためだけに来たんだよ!!」
「にくにくにく〜〜〜!!」


 アウルとミゲルだった。
 彼らは早速大広間にあるご馳走テーブルに取り付くと、怒涛の勢いで平らげ始めた。それを一同は呆れた眼差しで見送る。


「ハイエナだな」
「あ〜〜〜もうっ!!良い恥さらしだわ」


 ごく冷静に感想を述べるレイの隣でルナマリアが頭を抱えた。
 キラはアスランとカガリに間に陣度とってにこやかにアウルたちが
食い散らかす様を見ている。カガリから遠ざけられたアスランは苦い表情でキラを睨んでいる。せっかくカガリと並んで来たと思ったのにキラが現れるなり、彼は当然のように自分達の間に割り込んできて離れようとしない。
 それとなく、どいて欲しいと意思表示を見せても軽く流されるだけ。
 絶対にわざとやっている、と確信できた。
 カガリはカガリで何も気づいていないようで無邪気にニコニコと笑っていてそれがアスランのストレスに拍車をかけていた。


「理不尽だ・・・・!このシスコン野郎」
「なんか言った?そう怒りっぽくしているとまたデコが・・・・」
「だぁ〜〜〜〜!!言うな!!」
「仲良いな、お前ら」


 違う、と苦虫を噛み潰した顔のアスランを押しのけ、キラはカガリの手を取って屋敷の中へと導く。彼はフレイの屋敷にはたびたび出入りしているからその足取りはなれたものだった。途中、もう片方の腕にフレイを捕らえる事も忘れない。両手に花状態で悠々と屋敷の中にはいってゆく。
 それを歯軋りしながら見送るアスラン。
 そしてそれを面白く思わない人物がもう一人。


「ふん!!なんだよ、あれ!!フレイにベタベタしちゃってさ!!」


 クロトだった。
 思いっきり顔をしかめて不機嫌さを隠そうとしない。
 そんな弟にオルガは疲れた表情で肩をすくめる。
 シャニ、はというと。


「ステラ・・・・行こう?食べ物、取り分けてあげる」
「うん」
「俺も!!」


 かいがいしくステラの世話に当たっていてそれを面白く思わないシンが割ってはいる。
 ラスティは、薄笑いを浮かべて挑発するシャニと真っ向から勝負に挑むシンにはさまれて困っているステラをみやりながらため息をついた。


「いつものパターン?」
「そのようですね・・・・」


 くすりとニコルは笑うと、ふと気づいたようにラスティのひじを突っついた。


「彼女も来ているみたいですよ・・・・?」
「・・・・」


 ニコルの言葉にラスティの顔に緊張が走った。
 ニコルの指し示す方向を懸命に目で追い、目当ての人物を探す。


「おねーちゃん、こんな立派な昼食会なら最初から言ってよ。もっとおしゃれしてきたのに」
「はぁ?パーティじゃないのよ?」
「おねーちゃんってホント、無精なんだから」


 ルナマリアの前で赤みのかかったツインテールが揺れた。
 ルナマリアの妹メイリンだった。かわいらしいカジュアルにショートパンツから覗く白い足がとてもまぶしい。


「メイリン、すっごく似合ってるよ」


 ヴィーノが頬を赤らめながら彼女の傍に来ると何かとろうかと、彼女に声をかけた。頑張れよーと気の抜けたヨウランの励ましにヴィーノはうるさい、彼女持ちと口をとがらせる。



「・・・・」


 話しかけようか話しかけまいかと決めあぐねているラスティにニコルは穏やかな微笑を浮かべた。
 バレンタインデーでの接触以来、ラスティが何かと彼女を気にしているのが誰の目から見ても明らかで、その気持ちに戸惑っている彼がまた初々しい。


「あーーーー!!てめぇ、俺の肉とんな!!」
「早い者勝ちだっての!!」
「先輩に譲れ!!」
「世の中弱肉強食だ!!知るかよ!!」

 アウルとミゲルが鶏肉の足をめぐっていがみ合いをはじめた。両者ともナイフとフォークを手に殺気の篭った眼差しをぶつけ合う。

 うへぇと誰かが声を上げた。
 
 とばっちりを食らっては大変だと、皆が避難をはじめる。


「覚悟しやがれ!!」
「はっ!!返り討ちにしてやるぜ!!」


 きらりとナイフとフォークの切っ先が光った。


「「人のうちで暴れるな、馬鹿たれ!!」」


 食べ物を巡って戦争を始めようとしたミゲルとアウルの頭の上にスティングとオルガの拳骨が命中した。
 台詞のタイミングも拳骨の命中するタイミングもシンクロしたかのようにぴったりだった。さすがは両家の長兄同士。


「馬鹿ばっか・・・・」
「そうねぇ・・・・」


 いすに腰掛け優雅に昼食を堪能していた囲碁部部長のアビーとフレイがため息をついて肩をすくめた。
 フレイの隣の席ではキラがカガリに料理を差し出していた。


「カガリ、あーん」
「いや、お前、それやる相手、間違ってないか?」


 頬を紅く染め、カガリが戸惑いを見せると、キラは心底残念そうにフレイの方を見やった。


「だって・・・・フレイは恥ずかしいからいやだって」
「誰がそんな事やらせるか!!お前にやらせるくらいだったらボクが」


 噛みつくように口を挟んだのはクロト。敵意に満ちたブルーをキラに向ける。


「何?人の恋路に横恋慕する気?」
「ななな!ボクとフレイは幼馴染なの!!こういう事はよく見知ったもの同志が・・・・」
「どういう理屈、それ?」


 しどろもどろになりながらも必死に反論するクロトにキラは馬鹿にしたように薄笑いを浮かべた。だがその口調とは別に紫苑の瞳にはめらめらと対抗の炎を燃やしている。幼馴染、という言葉がとても気に触ったらしかった。


「とにかく、お前がやるならボクがやる!!」
「寝言は寝て言いなよ」


 しばしにらみ合った二人は同時にフレイの方を振り向き、彼女に料理を差し出した。


「「フレイ、あーん!!」」


 がちゃんとフォークをとり落す音がその場に響いた。


「青春ねぇ・・・・・」
「しみじみといわないで頂戴、アビー!!」


 ふぅうと首を振るアビー。フレイは突き出されたふたつのフォークの前に頭を抱えてうめき声を上げた。


「俺は蚊帳の外か・・・・無視か・・・・」


 そして青春真っ只中の青少年達の間でアスランだけが暗い影を背負っていた。
 

--------其の時だった。


「アスラーーーン、勝負だ!!」


 聞き覚えのあるがなり声と共にバターンと扉を開けていくつかの影がづかづかと広間に入ってきた。
 イザークとその従者、ディアッカとシホであった。


「ちょ・・・・ちょっと・・・・」
「すんません・・・・勝負終わったらすぐ帰りますんで」


 眉をひそめるフレイにディアッカは片手を上げて申し訳なさそうに頭を下げた。


「言い出したら突っ走るからさ。どうにもならんのよ」


 イザークはフレイを無視し、指先をテーブルにいたアスランに突きつけた。


「さーーー!!昨日の勝負の続きだ!!今日は俺負がかーつ!!」
「イザーク先輩、またアスラン先輩のトコに来たの。懲りないやつ」
「しっ!!それ、言わないの」


 シンのボヤキをイザークに聞こえないようにと慌てて静止するルナマリア。
 幸い、イザークはアスランに気を取られていて聞こえなかったようだ。レイは我感せず、と紅茶を口元に運んでいた。


「ステラ、これうまいぞ。ホレ」
「ありがとう・・・・」


 アウルは相変わらずおかまいなしに料理テーブルに張り付いていて無関心だった。でもちゃんとステラにも分けているところはさすがというべきである。


「酒はないのか?」
「真昼間から・・・・?」


 ひとしきり詰め込んでご満悦のミゲルが今度はアルコール関係を探し始めた。そんな彼にシャニはやれやれと肩をすくめながら、ステラのためにデザートを盛り付けていた。


「あ、ステラ!!おれも!!」


 もちろんシンも参戦。


「そんなに・・・・食べられないよ・・・・」


 同時に差し出された三つの皿にステラは困った笑みを浮かべた。


「アウルせんぱ・・・・っ。いたいっ!!」


 アウルの姿を探してきょろきょろしていると、不意にツインテールの片方を引っ張られ、メイリンは顔をしかめた。
 引っ張られたほうに目をやると、ラスティが彼女を見下ろしていて。
 目が合うと、ついっと彼は視線をそらした。
 だけどしっぽは彼に捕まったまま。


「ちょっと、先輩。離してください」


 メイリンは眉間によった皺を深くすると引っ張られている髪を取り戻そうとそれを自分のほうへと軽く引っ張った。
 離せ、というジェスチャーだ。
 ところがラスティは。


「・・・・いやだ」


 そっぽを向いたままきっぱりとそれを断る。


「はぁ?」

 メイリンがぽかんとしたのもつかの間。
 我に返ると彼をきつく睨みつけた。


「離して」
「いやだ」
「離して!!」
「やだね」


 離したら、アウルのところ行くんだろ?
 その一言を飲み込み、ラスティはメイリンの抗議にそ知らぬふりを続け、少しずつアウルからはなれたところへ彼女を誘導してゆく。


「あー、ちょっと!!何してんスか、ラスティ先輩!!」

 幸か不幸か、彼らに気づいたヴィーノが駆け寄る。
 助かった、といわんばかりのメイリンの表情とは反対にラスティの顔は邪魔者が来たと、ますます仏頂面になる。


「前途多難ですが、頑張ってくださいね、ラスティ」


 素直でない、ラスティの不器用さをニコルはほほえましく見送る。
 一方アスラン達の席では。


「アスラーーーン、勝負だーーー!!」
「あー、こうなればヤケクソだ!!受けてたってやる」
「イザーク先輩、対戦の場は既に出来ております!!」
「でかした、シホ!!」


 いつの間にか用意されたのか、ふたつのいすの並ぶテーブルにはチェスボードとチェスのコマが鎮座されていて傍らには休憩用の飲み物も常備されていた。完璧である。


「あんたたち・・・・」


 勝手な事を・・・・とフレイは呆れたが、言ってはいですか、と引き下がる連中でないのもよく知っている。せめてこれ以上騒がないで欲しいと願いをこめて諦めて自分の席に戻る。


「まぁ、盛り上がるから良いんじゃない?」


 くすりと笑ったクラスメイトにフレイは渋い顔を向けた。


「アビー、あなたまで馬鹿に染まったの?」


 だが、アビーの微笑は崩れない。


「それはあなたも、でしょ。この学園にいると、皆馬鹿に染まるのよ」
「アビー・・・・」
「それも悪くないわ」

 そう言って料理を口に運ぶアビーをフレイはじっと見つめた。
 後ろを振り返ると既にチェスの対戦が始まっていて、向かい合うアスランとイザークの周りに人が集まって盛り上がりを見せている。
 その賑やかさにいつのまにか微笑をこぼしていた自分に気づいて、口元に手をやると、アビーが目を細めて、でしょ?と笑った。


「そうね・・・・」


 この学園に来てから満たされる事の多い事。
 キラの事もあったけれど、それ以上に学園と生徒たちとの一体感を感じる。
 たまに一緒になって馬鹿をやってしまっている自分もこの学園に染まりつつあるとフレイは気づくとアビーに微笑を返すのだった。


 私立シード学園。
 個性的な生徒の集まるその学校は生徒の憩いの場。
 今は連休でひっそりとしているだろうけれど、連休が明けるとまた元のようににぎわうだろう。
 どんな騒動が起こるか。
 生徒たちはどう動くか。
 騒がしくも、奇天烈な学風。
 窓から差し込む光は教室を余すことなく照らし出している。
 陽のあたる場所。
 シード学園はそういうところなのだ。




あとがき


 ほぼオールキャラ・・・・?
アダルトキャラは出ませんでしたが、その辺はご容赦くださいませ・・・。牛歩ですが、シード学園も少しずつ進めて行きたいと思っています。
 アウルだけじゃなくて、他のキャラもかきたいですね・・・・。
 ラスティとメイリンのエピソードは連載で準備中です。もうちょっとお待ちください。
気づいたらアウルとシンとシャニの巴戦もちょっとだけ。
重ね重ねですが、すいません。