「この町も久し振り♪
あのお店のけぇきも久々よね〜」

ピンクの髪をポニーテールにまとめサングラスをかけた少女が急ぎ足でオーブの港町を歩いている。
そのすぐ後に派手なパンチパーマにサングラス、趣味の悪いストライプのスーツを着た男が影のようにひっついていた。


「ミーアはん、足早いわ〜。待ってぇーなー」

そんな変わったコンビに街を行き交う人々が何事かと視線を投げかけてくる。
中には彼女に見覚えが在ると立ち止まる者もいたが、
そんな彼らにかまわずミーアは目当ての店の前にたどり着くと、舌足らずの声を張り上げた。


「はぁ〜い、プラントの歌姫、ミーア・キャンベルがお忍びできたわよぉ・・・って何よぉ、これぇ!?」






一同旅行中につき下記の期間中はお休み致します。

後編

ふぁんたむぺいんへようこそ







その頃、『ふぁんたむぺいん』従業員一同はアスハ邸の前にいた。
無論、彼らだけではない。
カガリに誘われたキラとラクス。
ネオことムウとマリュー。
アウルの悪友、シンとルナマリアに
レイとルナマリアの妹であるメイリンというそうそうたるメンバー達だった。

「おお!来たなっ!!」
「来たのか・・・」

大喜びで彼らを出迎えるカガリとは裏腹にアスランの表情は優れない。
日差しは何処までも明るいのに対して彼の空気はどんよりと曇っていた。
彼はせっかくの休日をカガリと二人きりで過ごしたがっていたのだが、
カガリにぎやかな方が良いに決まっていると、その案をあっさり一蹴され、
彼は落ち込んでいた。
俺との休日より馬鹿騒ぎの方が良いのか、カガリ・・・と。
そこへ追い打ちをかけるようにキラが微笑んだ。

「やあ、アスラン。お招き有り難う」
「俺が、招いたワケじゃないが・・。歓迎するよ」

半分だけの真実を込めてアスランは引きつった笑みを浮かべた。
彼にとって来て欲しくないナンバー1と2がそろって顔を見せているのだ。
おもしろいはずがない。
ナンバー2は『息子』アウル。
こいつは何とかなる。
一番の問題は言うまでもなく。
目の前で紫の瞳に意地の悪い(アスラン視点)光を湛えている人物である。

「声に元気ないよ?ふふふ」
「いやぁ、気のせいだよ。はははは」
「ヘタレのくせに僕のカガリと二人きりですごそうなんて思っていないよね」
「ヘ、ヘタレ・・・。言ってくれるな、キラぁ。ハハハハハハハ」
「ウフフフフフフ」


キラとアスランの周囲に暗雲が立ちこめ、なま暖かい風が吹き、ダークなオーラが辺りを漂う。
心なしか雷鳴も聞こえるような気がした。

「お、おねぇちゃん・・。あの人達、怖いよぉ」
「しっ、見ちゃいけません!」

おどおどろしい空気を漂わせる二人にメイリンは本気で怯えて表情を見せてルナマリアにしがみつき、
そのルナマリアもすごい場面を見てしまったというように顔を引きつらせる。
カガリとアウル、シンは二大怪獣の襲来かと青ざめ、
スティングも顔をそらすと、余計な物を見るな、聞くなと言わんばかりにステラの耳をふさぎ、
あさっての方向へと向かせた。
マリューとムウは笑顔のままその場に石化し、
レイは無表情だったが、手元のミネラルウォーターを傾けたまま
ドボドボと流れっぱなしになっている。
ただ一人、ラクスだけがいつもの笑みを湛えて二人を見ていた。

「あらあら、まぁまぁ。やっぱりお二人は仲が良いですわね。
妬けますわ」
「あれの何処をどう見たらそんな感想持てんだよ?」
「・・こわ・・・」

シンは何処かずれた観点のラクスを本気かそうでないか決めかねて眉をひそめ、
アウルはそんな彼女にもダークなオーラを見たような気がしてその身を震わせた。



「う〜ん。親友と聞いてたけど、どうもアスランとキラさんて天敵っぽくない?」

女子部屋に通されたルナマリアは先ほどの情景に眉をひそめた。
あてがわれた部屋割りはルナとメイリン、ステラとラクスだったが、
ステラは荷物をルナと一緒にしていたため、彼女らの部屋を訪れていた。
カガリから与えられた部屋は2人にしては広く、立派なキングサイズのベットが2つあった。
それもこのベットは一つで3人余裕で寝れそうなサイズだった。

「あんまりその辺考えたくないなぁ」
「見なかったことにしよっか?ね、ステラ」
「?」

スティングに耳をふさがれ、あさっての方向を向かされていたステラは
訳が分からず、疑問符だけを浮かべるのであった。


「おーい、日よけパラソルはここで良いかぁ?」
「・・問題ないと思う」

パラソルを掲げるシンにレイが頷いてみせると、シンは早速、と言わんばかりに
力一杯砂地にその柄を刺し、傘を開いた。
シンは紅い水着に、レイは白い水着にTシャツ姿だ。
そこへ白いパーカーに水色の短パン姿のアウルがクーラーボックスを抱えてやってくる。

「スティング達は?」
「いま、昼飯の用意。すぐ来るってさ」
「ルナやステラ達は?」

シンのステラという3文字に反応したアウルだったが、
彼はそれをシン達に悟られないよう努めて冷静に答えた。

「・・まだだけど、そのうち来るんじゃねぇの?」
「女の支度は長いというからな」

慣れきった様子のレイにメイリンに教育されてるなぁと妙に感心するアウルとシンであった。



自然の日光を受け、蒼い水平線と白い砂浜がキラキラと幾重にも重なった光できらめく。
少し離れたところは黒曜石のような岩に囲まれ、外からは此方が見えないだろう。
寄せては返す、静かな波のメロディーは聞く者に安心感と安らぎを与え、
時折吹く海風が皆の髪を肌を撫でては去っていく。
余計な喧噪も人影もないプライベートビーチでこうして過ごせるのは最高の贅沢で在る。
まぶしさにサングラスの奥に在る金の瞳を細め、ステイングは感慨深げに海を見渡した。
海ではラクスとメイリン、そしてカガリがはしゃぎ回っている。
鮮やかなピンクのワンピース姿のラクスは同じピンクの髪をひるがえし、
無邪気な笑い声を立てている。
赤い水玉フリルのチューブタイプトップのセパレーツを着たメイリンはレイとシンを海の中へと引っ張り込み、
緑のタンキニ姿のカガリも一緒になって彼らに水をかけていた。

「いい気なるなよ、カガリ・ユラ・アスハ!」
「ここではザラ姓だぞ、シン!」

わいわいそう言い合いながら水の掛け合いを展開するするシンとカガリ。
少し離れているところでキラとアスランがいる。
否。
いると言うより、互いににらみ合っているような気がスティングはした。
それも笑顔を張り付かせたままで。
敢えてみないふりをして視線をそらすと
サマーチェアーの上で海でを眺めるサスペンダーワンピース姿のマリューが視界にはいる。
豊満な胸にすらりとした手足がとてもまぶしいが、
きわどすぎる姿だけにスティングは目のやり場に困った。
誰かの趣味だろうか?

「マリューも負けてないだろ?」

自慢げにそう言い放つ黒ビキニパンツのムウにスティングは返事に困り、曖昧な返事しかできなかった。
アウルは、というと白いパーカー姿のまま、パラソルの下で大人しく、海で戯れる皆を見ていた。
そんなアウルに気付いたシンが側に寄ってくると声をかけた。

「何やってんだよ?」
「うっせえな。僕の勝手だろぉ?」

余計なお世話と言わんばかりにそっぽを向くアウルに
今度はカガリが駆け寄って来て彼のパーカーに手をかけた。

「シンの言うとおりだ、お前も来い!ほら脱げっ!!」
「あ、待ってくれよ!かあさん!」

引っぱられたパーカーから覗くアウルの筋肉質だが、白く、ほっそりとした身体。
そんなアウルの短パンから腹筋にかけて走る、一筋の火傷のあとにシンは目を見開いた。
古傷ではあったが、くっきりと残るそれは。

「おい、カガリ。やめとけよ。嫌がってるから」
「え〜、なんでだよ、シン?」

シンはその傷に気付かないふりをしてカガリの手を制すると、
不満そうに見上げるカガリの手を引っぱり、波間へと連れ戻した。
そして振り返るとアウルはいつもと変わらない様子で彼らを見ていた。
シンはそんな彼に負い目を感じ、視線を合わせられない。
アウルの傷。
それは2年前、クレタ沖の戦闘でシンがアウルに付けた傷であろう事が容易に見て取れた。
命は取り留めたものの、傷が残ったのだろう。
戦争だったとはいえ、そう割り切れる物ではない。
少なくともシンにとっては。
彼は唇を噛みしめ、再びアウルの方を見やった。
するとアウルはにんまり笑うと、なにやら指を指している。
その瞬間。

「ぶっ!!」
「あらぁ、ごめん遊ばせ、ですわ」

シンはビーチマットレスに乗ったラクスに突っ込まれ、転倒した。
派手な水しぶきを上げ、頭から海に落ちたシンは塩水を大量に飲み込んでしまった。
もがきながら海から顔を出し、水をはき出すと腹を抱えて大笑いをするアウルが視界にはいる。
その姿にアウルに負い目を感じた自分が少し馬鹿らしくなり、シンは畜生とつぶやいた。

「それにしてもステラ達、遅いなぁ」

視線を海の水着に釘付けのままムウがぼやく。
腰に手をやり、クールに決めているつもりだろうが、その異様な瞳の輝きからしてスケベ根性丸出しである。
何となく彼にステラの水着姿を見せたくない、とアウルとスティングは顔をしかめた。

「おっまたっせ〜!」
「おねーちゃん、遅い〜」

明るい声にアウルは顔を上げるとルナマリアがステラを伴って此方に向かってくるのが見える。
ルナマリアのきわどい真っ赤なビキニ姿にムウはおおっとつぶやくと鼻の下を伸ばす。
そのムウにマリューが冷ややかな視線を送っているが、彼女たちを見るのに熱心なムウは気付かない。
こりゃ、あとで修羅場かもとアウルは内心ざまあみろといわんばかりに心の中で舌を出した。


「ルナ、その水着・・・」
「えへへ、ちょっと派手だけど、どお?」

片手を後ろにくるりと一回りしてみせるルナに
シンは目のやり場に困って視線をそらすと、こんどはステラが視界に入る。
ルナの後に付いてきていたステラはピンクのウインドブレーカーを羽織っており、
その下から覗く白い足がとてももまぶしい。

「ほら、ステラ!あなたもこれ脱ぎなさいよ!何のために水着選んだか分からないじゃない」
「うん・・・」

言われるがままステラは来ていたウインドブレーカーを脱ぐと
下から真っ白いビキニが現れる。
ステラの大きな胸を強調するデザインにきわどいビキニライン。
可愛らしいひもで水着が白い身体に止め付けられている。
しばしの沈黙。
シンとアスランは真っ赤になって息を呑み、
キラは感心したように紫の瞳を細める。
スティングは水着のあまりのきわどさに正視できずに、その視線を虚空に彷徨わせていた。
その沈黙はおおおっーというムウのひときわ大きい声と共に破られた。
同時に何かをしたたかに打つ小気味のいい音もあたりに響く。
見るとマリューが無表情でパラソルを振り回し、したたかにムウを殴っていた。
その側で口元をへの字に曲げたアウルが体育座りの姿勢で
パラソルがないまま日光に己をさらしている。

アウルの反応を期待して彼の方を見やったステラだったが、
見るからに不機嫌なアウルにステラの眉尻は下がっていった。
元々この水着を選んだのはアウルに見せたかったため。
だが肝心の彼は喜びもせず、不機嫌そうに自分を見ている。


ステラがルナマリアに誘われて買い物に出た数日前のこと。
アウルを引きつけるだけの水着を選び、彼を虜にすれば万事オッケー!
という言葉を信じてこの水着にしたのだ。
なんのために嫌な想いをしてまで、カガリの誘いを受けてこの水着を着たのだろうか?
ステラは本気で泣きたくなった。
彼女は何も言わずきびすを返すとそのまま来た道を引き返した。
今日にでも荷物をまとめて彼女は帰るつもりだった。
あの街へ。
小さくなっていくステラの後ろ姿に我に帰ったルナマリアは
怒り心頭でビーチに座り込んだままの水頭に向かった怒鳴った。

「こぉんのバカボン!!」
「はあ?」

ルナマリアの剣幕に気圧されつつもアウルは不機嫌そうに彼女を見返すだけだ。
そんな彼になお怒りを募らせたルナマリアは大股で彼に近づくと、
襟をひっつかみ、これでもか、と言うくらいに彼を揺すぶった。

「あ〜ん〜た〜ね〜!!誰のためにステラがあの水着選んだと思ってンの!?」
「知るかよ。ネオじゃねーの?げっ」

言うか言い終わらないうちに頭をしたたかに殴られ、顔を上げると
怒りで荒れ狂っている蒼い海とぶつかった。
そのすさまじさにアウルは沈黙する。

「あんた以外誰がいるってぇーの!?ええっ、このマザコンっ!!」
「マ、マザコン・・」

あっけにとられるアウルにルナマリアはなおも続ける。

「あんたが母さんって騒いでいる間ステラがどんな気持か分かる!?
自分を一番に見てもらえない女の気持ちが!?」
「僕はそんなつもりじゃ・・」

そう言いかけてアウルは止まった。
視線をスティングの方へと向け、彼と目が合うと数日前の会話を思い出す。

『お前の前でステラがネオネオと言ったらおもしろくないだろーが』

あ・・、と漏らすアウルにルナは情けなそうに肩をふるわせると、彼の襟を離した。
そして決断を迫るように蒼い瞳を向ける。
彼女だけではない。
カガリもラクスも。スティングも。
皆が彼を見ている。
何をすべきか、問いかけるように。
アウルは彼らを見やり、ステラの消えた方向に目を向け、
また彼らの方に戻すとはっきりと彼らに告げた。

「わりぃ、行ってくる」

そして返事を待たずにステラの後を追って走り出した。
あっという間に小さくなるその背にスティングは安心したように溜め息をつく。
満点とまで言わないがこれなら及第点だ。
これはアウルの『母離れ』のいいきっかけになるだろうと
スティングは金の瞳をアウル達の消えた方向に向けたままつぶやいた。
少し寂しげにアウルを見送ったカガリにキラはそっと歩み寄った。

「カガリ、さびしい?」
「少しだけ、な。だが嬉しい気持の方がずっとでかいぞ」

ずっとでかいぞ、っと大きく腕を広げて満面の笑みを見せるカガリにキラはそうだね、と微笑んだ。

「そうさ。俺たちに子供が出来れば・・・ぐはっ」

カガリの隣でアスランがそう言おうとした瞬間、キラの無言のケリが飛び、彼を沈黙させる。
波間にプカプカ揺れる彼をラクスは面白そうに突っついていたという。



別荘に戻ってきたステラは放心したようにその場でしばらく座り込んでいた。
本当に何のために来たのだろうかと。
アウルの気を惹くどころか溝は深まってしまったではないか。
そもそもアウルが悪い。
好きだとか言っても自分に甘えず、何故『母』に甘える?
ステラではだめなの?
ステラは涙をぬぐいながらのろのろと立ち上がると、階段を駆け上がってくる音に顔を上げた。
見るとアウルが息を切らせながら部屋の入り口にいた。
ずっと走ってきたのか、肩をまだ上下させている。
ステラと目が合うとアウルはマリンブルーの瞳を細めて笑った。

「ステラ、みっけ」
「・・・あうる・・?」

ステラが彼の名を紡ぐより早く、彼女は彼の腕の中へと収まっていった。
潮の香りに混じってアウルのにおいがする、腕の中。
何故今ここに彼がいるのだろうか。
怒っていたのではないのかという疑問がぐるぐると彼女の頭をめぐり、
何も言えないでいると、アウルが口を開いた。

「馬鹿。人前でそんなかっこ、すんな」

アウルの腕に力がこもる。
彼の肩に顔を埋めたまま、ステラは涙の名残に鼻をすんと鳴らす。

「でもアウル・・喜んでくれるかと思って」
「見せんなら僕の前だけにしろ。他のヤツに見せんじゃねーよ」
「・・・」

黙りこくる愛しい存在に頬を寄せて、髪を撫でる。
指の隙間をさらさらと流れてゆく金の糸。
久し振りに触れた彼女の存在を改めて大切に感じた。

「ごめんな。お前の気持ち考えないで。でもさ」

当たり前のように思っていて今まで口に出来なかったこと。
それが今更口にするのも照れくさくて。
そして自分が子供っぽく感じられてアウルは言葉を濁す。
頭の中でその言葉がぐるぐる巡っているもののなかなか口から出て来てくれない。

「なに・・?」

だが、自分の言葉を期待する、ステラの眼差しに
僕ってかっこわるい、と思いながら覚悟を決めて口を開いた。

「愛してんの、お前だけだから。この世で一番大事なのはお前だから」

照れくさそうに、だが強く囁く。
そしてそれに付け足すようにアウルは言う。
言いずらそうに、とぎれとぎれに。

「ぼくもやめっからさ・・。だからさ・・・そのネオネオはやめろよ」
「うん・・」

だだっ子みたいで格好悪いと今まで言えなかったこと。
だけどステラは彼を笑うわけでもなく、嫌悪を示すわけでもなく。
幸福そうに微笑んでいた。
そんな彼女に胸が熱くなったアウルは
今一度彼女を抱く腕に力を込めると彼女に口づけた。
最初は軽く。
次は深く。
自分の舌を彼女と絡ませ、強く吸って離す。
ステラの潤んだ瞳とあうと、アウルの理性は音を立ててはじけ飛んだ。
水着姿のステラを抱きかかえると、そのままベットに押し倒した。

「あうる・・?」

早すぎる展開に瞳をぱちぱちさせるステラにアウルは熱に浮かされた瞳を向けて囁いた。

「ごめん、ステラ。一週間もご無沙汰してたから・・我慢できね」
「あ・・アウル・・」

ステラのとまどった声が甘い声に変わるのはそれから数分後のこと。




「仲直りしたのね。良かったじゃない」

水平線を見渡せる温泉でメイリンがそう言うと、頬を染めたステラがこっくりと頷く。
今彼女らがいるのは別荘とは少し離れた露天風呂である。
高場に位置するその温泉は湯船に浸かりながら海を見渡せ、
沈み逝く太陽もよく見える絶景の場だった。
水平線へと落ちてゆく真っ赤な太陽が
名残惜しげに彼女たちを紅く照らしてゆく。

「ホント、遅かったから何をしていたと思ったけど・・。仲良くやっていたみたいねぇ〜」

クスクス笑うルナマリアをステラは不思議そうに見やると、
彼女はにやりとステラに向き直ってその肌を突っついて見せた。

「こことか、こ〜んなきわどいところにまでキスマーク付けちゃってぇ〜」
「あ・・」
「あ、ほ〜んとだ」

きゃあきゃあと騒ぐ女湯の隣に位置する男湯ではシンが会話の内容に真っ赤になっていた。

「ア、アウルのヤツ、ケダモノだ・・」
「いやぁ、若いって良いねぇ」

熱膨張している己を押さえながら必死にOSを暗唱するシンの傍らで
目の回りに青あざ作ったままのムウがのんきにつぶやく。
そこへがらりと引き戸を開けてアウルとスティングが入ってきた。
身体を流し、湯船に入ってくるアウルにこのケダモンがと怒鳴ってやろうとシンがアウルを見上げると、
昼間に見た傷が目に飛び込んできて彼は押し黙った。
腹部に感じるシンの視線に気付いたアウルは何事かと彼を見やる。

「あん?何だよ?」
「・・・傷。それ2年前のヤツだよな?」

傷を横目で見やりながら遠慮がちにそう言うシンに
アウルは思い出したように己の傷を見やった。

「ああ、誰かさんが思いっきりド突いてくれたおかげでね」
「・・・」

うつむくシンにアウルはふっと笑って見せた。

「気にするなって。あんときは殺らなきゃ殺られたんだし。それにこうして僕は生きてンだからさぁ」

結果オーライだろぉとアウルはシンに向かって水鉄砲を放つとまた笑った。
水鉄砲をよけきれずに顔面にクリーンヒットしたシンは盛大にむせてアウルを睨み付けるが、
カラカラ笑う彼にシンも自然と笑みが浮かんだ。
仲良く水鉄砲の撃ち合いを展開するアウルとシンにスティングは
ほほえましいと言わんばかりに笑みを浮かべるのであった。




「ねー、花火しようよ」

夕食後、すっかり暗くなると早速と言わんばかりに花火を手にしたメイリンが
レイを伴って応接室に入ってくると、カガリも琥珀色の瞳を輝かせる。

「持ってきたのか!よし、アスラン、バケツを用意しろっ!花火をやるぞ!」
「あ、ああ」

そんなカガリに気圧されながら言われたとおりにバケツを用意しに行くアスラン。
その間に他のメンバー達も庭に出てロウソクを立てたりして花火の準備をする。
ムウがライターの火でロウソクの先をともすと
ジジッという静かな音を立てて、ロウソクの先に金色の光が生まれる。
ラクスとマリューが冷たい飲み物がのった盆を手に庭に入ってくると、
アスランも水の入ったバケツを手にその姿を現した。


「このでかいのはあとにしようか」
「そーね。まずは棒花火から行きましょーか」

シンに頷くとルナマリアは袋から花火を出して彼に渡した。
他のメンバー達も思い思いの花火をとってゆく。
蚊取り線香のようなネズミ花火を取りだし、悪戯心に大きな瞳を瞬かせるアウル。
その隣で変なコトするなよ、とスティングは心配そうに彼を見ている。
ステラとラクスは飾りの沢山ついた花火を珍しそうに眺めていた。

「きゃー見てみて」
「あらぁ綺麗ですわよ、メイリン」

棒花火を両手にくるくると回るメイリンにラクスは手を叩いて微笑む。
花火の先から生まれた光と熱が彩りの弧を描いてゆく。
光が飛んだあともちりちりと地面にしばらくその金の光を残す。

「アウル、見て色が変わった」
「あー、ステラの目と同じだな」
「うん。同じ」

夫婦のように寄り添うアウルとステラは静かに花火に見いっている。
発火と共に手の先に生まれる僅かな抵抗。
そして光と熱。
時には炎の軌道が変わり、時にはその色を変え。
スティングも初めて見る花火に言葉無くひたすら花火に見いった。

「いけぇっ!」
「ちょっとムウ!」

ムウはネズミ花火に火を付け、くるくる回る花火に年甲斐もなくはしゃぎ回るのを
マリューは笑いをこらえてみている。一方、アスランとキラの間では。

「いやぁ、これを試してみないかキラ?」
「え〜、何か改造っぽいから君が試してみてよ」
「やだなぁ、これでお前を亡き者に出来ると思っていないよ」
「そう?アハハハハ」
「そうとも。ハハハハ」

・・・水面下で火花が散っていた。

「何やってんだ、キラ達?」
「存じませんわ。でも仲がよくって・・妬けますわ」
「・・そうなのか、あれは?」

そしてそんな二人を線香花火にこうじていたカガリ、ラクス、レイが各々の感想を胸に彼らを見ていた。

花火もあらかた終わり、その締めくくりに、とムウは打ち上げ花火を取りだした。
皆に離れるよう指示を出すと、本体を軽く土に埋める。
そしてライターを取り出すと後ろのメンバーに向かって軽くウインクをした。

「心の準備は良いかい?」

「オッケー牧場よ!ね、みんな!」
『おうっ!!』
「なんじゃそりゃ」

ルナマリアの言葉に苦笑すると、ムウは花火に火を付け、後に下がった。
ジジッと音を立て、火が花火に吸い込まれていくのを皆は固唾を呑んで見守る。
火花が消えて一瞬の静寂。

一発の轟音とともに
ヒュルルルルル…
火の玉が漆黒の空に舞い上がり

パパーン!
パンパン!
 
と空中に大輪の花をいくつも咲かせた。
青、赤、黄色、緑、ピンク、紫と沢山の色彩が
次々と咲いては広がり、
空に無数の光を散らしてゆく。

「たーまーやー」
「かーぎやー」

シンとカガリが叫ぶ。
その光景に歓声を上げるメンバー達。
特に打ち上げ花火を初めて見たアウル、ステラ、スティングは
その美しさに言葉無く、立ちつくしていた。

「綺麗・・・」

ようやくステラが言葉を発したのは2発目が打ち上げられたとき。
その表情は夢見るようにうっとりとしていて。
空に散る大輪の華に照らし出されるステラの横顔は例えようもなく美しかった。
アウルはそんな彼女を愛おしげに抱き寄せ、空を見上げた。

ドン。
ドン。
ドン。
パパーン。

締めくくりのようにひときわ大きな花火が連続で放たれる。
瞬く星の間で咲き誇る大輪の華。
側でシン達を真似てルナマリアとメイリンが声を張り上げている。
2年前までは考えられなかった穏やかな生活。
傍らに大切な者がいる、幸福。
いくつもの光が飛び交う空を見上げながら
スティングは金の瞳を細め、これからも頑張るぞと誰と無くつぶやくのだった。





あとがき

2900hitリク後編
久音様による海のリクでした。
長くなりましたがよろしければお持ちください。
素敵なリク、有り難うございました。

今回は店を離れ、海に来ました、ふぁんたむ・ぺいん一同。
番外にしなかったのは3人が主役だったから。
でもAfter The Warは元々オクレ兄さんが一番の主役なんですよね。
ちょくちょく忘れかけますが。
ここまで読んでくださって有り難うございました。