ロドニアの森奥深くにたつ、古ぼけた孤児院。

そこをぐるりと囲むように桜がある。

時は春。

その桜の中で子供達の笑い声がこだまする。

 

 

         

これはアウル達がまだロドニアにいた頃の幼き日のこと。

6人は共に育ち、スティングはアウルとステラを。

オルガはクロトとシャニをそれぞれまとめていた。

やんちゃで目が離せない、個性的な面々を

まとめていたスティングとオルガの受難の日々は

そんな幼い頃から始まっていた






 

 

 

もういーいかい?

 

 

まあだだよ。

 

 

 

もういーいかい?

 

 

 

まあだだよ。

 

 

 

もういーいかい?

 

 

 

・・もういいよ。

 

 

 

 











プロローグ

その1-a

Childhood

 

















「みんな、どこに隠れてるのかな・・・」


100数えた後、ステラは隠れた幼馴染み達を探そうと顔を上げた。

みんなうまく隠れたのか、気配はなく、辺りは静まりかえっている。

耳を澄ますと楽しげに遊ぶ、ロドニアの孤児達の歓声が遠くから聞こえて来る。

ふわふわとした金髪を揺らしてステラは幼馴染み達を探し始めた。


柔らかい風に乗って桜が舞う。

時折頬を撫でていく風の心地よさに自然と笑みが浮かんだ。

ステラは軽くスキップをしながら桜並木の根元を一つ一つ見て回る。



こんなに暖かくて気持の好い日だからきっと、いる。



と一人の少年を思い浮かべる。

何本目の木だっただろうか。

ステラは足を止めると、予想通りの光景に目を細めた。



桜の木の根本で柔らかい緑のウエーブの掛かった少年が、いた。

待ちくたびれたのか。

それとも単に眠かったのか。

身を丸くして木に寄りかかるようにして寝息を立てている

その髪に肩に桜の花びらが所々に散っている。


ステラは少年の傍らにしゃがみ込むと桜色の唇を動かしてそっと少年の名を呼んだ。


「シャニ、見つけた」

「・・・・?」


ステラの声に少年は目を開けた。

当初ぼんやりとしていた紫と金の異なる色の瞳が、徐々に焦点を結んでいく。

やがてステラを認識したのか、ふわりと笑った。


「・・・・見つかっちゃった」


シャニはそうつぶやいたものの、その声色は少しも残念そうでなく、

むしろ嬉しそうな響きさえあった。


「うん」


ステラも嬉しそうに頷く。


「俺、もしかして最初?」

「うん」

「そっか」

「うん」

「一人だけ、というのも癪だから一緒にみんな探そうよ」

「うんっ!!」


シャニは立ち上がって花びらを払うとステラの手を取った。

ステラは嬉しそうに手を握り返し、二人は共に残りを探そうと歩き出した。



やがてたどり着いたのは子供達が遊んでいるグラウンドの脇にある、小さな遊び場。

鉄棒にジャングルジム、滑り台。ぐるぐる回るジャングルに砂場。

ジャングルジムにシーソー。そしてブランコ。

一通りの物がそこにそろっている。

ブランコがステラのお気に入りだ。

アウルやスティングがステラを乗せて、後ろを押している光景がこの遊び場に良く見られる。

時にはアウルがステラと二人乗りをして教員に怒られていた。

だが当人達は反省の色を見せず、代わりに謝るのはいつもスティングだった。

今は他の子達が使っており、アウル達の姿はない。


「アウル、いない」

「みたいだね。他探そうか」

「あ〜シャニ!!ドサクサにまぎれてステラと手ぇ繋ぐなよ!!

ステラは僕ンだ!!」


二人が遊び場から立ち去ろうとしたとき、聞き覚えのある怒鳴り声が

上から降ってきた。


上を見上げると遊び場にある木の上から水色の髪の少年が二人を睨んでいた。

アウルだ。

軽い身のこなしでするすると降りてくると、アウルはシャニからステラを奪い取り、

再びぎっとシャニを睨む。


「・・・・アウル、見つけた」

「・・・・だね」

「あっ!!」


ステラとシャニの言葉に我に返ったアウルは、

自分が見つかってしまったことにようやく気付いた。


「く、くっそー!忘れてた・・・」


途端頭上で盛大な爆笑が起こった。


「あーっはっはっはっは!!自分から見つかりに行って馬鹿じゃないの!?

やーい、ぶわぁーか!!」


声の方向を見ると別の木の上で紅い髪の少年が腹を抱えて大笑いしていた。

その姿にアウルは怒りで白い頬を紅潮させながら負けずに怒鳴り返した。


「馬鹿はお前もだよ!!でけぇ声出しやがって!!見つかってんじゃねーか!!」

「クロト、みっけ」

「あ」


・・・・
こうして残りはスティングとオルガの二人だけとなった。


「スティングとオルガ、何処に隠れてんだろ。けっこー広いんだよな、ここ」


アウルはステラの手を引きながらそうぼやいた。

すぐうしろにシャニとクロトが続く。


「案外さ、ステラかお前がピンチになったらスティングは自分から飛んでくるんじゃないの?」

「はあ?どこぞの正義の味方みたいに?」


クロトの言葉にアウルは馬鹿言うな、と呆れるが、クロトは妙に自信有りげだ。


「いや、絶・対!!来ると思う」

「うん、来るね」


シャニも同様に頷く。

こいつらスティングを何だと思ってんだよとアウルは呆れた。

そんなアウルだが、自分達のためにスティングが日々奔走して回っていることに

どうやら気付いていないようだ。

わずか10歳にして胃炎の危機にさらされているというのに(オルガも同様)


「有り得ねっつーの。いつもアンテナ張ってるわけないじゃん」

「一見は百聞にしかず。まー見ててよ」


クロトは大きく息を吸うと大きく声を張り上げた。


「大変だ、大変ぁっ!!!ケンカだ、ケンカだぁ!!アウル・ニーダが寄ってたかって

殴られてるぞぉっ!!」

「なっ」

アウルの顔が引きつるのもお構いなしにクロトは続ける。


「やられそうだぁ〜っ」

「てめ、いいかげん」



「なぁにぃっ〜!!」

その頃。

建物の反対側にある植え込みの中からスティングががばっとその身を起こした。

一緒に隠れていたオルガが愕いて後じさる。


「アウルがっ、寄ってたかって殴られている、って誰かがっ!!」

「あ?なんも聞こえねーぞ?」

「聞こえたんだよ!オルガ、手を貸してくれ!」

「だから気のせいじゃねーの?あのアウルが黙ってやられるようなたまかよ」

「あ?もし本当だったらどうすんだよ!?何かあったら責任取るか?ああっ!?」


やべぇ、目が据わってやがる。


普段のスティングから想像もつかない豹変ぶりにオルガは渋々従った。




「来ねぇって。待つだけ無駄。さっさと探し行こーぜ」


場所変わって反対側。

クロトを殴って黙らせたアウルが、その身を翻したとき、

ステラがぽつりとつぶやいた。


「・・・・スティング、来た」

「うっそ!」


ステラの視線の先に一同が同様に視線を向けると

鬼のような形相をしたスティングが諦め顔のオルガを従えて

此方へ向かってくるのが見えた。


「ケ〜ン〜カ〜はど〜こ〜だ〜!!」


「うおっ、なんつー顔!!クロト、てめどーすんだよ!

今更『嘘ですぅ』なんて言えンの!?殺されんぞ!!」

「ぼ、僕知〜らぁな〜いっと!」

「ざけんな!!こうなりゃお前も道連れだぁっ〜〜〜!!」

「道連れ・・・?」


逃げようとするクロトにつかみかかるアウル。

ステラはそんな二人のやり取りに小首をかしげた。


「・・・・ステラは離れていなよ。被害受けるから」


シャニはそう言うと彼女を二人から離した。






「・・・・で俺たちを引っ張り出すために騒いだって?」


オルガはこめかみをぴくぴくさせながら交互にアウルとクロトを見やった。

げんこつを喰らった二人は部屋の中央で正座させられていた。

あのあと騒ぎを聞きつけた教師達も加わり、6人はこっぴどく叱られた。

スティングとオルガがひたすら謝ってようやく許してくれたのだ。

ちなみにスティングはまだ院長室だった。

オルガは二人を前に自分の胃がきりきり痛むのを感じていた。




10歳で胃炎持ちになりたくねぇ・・・。

というか俺たちもう10歳の領域じゃねー。

この間なんか中学生に間違えられたんだぜ。

俺はそんなに老けてるってかっ!?

まったく・・・・。

このまんま若年寄りかよ。

20代になったら俺ぁどうなってんだよ?


考えているうちにオルガはどんどんふさぎ込んでいった。

そんな彼の前の悪ガキ二人は彼の心中など知るよしもなく、

互いをこづきあっていた。




「もう好いですよ、スティング。あなたが悪いわけではないですからね。

子供は元気すぎる方がいいのですから」

「そうですよ」


ロドニア孤児院のマルキオ院長はそう言って微笑んだ。

その隣で副院長のカリダ・ヤマトが微笑んでいる。

マルキオ院長は目が悪かったため、カリダが彼の目であり、手足である。

カリダは幼少時マルキオに育てられたため。、彼らは親子同然であった。

そんな彼らはスティング達の実親同然であり、一番の理解者だ。

彼らの前だけ、スティングは甘える。

だが今日はそんな素振りを見せなかった。

院長室に来客がいたためである。


「あ〜、もう。だめだめです、そんなにあまやかしては」

「アズラエル様」


歳は20代後半くらいであろうか。

七三できちんと分けられた髪にラベンダー色のスーツ。

口元に皮肉げな笑み、青い瞳に強い意志の光を湛えたいた。

スーツの趣味はともかく、頭の切れそうな人だとスティングは感じた。

そんな彼を物色するようにじろじろと見るとアズラエルはにやりと笑った。


「君は優秀なのにそんなお荷物を抱えて大変ですねぇ」


その言葉にスティングはかちんと来て、思わず反論した。


「俺はお荷物だと思ったことはないです。

あいつらは元気すぎるだけで、頭もいいし。

仲良く助け合ってきた。

アイツらがいたから今の俺がいる。

大事なんです。

初対面のあなたにそんな事を言われるすじあいはない」


スティングは一息にそこまで言ってのけると、口を閉ざし、アズラエルを

睨んだ。

だが、彼の鋭い眼光に動じた様子もなく、アズラエルはふっと笑みを浮かべた。


「いやぁ、ますます気に入りましたよ。君も我がアズラエル家にふさわしい」

「・・・?」


彼の言葉の真意がつかめず、ステイングは怪訝そうに彼を見やった。

アズラエルは立ち上がると芝居の掛かった仕草でマルキオの方へに向きなおった。


「マルキオさん。彼も是非アズラエル家に迎え入れたい。

オルガ・サブナックと共に。手続きをしてください」

「・・・!」


顔色の変わったスティングをおもしろそうにみやると

アズラエルは言った。


「これからは君はアズラエル家の養子です。

一週間の猶予を与えますから、心の準備しておいてくださいね」

「俺は・・・」

「なんです」


スティングはうつむくと、声を絞り出すように言った。


「行きたく、ないです。アウルやステラをおいていくなんて、嫌だ」




だがアズラエルはそれは予想範囲だと言わんばかりに笑みを浮かべていた。
















つづく




あとがき

ごめんなさい、後日続きアップします。