俺はスティング・オークレー。
オーブの港町で小さな喫茶店のマスターをやっている。
手の掛かる弟分や妹分と3人暮らしだ。

この弟分たちのせいか俺は年齢より上に見られるらしく、相談事は絶えることはない。
まあ、慣れてっけどな。












After the War
番外編

迷える子羊に愛の手を

                                               スティング
                                     オクレ兄さんの悩み相談室









ケース1
恐妻家の悩み


「ラクスが今度の仕事の締め切り破ったら、ただじゃ置かないって笑ったんだ」


カウンターに突っ伏しながらキラが泣きそうになってぼやく。
にっこり笑って敵をなぎ倒す、無敵な(はずの)スーパー・コーディネーターも
歌姫の前では形なしというワケか。

歌姫、ラクス・クライン。

狂信的な信者?を数多く抱える彼女はにっこりと笑って相手の弱点をえぐってくる。
そういえばキラがフリーダムを大破させたとき。
彼が我に返って真っ先に叫んだセリフは


「どどどどうしよう!!ラクスになんて言おう!?」


だったな。
あのときの怯えようと来たら見ていた俺も可哀想になったくらいだった。
ラクス嬢は大変な想いをしてフリーダムをキラに託したらしいが、
彼をそこまで怯えさせることはないだろうと正直思ったぜ。


にっこりと笑うピンクのお姫様の顔が浮かぶ。


その笑顔の後ろにとてつもない炎が見えるのは俺だけじゃねーはずだ。
あのアウルもシンもこそこそと逃げる。
女ってこえー。


「ああ、どうしよう。締め切り〜」


すまないが、キラ。
あのお姫さん相手では俺ではどうしようもない。
彼女に逆らって勝てるとも無事にすむとも思えないしな。
おれがお前に出来ること。
それは。


「データを出せるんだったら出してくれ。こっちも徹夜で手伝うぜ」
「神様〜〜」






ケースその2 
エリートの恋


「ミリィ〜〜〜」


地球に降り立ったザフトのエリートにして、
イザーク・ジュールの副官、ディアッカ・エルスマン。
お目当てのミリィの姿が見つからずがっくりと肩を落としていた。


「今日も取材だって言っていたからな」
「ミリィのヤツ全然つれないんだよ〜〜〜〜」


腕一杯のバラを抱えてプロポーズしても。
愛のメッセージ入りでもテープを贈っても。
電話でデートに誘っても。


手応え無し(チーン)。


デモテープはともかく、仕事に夢中なミリアリアを射止めるのは難しい。
ここはオーソドックスにラブレターで責めてはと、俺は提案してみた。
手紙ならいつでも読めるし、気持ちも相手に伝わりやすいと思ったからだ。


「グゥレイト〜〜〜。ナイスなアイディアだぜ!!」


大喜びで帰った次の日、ディアッカは鼻息荒げにまたやってきた。
でんっと、カウンターに置かれたのは10数ページはあるかと思われるわら半紙。


「おい・・・・。何なんだよ、この分厚い紙の束は」
「俺とミリィの運命的な出会いからそ愛の軌跡を綴ったラブレターだぜっ」


・・・・誰が読むんだ、こんなモン。
小説じゃねーんだぜ。
ほんっとうに赤服のエリートか、こいつは。



ん?
赤服と言えば他にもいたな。



「きょしぬけぇ〜〜〜〜っ!!」

イザーク・ジュールといい。


「キラキラキラキラキラ〜〜〜〜〜っ!!」

アスラン・ザラといい。


「お前等がいるから〜〜〜〜〜っ!!消えろ消えろ消えろ〜〜〜〜っ!!」

シン・アスカと言い。


「ギルギルギル」

レイ・ザ・バレルと言い。



・・・・・赤服は変わり者の集団か・・・・?



俺は頭が痛くなってきた。







ケースその3
永遠のナンパ師の悩み



「俺ってば実は結構もてちゃうんだよね」
「はあ」


ファンタム・ペイン時代の上官、ネオ・ロアノーク。
今はオーブ軍のパイロット養成を担当する教官だ。
一時期ムウ・フラガとなるか迷ったようだが、結局ネオ・ロアノークとして落ち着いた。
『ネオ』と過ごしてきた俺たちとしてはそれはとても嬉しいのだが・・・・・。


「可愛いパイロット候補生達に教官♪と呼ばれるとさ、胸がこうきゅんとしちゃうんだ」


性格が変わってしまったと感じるには俺だけだろうか・・・・?
前から飄々とはしていたが、なんかえらく軽くなったような感じが否めない。


「それでさマリューのヤツ、デレデレしちゃって!って怒るんだ〜。ヤキモチも可愛いんだけど、
どうにかならないかなぁ?軽いデートにも誘えやしない」

・・・・このおっさんは何を言っているんだ?
これは幻聴か?
空耳か?
あのマリュー艦長がいながら何を言ってやがる?
冗談で言ってるのか、きっとそうだろう。
俺はそう思いこもうとしていた所、
ステラが満面な笑みでこちらへとやってきた。


「ネオ〜」
「おっ、今日も可愛いな」
「うんっ」
「どうだい、今日は暇・・・・」

ネオは何かを言いかけて背後から突き刺さる殺気に気付くとおもむろに口を閉ざした。
冷や汗をダラダラ流しているのが手に取るように分かる。
殺気をたどると後ろでアウルがニコニコと接客をしていた。
・・・・接客をされている客が表情をこわばらせている。
命が惜しければ、冗談でもステラをナンパするのはやめた方が良いと思うぜ、ネオ。


「・・・・ま、その話は置いておいて」


気を取り直してネオはこほんと咳払いを一つ。


「・・・・マリューのヤキモチもアウルのヤキモチもなんとかならんものかなぁ」


・・・・この野郎、まだ言うか。


「・・・・コーヒーできました」


俺はその問いに答えず、何食わぬ顔で頼まれたブレンドを彼の前に置いた。


「おおっ、さんきゅー」
「・・・・・」

ずずーーとすすったその瞬間。

ネオ・ロアノークの絶叫が店内に響き渡った。
コーヒーに入れたタバスコ一瓶がよほど効いたらしい。
とりあえずろくな事を言わないその口に制裁を。
このことはマリュー艦長に報告してよーく言い含めてもらおう。




・・・・俺の胃の穴を増やすんじゃねぇ。






ケースその4 
馬鹿2人


「なあ、聞いてくれよ。後輩から手作りお菓子とラブレターもらったんだ」
「そりゃあよかったな」


ニヘラニヘラと締まらない笑顔でランチセットをつっつくシン。
こいつは本当にエースパイロットなのかと疑いたくなるような崩れっぷり。
まあ、俺の上司だったネオも軍人としてアレだったからな。
出会った当初目を疑った。
怪しい仮面に軍人とは思えない言動。
俺のイメージしていた軍人像とはまるで違っていた。
軍人像としてはリー艦長が俺のイメージに近い。
あのリー艦長は退官したと聞いているが、今はどうしているだろうか?


「でもさ、ルナのヤツ。それ見たら不機嫌になってさー」
「そりゃあ、他の女からもらっていたら嬉しくねーだろーよ」


アウルの馬鹿が余計な口を挟んできた。


「なんだよ、女客に愛想振りまいてばかりいるお前に言われたくないね!!」
「ばーか!!お客様は神様だって言うだろ!!」
「じゃあ俺は客だ!!敬え!!」
「おまーはハエでじゅーぶんだっつーの。気安くステラに話しかけるなよなっ!!」
「ンだと、青カビ!!」
「黒ゴキ!!」


ああいえばこういう。
アウルは普段客の前では大人しいが、シンだけは別だ。
にやにや笑いながらちょっかいをかけてきて、
シンも大人げなく応じてくるからとたんに騒がしくなる。
まさしく仲が良いほど何とやら、だ。


「この話には続きがあってなぁールナのヤツ、クッキー作ってくれたんだぜ!
それが大分進歩していてちゃんと食えたンだっ!!どーだ、羨ましいだろう!」
「ステラなんか、いつも特製ブレンドティー作ってくれンだぜ!
おかげで今年の夏も夏バテ知らずだ!いーだろ!!」


今度は彼女自慢か。
いー加減にしてくれ。
店の客の視線を痛いほど感じながら俺は深く溜め息をつく。






まあ。これはほんの一部分だがな。
悩み相談にしちゃあ、それほど役に立っていないのかもしれねー(それよかどう役に立てるっていうんだよ)

誰か俺の悩みも聞いてくれ・・・・・。

















あとがき


兄さんの悩み相談室(?)でした。
個性的な面々で兄さんの悩みはつきません。