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本日はふぁんたむ・ぺいんの定休日。 
      ステラはアウルと街へデートに行く予定となっていた。毎日が忙しく、こんな日でないとなかなか二人でゆっくりと過ごすことが出来ない。そう思うと自然と身支度に力が入る。 
       
      アウルに綺麗な自分を見てもらいたい。 
喜んで欲しい。 
       
      そんな女性らしい想いが彼女を動かしていた。 
そしてまた彼のことを想う時間がまた楽しい。 
一昔まで考えられなかった自分を見つけることの出来たこの2年間。 
ガンダム強奪から始まり、戦争。 
シンとの出会い。 
新しい仲間や友人達。 
戦争終結。 
そして今の自分。 
      ステラは変わってゆく自分にとまどいながらも受け入れていき、明日はどんな自分かと期待するのだった。 
 
 
 
「おーい、ステラぁ〜。準備は出来たぁ?」 
 
      自分の部屋の扉を叩く音共にアウルの声がする。ステラは待ち望んでいた彼の声に心なしか弾んだ声で扉越しに答えると駆け寄って扉を開けるとはカットソーにジーンズのアウルがピンクのバラを抱えて立っていた。涼しげな色合いのコーディネイトに少しはだけた胸元には銀色のペンダントが覗いている。 
 
「・・・お花?」 
 
      アウルから花を受け取りながら、何故花なのかとステラが彼を見上げるとアウルは照れくさそうに鼻のてっぺんを掻いた。 
 
「ん。デートには花がつきもんだってレイ・ザ・バリルが言ってたし」 
「バレル、だろ」 
 
      ちょうど廊下に出てきたスティングがすかさず突っ込みを入れるとアウルはどっちだっていーじゃんと肩をすくめた。慣れないことをして照れているアウルがとても愛しくてステラは花束を抱きしめると頬を寄せる。ほのかな甘い香り。アウルの優しさ。彼に愛されているという幸福に彼女は胸がいっぱいになるのだった。。 
 
「スティングは今日どーすんの?」 
 
アウルの問いにスティングは少し考えて答えた。 
 
「ああ。新刊とかも出る頃だし、盆栽の手入れをしてから本屋とか廻ろうかと考えている」 
「ボンサイ?」 
 
何じゃそりゃと言う顔のアウルにスティングはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせた。 
 
「ボンサイというのはな、ニホンという島国から伝わる園芸だ。良いぞぉ、その優れた造形の美。手入れの仕方でどんな形にも変わり、その生命力に溢れた姿は感動さえ呼ぶ!もともとその発祥は・・」 
「・・いや、あのさ、俺らこれから出かけンだけど」 
 
      ほっとけばそのまま延々と語っていそうなスティングをアウルは片手をあげて制すると、スティングはまだ冒頭だぞ、と不満そうな顔をした。だがアウルは敢えてそれを無視すると、ステラの手を取って微笑んだ。 
 
「行こうか、ステラ?」 
「うん。お花、ありがとう・・。嬉しい・・・」 
「そっか。選んだ甲斐あったな」 
 
      花を抱えて幸せそうに微笑むステラにアウル自身も幸せを感じ、笑みを深くした。 
       
       
       
      「今日の予定は水族館行って水上バスで街を一巡りで良い?」 
      「うんっ」 
       
      しっかりとアウルの腕に自分の腕を絡めてステラは嬉しそうに頷いた。アウルはそんな彼女を愛しくてたまらないように蒼い瞳細めて見やっているとふとステラの口元に気付く。 
       
      「口紅つけてんの?」 
      「うん・・どうかな・・?」 
       
      気付いてくれたことに嬉しさ半分、不安半分で見上げるステラにアウルは笑みを浮かべた。 
       
      「かわいーよ、うん。よく似合ってる」 
      「あ、ありがと・・・」 
       
      嬉しそうに頬を染める少女がとても愛しくて、アウルは彼女を抱き寄せると軽く口づけた。甘い感覚にもっと深く口づけたい衝動に駆られたが、道ばたということもあり、名残惜しげに唇を離す。そして自分の口元に手をやると、何かを思い出したように笑った。 
       
      「そういやぁ、昔口元に口紅を付けたままのところをネオやスティングに見つかって散々からかわれたっけ」 
      「え・・?」 
       
      話がつかめないでいるステラにアウルが昔彼女に口紅を付けてあげたことを話すと彼女は懐かしそうに遠くを見た。 
       
      「うん。アウル上手だったね」 
      「お前、まるでピエロみたいでさ・・。ぷっくくく・・」 
       
      ネオにもらった、ルージュの一式。その化粧品で慣れないことをして大失敗をし、アウルに大笑いされたステラ。たらこ唇みたいな唇で泣きそうだったステラ。当時のステラのことがアウルの脳裏に鮮やかによみがえる。アウルはそんな日々を懐かしく想いながらも笑いをこらえられない。ステラはそんな水色の少年の背中をドンと叩くとふくれて見せた。 
       
      「アウルのばかっ!!」 
      「あ〜、ごめん、ごめん。そう怒るなって、お姫様」 
       
      アウルは謝りながらもピンク色の唇をとがらせて拗ねる少女がとても可愛くて、彼女を再び抱き寄せた。 
       
       
       
      最近出来たばかりだというその水族館の目玉は全長22メートルの海底トンネルである。シロクマやペンギンと言った動物たちに迎えられ、アクアチューブという約20メートルの水中エスカレーターで下を降りてゆく。エスカレーターの周辺の周囲は淡い光に照らされ、彩りの魚を周囲を横切ってゆく様にまるで海中を散歩しているかのような錯覚にとらわれる。その光景にステラは我を忘れ、うっとりと魅入っていた。22メートルという距離のあと、目の前に広がったのは360度の海中パノラマ。あらゆる方向で
      色とりどりの魚がゆらゆらと揺れて、時折魚の群れが通り過ぎてゆく。 そしてさらにぼんやりとした淡い光が幻想的に辺りを照らしだしていた。 
       
      「綺麗・・・」 
      「ん・・」 
       
      想像も出来なかった光景に圧倒され、ステラは息を呑む。その隣でアウルもアビスの中で見たのと変わらぬ光景が目の前で広がっていることに驚きを隠せずにいた。そしてステラにいつかアビスに乗せてやるって言い・・未だ果たせずにいることを思い出す。 
       
      「ステラ・・・前アビスに乗せてやるって言ったよなぁ、僕」 
      「え・・?う、うん。それが・・どうしたの、アウル?」 
       
      ステラは桜色の瞳を瞬かせ、水中パノラマに目を向けたままのアウルを見やる。 
       
      「まだ・・乗せてなかったよな」 
       
      アウルは彼女を直視できず、蒼い瞳を水槽に向けたままだ。 
       
      いつか、アビスに乗せてやる。 
      だからそれまで互いに生き延びよう。 
       
      ずっと一緒にいたいという気持を告げるにもあのときはその言葉が精一杯だった。明日もしれぬ我が身。それでも何があっても彼女を守るつもりだったのたけれど、その想いを告げられるほどあのときの彼は強くなかったから。ステラから拒絶されるかもしれない。その言葉は果たせないかもしれない。そして何よりも。自分が彼女を求めて止まないことを知られるのが。とても怖かったから。今でも、なおその恐怖は心に残っている。約束を果たせなかった自分をステラはどうおもう? 
       
      「一緒に海の中、見れたから良いの。」 
       
      だが、そんなアウルにステラは幸せそうに微笑んで彼の腕に頬を寄せた。見上げるとアウルの蒼い瞳とぶつかる。不安の光を宿す、蒼い瞳。まだ拒絶を恐れる幼いアウルの影を宿す、哀しい海の色。 
       
      「何が怖いの? 
      何を寂しがるの? 
      ステラはここにいるよ? 
      アウルの側にいるよ? 
      約束したじゃない、一緒にいるって」 
       
      不安げに揺れる瞳にステラは微笑む。紅い瞳がまっすぐにアウルを映し出す。 
       
      「一緒にいろって、アウル言った。その後」 
       
      忘れたって、言わせないから。 
       
      桜色の唇が紡いだその言葉にアウルは目を見開いた。 
       
      彼が本当に伝えたかったことを。 
      彼の想いをステラは覚えていてくれた。 
       
      自分の素直じゃない想いを受け止めてくれていたステラに不覚にも泣きそうになる。その気持ちを素直に出すのが格好悪く思えてアウル必死にこらえて息を吐く。 
       
       
       
      「ん・・。忘れるわけ、ないじゃん」 
       
      長い長い沈黙のあと。 
      やっと出せた言葉は少し震えていて、それをステラに悟られまいかとまたもや不安に思って彼女を見やったが、 
      その気持ちを知ってか知らずか。ステラは変わらぬ微笑みを浮かべて彼を見上げていた。 
       
      「いこっか。まだ先は長いらしいぜ?」 
      「うんっ!」 
       
      大切なステラ。 
      愛しいステラ。 
      愛してる、と言う言葉よりも言えなかった言葉。 
      ずっと言えなかった言葉。 
      君をずっと守るって言ったら君はどうする? 
      今なら言える。 
      なぜなら君はきっと受け入れてくれるだろうから。 
      抱きしめてくれるだろうから。 
       
       
      優しいアウル。 
      意地悪なアウル。 
      怖いアウル。 
      そしてさびしがり屋で甘えん坊なアウル。 
      どのアウルも大好き。 
      守ってくれると口にしなくても 
      今のステラは分かる。 
      いつだって守っていてくれた事を。 
      そしてこれからも守ってくれることも。 
      でもね。 
      アウルは守るって頑張らなくても良いの。 
      強いアウルでなくても良いの。 
      ステラがアウルを守る、から。 
      わがまま言うと、 
      弱いアウルはステラの前だけにして欲しい。 
      ステラだけに独り占めさせて? 
      大好き、アウル。 
       
      アウルが笑うとステラも笑う。 
      ステラが微笑むとアウルもまた微笑む。 
      数多の寄り道をしてきた彼らの心の旅の行き着く先は互いの所にあった。手を伸ばせば届いていた距離。一人は恐れて伸ばせずにいて。一人は伸ばす術を知らなかった。長い回り道を経てようやくつながった二つの手。お互い決して離すまいと堅く。そして強く握られていた。 
       
       
       
       
       
      あとがき 
       
      アウステデートの番外編のつもりが、なぜか・・・。あれれ?テーマが彼らの心の旅となってしまったので、スティング不在でもAfter the War
      本編になりました。このシリーズ、ファンタム・ぺいんの3人が主役で各キャラの心の旅(えらそう・・)が大きなテーマとなってましたので此方の分類になりました。カフェはあくまで舞台ですので(汗) 
      でも甘々のはずが・・。すみませんっ! 
      なかなかバカップルになってくれない二人・・。でもこの回を書いたからこれからは書けるようになるかも・・・。たぶん(弱気) |