アウルがめっさ黒いです。
それでも好い、と言う人はどうぞ。























俺らの世界は次のモノで出来ている。


僕。

ステラ。

スティング。

・・そしてネオ。

このたった4人で出来ているンだ。






9. 狭い世界









俺らは最初は一人だった。

ロドニアの研究所で生き残るべく、毎日戦い、過酷な実験や訓練に耐えてきた。

無差別に行われる殺し合い。

毎日のように変わる顔ぶれ。

昨日見た顔は今日はいない、といのはざらで。

また生き残ったとしても、いつ何処で殺し合うことになるか分からない。

昨日の味方は今日の敵という状況なんて当たり前。

そのうち名前どころか顔さえも覚えるのもおっくうと感じるようになった。

そんなとき訪れた変化。

一定のレベルを超えた者は無差別な殺し合いから次のステージへと移された。

異なった特性の3人がチームを組んで生き残りをかける。

そんなゲーム。

一人は状況や空間判断能力に。

一人は射撃に。

一人は接近戦に。

それぞれに優れた者がチームを組む。

一人でも欠けた場合は即処分、というふざけた名目で

次の段階がスタートした。

これは3人一体が作戦上効率が一番好いからだと後で聞いたけど、

僕にはどうでも好いことだった。

あとの二人を踏み台にしてでも生き残る。

・・それだけだった。



そして引き合わされた僕のチームメイトは男と女が一人ずつだった。

黄緑色の角刈りに鋭い瞳。

歳は僕より一つだけ上で名前をスティング。

もう一人は金髪にぼんやりとした菫色の大きな瞳。

歳は僕より1,2下らしく、名前をステラ。




スティングというヤツはともかく、ステラというヤツはぼんやりとして

しかも女。

一人でも欠けたらアウトだというのに冗談じゃないとその時思った。

何度か抗議はしたものの、本決まりで変更はないと研究者どもは冷たく言い放った。

腹立たしく思っても上には逆らえない。

生きたければこいつも生き残らさなければない。

それにこいつの利用方法はいくらでもある。

好い鬱憤晴らしだと思うと少し気が晴れた。



だが思ってた以上にこいつ・・ステラは強かった。

いつもは夢の中の住人のくせに戦闘となると別人のように強かった。

一瞬にして敵陣の中心に飛び込むと舞うように相手を切り裂いていった。

白刃がきらめくたびに血しぶきが飛び散る。

その血潮をあびて舞うステラは何ともいえないほど綺麗だった。


ところがそれ以外のステラはてんで人形のようだった。

いつも焦点の合わない瞳を虚空に彷徨わせている。

まるで世界に自分以外はいないと思っているようで僕は無性に

腹立たしかった。





そんなある日。

僕はスティングのいない時間を見計らってステラを犯した。

その時初めてステラは僕を見た。

ただ映すのではなく、意志ある光の宿る瞳で見たんだ。

だけど、ステラは泣き叫びもせず、唇から漏れたのは生理的な喘ぎ声。

あとで告げ口されて面倒なことになるな、と思ったけど、結局

ステラは何も言わなかったみたいだった。

安堵すると共に何ともいえない嬉しさがこみ上げた。



ーーアイツは初めて僕を見た。



自分の存在が認識されたのだと思うと、僕は歯止めがきかなくなった。

それからの僕はスティングの目の届かないところでアイツを犯した。

何度も何度も。

でもステラは。

余計なことは言わない。

余計なこともしない。

当時の僕にとってステラは格好なおもちゃだったんだ。



そんな日々に転機が訪れたのはいつだったっけ。


チームを組んで大分日数が立った時。

この日は中間地点だったらしく、7チームが廃墟を舞台に数日に渡る殺し合いをすることになった。



野外を舞台としたサバイバル。


生き残れるのはたった1チーム。


初めての大舞台に僕はわくわくした。


初めの数日は順調だった。

スティングの作戦指揮によって僕とステラは瞬く間に2チームを屠った。

スティングはえらそうなヤツだったけど、状況指揮判断判断についてはこちらが

異を唱える隙もないほで、オマケに戦闘能力も高い。

俊敏さや身軽さは僕やステラに劣ってはいたけど、十分だった。

不本意だが、幾度となくフォローもされた。

戦闘時だけではなく、非戦闘時にも。

こいつほど自分の身を安心して任せられるヤツはそういない。

そしてどれだけ精神的にも救われたか。

僕をこづいたり、怒ったり。

でもそれが何故かとても優しいんだ。

口が裂けても言わないけど。


もしかしたら「父親」ってこんな感じだったのだろうか?


そしてステラは安心して背中を任せられた。

僕とステラの関係は相変わらずだったけど。

僕を責めるわけでもなく、肯定するわけでもなく。

でもいつのまにかアイツの温もりを求めて抱くようになった。



スティングとステラ。

一人だったはずの僕の世界に徐々に変化の兆しが見えて来ていた。





そしてサバイバルが終盤に来た頃だった。

俺らは泉の近くで小休止を取っていた。


「さっきの銃声でもう1チームが消えた。のこりは俺たちを含む3チーム」


鋭い瞳をさらに細めてスティングがそう言った。


「ンじゃ楽勝じゃね?1チームずつつぶしてこーぜ」


僕はいい加減サバイバルに飽きてきていて、さっさと片づけて終わらせたかった。

残りの2チームとは既に相まみえている。

倒しこそはしなかったけど(その代わり他のチームをつぶした)、てんで弱くて僕には物足りないくらい。

もうこれ以上のスリルは望めそうになかった。


「・・そうとも言えねぇ」

「何でだよ?俺らが残りの奴らに遅れを取るとでも?」


スティングの神妙そうな言葉を僕は鼻で笑い飛ばした。

でけぇ図体して肝っ玉がちいせぇー。ついてのかよ、と思った矢先。

此方を包む複数の殺気に気がついた。

スティングもステラも同様だった。

微動だにせず、眼球だけを動かし、辺りをうかがう。

ひとつ、ふたつ・・みっつ・・よっつ・・。

少なくともその気配は4つ以上。

緊張が俺らの間に走る。


スティングの言わんとしたことが今分かった。

残りの奴らが手を組んで俺らをつぶしにかかったんだ。


「・・おもしれぇ。やってやろうじゃん?」


馬鹿は馬鹿らしく頭を使ったらしい。

少しは楽しめそうだとわくわくしてきた。


「南の40度に気配が2つある。とりあえず、2手に別れてお前とステラはこの泉を右から

孤を描くように回り込め。俺は反対側から。小さく、最短距離で、合流は5分後。

3人で円を狭めるように追い込んで、時間差でつぶす」

「りょーかい」

「分かった」



そう言うと俺らは奴らが行動するより早く2手に散った。

奴らの動揺する気配にほくそえむ。

付け焼き刃程度のチームワークなんざたかがしれている。

でも少しは楽しませてよね?

これはゲームなんだからさ。


「・・・・!!」


スティングの言葉通り、二人組がいて僕に気付くと慌てて銃をぶっ放してきた。

もちろんこれは予想通りで

僕はただのおとり。

軽くかわすと時間差でステラのはなったナイフが相手の眉間に突き刺さった。

そしてすぐにその後ろからスティングが残りの頭を打ち抜いた。

あっさり二人が片つく。

残り4人。


そのうちの3人は連携を崩されたと見たのか混乱していて

あっさり片ついた。

やはり急ごしらえのチームワークじゃだめか。

残りは一人。逃げたのか気配がない。

でも勝敗は確定だ。

残っても処分は免れない。

3人一組での生き残りだから。


勝敗はあっさりつきそうで、思った以上に手応えがなく、溜め息がこぼれた。



流石に暗くなって久しぶりの大休止。スティングとステラは仮眠で僕は見張りだった。

気配を感じ、身構えると一つの人影が飛び込んできた。

月明かりに照らし出されて見てみるとなんと女。

ステラの他にも女がいたとは驚きだった。

髪をむちゃくちゃ短く切っていて野郎みたいだったけど。

ナイフさばきはなかなかだったけど、ステラほどじゃない。

僕もナイフを抜き、向き合った。


「名前、きいといてやるよ」

「言う気はない」

「あっそ」


言葉少なげだったけど、その女から発せられる殺気はただ事じゃなかった。

歯を食いしばって憎しみのこもった瞳で僕を見る。

何かをした覚えはないのに。なんかしたらそいつはとっくに死んでいる。


「どっかであったっけ」

「だまれ。よくもステラを汚したね・・!!」


その女食いしばった歯の間から漏れた言葉に僕は驚愕した。


「・・・あんた、ステラの何?」


だけど女は答えずおもむろにナイフを投げた。

一瞬だけど反応が遅れた。

慌ててたたき落とすも、女がもう一本を抜きはなって僕に肉薄した。

殺られる?と思ったその瞬間。

僕の予想に反して女はそのままそのまんま倒れ込んだ。

女の背中にはナイフがぶかぶかと突き刺さったナイフ。

投げられた方向を見ると見慣れた金髪。


「ステラ・・」


そうつぶやくと女は息絶えた。


「・・大丈夫?」


そう言いながら上着を羽織ったまんまの姿で歩み寄ってくる。

女の死体に目をやったまま僕は問うた。


「いいのかよ。こいつ知り合いだったんだろ?」


「うん。ナイフの使い方教えてくれた人」


こっくりと頷くステラ。


「・・どうして。僕が憎くないの?」

「ううん。アウルがいなくなるのは嫌。一緒だったんだもの」


それに、とステラは付け加える。


「・・どうして、アウルを憎むの?アウル一人でいたくないみたいだから一緒にいたんだよ・・・」


珍しく多弁なステラ。

僕の気持ちが分かるの?

「・・馬鹿言ってンじゃねぇよ。馬鹿のくせに」

「・・ごめんなさい」


悪いけど喜べない。

だってお前のソレは同情だろう?

僕が欲しいのはもっと別なモノだから。

でもお前は僕の『心』を聞いてくれた。

理解してくれていなくても。

今はそれでも好い。




「てめぇが悪いのに謝らせてどうする」

「てっ!!スティング!!」


後ろからげんこつを喰らって振り返ると銃を片手にスティングがいた。

慌てて起きたのか髪型が爆発していた。

思わず顔がゆるむ。


「すっげーアタマ。何の芸?」

「アホか!頭を直すどころじゃなかったんだよ!!」

「・・スティング知ってたのかよ?ステラとのこと」

「・・ああ。殴ろうと思ったんだけどよ。ステラも何にも言わねぇ。だから俺もとやかく言えねえ。

・・でもお前俺ら3人なんだぜ?何のための3人だよ」

「生き残るためだよ?」

言いたいことは分かってるけど、僕は素直に言葉に出来ない。

僕の中にいるヤツが勝手に僕の言葉をねじ曲げてしまう。


「それだけじゃねえんだよ、この大馬鹿野郎!!いつお前らが壊れるか。いなくなるんじゃねえかって・・」


そればっかだ。

とスティングは言った。

暗くて分からなかったけど泣いているように思えた。

知らなかった。

『母さん』のほかに僕を受け止めてくれる人がいるんだって。

知らなかった。

僕のために泣いてくれる人がいるなんて。

知らなかった。

僕の『存在』を必要としてくれる人がいたなんて。


ああ、そうか。

もう僕は一人じゃない。

『3人』なんだ。

『母さん』 。

僕、大事なモノ、見つけたよ。




そして部隊配属の日。


「俺はネオ・ロアノーク大佐。大佐はいらん。ネオ、でいい」

「おっさん、その仮面は何だよ?はずせないほど不細工なワケ?」

「おっさんじゃない!!」



最初はただのヘンタイかと思ったけれど、ネオは俺らを

モノとしてではなく、『人間』として受け入れてくれた。

そしてネオの『子供』扱いも。

たまに腹が立つけど、それがとてもくすぐったい。


部隊配属後しばらくして僕の世界は『3人』から『4人』になった。


たった4人という狭い世界だけど。

他に何もいらないから。

ステラがいて。

スティングがいて。

変だけど、ネオがいて。

僕はそれだけで十分幸せだから。










後書き


長くなった上、何を書きたかったのか・・。
アウル達はこの4人で十分幸せ。
4人いるだけで好い。
・・でも4人のうち誰一人欠けては、だめというわけで。