「これな〜んだ」

 唐突にテーブル越しから差し出された一枚の紙切れをカヲルはけげんそうに見やった。大きく切り分けられたスイカの向こうで は自分と同じ紅い大きな瞳が悪戯っぽく輝いていた。
































One and Only

第5話































一つの、
  

   きっかけ
       
    

































 
 雨季が明け、夏も本格的な暑さを迎える頃になって、
ようやくレイの母、ユニが長い取材旅行から戻ってきた。抱えきれないほど沢山のおみやげの一つにこの紙切れがあったのだ。

『ネルフ・第3新東京市共催。アクアミュージィアム。 グランドオープニング式典ペアご招待券』

 その紙切れには大きくそう記されていた。



「水族館?」
「そ。海沿いに新しくできたのよ。正確にはテーマパークの中の アトラクションの一つなんだけどね。テーマパークの新しい目玉で、そのグランドオープニングセレモニーがあるの。 オープン前に取材で言ったんだけど、凄く素敵なところだったわよ」


 自分の顔ほどもある、大きなスイカにかぶりつきながらレイの母は説明する。 その豪快な姿を見てカヲルはレイの食い意地はまちがいなく彼女の遺伝だな、 と妙な感想を抱いていた。


「カヲル」
「え?」


 半ば呆れながら頬杖を着いてレイの母を見ていたカヲルは唐突に話題をふられて慌てた。レイと彼女が知ったら双方からラリアットをくらいそうなことを 考えていたことがばれたのかと、内心ヒヤヒヤしていたが、幸い、レイの母はカヲルの頭の中身を読む能力はなかったらしく、彼の狼狽振りに珍しいものを見た、という顔をしただけで話を続けた。


「今回ごく限られた招待客のみだからプライベートビーチなんて 貸し切り状態よ、きっと。2枚あるからレイと行ってらっしゃいな」
「何が?」
「レイ誘って行って来なよと言ったの。私まだ仕事残ってるしさ」


 レイと同じ顔、だがレイと違ってニコニコと笑顔を見せるユニにカヲルはたじろいだ。追い討ちをかけるように家政婦のはるも台所の奥から勧めてきた。


「レイさん喜びますよ。水族館がお好きなようですから」
「う・・・」


 カヲルはチケットと彼女たちを交互に見やりながら、
困ったようにうめいた。
 二人の気持ちは嬉しいとは思うのだが 、レイをさそうのは何となく照れくさいし、恥ずかしかった。いつも2Aのメンツで行動することが多く、 二人きりで出かけるなんて本当に久しぶりで。

-----どう誘うか、悩みの種だった。

 ユニは何も言わないが、このチケットはきっとプレミアものなのだろう。チケットに記載されていた遊園地は県内でも有名な後楽園地でチケットを取るにも苦労するのだ。しかも今回招待客のみ、という特別な条件もついていた。

 ユニの苦労と、彼女らの気持ちを無駄にしたくない。


「・・・分かったよ。行くよ」


 降参したカヲルが了承の意を示してうなずいてみせたとたん、ぱああ〜〜〜という擬音がついてきそうな笑顔を見せる女性陣に少なからず測られたか、とカヲルは思わずにはいられなかった。


「・・・ん?」

 改めてチケットの記載事項に目を通しているとある一つの文章にカヲルは固まった。よくよくみると招待券の隅に1泊2日とあった。


「あ、それ泊まりがけのイベントだから」



・・・とまりがけ。
それも二人きり、同室。



 にやり、とどこぞのヒゲ面オヤジと同じ笑みを浮かべるユニを前にカヲルは呆然とするしかなかった。

 レイを傷つけたくない、と手を出せないでずっと我慢していた自分を針の筵にでも乗せるつもりなのか、それとも手を出せと言いたいのかこのヒトは・・・・と。

 どっちにも決めかねてカヲルはただ、呆然としていた。














「ル〜ルッルルルッル〜きょ〜もい〜天気〜♪」


 どこかで聴いたことのある歌を歌いながら洗濯物を干すレイ。普段の彼女は冷静そのものだが、明るかった頃の昔の名残なのだろうか、歌うときは別人のように明るくなる。
 カヲルはいつものように彼女の背中を静かに見つめながらその歌に耳を傾けていた。 ただ今日はいつもと違って、片手には昨日の招待券が握られていた。


「レイ」
「マスオさん、なに?」


--------ずる。

 レイの言葉にカヲルはおもわず椅子からずり落ちそうになった。彼女からからこんな台詞を聞くとも夢に思わなかっただけにその言葉は衝撃的で、それでいて密かにうれしかったりしたのは内緒である。

だが、現実ははかなくも、無情であった。


「・・・・冗談よ。本題は、なに?」


 会話の間も洗濯物から目を離そうとしない、愛想のない少女。いつものレイを見てさっきの台詞は形だけかと、落胆したカヲルは 少し拗ねたい気分になる。 ふと手に握られた招待券を思い出し、見つめた。

・・・・いい機会かもしれない。

 このもどかしさから一歩でも抜け出したい。 そう思ったカヲルは招待券を握りしめ、 昨日の話を切り出そうとレイに向き直った。





 これがきっかけとなって、あの日から止まってしまった自分達の時間を再び戻す事が出来たら。



-----ひとつのきっかけとなってくれたら。



 そう、願いながら。



























あとがき


 お久しぶりです、学園パロディ。
前回はいつでしたっけ?
レイの母、ようやくの御登場。オリキャラですみません。
ユイにしなかったのはそれなりの理由がありまして・・・・。
性格も・・・・環境も。
昔、とあるサイトに公開した時、
名前がないのは不自然とご意見いただきましたのでユニ、にしました。
ちょっと変わった名前ですが(笑)

ここまで読んでくださってありがとうございました。