いつからだったんだろうね。
こんなふうに君を想うようになったのは。






















One and Only

第4話
思慕と葛藤の狭間で






















「カヲル・・・・お風呂」


バスタオルで頭をごしごしやりながらレイが開けっ放しだったドアからひょこりと顔を出した。
ベットに仰向けになって天井を見上げていたカヲルは身じろぎをせず、視線だけをレイの方へと向けた。
風呂上りのレイはタンクトップ一枚に短パンといった無防備な姿だった。
短パンから伸びたすらりとした白い脚。
薄いタンクトップから形のいい胸が分かる。
体が熱くなるのを感じ、カヲルは視線を外して再び天井へと向き直った。


「カヲル?」
「・・・・分かってるよ。悪いけど出て行ってくれないか」


苛立ちを隠せずにとげとげしい言葉を投げつけると、カヲルは寝返りを打ってレイに背を向けた。
背中越しにレイの困惑した様子が空気を伝ってくる。
カヲルは苛立っていた。
家政婦も帰り、レイの母親もまだ取材先から戻ってきておらず、カヲルとレイの二人きり。
それも風呂上りの無防備すぎる姿で年頃の男の部屋を訪れるとは。
あまりにも無防備すぎる彼女に男として見られていないのかという悲しみと苛立ちをカヲルは感じていた。
このまま押し倒して行為に及んでやろうかと言う考えが頭を掠めたが、同時に幼い頃の出来事が脳裏に蘇り、そんな彼を押しとどめた。


「怒ってる・・・・?」


レイの心細げな声にカヲルは一つため息をつくと背を向けたまま、先ほどより幾分か口調を和らげた。


「怒っていない。レイが出ていってくれないと着替えられないだろう」
「・・・・分かったわ。ごめんなさい」


カヲルの言葉通り、カヲルはまだ制服姿だった。
レイは言われたとおり部屋を出て行こうと部屋のドアノブに手をかけたとき、

「女の子だろう?その姿で部屋をうろつくのはよくないよ。それに風邪引くよ」

とカヲルの声がかかった。
カヲルのほうを見やるとカヲルは穏やかな顔で彼女を見ていて
声をかけてくれたのがうれしかったレイはかすかに口元をほころばせると静かにうなずき。
今度こそドアを閉めて部屋を出て行った。
レイの姿が見えなくなると、カヲルはまた一つため息をついた。
いつまでこんなもどかしい思いをしなければならないのか。
ずっとこのままでいられる自信は彼にはなかった。
いっそ想いを吐露してしまおうか。
そうしたらどうなるだろうか。
そこで彼は自嘲気味に笑った。
出来るわけがない、それが出来ないで今まで来たのだ。
ずっとずっと心に秘めてきた想い。
けれど、レイの心の奥底に潜む暗い影がその事を告げる事を妨げている。
そしてそれは自分にも影を落としていた。


レイは一般に言う、男性恐怖症だった。

思い出したくもない、あの事件。
幼い頃の事だったけれど、今でも鮮明に記憶に残っている。
そのせいでカヲルやレイの運命を変えてしまったと言っていい。
あの事件以来、レイの男性に対する恐怖はひどいものだった。
同い年の男子さえレイは寄せ付けず、男子ので唯一、カヲルだけの接近を許した。

そして。

あの事件から何年もたち、この第3新東京市に転校してきてその気配も大分薄れていたとはいえ、それはまだ残っている。普通に接する分は問題ないのだが、男性と意識するととたん足がすくんでしまうのだとレイは言った。

最初にその症状に悩まされた相手は碇シンジだった。

従兄でもあり、幾度と無く母に聞かされたユイの息子だと言う事もあり、レイは彼に気を許し。
彼の純粋で優しいところにレイは惹かれていったが、その段階で昔の恐怖が彼女を襲い。
恋、という段階にまで進めなかった。
カヲルとしてはそれはありがたい事だったのだが、そんなレイが哀れでもあった。
自分までもが異性と言う存在となってしまったらレイはどうなるか。
昔の傷が言えていない彼女に耐えられるだろうか。
そう思うと、カヲルはその一歩を踏み出せず。
このままずっと一緒にいられるのならいいかもしれない、と思い込むようにしたもののやはりそれは苦痛でしなかった。



ぱしゃん。
風呂の水が跳ねた。
カヲルは風呂の湯に肩まで浸かると天井を見上げた。
湯煙で視界がぼやける。


「やれやれ」


自分を信じきっているレイに対して一時的にせよ、欲情にかられそうなった自分が少し悔やまれて、普段祈りもしない神に向かってカヲルは懺悔を始めた。


この世に神様がいるのなら、僕は少しだけ懺悔します。
二人きりなのをいい事に、事もあろうに大切な女の子を押し倒そうと考えました。
彼女を守ると言う幼い頃の誓いを破ろうとしたのです。
彼女を守りたい気持ちは変わらないのですが、彼女は誰にも渡したくありません。
僕のものに、したい。


「ばかばかしい」


信じてもいない神に懺悔をする自分が滑稽に思えて途中でそんな懺悔を打ち切ると、
カヲルは浴槽の縁の上に突っ伏した。

「いつまでこんなのが続くんだろう・・・・」

彼はそうぼやくと、レイの母、ユニの帰りを節に願うのだった。












あとがき

まだまだカヲル君には悩んでもらいます(極悪人)
以前のバージョンはちよっと両思いが早いかなぁと思ったので。
今度はレイ側も書いてみたいです。