秋と思い出と君 |
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行きかう人々の髪を揺らす静かな秋風が枯葉を舞いあげる。 厳しい夏はようやく去り、穏やかな秋が訪れた。 木々は暖かみのある色に色づき始め。 少しずつ。 少しずつ。 次の新たな年を迎える準備をしようとようとその装いをおろしてゆく。 その秋の風景の中、カヲルはレイと待ち合わせていた。 第3新東京市の公園の噴水前で10時。 人混みの嫌いなレイを誘うのも一苦労だったが、ようやくデートにこぎ着けたのだ。 服装は黒いインナーにワイシャツ、ジーンズとシンプルに決めている。 張り切りすぎたのか待ち合わせの時間より30分も早くついてしまった。 「のんびり待つとしようか」 好奇心旺盛なカヲル、噴水の前に腰掛け、人間ウォッチングを始めた。 まず最初にお約束の家族連れが横切った。 まだ若い夫婦に小さな姉弟。 小学校低学年くらいの女の子がお姉さんらしく小さな弟の手を引いている。 お出かけが嬉しいのか、小さな弟は辺りをはしゃぎまわるので、 手を引いて歩くのも一苦労のようだった。 そのすぐ後ろで若い夫婦が微笑んでいる。 「話で聞くように子供は一姫二太郎がいいのかな?」 カヲルは自分だったらどうだろうとふと考え、レイとの家庭を想像してみた。 「・・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・」 ・・・・想像もつかなかった。 そもそも自分たちは家庭で育ったことがないのだから。 どこまでも白い建物の中で彼は育った。 レイも同様に殺風景なところで 育ったという。 今では彼らの周りにシンジやミサト、アスカ達がいる。 彼らがいるから大丈夫。 カヲルはいずれはレイと二人で暖かい家庭を作れることを信じてていた。 そう、大丈夫。 そんな気がした。 それに 。 「レイとの子ならどっちでも好いかな・・」 そして二人で子供の手を引いてあるくのだ。 想像すると なんだかとても嬉しくなった。 次に通ったのは犬を連れた老人と孫らしき少年だった。 「ほう。犬の散歩がうまいな、お前は」 「えへへ、そう?」 孫が可愛くてたまらないかのように目を細める老人。 その腰の曲がった老人の隣を少年は犬のひもを引っぱって誇らしげに歩いていく。 真っ白い毛並みの犬もそんな二人に寄り添うように歩いていた。 その老人と孫の姿を懐かしそうに見つめるカヲル。 『タブリス。選ばれし子供よ』 そう言ってカヲルの頭をなでた手を思い出す。 ゼーレの筆頭であったキール。 彼の思想は狂っていたといわれているが、たとえそんな人間だったとしても彼にとっては唯一の身内といえる存在だった。 人ではない彼に『カヲル』という名をくれたのも他ならぬ、彼だった。 誰もが好奇や嫌悪の目で彼を見たが、キールの目だけはあの老人のように暖かった。 ・・・・・だがいつからだろう? そんな瞳が狂気に彩られるように なったのは。 「くうん」 「え?」 手に触れた暖かい感触にカヲルは我に返ると 真っ白い犬と目があった。 「あっ!!ムク、だめだよ!!」 少年が慌てて駆け寄ってくる。カヲルは手を伸ばして白い毛並みに触れた。 「慰めてくれるのかい?有り難う、大丈夫だよ」 「・・・・わん」 ムクと呼ばれた犬は一声ほえるとまた少年の元へ戻っていった。 少年は犬を軽くはたくと、カヲルに向かって声を張り上げた。 「もう!!すみませんでした!!」 「好いよ。気にしないで」 手を振ってこたえるカヲルに老人が歩み寄ってきた。 「お若いの。すまんね」 「いえ」 「誰かを待っとるのかね。おなごかな?」 「はい」 脳裏に想い人の姿が浮かび、カヲルははにかんだ。 「ほっほっほ。それでは邪魔者は消えるとするか」 おかしそうに老人は笑うと、軽くウインクして孫の元へ戻っていった。 以外に茶目っ気のある素振りにカヲルは新鮮な面持ちで老人の背中を見送った。 キールとも冬月とも違う。 初めて見るタイプの老人だった。 その後若いカップルがカヲルの前を通った。 見たところ、カヲル達とそう変わらない。 少女は少年の腕に自分のをしっかりと絡めて幸せそうだ。 少年は照れているのか、ほんのり赤い顔をして口をへの字に曲げていた。 何度か見たことのある光景。真似をしたくて カヲルも何度かレイと腕を組もうとしたが、腕を差し出しても怪訝な顔をされるだけですべて空振りに終わった。 甘い関係とはほど遠い自分達。 カヲルはこの若いカップルを少しうらやましく思った。 カヲルは溜め息をつくと腕時計に目をやった。 10時5分前。 そろそろレイが来る頃だろう。 彼女は時間に正確だから。 ふと視線を感じてカヲルは顔を上げた。 自分と少し離れた斜め向かいに3人の少女がちらちらとこちらを見ている。 見たところ高校生くらいだった。 「?」 みられている?見られる理由が分からない。 不思議に思って自分の後ろの方にも目をやるが、何もない。 「??」 視線を3人組の方に戻すと、彼女たちはやはりこちらを見ていた。 カヲルは首をかしげた。 格好がおかしいのだろうか?アスカからアドバイスをしっかり受けてきた はずのなのに。それとも寝癖がまた残っていたとか? あれこれ考えているうちに彼女たちがこちらに寄ってきた。 「ね、君、一人?」 最初に声をがけてきたのは背が中くらいで少し派手めな子だった。 髪を赤みのかかった金に染め、赤いルージュ。超ミニのスカートからすらりとした足をのぞかせていた。アスカの赤みの入ったの方が自然な色だなとカヲルは思った。人工色と違うのは当たり前なのだが、カヲルは染めるという概念が理解 できていなかった。彼の記憶の中では髪を染めている人間はネルフに約1名いるのだが。 「ねぇ、一人かって聞いてんの」 カヲルが返事をしないので金の髪の少女がいらだたしげにくり返した。 「え?今は一人だけど」 「うそっ。やった!!」 カヲルの言葉を最後まで聞かないで少女達は大喜び。 「ラッキー。こんな美形ゲットだなんて!」 「どこいこうか?」 人の話を聞こうとしない彼女らにカヲルは少し強く語調を強めていったた。 「人を待ってるんだ」 カヲルの言葉にきゃぴきゃぴしていた3人組が一気に静かになった。 「ちょっと。一人だっていったじゃん」 一番背の高い少女が威圧的に座っているカヲルを見下ろした。 だがカヲルはあくまで丁寧な物腰を崩さず答えた。 「今は、と言ったよ?悪いけど人を待っているんだ」 「だってさ、さっきからずっといたじゃん。すっぽかされたんじゃない?」 そう言ったのは一番小柄な女の子。大きなリボンにひらひらの服を着ていた。 「そうだよ。あたし達ときなよ」 「そうそう」 カヲルの言葉を最早聞こうとせず、金髪の子はカヲルの腕を絡め取った。 少女の香水のにおいが鼻についてカヲルは眉をひそめた。 レイは香水は付けないのだ。 彼女は柔らかい香りがするのだが、この子達は・・。それにまだレイとも腕を組んだこともないのに・・・! いい加減腹がたってきたカヲルが腕を振りほどこうとしたとき、 感情のない声が割り込んできた。 「何をしているの?」 「レイ・・」 待ち人の姿にカヲルは安堵の笑みを浮かべた。 レイは白いワンピース姿だった。制服以外のレイの姿にカヲルはほれぼれと魅入った。だが当人のレイは無表情にひた、と 3人の少女を見据えた。 「時間通りだっと思ったけど・・。彼を放して」 「もしかしてあんた、彼女持ち?」 レイの迫力におののきながら金の髪の少女は聞いた。 「そうだよ」 そうなる予定だけど、とカヲルは心の中で付け足した。 「・・・・・・」 無言で歩み寄るレイに道をあける少女達。 腕をとっていた少女もレイの無言の迫力に腕を放した。 「行きましょ」 何事もなかったようにカヲルの裾を引っぱるレイにカヲルは安堵を覚えつつも 少し残念に思った。少しくらい嫉妬をしてもらいたかったのだ。 信用されているのだろうか。 それとも大してそう想われてはいないのか。 そのとき自分の腕にやわらかい物があたった。 「・・・レイ?」 「なに」 しっかりと自分の腕にしがみついて少女達にきつい視線を向けていた レイが顔を上げた。少女達を牽制していたらしい。彼は顔をほころばせた。 「いこうか?」 「ええ」 固まったままの3人組を残して二人はその場を後にした。 いつになくしっかりとカヲルにくっつくレイに彼は照れくさかったが、 枯葉とても嬉しかった。白い頬を紅潮させながらレイを愛しげに 自分の方へと引き寄せる。 「なによ、あれ」 「なんか当て馬っぽくない、あたしたち」 「うるさい!!」 背中越しに聞こえた少女達の声。 経過はどうあれ、彼女たちはきっかけを作ってくれた。 少しは恋人らしくなれたかもしれない。 彼女たちに密かに感謝しながら、 カヲルはレイと公園をあとにした。 初秋の日の出来事だった。 |
あとがき |
久しぶりのカヲレイでした。 レイちゃんのヤキモチ編。 |