綾波日記

〜〜鈍感男には制裁を〜〜





















6月○日




 毎日のように続く雨で、このじめじめとした空気には辟易させられる。 気持ちもどんより、アスカをいじって遊ぶ気にもならなかった。何かいい事はないかしら、と机から窓の外を眺めていると、フィフスが私の元へとやってきた。表情からして深刻そうで いつもの呑気な笑顔がない。


「ファースト、折り入って頼みがあるんだ。君じゃないといけない」

 真剣な表情からしてきっと深刻なのね。 相談を持ちかけられるなんて私も成長したということなのかもしれない。 しかもカヲルから。他の誰でもなく、カヲルから、というのが重要なの。大きな、ポイント。 こんな気の滅入る雨の日でもちょっとはいい事あるかもしれないって思えたわ。


「なに……?」


 ドキドキしながら彼の言葉を待ったわ。 ああ何を言ってくるのだろう。一応私は彼より外の世界を知っている。悩み相談?それともデートのお誘い?そうしたら彼、なんていったと思う?


「シンジ君ちで見た漫才が面白くてね。漫才をやりたいと思ったんだけれど、一人じゃ出来ない」


 漫才。二人で滑稽な問答を中心に演じる寄席演芸の事。

 この台詞を聞いた時点でなんか雲行きが怪しくなった、と思ったわ。 甘い期待が見る間に霧散して行く。同時に激しい憤りが私を支配して行く。けれどカヲルはそんな事に一切気づかない様子で無遠慮に言葉を続けた。


「ここでいい具合に突っ込みをやってくれるのは君しかいないんだ。頼めるかな」
「帰って」
「いや、だから話を最後まで……へぶしっ!!」


 あんまり腹が立ったのでスクリューパンチで黙らせて、教室から放り出したの。 腰のひねりを加えて十分体重を乗せたから、彼は良い具合に気絶していて下校時間まで目を覚まさなかったわ。絶え間ない押し問答は無駄。苦痛以外なんでもないから。教室と廊下が騒がしくなったけれど私はそ知らぬふりをして視線を窓の外へと戻した。

 乙女心のわからない男。彼に少しでも期待した自分の馬鹿さ加減に呆れ、じめじめとした空模様にさらに気分が悪くなった。 あんまり気分が悪いので今日は早めに寝る事にした。














シンジ「夫婦漫才がやりたい、って言いたかったの」
カヲル「ファーストと仲良くやりたいと思ったんだ……なんであんなに怒るのか分からないよ」
ケンスケ「お前さ、夫婦漫才の意味、履き違えているよ」
トウジ「せや」





あとがき

ちょっとしたギャグ。カヲル君の想いは届きませんでした(笑)うちの綾波さん、なにげに黒いところがあるかもしれません。