昔々、アイルランドにジャックというずる賢い男がいた。
彼は魂を取りにきた悪魔をだまし、
彼の魂を絶対に取らないと約束させてしまう。
やがてジャックに寿命が来て
彼の魂が天国に着いたが生前の行いのため入れず。
地獄に行っても魂を取らないと言う生前の約束のため
地獄でも門前払いを食らってしまう。
暗くて延々と続く道を戻らなければならないと
途方にくれたジャックに悪魔は地獄の火の一部を
明かりとして与え。
ジャックは其の炎が消えないように
カブに入れて提灯を作ると、暗い道を歩きだした。
以来ジャックは生前の行いの罰として、カブの提灯を持って
この世とあの世を延々とさまよい続けたという。
「それがカブからかぼちゃに変化して、
カボチャの提灯、Jack-o'-lanternが生まれたんだとさ」
スティングは語り終えると、
窓辺に置かれたかぼちゃのジャックに眼をやった。
目と鼻と大きな口がくり抜かれたかぼちゃからはほのかな明かりが漏れている。
ハロウィンにとスティングたちが共同制作したものだった。
其のかぼちゃをじっと見つめ、アウルはポツリともらす。
「天国にも地獄にも行けず・・・・。宙ぶらりんか・・・・。昔の俺らみたいだな」
「ステラ・・・・達?」
腕の中の赤子をあやしていたステラがすみれ色の瞳を瞬かせアウルを見やると
彼は静かにうなずいた。
「ナチュラルでも・・・・コーディーでもなかったから」
赤子が身じろぎをした。
蒼い髪が揺れ。
ステラと同じすみれ色が不思議そうに彼女を映し出す。
ステラもその瞳を覗き込むとやがてふわりと微笑んだ。
「ステラ、よく分からない。・・・・でも今が好き、だから。
今がいい・・・・」
ナチュラル。
コーディーネーター。
そもそも彼女はじめから其の概念が無かった。
ただ生きたかっただけ。
死にたくなかっただけ。
そして今はこうして生きている。
とても暖かいところで。
「それで、いいの・・・・」
それでいいのではないかと彼女は言う。
「・・・・そっか。そーだよなぁ・・・・」
「・・・・」
はいはいを始めていたもう一方の赤子が
かぼちゃのジャックの元へ行くと
ジィっと其の空洞を覗き込んでいた。
明かりが気に入ったのか。
明かりに触れようと小さなもみじの様な手を伸ばした。
「あっ、コラ!危ないって」
アウルは慌てて赤ん坊の方へと駆け寄ると
其の子供を抱き上げた。
金色の巻き毛がアウルの頬をくすぐる。
やわらかい体温。
そしてミルクの甘い匂い。
「今は今。今がもっと大事ってか。だよなー」
自分の腕の中の存在への愛おしさに
アウルは赤ん坊に頬ずりをした。
すると興味の対象から遠ざけられて不機嫌な顔に
なっていた赤ん坊が喜んで笑い声を上げた。
過去は変えられないけれど。
未来はこれから作っていけるのだ。
自分たちは道を見つけたのだ。
おとぎ話のジャックのようにさまよう事はもう、無い。
自分たちの赤ん坊にすっかり夢中なアウルとステラを見て
スティングもまた幸福をかみ締めるのだった。
ハロウィンにまつわる、アイルランドの伝説。エクステンデットとはどっちつかずのように見えて仕方なかった。ナチュラルだけど、人間扱いされず、ナチュラルとは遠く。そしてコーディネーターでもいない、エクステンデットも戦争の被害者だと思う。そんな彼らに幸せを。
HappyHalloween!!
パロ
魔女と使い魔。
アウステ。
シンルナ。
そしてラスメイ。
10月の31日の夜が更ける頃に行われる、魔法使いや魔女たちの集会。
オーブの隅にあうる古ぼけた家に住む一人の魔女っ子がいそいそとその準備をしておりました。
名はステラ・ルーシェ。
金髪とすみれ色の大きな瞳がとても愛らしい少女です。
先日使ったばかりのお気に入りの蒼いドレスを身に着けようと鏡の前に立った其のとき。
「おいっ!」
自分の足元からがなり声がしました。
ステラは手を止め、自分の足元を見下ろすと
自分を見上げるように座っていたのは蒼いネコ。
大きなマリンブルーが特徴のステラの使い魔です。
魔女の使い魔は黒猫と言うイメージがありますが
黒猫というイメージは。
「今時流行んねー」
らしいです。
ちなみにメイリンと言う少女の使い魔はオレンジ。
ネオと言う魔法使いの使い魔は萌黄。
デュランダルと言う魔法使いは金色です。
さてこの蒼い使い魔は不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、尻尾をいらだたしげに振っています。
ムチのようなしなりを見せる其の長い尻尾は見てるだけでピシリと言う音が聞こえてきそうです。
もちろん見た目だけではなく、威力もなかなかなものだと言う事を
幾度と無く其の尻尾で叩かれてきたステラは良く知っています。
だけどステラにはアウルが不機嫌な理由が分かりません。
「あうる・・・・?なあに・・・・?」
首を傾げて問い返すステラに使い魔のアウルはこめかみをぴくぴくさせました。
「お前な、集会だっつーのに、なんでんなヒラヒラしたモン来て行くんだよ。ジョーシキ疑うぜ、マジで」
「でも・・・・気に入ったの・・・・。アウル、選んでくれたんだし・・・・」
着かけたドレスの前にショボーンとうなだれるステラ。
自分が選んだのを気に入って着て行きたいと言う主人にさすがのアウルもそれ以上強くいえません。
むしろ嬉しくなってしまったくらいです。
ですが、大事な集会に其のドレスで行かせる訳にもいきませんし。
なによりも。
ステラのドレス姿を誰にも見せたくなかったのです。
「アーホ!また別の機会にしろよ!ほらさっさと着替えろよな、遅刻するじゃねーかっ!」
素直にそう言えばいいのに天邪鬼なアウルは其のそぶりを見せまいと声を荒げてしまいます。
案の定、ステラはおびえて縮み上がります。
本当はステラが大好きなくせに。
ああ、素直になれないって哀しい事です。
これだから彼は損ばかりするのです。
「うるせーな!」
本人も分かっているようですが。
「オラ、早くしろ。遅刻するとまたあのジブが嫌味言うぜ。
『君には時間の概念と言うものを知らないのかい?全く感心するねぇ』ってさ」
ジブとは魔女や魔法使いたちの長の一人の事でジブリールと言う名前です。
銀髪に鋭いアイスブルーの瞳。
そして色艶の悪いリップをなぜか愛用している変わり者で、威張って
嫌味ばかり言う嫌われ者です。
当然アウルも彼が大嫌いでしたが、長なので逆らえません。
それが更にアウルのジブに対する嫌悪に拍車をかけていました。
ですが、この世に悪い人はいない、がモットーのステラには其の概念がありません。
嫌味?とつぶやいて大きな瞳を瞬かせます。
「ほめてくれたんだよ・・・・?」
これにはアウルもため息を隠しきれません。
大きくため息をつくと、脱力したように肩を落としました。そしてまた勢いよく顔を上げるとキンキン声でまた怒鳴りました。
「嫌味だっつーの!気づけよ、このボケ!」
「アウル・・・・顔紅いよ・・・・?」
「お前が僕の血圧上げてんだよっ!う”−−−、もういいっ!!それよりさっさと着替えねーと噛むぞ、コラ!」
アウルが全身の毛を逆立て、鋭い歯をカチカチさせるとステラは慌てて着替えを始めました。
いつものんびりモードのステラも本気になれば行動の早い事、早い事。
瞬く間にいつもの黒服姿になりました。
いつもこうなら助かるのに、とアウルはまたもやため息をつきました。
ステラがほうきを引っ張り出してきてそれにまたがると、
アウルもまた軽やかな動作で其の後ろに飛び乗りました。
爪をしっかりとほうきの頭に食い込ませます。
そしてステラに発進するようにあごをしゃくって見せました。
もはやどちらが主人だか分かりません。
「ほら、さっさと行けよ」
「うん。しっかりつかまってて・・・・・?」
ステラの言葉が終わるか終わらないうちにふわりとほうきが宙に舞い上がりました。
そして見る間にスピードが上がって行き。
すごい勢いで町並みが流れ始めました。
が。
「ステラ、てめぇ!逆方向だって!!どこに行くつもりだよ、コラぁっ!!」
「え・・・・・集会、どっちだった・・・・?」
果たしてステラとアウルは無事集会にたどり着けるのでしょうか?
うーん。
私はちょっとと言うか、かなり不安です。
「しょうがねーな」
「ふえ?」
そのとき。
不意に後ろの重力が増したかのようにぐんとほうきの後ろが若干沈んだかと思うと。
ステラの背中に暖かい体温が生まれました。
見上げると顔所を見下ろす、見慣れたマリンブルーと目がいました。
先ほどの蒼い猫の姿は無く、代わりに蒼い髪の少年がほうきの後ろにいました。
少年の姿にステラは彼を待っていたかのように笑顔を輝かせます。
「ったく僕が連れてってやるよ。世話焼かす奴だな」
ぶつくさ文句言いつつも、ステラの笑顔に少年の顔には迷惑そうな表情はありません。
困ったように笑みを浮かべています。
「・・・・うん!」
ニコニコとステラはうなずくと、
姿勢を変え、少年の首に腕を回しました。
あ、お姫様抱っこのような形ですねー。
「お前さー、使い魔の僕にほうき取られてどうするよ?」
そんなステラに少年はあきれたようにまた笑います。
でもステラはニコニコ。
「いいの、アウル、だもん」
「・・・・ばーか」
アウルは其の言葉に白い頬を染めると
ほうきの柄を握り、それをごまかすかのように
前を見据えました。
そう、少年はどうやらあの使い魔の猫のようです。
こういった人間の姿を取れるのも魔力が高い証拠だそうです。
「ほれ行くぞ」
「うん」
少年の操るほうきは大きく弧を描いてUターンをしました。
目指すは集会所。
それまでは二人きりの?空のデートです。
ステラはアウルに回した腕に力をこめると
頬をばら色に染め。
ふわりと笑いました。
さて同時刻もう一人の魔女っ子のところでは。
「な〜〜〜ルナ。本当に行くのかよ」
「何言ってのよ?大事な集会よ?当たり前でしょ?」
漆黒の毛並みに燃える紅の瞳を持つ使い魔のシンは主人であるルナマリアに不満をもらしていました。どうやら集会に行くのがとっても気が進まないようです。けれどルナマリアはそんなシンにお構いなしに着てゆく衣装の品定めをしています。集会で憧れの魔法使い、アスランに逢えるととても嬉しそうに鼻歌さえ歌っています。
それを知っているシンは当然面白くありません。
ますます不機嫌になって行きます。
「集会がどーのこーのよりアスランに逢いたいだけの癖に」
「ん〜〜?なんか言った?」
「・・・・」
ルナマリアは裾の長めの黒服を出すとくるりとひっくり返しました。いつものミニより長めの裾に腰についている大きなリボンがお気に入りです。
「これにしよっかな。・・・・てちょっと!」
背後からにょきっと現れた腕にルナマリアは驚いて声をあげました。
そんな彼女にお構いなしに其の腕はルナマリアを包み。きつくきつく彼女を抱きしめました。
「こぉらっ、シン!あんたまた変身したわね!離しなさい!」
「やだ」
ルナマリアの頭上にふってきたのは聞きなれたトーン。
彼女の顔を覗き込む燃える紅はやはり見慣れたもの。違うのは黒髪の少年の姿であること。ぶっきらぼうに返された声には断固離さない、という強い意思が見えます。
「やだじゃないでしょ!」
「絶っっっ対にい・や・だっ!!!」
ルナマリアの体に巻きついた腕の力は増すばかり。手加減を知らないシンにさすがのルナマリアも慌てました。
「シン、少し緩めてよ」
けれどシンは駄々をこねるように彼女を抱きしめ、燃える瞳で彼女を見据えます。
「いやだっ!ルナは俺のだっ!子供の頃からずっと一緒だったんだ!いきなり現れた奴になんかやんない!!」
なにがなんでも行かせないつもりのようです。
もはや子供です。
ルナマリアはため息をつくとシンの胸に頬を寄せました。
「ばかね。アスランは憧れだけど。好きなのはあんたなんだから」
「・・・・ルナ」
シンが息を呑む気配。
緩んだ腕を解くとルナマリアはシンに腕を回しその胸に顔を埋めました。
シンも抱き返してきて、ルナマリアの頭に頬を寄せたのが分かります。
シンの暖い体温。
静かな心音。
それらの全ては昔からルナマリアを安心させるもの。ルナマリアにとってかけがえの無い存在のシンを無碍に出来ず、彼女は体を離すと観念したといように両手を挙げるとこう言いました。
「しょうがないなぁ。頭が痛いからって欠席にして二人でハロウインパーティーにしよっか?」
「ほんとうかっ?!」
嬉しそうに赤い瞳を輝かせるシン。
先ほどまでの不機嫌さはどこへやら。
上機嫌に瞳をきらきら。
いそいそとパーティの準備を始めるシンの後姿を見やって
ルナマリアは困ったような微笑を浮かべると
手にしていた礼服をクローゼットにしまいこみました。
素直で単純なシン。
そんな彼をルナマリアがこよなく愛している事は彼にはまだ内緒なのです。
「ラスティ〜〜〜おねーちゃん欠席だって」
「あー、絶対サボリだね。なぁ俺たちもサボろーぜ」
「えー、アスランさん来るかもしれないのに」
「・・・・ぜったいに行かせない」
「ちょっとラスティ!?」
夜が更けていきます。
さあ魔女や魔法使いたちのの集会がそろそろ始まりますよー。
と言うわけで今夜はここまで。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
HappyHalloween!