やさしいてのひら



「ん」
 唇を一文字。赤く染まった耳しか見えない、そっぽ向く彼。
 差し出された右の手と、その様子を交互に見ながらルナマリアはくすりと笑みを零 した。
「はいはい」
 そう言って彼女が左手を滑り込ませれば、ふっと力が抜ける彼の右手。視線は相変わらず明後日を向いたままだけれど。
 噛み締めるようにゆっくり、ルナマリアは握る力を強くしていく。同時に笑みを深く し、繋がれた手と手を満足げに見つめるのだ。
 彼の少し高い体温は、少し低いルナマリアの体温にぴったしで、あぁまるで一対の人形みたいだわと思う。彼と彼女はまかり間違っても人間でしかないのだか。

 神様があたしに誂えてくれた人なの、彼は。

 寒い、とマフラーに顔を埋める彼。ぴゅうっと吹いた風に鼻の頭は耳といい勝負。
 彼女は行きましょうと先に歩き出す。引きずられる彼は、それでもはにかんで笑うことを知っているから。

「何食べようか」
「あったかいもん」
「それは当たり前でしょー」

 キャンドルの灯もイルミネーションの暖光も、ふたりのてのひらには敵わない。
 黄昏色の髪を揺らして、ルナマリアはシンの瞳を見上げてつま先立つ。
 彼の頬までもが色づくのは、そのほんの二秒のち。












あとがき

MiSaの燦月様よりいただいてきたフリー小説。
身近な恋にどきどき。
そんなかんじ二人が大好きです。
燦月様、ありがとうございました。

 





top
html : A Moveable Feast