水溜まり、浮かぶ星











「ステラ」
 あの人が呼ぶから、わたしは振り返る。わたしが振り返るとあの人が笑うから、わたしも笑う。
 わたしの何もかもは、そんな風。
 あの人が中心にいた。
 わたしたちは良くも悪くも一対であり、ただお互いにお互いしかおらず。
 寂しさが何かも分からずに身を寄せ合っていたの。ひっそりと。

 どこかに埋もれて生きていけたらよかったね。
 誰に気付かれなくても、ふたりでいられたならそれでよかったね。
 わたしたち、欲しいものがあったわけでも何かを願ったわけでもなかったから。そのまま。
 ただ、生きていけたらよかったの。

 息も凍るあおぞら。
 踏みしめればガラスの欠片の音がして、割れた地面にいくつものわたし。あの人の色、背にして。
 わずかでもぬくもり逃さぬよう、両の手胸に抱きしめる。
「アウル」
 わたしが呼べば、あの人は振り返り、そして笑うの。ただそれだけの幸せ。
 わたしたちの何もかもは、そんな風に。
 天高く流れていく白雲のように、首筋くすぐるように降ってくる粉雪のように。ごく自然に。
 愛しさが何かも分からずにともに生きていこうと誓ったわ。

 欲しかったのは何でもない。一握の光。
 アウルとステラ。
 ぬくもりが欲しいから手を繋いでいたかった。出来ぬまま、わたしは吐息で温める。身を切る空気のなかで。

「ステラ」
 あの人が呼ぶから、わたしはゆくの。どこへだってどこまでだって、ゆくの。
 ふたりが祈らずとも永遠を過ごせる場所に、ゆくの。
 だから。




 ありがとう。
 わたしに明日をくれた、あなた。














あとがき

MiSaの燦月様からいただいてきたフリー小説。
管理人様の書かれるとても切ないけれど、互いを静かに想いあうアウステが大好きです。
不遇に見えたかもしれないけれど、彼らは確かに幸せだったと思えます。
ありがとうございました。

                    

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