桜が舞う。

寒い日が

続いたこともあり、

予定より10日ほど

遅れて桜が開花した。

 

桜。


柔らかい日差しの中で

桜の花びらがちらちらと

舞い落ちる。

時折小さなつむじ風がくるくると花びらを

巻き上げては落とす。

巻き上げては、落とす。

その様子をじっとステラは見つめていた。

 

「なにやってンの?」

 

不意に頭の上に振ってきた声にステラは顔を上げた。

淡い水色が目に飛び込んでくる。

アウルだ。

やわらかい薄紅色の中の淡い水色。

違和感なく溶け込んでて、綺麗とステラはぼんやりと思った。

紅と蒼は互いに相成れないように感じるのに淡い色同士になると調和している。

一緒なのが自然と思えるくらいに。

・・不思議。

元は同じ色なのに。









第3話

空と桜













「何ぼーとしてんだよ?返事くらいしろよなっ」

 

不機嫌そうに顔をしかめるアウルにステラはやっぱりぼんやりと答える。

 

「・・なに?」

「なに、じゃねーだろぉ?ネオが今日花見行くって、昨夜言ってたじゃん。探させんなよ!」

 

アウルの言葉にステラはようやく昨夜の事を思い出した。

 

『ようやく開花宣言も出たことだしー、花見でも行くか?』

 

夕食後の食卓でいつもの面子が食卓でお茶をすすっていたときのこと。

お茶をすすりながらネオが出した提案にアウルは大喜びで身を乗り出した。

 

『やたっ!!弁当持っていこーぜ!!クロト達も誘っていー?』

 

クロトたちも来るって事は必然的にオルガの弁当もついてくるということだ。

やはり花より団子、もとい弁当のアウル。

アウル側の弁当は当然スティングだ。人数が増えるとなると作らなければならない量も増える。

スティングは今から頭が痛かった。

 

『・・お前どうせ手伝う気ねぇだろう』

 

はぁぁと深いため息をつくスティング。

それを見たステラはおずおずと進み出る。

 

『ステラ、手伝うよ?』

『・・!いや、いい。お前の手に傷でもついたらどうする・・!!』

『でも・・ステラやりたい・・』

 

とんでもないと言わんばかりのスティングにステラは残念そうに視線を落とす。

 

『そうですよ、スティングさん。ステラだっていつかお嫁に行くんだし、少しくらい料理させても・・』

 

ステラの隣を陣取っていた(もう片側は当然アウル)シンが拳を握り締めて力いっぱいそう主張する。

 

『はっ!ステラがいつ誰の嫁に行くってんだよ?』

 

そこへアウルが会話に割りこんでくる。さっきまでの上機嫌さはどこへやら、不機嫌さが最高潮だ。

スティングも湯飲みを持ったまま固まり、首だけをぎぎぎっとシンのほうへと向ける。

 


この野郎。

ステラを連れて行けると思ってんじゃねーだろうな。

 

 

アウルとスティングは珍しく同じ事を考えていた。

 

そうなったら当然、アウルやスティングだけではなく。オルガたちをもシンは敵に回すことになる。

今までステラに近づこうとした不届きな輩は皆アウルたちによって排除されてきた。

ステラが海に落ちる事件がなかったら、シンは一生彼女に近づけなかっただろう。

アウルとスティングの殺気にもめげずにシンは言い返す。

 

「ステラだっていつか好きな人ができてお嫁に行くだろう?」

「ありえないね!!」

「ステラ、お嫁にいけないの・・?」

 

きっぱりとそう断言するアウルに今度はステラが泣きそうになった。

大きなすみれ色の瞳にみるみる涙がにじんでくるのを見てスティングは慌てた。

 

「アウル、言いすぎだ。よしよし。そんなことないぞ・・。絶対にない!!」

「そんなことある!!お前、俺らと離れることになっていーのかよ!」

「離れる・・?嫌、ステラ、ここにいる!!」

アウルの言葉にステラは大きな瞳を見開いて、首をちぎれんばかりに左右に振った。

「あたりまえだっつーの!!」

 

勝ち誇ったようにシンを見るアウルに彼は今に見てろ、と歯噛みをするのだった。

 

 

ちなみにネオは騒ぎを傍観しながらのんきに茶をすすっていた。

 

 

 

 

「お花見、行くの?」

「ああ、ネオたちが待ってる。早く行こーぜ」

「うん!」

 

 

そのとき一陣の風が二人の間を吹きぬけた。

ひらひらと桜が舞う。

 

「うっとおしー風」

 

風に乱される髪をうっとおしそうに抑えるアウル。

それは淡い水彩画のようで。

ステラは桜吹雪の中のアウルに見とれる。

 

「綺麗・・」

「あ?なんだって?」

「・・空」

「空がどうしたんだよ?」


アウルはきょとんと空を見上げる。


頭上に広がるは雲一つない、青い青い空。

その青さは。

何処までも広くて。

何処でも自由で。



「・・アウル、みたい。ステラもアウルみたいだったらいいのに」

空の青さと一体になりたい。

そうすればきっと綺麗なのに。



「・・ばーか」

「ばかじゃないもん」

「僕が空ならお前は桜」

「さくら・・?」


言葉をくり返すステラに頷いてみせる。


「そ。桜の精」

「・・・?」

「純粋で優しい感じがする。・・綺麗だし」


最後の語調は照れてしまっているのか、ごく小さくなってしまっていたが、

ステラには十分だった。

満面の笑みで笑うと、アウルは照れたように再び空を見上げる。


「桜って青空に映えるよな」

「うん」

「だからさ・・

「?」


だがこれ以上が限界だったのか、ごまかすようにステラの手を掴んだ。


「う〜、やっぱいい。行こうぜ、ネオ達が待っている」


「?うん」


ステラはきょとんとしたが、うれしそうに微笑むと手を握り返した。

彼女からはアウルの紅い顔は分からない。

アウルはなかなか想いを伝えられない、自分をもどかしく思いながらネオの元へと急いだ。














後書き


わたしはアウステは桜と空だととらえてます。
無限に広がる空の方が海より自由奔放なアウルのイメージのような気がして・・。
桜はステラのイメージ。淡い、ぼやけたピンクのイメージ。
綺麗だけど、派手じゃないですし。
青空の中の桜って綺麗です。

アウルの元でステラは一番綺麗でいられるんだって。
だからいつまでも側にいろよ。・・べたべたですよね。
だからあの子は言いづらかったんじゃないかと。

余談ですが、職場の敷地には桜がたくさんあります。
桜の花びらを舞あげる小さなつむじ風ってホント可愛いです。

海に落ちた事件はプロローグにて触れます。まだ執筆中・・。


次回わがままムルタさん登場。
オルガの苦悩・・・の巻(笑)

ここまで読んでくださって有り難うございました。