ステラ、スティング、アウルとシンは私立シード学園高等部に通っている。
スティングはほかの3人より学年が2つ上で3年だ。ステラとシンは同じクラス。アウルはその隣の
クラスだ。彼は本来2年なのだが去年中等部に入り浸っており、授業をさぼりがちだった上、
進級試験や追試にも落ちたので留年したのだ。だが残念な事に学年には5つクラスがあった。
そして自分の希望に見事に反し、アウルは隣のクラスと相成った。
進学当初、このクラス編成で
「冗談じゃないっつーの!!責任者出せよ!!」
「正義は勝つンだよ、このバカ!」
「ざけんな!何が正義だ、このボケっ!!」
と大暴れした少年がいたとか。いなかったとか。
第2話
仲良きことは美しきことかな
「ステラぁ〜、いる?」
ある日の昼休み。
隣のクラスのアウルがひょっこりとステラのクラスに顔を出した。
窓際でヨウランと話をしていたシンが露骨に渋い顔をしたが、アウルはそんな彼を無視して
教室に入ると目当ての人影を探す。
「いないわよ、どうしたの?」
そんなアウルにステラのクラスメイトの一人、ルナマリア・ホークが返事をする。
明朗快活で勝気なルナマリアは、口と態度の悪いアウルに物怖じしない、数少ない女生徒だ。
アウルは首だけ彼女に向け、ステラのことを問う。
「あ?何処行った?」
「ラミアス先生に頼まれて次の授業のプリント取りに行ったわよ。数学準備室じゃないかな」
「そ。さんきゅ」
アウルはステラの居場所を聞くなり、あっという間に姿を消す。
ルナマリアはその分かりやすぎる行動にヤレヤレと肩をすくめて振り返ると、シンの燃える瞳が
至近距離にあった。
「×●□*#?」
驚きのあまり後じさるるルナ。
「ルナ!余計なことを・・!」
「え・・?」
「あのむっつり助平の馬鹿にステラの居場所を教えるなんて!七匹の子ヤギの家に狼を
送り込むと同じじゃないか!!」
「は・・?」
シンのわけの分からないたとえに頭上に大きな?マークを浮かべるルナだった。
「・・ごめん。重くない?」
「平・気!!こんなん問題ないね」
「・・ありがとう」
数学準備室ではクロト・ブエルとステラが大量のプリントと悪戦苦闘していた。
休み前の課題のプリントがまだまとめられていなかったのだ。先ほどまで数学教師、
マリュー・ラミアスもいたのだが、別の用事で職員室に戻っていってしまった。途方にくれていた
ステラを見かね、クロトが手伝いをかって出たのだ。
クロトはステラ達と同じ孤児院出身でアウルの元クラスメイトである。趣味であるゲームで
アウルとうまが合うらしく、たびたび家に遊びに来るのだ。燃えるような赤毛に濃いブルーの瞳で
感情高ぶると「必・殺!!」「撃・滅!!」など二字熟語を連発する癖がある。上には
オルガとシャニという兄が二人おり、彼らもステラたちと同じ孤児院出身者だった。
「感・激!ステラに喜んでもらえてうれし・・・」
「あ〜〜〜〜〜っ、クロト!!てめぇっ!!」
そこへ割り込んできた声。
準備室をがらりと勢いよく開けるなり、アウルが怒鳴りこんできたのだ。
「 ステラとこんなとこで二人きりになりやがって!何たくらんでんだよっ!!」
「心・外!!僕は手伝ってただけだよ!僕だって時と場所くらい選ぶからね!オマエとは
違うんだよ、ぶわぁーか!!」
「なんだと、このトサカ頭!!」
「侮・辱っ!!女みたいな・・」
「見つけたぞ!!この万年発情野郎!!」
アウルとクロトの戦争が勃発寸前ところへ乱入者がまた一人。
燃えるような赤い瞳をぎらつかせた、黒髪の少年。
シンである。
彼の(ステラ限定で多少的を得ているが)あまりの言葉にアウルの怒りの矛先はシンへと向かう。
「なっ、シン、てめぇ!!人を何だと!!」
「言葉どおりだ!!」
「この野郎!!ブチ殺す!!」
普段から仲の悪い二人だ。
しかもケンカの元がステラなのだからこのまま収まりそうにない。
とばっちり食らうのはごめんだと、クロトは早々に撤退を決めた。
ちらりと隣のステラを見るが、当の本人は状況がつかめていないのかぼんやりとしている。
「万年・・発情・・?」
・・状況よりシンの言葉に気をとられているようだ。
「・・ステラは知らなくてもいいよ。授業始るから戻ろー?」
クロトはシンの言葉に頭を傾げるステラを出るように促し、準備室の戸を静かに閉めた。
中では相変わらずぎゃんぎゃんと怒鳴り声が聞こえてくる。
「アウル・・。シン・・」
心配そうに振り返るステラにクロトは首を振った。
「無・理!どっちみち収拾つかないよ、あれじゃ。オクレ兄さんに来てもらうしかないね。
場合によっちゃ オルガにも応援頼むかも。シャニは・・」
アテになんないだろうな、とクロトはぼやく。どうせ、うざ〜いの一言で終わりだ。
幼馴染なのになぁ・・。オルガはともかく、シャニはステラ以外の人間はまるっきり興味なしときた。
ステラを溺愛しているのはアウルたちだけではない。クロト達も、なのだ。
嫁に行くことできんのかなぁ、ステラ。
とクロトはクスリと笑う。
「早くいこーぜ。オクレ兄さん連れてこなきゃ」
「・・うん」
何度も後ろを振り返るステラを連れながらクロトは苦笑する。
そして自分以上?に手のかかりそうなアウルの面倒を見るスティングに少し同情を覚えた。
「少しは大人しくすっかなー」
いつもオルガを怒らせてばかりいる自分を少し反省するように、クロトは誰となくそうつぶやいた。
3−Aのクラスではスティングとオルガが歴史の授業を受けていた。シャニはいつものように
睡眠中。ご丁寧にアイマスクまでしている。注意しても「うざ〜い」で終わりなので誰も
注意しないのだ。それでいて成績もそこそこなので教師にとって腹立たしいことこの上ない。
もっともその成績は誰のおかげか言うまでもないだろうが。
今年度最初の模試が近いせいか教室には教師の声と黒板を書く音、そしてノートをとる音しか
聞こえてこない。そこへ教室の戸ががらりと開き、教頭を務めるナタル・バジルールの声が
教室に飛び込んできた。
「スティング・オークレー君はいるか?」
クラスメイトの視線がいっせいにスティングに集中する。
「はあ、なんでしょう?」
ナタルのしかめっ面から嫌な予感がしたが、スティングはとりあえず返事をした。
「アウル・ニーダとシン・アスカが、数学準備室で暴れている。悪いが、これ以上騒ぎが
大きくなる前に止めてもらいたい」
「・・またかよ・・」
予想通りだのナタルの言葉にスティングは頭を抱えた。隣のオルガが
ククッと笑うと、かけていたメガネをなおした。
オルガ・サブナックとシャニ・アンドラスはクロトの兄である。共に18歳で幼いころ、
クロトと一緒にムルタ財閥の当主であるムルタ・アズラエルに引き取られ、現在に至る。
オルガは長男としてアズラエル家の家事全般を担っている。二人とも手のかかる
義弟妹と養父を抱え、日々頭痛の種が絶える事はない。そういうこともあり、彼とスティングとは
何かとフォローしあっていた。
「ノートは取っておいてやる。安心して行ってこい」
「手伝ってくれないのか?」
てっきりいつものように手伝ってくれると思っていたスティングは驚いて顔を上げた。
「ああ?テストが近いんだぜ?やってられっか」
それに俺まで行ったら誰がノートとるんだよ、とオルガは付け加える。確かにシャニにはとても
期待できそうにない。
「緊・急!!オクレ兄さん〜早く〜」
「誰がオクレだ!!訴えるぞ!!」
ナタルの後にきたクロトにいらだたしげに怒鳴るとスティングは席を立った。
手をひらひらと振るオルガとアイマスクを持ち上げてニヤニヤ笑うシャニを尻目に
彼は大またで数学準備室へと向かう。
・・・あいつら、今日の晩飯はピーマンとにんじん尽くしにしてやる・・!と強く胸に誓いながら。
「「なんじゃこりゃぁあああっ!?」」
夕食を見るなり、アウルとシンの声が見事にハモった。
アウルの席には。
ピーマンのポタージュ。
ピーマンのハンバーグにピーマンソテー添え。
ピーマンとパプリカのサラダ。
ピーマン入りピラフ。
シンの席には。
にんじんのポタージュ。
にんじんのハンバーグににんじんのグラッセ。
にんじんサラダ。
にんじん入りピラフ。
二人のダイキライなものが食卓に我が物顔で並んでいたのだ。
「あ?どうした?」
そ知らぬ顔をするスティングにアウルが食ってかかる。
「どうした、じゃねーよ!?このメニュー、なんなんだよ?オマエやステラたちとメニュー違うじゃん!!」
ステラたちは通常のハンバーグにコーンポタージュだった。
「同じハンバーグだぞ?」
「ざけんな!色が違いすぎるっての!」
「そうですよ!」
珍しくシンもアウルに同意する。
「・・俺の飯が食えねーのか、そうか。だったら晩飯抜きな。明日も食わなくていい」
感情のないステイングの言葉に二人は凍りついた。互いに顔をみあわせ、声を潜める。
「・・おい。スティングのやつ、すっげー怒ってね?」
「・・ああ。それもありえないくらい」
「なんかやったっけ」
「なんかやったかなぁ」
「数学準備室でケンカ」
「「あ」」
ぼそっとつぶやいたステラの言葉で二人は昼間の出来事を思い出した。
大喧嘩していた二人に呼び出されたスティングが割って入ってきたのだ。
そのときのスティングの形相は最高に恐ろしかった。
「ダークなオーラしょっててさ、怖かったな」
「けんかなんていつものことなのに、すっげー剣幕だったな」
「「確かに」」
とうなずきあうと、がしいと互いの肩を組み合った。
「シン、今だけ親友な!」
「おう!」
そう言うと二人は互いの夕食を交換し合った。
息もぴったりに両手を合わせる。
「「いただきまーす」」
「・・おい。反省はしたのかよ」
意気揚々と食事にありつく二人にスティングはあきれたように息を吐き出した。
「まーま。少しは仲良くなれたんだからいいじゃないか?最初にあったころからだいぶ
進歩してるよ、お前が思っている以上に」
「ネオ」
ネオの言葉にスティングは表情を少し柔らげた。
「・・やりすぎた。反省してる」
素直な彼にネオは仮面越しに微笑んだ。
「お前が受験生だってのもあるだろうけど」
「そんなことじゃねえよ。俺、来年卒業だぜ。あの二人があのままかと思うと、いい加減心配だ」
「・・大丈夫さ。同級生もいい子達ばかりだからね」
そういえば。
ネオの言葉にスティングは昼間のことを思い出した。
昼間のケンカのとき。
『いーかげんにしなさいよ!こぉンの馬鹿ふたりがぁ!!』
『シン、アウル。周りの迷惑だ、やめろ』
紅いショートカットの少女に金の髪の少年がスティングに加勢してくれた。
『おいおい、やめろって。ガキじゃないんだから』
『リー先生がきたら大変だよ?』
さらに朝黒い肌をした少年と小柄な少年が加わり、二人を引き剥がしてくれた。
彼らのおかげでスティングが労せずしてあっという間に騒ぎが収まったのだ。
「いい学校だろ?大丈夫さ」
「・・ああ」
転校の多かった自分達。
また孤児と言うことも有り、周囲からの奇異な目にさらされたことも少なくなかった。
それ故学校になじむことがなく、友人と呼べる者はおらず、ずっと4人だった。
だが今の学校は。
幼馴染みだったオルガ達もおり。
自分たちを受け入れてくれる者もいる。
シンという新しい弟も増えた。
・・・なんだかんだ言っても大丈夫だということは薄々感じている。
それは喜ばしいことでもあり。
また寂しいことでもある。
もう少し。
本当はまだもう少しこのままでいたい。
手間のかかる弟妹でいてもらいたい。
本音と建て前のせめぎ合いの中で、自分は欲が深いなと思う。
スティングはふっと笑みを浮かべると、デザートを取りに席を立った。
後書き
ここも直しました。穴だらけだった〜(笑)
セリフも若干直したり増やしたり。
5月5日現在。オクレ兄さんの独白もちょこっと。
なんだかんだいってスティングは
アウルとシンが可愛いんです。もちろんステラも。
シャニの成績が悪くないのは誰のおかげか・・分かりますよね?
ちなみに旧連合もステラが大好きです。
次回はアウルとステラ・・の巻。
花見の話が持ち上がります。