アウル・ニーダは大きい胸が好きだ。
ちなみに女の胸である、念のため。

口にしたら間違いなくステラに殺されるので、本人の前では決して言わないが彼女の胸にはかなりの期待をしている。今で十分でかいとは思うが、それ以上になってもかまわないというのが彼の持論だ。

マリューの胸は理想以上にでかいが、年増女には興味はない。

ルナマリアもメイリンも普通の部類。
まあ小さくはないがそうでかくもない。可も無く不可もないつまらない胸。これを一度うっかりルナマリアにもらしたとき、半殺しの目にあった挙句、夕方、スティングがメシだと迎えに来るまで校庭の木に逆さづりにされた。

それ以来アウルはルナマリアについては一切口を出さない。
彼とて命は惜しいのだ。


他の女は・・・・?となっても
さあ違いなどわかんねーと相変わらずの無関心ぶり。
ひどいヤツである。



さて。
わけの分からない仮面の男にとび蹴りを食らわせた次の日の朝。アウル・ニーダはいつものように布団の中で惰眠をむさぼっていた。

このクソ寒いのに早起きなどしていられるかとアウルは夢の中で一人ごちる。

前にそういったらクソ暑い夏でも早起きしねぇじゃねーかとスティングに突っ込まれ。
夏は暑くて仕方ねーからクーラー入れてくれれば早起きしてやると言い返したらどあほうと殴られた。


理不尽だとアウルはつくづく思う。


おまけに電気毛布のあるステラと一緒に寝ようとしたら狭いと断られし、いいことなしだ。自分が女だったらステラのように電気毛布がもらえるだろうか。ステラも一緒に寝ようとしてもきっと断らないだろう。

女顔とガキの頃から馬鹿にされ、そのたびに相手が気絶するほど殴ってきたが、こういうことになってくると女だったらなとアウルは都合よく考えた。



ぴぴぴぴ。


スティングがセットさせた目覚ましがなり始める。


「うにゅーーー。もうちょっと」


アウルはうるさげに寝返りを打つと、目覚ましを止めようと手を伸ばした。

ぶに。

着ているシャツの谷間から除くものを見てアウルは大きな目をぱちくりとさせた。


「?」


変に思って自分のシャツを伸ばして覗き込んでみる。
ステラサイズより若干でかいと思われる盛り上がりを見せる理想の胸。


「おおっ」


鼻の下を伸ばして喜ぶアウルだったが、次の瞬間その顔がこわばった。

・・・・それが誰のものか瞬時に理解できたからだ。

恐る恐るズボンの中を覗くと、あるはずのものが無い。





当然、アウルは絶叫した。






















アウル、絶叫


























「ありえない、ありえない〜〜〜」


自分の胸を鷲づかみにしたシンにアッパーカットを食らわせたあと、アウルはおいおいスティングの胸にしがみついて泣いていた。シンは、入り口のほうに大の字で伸びていて、ステラが冷たいタオルを彼のあごに当てていた。


「どういうこった、こりやぁ」


スティングも途方にくれたように天井を仰ぐ。
無理もない。
昨夜まで確かに『弟』だったはずのアウルが『妹』になっていたのだから。同時にアウルの周囲に奇妙な気配がまとわりついているのも気になった。はっきりとしない形だったが、何かが憑いているのだ。
スティングはアウルのほうへと向き直ると、彼(彼女)の肩をがっしりとつかみ、低い声でささやいた。


「なんか悪いもんでも食ったか?拾い食いとか」


当たり前のごとく、アウルが怒って噛み付いてくる。


「ひでぇっ!!僕がそんなに意地汚いって言うの?!」
「俺の作るメシに悪いモンはないっ!!」


アウルの抗議をものともせず、ドーンという、波しぶきをバックにスティングは自信満々に言い切った。アウルは口を暫くパクパクさせていたが、すぐに現実に戻ると今度は地団太踏み出した。


「スティングのM字ハゲっ!!僕が可愛くないのっ?!」
「いやいっそう可愛らしく・・・・って誰がハゲだ、コラぁっ!!」
「一層って一層って何だよ!?」


アウルとスティングがドタドタとつかみあいをやっているうちにようやく起きてきたネオがひょっこりと顔を出した。


「おやぁ今日も元気だな、二人とも。おい、シン。こんなところで寝ていたら風邪引くぞ?」


いまだ失神から戻らず、ステラに介抱されているシンににこやかな笑みを向けると、ネオはのん気に大きく伸びをした。


「うーん、今日もいい天気だ。早くメシ食って準備しないと遅刻するぞー」
「「それどころじゃねぇっ!!」」


見事ハモった二人の息子たちにネオは仮面越しに目をぱちぱちさせ、彼らを交互に見やった。そしてアウルの盛り上がった胸に気づくと、自分の記憶を探るように腕を組み、ユラユラと頭を揺らした。


「俺の記憶違いじゃないといいけどさ・・・・うちって息子二人。娘一人だったよ・・・・ね?」


視線と指先を泳がせ、ステラに同意を求めると、彼女は素直にこくんとうなずいた。ああ、そうだよねぇとネオは曖昧に笑うとアウルのほうに向き直った。


「どちらさんでしょう?」
「寝ぼけてんじゃねー!!!クソ親父!!」


直後。
笑み張り付かせたネオにアウルの怒りのとび蹴りが飛んできた事は言うまでもないだろう。






「どうしたものかねぇ」


目の周りにパンダの痣をつけ、ネオは学校へと車を走らせていた。出かける間際にスティングが漏らした言葉が頭を離れない。


『直接の原因か分からなねぇけどよ・・・・アウルのヤツ、なんかに取り憑かれてるみたいなんだ』


スティングは幼少の頃から勘が鋭く、見えないものが見えてしまう事があった。ただ見えてしまうだけでどうこう出来る能力は彼にはない。それゆえ、その能力は厄介で普段はお守りをポケットに忍ばせてその能力を抑えているのだが、それでもその気配を察知してしまうという事は。


「もしかして結構強力な奴なんじゃな〜い?」


軽い口調でそうつぶやいたネオだったが、その表情は硬かった。





「何だよ、ネオのヤツ〜〜〜、乗せてってくれればいいのにさ」


ロアノーク家の兄妹とシンは揃って学校への通学路をてくてくと歩いていた。冷たい風邪が彼らの傍を吹き抜け、木の葉を舞い上げる。

寒いっ、とブツブツ文句をたれながら先を行くアウルをスティングは心配そうに見守る。

あれからどんなに知恵を絞っても原因は分からずじまい。元に戻る方法も思いつかないのでとりあえずそのまま登校と相成った。アウルは胸が邪魔だとぐるぐると胸にサラシを巻きつけ、そのまま学生服を羽織った。やはり胸元が気になるのかいつもはだらしなく全開にしてある前もきちんと襟元まで留めて合った。自分の変化がばれないようにとの苦肉の策であったが、シン曰く。


「見た目ほとんど変わってないから別にいいんじゃないの?」
「んだと、コラ!!もういっぺん言ってみろ!!」
「んなにカルカリするなよ、余計不自然だぜ。フツーにしてろよ」


あとで方法考えよーぜとシンはアウルを安心させるように肩をぽんぽんと叩くとにかっと笑った。自分を馬鹿にすると思っていたシンに逆に励まされ、アウルは決まり悪そうにうなずくと再び前を向いて歩き出した。

足元の枯葉が歩くたびにさくさくと気持ちのいい音を立てる。

心なしか頬が熱い。
赤の他人だったはずのシンがいつのまにか家族同然のようになっている。
味方をしてくれている。
それがとても心強かった。

くん、と腕を引っ張られた。

何事かと視線を向けると、ステラと目があった。大丈夫だよとうなずいて微笑むステラにアウルは顔をほころばせたが、次の言葉で顔をこわばらせた。


「スティング、アウルに何かいるって言っていた。シャニに、見てもらお?」


シャニ・アンドラス。
アズラエル家の次男坊。
趣味、音楽、昼ね。
特技、楽器演奏に独唱。そして呪い


あのシャニにそのような事を頼むのが心底嫌でたまらないが、背に腹は帰られない。諦めたようにため息をついてうなずいた。
シンがシャニ先輩?と聞き返してきたのでステラは手短に事の顛末を話して聞かせた。


アウルにはどうやら何か強力なものが憑いているらしい事。
スティングにはそれが分かるのだが、それらを払う力は無く。
昔から桁外れに霊力の強いシャニに見てもらおうとしている事をかいつまんで話した。

ステラとしては長い会話は苦手で、しゃべりとおすのに骨が折れたし時間もかかったが、シンは内容を理解できたようで、感嘆の声を上げた。


「すっげぇ。本当にそういう事があるんだ」
「だからシャニを本気で怒らすと怖ぇんだよ」


ボソリとアウルがそう呟くと、シンは顔色を変えてああ、やっぱりとシャニの姿を思い浮かべた。
あのわら人形と木槌、ただ趣味で持ち歩いているわけじゃなかったんだ・・・・と。





「よう!みなの衆!!」


張りのある、軽快な声がアウル達の反対方向からした。
その声の主は後ろに何人かを従え、こちらへと向かってくる。
ミゲル・アイマン。そしておなじみのロック部の面子だった。


「おはようございます。皆さん、おそろいですか」


ニコルがにっこりと人のいい笑みを浮かべ。


「おはよーさん」


ラスティは片手を挙げて軽く挨拶をする。
ちょうど同じときに会ったんだ、とキラがその後ろでニコニコと笑う。彼の左腕にはフレイがしっかりと腕を絡めていて、ごきげんようと一同に柔らな笑みを浮かべた。そんな彼女を朝っぱらからうっとーしーと顔をしかめるラスティはもっぱら無視のようだった。

スティングをはじめとするロアノークの面々もにこやかに挨拶を返し、ロック部の名物が一人いないことを問うと、ミゲルはさぁと肩をすくめた。


「シャニ?今日は遅刻しないでこれるかな」
「親父さんに手がかかってなければオルガ先輩が始業時間までには連れてくるんじゃない?」


なんか用あんの?と問うラスティにスティングは曖昧な笑みを浮かべて言葉を濁す。ラスティはわずかに眉を顰めたが、それ以上追求する気はないらしく、それきり話題にしなかった。
彼は冷めたところはあるが、他人と自分の境界線をきっちりつける人物なのだ。
ラスティのそういったさばさばしたところにスティングは正直ほっとするのだった。


「ステラちゃん、今日も可愛いねv」


女好きのミゲルはステラを目にするなり、早速彼女をナンパし始める。彼は女と見たら老若と輪ず、声をかけるのが当然と豪語してはばからない。だが、ステラはただ、おはようございますと軽く頭を下げるだけだ。ステラの反応の薄さに反してアウルとシンの反応は過剰すぎるぐらいで彼らはすぐさまミゲルとステラの間に割って入った。シンがミゲルをけん制するようにわざとらしくでかい声を張り上げる。


「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・すっ!今日もいい天気ですねっ!」
「朝っぱらからステラナンパしてんじゃねーよ、ボケ」


アウルは胸をそらして歯に衣を着せぬ言いかたで毒を吐く。相手が先輩といえども、お構いなしのアウルをミゲルはただジーっと見つめた。

何かに気づいてつぶさに観察しているかのような視線に落ち着かないアウルだったが、それよりステラの身柄の方がずっと気になってアウルは動けずにいた。いや、もはやミゲルに射竦められている、と言っていいだろう。

シンとスティングは助け舟を出そうとはらはらしていたが、彼らが動くよりさきにミゲルが動いた。


『へ?』


目の前の光景にその場にいたもの全てが凍りついた。
無論、アウルも。
アウルはただ目を見開き、身体を硬直させていた。
以前より華奢になった身体にしっかりと巻きつく腕。
あごに当たるしっかりとした胸の筋肉。
ミゲルにしっかりと抱きすくめられたアウルはその日二度目の絶叫を上げるのだった。





















あとがき

久しぶりのシード学園。季節が変わっちゃってるよ・・・・(遠い目)
長くなったのでいったん切ります。
ごめんなさい!!
ついにやってしまった女体化ネタ。
次回、その体のせいでアウルは学校でひどい目にあいます。普段の行いもあって自業自得、というのもあるのですが(笑)
アウルの身体は治るのか?またそうなってしまった原因は?
次回もさーびすさびす♪
早めに仕上げます!!