町外れにある古ぼけた神社。 ここ何年も手入れのされていない神社は荒れ果て,、雑草が我が物顔ではこびほこり、人々からすっかり忘れ去らたその神社はただ寂れて行くばかりだった。 「ぐわーーーーっ!!最近の者は信仰と言うものをしらんのかっ」 どうっ。 ざわざわ。 一陣の風と共に一つの気配が生まれた。 金髪に長身。 なんとなく軍服に見えなくもない、変わったデザインの白と黒の服。 そして何よりも目立つのが、顔を覆う白く輝く、怪しげな。いや、怪しすぎる仮面。 仮面の男はいらだたしげに神社を行ったりきたりし、しきりに手元の薬を噛み砕いていた。 バリバリバリ。 「ったくイライラのあまりカルシウムが足りんないではないかっ!!どうしてくれる!!イライラするっ!!・・・・ん?」 突然鼻をひくつかせると、仮面の男は70段以上もある階段を怒涛の勢いで駆け下りていった。 「あれ?こんなとこに神社なんてあったんだ」 「ステラも初めて見た」 「怪しそうな神社だ」 蒼。 金。 萌黄。 3色の三兄妹が古ぼけた神社の前を取ってゆく。 買い物帰りなのかスティングとステラは荷物を両手に抱え、蒼い頭のアウルは寿司桶を大事そうに抱えていた。今日はネオの給料日。少しばかり贅沢をしようと寿司屋に注文しておいた寿司を取りにいったのだ。直接とりに行ったのも少しでも安く、と経費削減のためである。 「稲荷寿司の匂いがするっ!!」 そこへ嬉々とした声が頭上に降ってきて何事かと3人一は顔を上げると白い仮面に変な格好をした、あからさまに怪しい男が神社の階段を猛烈な勢いで駆け下りてくるのが見えた。 「なんだ、ありゃ?」 「へんたい・・・・」 「まっ昼間から変質者かよ。そうなってんだ、この町」 傍から聞けば失礼なことばかり抜かしている3人の前にたどり着くと、仮面の男は息を切らしてしばらく肩を上下させていたがやがてがばぁっと顔をあげた。 「いやぁ久しぶりの参拝者だ!!稲荷ずしとは気がきくなっ!!天晴れだ、ほめてつかわすぞ!!」 どこから出してきたのか日の丸の扇子を取り出して喜びの意思を見せる男だったが、3人は訳が分からんとただあきれていた。 「変態が何訳分からない事言ってんだ?」 「変態ではない!!私にはラウ・クルーゼという由緒正しい名前があるのだ!!」 アウルの辛らつな一言に憤慨したラウは無礼者、と怒鳴りつけると同時に小気味のいい音があたりに響いた。突然現れた変な男にいきなり頭をはたかれた痛みと屈辱にアウルは怒りをあらわにして怒鳴る。 「変態が何すんだよ!!」 「やめろ、いきなり変態呼ばわりしたお前が悪いだろう」 「くっそー」 見た目は怪しいが、スティングの言葉はもっともだ。ここでスティングを怒らせてせっかくの寿司がお預けになったら目も当てられない。しぶしぶ怒りの矛先を収めたアウルだったが、その目はラウをにらみつけたままだ。ステラはこの怪しすぎる男に珍しく警戒の色を見せず、物珍しそうにラウの白い仮面を見ている。きっと大好きなネオの仮面と色違いだと喜んでいるのであろう。スティング自身もアウル同様この人物を変態とは思っていたが、礼儀として丁寧に応対することにした。 「何か御用でも?」 「なあに、その稲荷ずしを供え物としておいて行け。もらってやろう」 ふんぞり返って言ったが、その台詞はまるでどこぞのごろつきか強盗である。食い物(とステラ)に対しては執着心が人の百倍はあるだろうと思われるアウルの怒りを買うには十分だった。 「ざけんなーーーーーーー!!」 「ふんぎゃぁっ!!」 十分な助走と飛び込み宙返り(しかも二段宙返り)で隕石級の破壊力を持ったアウルのとび蹴りでラウは一瞬で沈黙させられた。ラウはきりきりと空を舞い、顔面から地面に突っ込むとそのまま動かなくなった。宙でV字型ににょきっと伸びた足がなんとも間抜けに映る。 「やれやれだぜ」 「アウル、すごい・・・・。あんこーる・・・・」 今度ばかりはスティングは止めようとせず、無表情に事の成り行きを見守り。ステラはアウルのとび蹴りに拍手を一生懸命贈っていた。 「ったく。ざけんな、ボケナス」 「さて、行くか」 「うんっ」 アウルはそう毒づくと寿司桶を再び大事そうに抱え、先にたって歩き出した。そのすぐ後をステラを挟むようにしてスティングらが続く。寿司桶を抱え、スティングとステラと並んで大またで去ってゆくアウルの後姿をラウは地面に突っ伏したまま見送る。その仮面の穴から覗く目は怒りに燃えていた。 「お、おのれ〜〜〜あのクソジャリめ・・・・っ!!私を怒らせたらどういう目にあうか思い知らせてやる・・・・!!」 とう、という掛け声ととともに宙に一転。だが着地に失敗し、彼は見事に地面とキスする羽目になった。 「ク、ク〜〜〜。アレもコレもあの蒼い餓鬼のせいだぁ〜〜〜〜〜〜」 コレばかりは逆恨みとしかいえない雄たけびが紅く燃える夕焼けの空に溶けて消えていった。 第16話 ぶっ壊れ神様ご光臨 ちゅんちゅん。 外ですずめがさえずっている。心地よいまどろみの中、ステラは夢うつつにその唄に耳を傾けていた。 外は快晴。 雲ひとつない秋晴れ。 今日もいつものように一日が始まる。 ・・・・・其のはずだった。 ステラは何の前触れも無く、家中に響き渡ったアウルの絶叫に無理やり意識を呼び覚まされた。絶叫・・・・というより悲鳴に近かった。その声の影響で窓がビリビリゆれている。ネオを起こすときのスティングの大声とどっちが強いのかな・・・・とステラは起き上がりながらぼんやりと考えた。 窓の外では木枯らしが吹いている。朝と夕方は冷え込み、ステラとしては朝がつらくなってきた。冷え込んでいる部屋に比べてスティングが家族の誰よりも優先的に入れてくれた電気毛布が暖かくて、なかなかベットから出られないからだ。 冬はもうすぐそこだ。 ステラは起き上がるとアウルの先ほどの悲鳴が気になって彼の部屋へと向かった。二階はロアノーク家の寝室が並んでいる。アウルの部屋はステラのすぐ隣の、2階の一番端っこにある。部屋を出ると悲鳴を聞いて駆けつけてきていたスティングとシンが既にアウルの部屋のドアの前にいた。ネオはまだ夢の中らしく、姿が見えない。親としてあるまじきことなのだが、普段から騒々しいのですっかり慣れきってしまっているせいであろう。 「おい、アウル!!今の悲鳴はなんだ!!」 ドンドン!! スティングがドアを叩く。 だが返事はない。 「おい、このバカっ!!朝っぱから何があったんだよっ!?」 シンがドア越しに怒鳴るがやはり返事はない。二人は顔を見合わせ、互いにうなずきあうとステラに声をかけた。 「ステラ、声をかけてやれ」 「君ならきっとすっ飛んでくるだろうから」 「・・・・?」 ステラは二人の言わんとしている事をまったく理解できなかったが、とりあえず言われたとおりにしてみる事にした。ドアの前に立つと遠慮がちにトントンと叩き、ゆっくりと声をかけた。 「アウル、開けて・・・・?どう・・・・したの?」 いつもなら鼻息荒くすっ飛んでくるはずがうんともすんとも返事がなく、ドアは閉まったまま。・・・・普段ならありえない。 「うそぉっ」 驚愕するシンの横でスティングは深刻な表情でドアを見つめた。 何かあったのだ。 絶対に。 一刻も早く部屋に入らないとまずい。 「ぶち破ってみます?」 「ステラも手伝う」 体当たりの姿勢に入るシンにステラも習う。とんでもない(特にステラ)、とスティングは慌てて二人を制すると懐からヘアピンを取り出したと、その黒い小さな物体にそれがなんの役に立つんだよ、とシンの紅い目が疑わしげに細められる。 「ピッキング」 一言そう言ってアウルの部屋の鍵に差し込んで作業を始めるスティングの背中にシンはこっそりとため息をついた。今時の鍵はかなりの進歩を見せていて、漫画やドラマじゃあるまいし、開くわけがない。 そう思っていたのだが。 ぱちん、と音を立ててドアはあっけなく開いた。 「うっそぉっ?!」 シンは本日二度目の驚嘆の声を出した。 「すてぃんぐはね・・・・どんな鍵でも開けられるの。小さなパソコンで・・・・ね、電気の鍵もすぐ開けられるちゃうんだよ・・・・?すごいでしょ?」 「ちょっとした特技だ。結構役に立つだろ?」 ちなみにステラの電気の鍵、というのは電子キーの事である。 ハッキングじゃないか!! ここは突っ込むべきか?突っ込むのを待っているんだろうか?天使の笑みを浮かべてとんでもない事を言うステラにシンはどう言ったら良いか分からず、曖昧に笑うしかなかった。 「コラコラ、あまり周囲に言うなよ?秘密、だからな」 「うん、分かった・・・・」 「よしよし」 この人たち、本気だ・・・・っ!! まちがいないっ!! ニコニコと和やかに繰り広げられる会話の内容にシンは全身の血が下がっていくような気がした。犯罪じゃないかっ、と突っ込みたかったが、二人があまりにも普通にしているので自分が間違っているのかとさえ思えてくる。グルグル思考が回る。めまいがしてきた。 そういやぁレイだってあの学園騒動で。 「強欲理事どもの賄賂の出所を探ってみた。明日には新聞社にでも情報を流しておこうか」 これは・・・ええとそう、正義のため。学園の平和のためだし・・・。 あのアスハの弟(兄だっけ?)も。 「クスクス。このデータさえあれば今週の株の動向が分かるぞ〜〜。こいこーい」 コレって私利私欲・・・・じゃなかった個人の幸せのため・・・・。 ・・・・2年の温和な先輩だって・・・・。 「バレ無ければいーんです」 そ、そうばれなきゃ・・・・ってそういう問題かっ?! 「大丈夫か、シン?」 「シン・・・・・?」 「はっ」 どうやらショックのあまり、脳内の言葉が口をついて出ていたらしい。スティングとステラの気の毒そうな視線がとても痛い。恥ずかしくなったシンはその場を取り繕うと慌てて笑って見せた。 「いやハッキングとかまずいんじゃないかなぁとちょっと思って」 「いや、思考がずれているぞ。ハッキングじゃなくてコレはピッキングだ」 「あ、そうか。ハハハハ、驚いて思考がちょっと飛躍しすぎちゃいましたよ」 そーだよな!! ピッキングはハッキングとは違うんだ!!! ん? ・・・・て根本が同じだろっ!? それも電子ロック荒らしもしてたような言い方だったじゃないか!! ピッキングもハッキングも犯罪だよっ! それともおかしいのは俺かっ? お、俺が間違ってるのか? 「のわ〜〜〜〜〜っ」 「シン?」 今度は頭を抱えてのた打ち回るシンを小首をかしげて見るステラに若い頃は悩みが多いものだ、とスティングはささやいた。 さてすっかり忘れ去られるところだったアウルだが、部屋に入ってきたスティングたちが彼は部屋で布団を引っかぶり、中から出てこようとしなかった。 「おい、何してんだよ、出て来い!!」 「うるせぇっ!!」 シンが怒鳴りつけてみるとくぐこもった怒声が布団から返ってきた。 どうやら何事も無く、無事のようだ。 シンは安堵すると同時に怒りがふつふつと湧き起こってきた。 朝っぱから驚かせて、この野郎!! 怒りのまま布団を引っつかんで引き剥がそうとしたが、アウルも信じられない力で引っ張り返してくる。ガンバレーと静かにことの成り行きを見守っているスティングやステラにシンは少しは手伝ってくれよと泣きたい気分に襲われる。 くっそ〜〜〜〜〜〜。このアホ、いい加減にしろよ!! 頭の中で種がはじけたような感覚と共にシンは思いっきり引っ張りあげた。 「おりゃぁあああっ!!」 「ぎゃっ!!」 どたーーん。 グシャ。 引っ張り合いはシンの勝利だったが、勢いあまってアウルまでも引っ張りあげてしまい。二人は床にもつれこんで、シンはアウルの下敷きになってしまった。 「ち・・・窒息する・・・・っ」 アウルの胸が自分の顔を圧迫している。 だが。 自分の顔の上の妙な感触にシンは大きな疑問符を浮かべた。 ぐに。 そうとしか言い表せない感触。 ん・・・・? 胸? シンは手を伸ばすとアウルの胸に触れた。 いや、掴んだ、という表現が正解であろう。 グニャ。 暖かくて柔らかい。 おかしい。 どう考えてもおかしい。 今度はしっかりと触ってみた。手のひらに感じる、確かなボリューム感。 「こ、これは・・・・・っ」 「ひとの胸揉むんじゃねーーーっ、この変態!!!」 怒りに燃えたアウルの鉄拳を食らって吹っ飛びながら、そういえばステラに初めて会ったとき、海に落ちて暴れる彼女を助けようと胸を鷲づかみにしてしまった事があった。確かおんなじ感触だったよなぁと。 ・・・・シンは遠くなる意識の中、思い出していた。 あとがき 長くなりすぎたので続きます。 ラウさん、初登場。キャラが壊れ気味なのはシード学園の宿命でして・・・・。ファンの方、すみません。今回のシンはとにかく突っ込み役になってしまいました。いつもルナたちに突っ込まれていたシンでしたが、常識が少しずれているロアノーク家相手では彼が突っ込み役に。ただそれは彼の心の中に留まったままですが。アウルの身に何が起こったのか。次回、そのままシード学園登校したアウルたちは・・・・? 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