「優勝はロック部のかたがたで〜す。おめでとうございまーす!!」
「あ〜いやぁ〜、すいません」

ドレスの裾を翻し、ミーアが代表者のミゲルに優勝旗と小切手を渡していた。
天下のアイドルに表彰してもらうのはやはり照れくさいのだろう、ミゲルは照れ笑いを浮かべていた。そしてその後ろでロック部は笑顔で、アウルはぶすっとした顔でその様子を見ていた。



「結局ロック部かぁ」


気の抜けた声でシンはぼやいた。


「何よ、やけにがっかりしてない?」

水分がのど越しに音を立てて落ちてゆく。
ルナマリアはスポーツドリンクを口にしながらクスクス笑うと、シンは真っ赤になって彼女に食って掛かった。



「してないよっ!資金のチャンスが流れてしまったのが残念なだけっ!アウルのことじゃないからなっ!」
「はいはい」


むきになって否定するシンにルナマリアは、はいはいと笑った。
素直じゃないなぁとおもいながら。


「私の出番がなかったのは残念だ」
「・・・・すみません、失格してしまって」

隣で表彰式を見ていたカガリの言葉にルナは恐縮して何度も頭を下げた。


「あ、いやそんな意味で言ったんじゃなくてだな・・・・」


カガリはそんなルナに慌ててフォローを入れようとしたが、悪いタイミングでシンが割り込んできた。


「なんだよあんたっ、ルナを責めんのかよっ」
「そんなつもりはない・・・・。ただ」
「あーあ、まったくアスハってのはなんでこうもエラソー何でしょうね。エラソーな分色気も持ってかれたんじゃないですか?」


色気がない、という言葉を強調してシンは鼻で笑う。
日ごろから気にしていることを突かれ、カガリの片眉が跳ね上がった。


「ちがうと言っとろーが!!人の話しをきけっ、このクソガキ!!」


ガキ、という言葉に反応したシンは口元を引くつかせながらも反撃。


「ガキのあんたにだけには言われたくないね!!」
「なにを!!」

てんやわんやのケンカをおっぱじめる二人に周囲の視線が集中した。


「何だ騒がしいな」
「あ、カガリ・ユラ・アスハだ。相手は・・・・?げ、三馬鹿の一人じゃん」
「あの三馬鹿?えー、見たい!どの子?」
「あはは、おもしろいぞ、もっとやれー」
「あんなのに関わったら命がいくつあっても足りない。くわばら、くわばら」
「はいはい、どっちが勝つか!今のところシン・アスカが優勢だよ〜〜〜」
「んじゃカガリ副会長に500円!!」
「アスカに1000円!!」
「さー、はったはった〜〜」


呆れるもの。
好奇心にかられているもの。
見て見ぬふりをするもの。
若干名だが、どっちが勝つか賭けを始めるものもいた。
そんな周囲の注目もお構い無しにケンカは続く。


「お前のかーちゃんでーべーそー!!」
「お前のとーちゃん、はーげー!!」


当初の論点を忘れ、次第に幼くなってくる口げんかにルナマリアははずかしさで顔から火が出そうだった。


「お父様はハゲじゃないぞっ!!そういうお前がハゲじゃないのかっ!?短気だからな!!短気は『損毛』だ、ハーゲー!!」
「なんだと!!この猿女!!お前にはバナナがお似合いだっ!!」
「むきーーーーっ!!」


「シン、先輩、やめてください・・・・・。恥ずかしいから・・・・」


周囲の視線を浴びながら、ルナマリアは脱力したようにつぶやいた。














第15話
兵どもの夢のあと


















さて。
他の参加者たちといえば。



「あーあ、誰かさんのおかげで一回戦でだめになっちゃって。失格するくらいならなんか弾けばよかったのに」
「だから無茶言わないでくれよ、キラぁ〜〜〜!!」


ジト目で睨むキラの視線に耐えられなくなったアスランが泣きそうになっている。ただでさえ広いおでこが更に広がりそうな勢いだ。フレイはそんな二人に頭痛に覚え、頭を抑えながらため息をついた。


「あんたらいい加減、夫婦漫才やめたら?」






「みろ、あの締りのないあの顔を!!」


腰に手を立て、どこからか用意された踏み台に片足を乗せたイザークが大きく身を振りかざし、高台に上ったミゲルにびしいっと指を突きつけた。
心なしか指が空を切る音も聞こえてくる。


「みっともないと思わんか!」
「ええ、そうですとも!!」


そのとおりっと声をそろえる歴史部員たち。
イザークはふふんと鼻を鳴らすとこんどはアウルに同様に指先を突きつけ、声高らかにこう締めくくった。


「資金なんかよりあんなアホを迎え入れるほうがわが部にとって大損害だっ!ロック部に優勝は譲ってやる!!勝負には負けたが、結果的には勝ったのだっ!!我らはっ!!」


そんな彼に『イザーク命』の鉢巻をしたシホが大きく頷く。


「そうですね、イザーク先輩!!」
「ジィーック、イザぁークっーーーーーー!!」





「ミリィにかっこ悪いところ見られたぜ・・・・・」
「先輩はかっこよかったっす!!」
「そうですよ、元気出してください」


いまだ落ち込んでいるディアッカに部員たちは元気を出させようと必死だ。そこで何かを思い出したように、その中の一人が思い出したように手をぽんとたたいた。


「あ、そういえば放送部って言う人が」
「放送部!?」


とたん耳をダンボにして振り返ったディアッカにたじたじとなりながらも部員は続ける。


「怪我なくてよかったって・・・・。それだけで勲章もんだって言っていましたよ」
「ミリィ・・・・」


じーんと嬉しそうな顔をするディアッカ。
さっきまでのどん底のオーラがきらきらと光が差してきたようだ。
そんな彼を見てもう一人の部員がさっきの部員に耳打ちした。


「アホだとかも言っていなかった?」
「いーじゃん、そこまで言わなくてもさ。落ち込ませたいの?」
「それもそうか。大会も近いもんなー」





「・・・・あーあ、ゴールデンコンビ復活ならず、か」
「まあ、落ち込むなよ。食いもんでまた助っ人の依頼すれば良いじゃないか。
前向きに考えようぜ」
「・・・・うん」

子犬のようにきゅーんと落ち込むヴィーノ。
頭の上に耳があったらしゅんと倒れてしまっているだろう。
そんなヴィーノの頭をヨウランはなでてやりながら慰めてやっていた。





「残・念っ!!」
「残念じゃねーぞ、ロック部になっちまっちゃったじゃねーか」


にゃはっと笑いを浮かべるクロトにスティングはこめかみを引きつらせて睨みつける。その後ろでオルガがはらはらしながら見守っていた。
クロトは今にも怒り出しそうなスティングにちらりと視線をやると、彼のほうを向いてちっちっと指を振って見せた。


「だめだよ、そこまで過保護じゃ。アウルだって赤ん坊じゃないから、最低限の分別はつくと思うよ」
「う・・・・・」


痛いところを突かれてひるむスティングに更にこう付け加えた。


「それにロック部だって馬鹿じゃないんだからさ。ホントはみんな良い奴だって分かってるんじゃない?」
「だ、だがいい噂は・・・・」


なおも反論ようとするスティングにクロトはかぶりを振った。


「噂は噂!!オクレ兄さんだって付き合いあんだからそれくらい分かるでしょ?それとも本当はアウルを部活に入れさせたくないとか」
「・・・・・!!」

スティングは思いもよらなかったクロトの言葉に固まった。
自分はステラ以上に協調性のなさそうなアウルが心配なだけだ。
それだけのはず。
だが、自分の心中を突かれたようなこの感覚はなんだろうとひとりごちた。



『我が家の夕食は7時半!!』



いぜんスティングが言っていた言葉を思い出すオルガ。以前ステラの囲碁部入部のときも相当ごねたということも聞いていた。


「おなじか・・・・」


そして疲れたようにため息をつく。
同時に彼のスティングに対する心配の色も増した。

要するにスティングは弟たちを手元に置きたがっていたのだ。
いままで彼らの入部などでごねていたのはしていたのは他ならぬ、彼のためだったということをクロトは見抜いたらしかった。

一見お馬鹿に見えるが、クロトの観察眼は驚くほど鋭い。
昔からそうだとは思っていたが、スティングのことも気づいていたのかとオルガは内心舌を巻いていた。
同時に安堵が心の中に広がってくる。
自分だけが心配していたわけではなかったのだ。
もしかしたらシャニも気づいているのかもしれない。
スティングの依存症に気づいていたのは自分だけではなかった。
俺の独り相撲だったのかよ、オルガは苦笑した。


「大丈夫だって。アウルもステラも最終的に帰る場所はひとつなんだから」
「・・・・」


クスクス笑ってクロトはグラウンドの高台のほうに目をやるとロック部に歓迎されたアウルがもみくちゃにされているのが見えた。


「コノヤローー、歓迎するするぜっ!!」
「よろしく〜〜〜」
「あだだ、木槌でたたくのやめろよっ!!」
「仲良くしましょうね」
「テキトーにね」


列中でアビーと仲良く並んでいるステラも見えた。


「ねえ土曜日うち来ない?クッキー焼こうよ」
「クッキー・・・・?ステラ、行く!スティングに、聞いてみる。・・・・・スティングのクッキー、すごくおいしいの。ステラも作れるようになりたいの」
「へー、お料理上手なんだ」
「うんっ!!スティングの料理は世界一だってネオが・・・・」


どこからか会話を聞きつけてきたアズラエルはにょきと二人の間に生える(割り込む)とつばを飛ばしながらわが子自慢を始めた。


「ちがいます!!オルガが世界一です!!オルガの料理はねっっ」
「どっから湧いてきたこの変態がっ!!」
「ぐはぁっ!!」


アビーの怒りのコークスクリューパンチが炸裂し、アズラエルはきりきりと回転し前の高台に突っ込んだ。盛大な衝突音と共に砂塵が舞い上がる。突っ込んできたアズラエルによって会場が派手に破壊され、周囲は大騒ぎになった。まき沿いをくらい、アズラエルの下敷きとなったアウルが何やってんだ、はげっ、とわめいていた。


「あ〜ら、あの馬鹿にはいい薬だわ、ホホホホ」
「アウル、大丈夫かな・・・・。見てくる」
「えー、あいつは不死身だからほっとけば良いのに」


アウルを心配して表彰場へと走ってゆくステラをアビーが渋い顔で追う。


「申し訳ないが、手の空いているものは撤収を手伝ってくれ。どこぞの間抜けなハゲ容疑者が会場に突っ込んで派手にやってくれた」
「なんかすごい事になってるよみたいだから、手を貸しに行くわよっ」


主催者側のレイがマイクを片手に応援を要請すると、ルナマリアはこのばかげたケンカから離れられると、喜び勇んで会場へと向かう。


「今取り込み中・・・・って分かったよ!待てよ、ルナ」
「私も行くぞっ!」

シンとカガリが慌てて彼女に続く。




「あうるーーー?」
「あ、ステラ!!このハゲをどかしてくれっ,重い!!」


会場に駆け込んできたステラの姿にアウルは安堵した顔。彼の背中にはアズラエルと大量の瓦礫がのしかかっていて、アウルはその重量に悲鳴を上げていた。だが、はげという単語に反応したアズラエルが瓦礫をはねのけてアウルを怒鳴りつけた。


「僕はハゲじゃありませんっ!!あ・・・・怒鳴ったらめまいが。はう・・・・」


再び倒れこまれ、その下敷きとなったアウルがまたもやわめく。


「ざけんなーーー!!怒鳴る前にどけよ!!このクソ馬鹿変態ハゲ!!・・・・ぐええええ、首絞めんな、本当に気絶してんのかよ!!死ぬ死ぬ死ぬってーーーーっ!!」
「アウル,死んじゃだめ〜〜〜〜!!おーまーえーーーーーっ!!」


ステラの怒りの回転蹴りで空高く蹴り上げられたアズラエルをアビーは感心したように見送る。


「あらぁいい飛びっぷり〜〜〜。表側にひっくり返っていたら明日は晴れるわね」


そこへシンたちが姿を見せた。


「アウル〜〜〜〜」
「生きてっか、このばかっ」
「瀕死・・・・。死ぬ・・・・」


たっく世話の焼ける、とぼやきながらも瓦礫をどかしてゆくシン。

「とりあえず、破壊されたものはあの隅に集積しておいてくれ。ルナマリア、けが人がいないか、見に行くぞ」
「了解」


ルナマリアや級友たちも集まってきて会場のあと片付けをはじめた。


「俺たちも手伝いに行こうか?」「ああ」
「そうだな」


先に駆け出したクロトをオルガが追う。
スティングも彼らの後に続きながらクロトの言葉をかみ締めていた。





どんなに一緒にいても。どんなに仲良くなっても。





アウルとステラの帰る所は一つ。
それはスティングやネオのいるロアノーク家。


「アウルもステラもオクレ兄さんの飯じゃないといやだって言ってたし」
「俺は飯炊きかよ」
「あはははっ」


笑うクロト。
やれやれとため息をついて笑うスティング。


苦笑する親友の顔にもしかしたらスティングの弟妹離れの日はそう遠くはないかなとオルガは安堵の笑みを浮かべた。








「部活入ったからにはしっかり、やれよ?」
「うー、今までとかわんねーよ」
「お魚、取れない・・・・。おなかすいた・・・・」

ロアノーク家の食卓で 茶碗を受け取りながらアウルはぶーたれた。
隣でステラが焼き魚と格闘している。あとでちゃんと骨をとってやから待ってろ、とステラに声をかけるとスティングは残りのご飯をよそっていく。


「ったく好きにやるって言って来た。こなけりや呪うってシャニの馬鹿が脅してきたから暇なときは出るけどさ。運動部の助っ人やめたら僕餓死するもんね」
「あんだけの弁当でたりーねーのかよ」


スティングはシンに茶碗を渡しながら苦笑すると受け取りながらシンもそうだよ、と同意した。


「お前の胃袋ブラックホールだね」
「うるせーーーー!!弁当の量はあれで良いんだよ。けどすぐ消化しちまうんだよ!!」
「やっぱりブラックホールじゃないかっ」
「うるせーーーーー!!」


テーブル越しにケンカを始めるアウルとシンだったが、今日ばかりはスティングは怒る気にはなれないでいた。ステラに魚の身をほぐしたやりながら穏やかに彼らのやり取りを見守る。



『大・丈・夫!帰る所はひとつなんだから』



クロトの言葉が反芻する。
ああ、そうだなとスティングは口元をほころばせた。


「ん?」


ふとこの場にいるはずの人物が一人いないことにきづいた。



「そういや、ネオの奴遅いな・・・・」





そのころ。
理事長室では。



「その駒待ったぁ!!」
「いー加減にしてくれたまえ、何時だと思っているんだい?」



同時刻。
ロック部。


「こんだけの金があれば!!」
「喜んでいるところ悪いですけど、お金は僕が預かります」
「えええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
「ミゲル先輩に任せるとろくなことに使われませんから」
「いーえーてるー」
「同感だね」








夜が更けてゆく。
シード学園は昼間の喧騒が嘘のように静かだった。








「こ、この駒はっ、やめて〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「いい加減にしてくれたまえ!!」



「うぉおおおおおおおっ!!」
「気に食わないからって暴れないでくださいっ」
「呪う?」
「この馬鹿を沈められるんだったらお願いしたいね」






・・・・一部を除いて。







あおーーん。
ワンワン。





そんな彼らをあざ笑う様にどこかで犬が吼えていた。















あとがき

ロック部編エピローグ。
なんか話が妙の方向に行きながら完結です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。

次回は・・・・アウル自身のいたずらで
アウルの身にとんでもないことがおこります。
ふざけんな!!・・・・の巻き。