「1位と2位がただいまゴールしましたぁっ!!おーい、映画研究会、どっちが先だったぁっ!?」 アウルとシンがゴールに転がり込むと同時に周囲の歓声がどっと上がり、放送部員のトールが興奮気味にレースの終了を告げた。 「・・・・」 「・・・・」 ゴールしたアウルとシンは互いに一言も発せず、ひたすら肩だけを上下させていた。 歓声がとても遠くに聞こえる。 体中のエネルギーをラストスパートに費やしたのだ。 当然だろう。 そこへゴール瞬間の映像を見ていたトールとミリアリアがマイク越しに高らかに結果を告げた。 「ただいま結果が出ました〜〜!!栄えある一位は・・・・」 |
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第14話 部対抗、アウル争奪戦 後編 |
選手達の待機所では先ほどのレースでチーム関係なく盛り上がりを見せていた。特にアウルとシンのデッドヒートは誰もが固唾を呑んで勝敗の行方を追っていた。そして彼等がゴールをしたときは皆手を叩いて彼等の敢闘を祝福したのだった。 「どっちが勝ったんだ?」 「今ビデオにてチェックしているみたいですよ・・・・あ、出たみたいです」 いつの間にやら放送席に盗聴器をしかけていたのか、盗聴用のイヤホンを付け、放送席を傍受しているニコル。よくまぁ平然と違法行為をやってのけるなと半ば呆れつつ、ラスティは答えを促した。 「で?」 「予想通りだったというかそうでなかったというか」 どっちにもとれる曖昧な答えだったが、ラスティはやっぱりなと肩をすくめて見せた。 「あの水頭?」 「そうです」 この障害物レースは体力がメインではあったが、ニコルの掴んだ情報では知力を試されるチェックポイントがあった。ニコルとしてはアウルはまずそこで引っかかると踏んでいたが、ラスティはアウルの悪運もあるからそれほどの問題ではないとの考えだった。ここはラスティの賭が勝ったと言えよう。 「次は知力だっけ?」 「はい。クイズ番組形式のクイズ合戦ですよ」 自分の出番ではないとあくびを噛み殺すラスティにニコルはにっこりと笑った。 「ちっくしょう・・・・。あと、ちょっ・・・・と、だったのに・・・・」 今だ息が整わないシンと同じように息を切らしているアウル。いつものように茶々を入れる余裕もなく、地べたに大の字になって大きく呼吸をしていた。 「負けっ・・・・てたまる、か・・・・っての」 今回かろうじて勝ったとはいえ、アウルとしてはこれほどシンに追いつめられるとは思っていなかったのだ。だからこそ今回のことは彼のプライドが許さなかった。アウルはそんな自分の心中をシンに悟らまいと、そして自分を鍛え直そうと秘かに決心を固めた。 「アウル、シン。おっつかれ〜〜〜」 「・・・・お疲れ様」 そこへルナマリアとステラがタオルとスポーツドリンクを手に彼等の方へとやってきた。ステラの姿にさっきまでへばっていた二人はがばっと起きあがると早速ステラのドリンクの奪い合いを展開した。 「ステラ・・・・一個しかもってない・・・・」 ステラが困った顔をすると今度はお互い譲れと言い合う。 「ステラのはぼ・くの!!お前はルナのもらえよ!」 「お前こそ何でそうなるんだよ!!」 「あんたら・・・・・」 自分をすっかり無視した二人の態度にルナマリアは怒りに震え、拳を握りしめた。アウルとシンの絶叫がシード学園中に響きわたったのはそれから一瞬後のことであった。 「第2ラウンド!!クイズ王けっていせーん!!」 トールの声が二ラウンド開幕の旨を告げた。 「とりあえず手強そうなのはニコル・アマルフィ・・・・。あとの二人は・・・・スポーツ系はルナマリア・ホーク。科学系とかはサイ・アーガイルね・・・・」 ぶつぶつと対策を練る、囲碁部代表のアビー。小型のパソコンを手にデータを凝視していた。 「クイズ選手権にでたことのあるアビー・ウインザーは要注意ですねぇ」 ニコルは事前のデータをそろえ、アビーをマーク。 「とりあえず、無難に・・・・」 やや弱気なサイ。 「シンの分、点数取りまくるわよ〜〜〜〜」 そしてルナマリアはクイズなら任せて、と大張り切りで会場へと向かっていた。 それを見送る恨みのこもった二対の瞳。 「あの鬼女、すっげー張り切ってる・・・・」 「オニババ・・・・」 意気揚々としたルナマリアの背中にあっちこっちにひっかき傷やたんこぶを作ったアウルとシンが異口同音に文句をつぶやいた。周囲の生徒達は好奇の目で彼等を見ると二人は殺気のこもった眼光で彼等を見返し、生徒達は慌てて視線をそらす。事の成り行きを見ていたフレイは呆れたようにそんな彼等を一瞥し、応援席に戻っていった。ちなみに応援席では失格したアスランがねちねちとキラにいじめられていた。 「アスラーン、君のせいで一回戦で失格だったじゃないかぁ。どうしてくれるの?」 「そうはいってもキラ、チャイコフスキーなんてむちゃくちゃだよ!!」 「要領が悪すぎるんだよ、なんでミゲルさんみたいに良い物引き当てなかったの?」 「無茶いわんでくれぇ、キラぁっ」 「ミリィにみっともない所見られたぜ・・・・」 「しっかりせんかー、腰抜けぇ!!そこで暗くなってどーする!?精一杯やったと胸を張れ、胸をっ!!」」 イザークはイザークでアスランにさえ負けなければそれで良かったらしく、しょげているディアッカに渇を入れていた。 さて再びクイズ会場。 アウル達のチームの代表は囲碁部部長、アビーだった。彼女は自信に満ちた瞳で前を見据えていた。ミゲル達のチームはニコル。ニコニコと愛想を振りまいていた。クロトの所の電脳部はサイが代表だった。 「あれ〜〜〜、2回戦は4チームだけですか?」 不満そうな声を上げるアズラエルにタリアは溜め息混じりに現状を告げた。 「あのような障害物競走をクリアできる方がすごいですわ」 『はい、はーい。今回のルールは早押しでーす♪』 突如司会に現れたピンクの人影に学園の会場が騒然となった。 ピンクのロングヘアー。 ブルーの瞳。 胸を強調した派手な衣装。 「ま、まさか・・・・」 「見間違いじゃねーよなっ」 ピンクの司会者はくるりと身を回転させ、にっこり笑って高らかに自らの名を告げた。 「プラントの歌姫の片割れ、ミーア・キャンベルでーすっ」 「ミーアちゃんだっ!!L・O・V・E!!ミーアちゃーん!!」 応援席から転がり出るようにヴィーノやアーサーが飛び出してきた。 もちろん選手席にいたミゲルやイライジャもだ。 皆そろってミーアコールを始め、会場は急遽コンサート並みの騒がしさとなった。突如現れたミーアに頭に疑問符を浮かべたアウルがうるさげに顔をしかめているシンの方を見やって問うた。 「なんだ、あのピンク女?」 「ミーア・キャンベルって言ってたじゃないか、聞いてなかったのかよ」 シンが大声で答える。 周りが騒然としているため、近くにいても大声でしゃべらなくてはならなかった。 アウルも負けずに怒鳴り返す。 「ンなの知ってるよ。だから何だっての?芸人?」 「ステラ、知らない」 ステラも知らないと首をふり、シンも一寸考えて答えた。 「俺もよく知らないけれどアイドル歌手らしいよ」 「ふーん。とりあえず胸はでっかいよな」 「お前、それしかねーのよ?」 シンは呆れたようにぼやいたが、その声は周囲の歓声に紛れ、アウルの耳に届かなかった。シンが視線をずらすとステラがやや憮然とした表情で自分の胸とミーアの胸を見比べているのが見えて、シンはステラの胸も負けてないんだけれど、これを言ったらセクハラかなぁと顔を紅くした。 『今回のゲストにミーア・キャンベルさんにおこしただきました。クイズの司会をなさってくれるそうです』 ミリアリアの紹介を受けてミーアは観衆に投げキッスを贈ると途端にミーアコールがいっそう大きくなり、グラウンド中に響き渡った。 『え〜〜〜〜かげんにせいっ!!いつまでたっても始まらないじゃないっ!いてこますど、コラァっ!!』 が、ぶち切れたミリアリアの一声で周囲はあっという間に静まり返った。 「グウゥレイトォ・・・・・さすがはミリィだぜ・・・・」 「何であんな女を野放しにしておくんだ・・・・」 心底感服しているディアッカの隣でイザークはまたもや絶望的な声を上げるのだった。 「皆さん、気を取り直して始めましょうか〜?えーとルールを説明しまーす」 一瞬真っ白になったミーアだったが、やはりプロはプロ。 すぐに立ち直るとミーアはてきぱきとルールを説明し始めた。 「早押しで答えていただきます。不正解なら点数分を没収。もし正解だったのなら〜」 ここでくるりと回転して回答者の方へと向き直って続けた。 「なんと任意のチームからその点数分を奪い取れちゃいま〜〜す!大逆転のチャンスデスよぉ〜〜〜。なお点数が0になったチームはぁ失格となりまーす!」 「えげつない対戦方法ですわね」 溜め息混じりにタリアがそうつぶやくと、デュランダルは困ったような笑みを浮かべた。 「だが、決着は付けやすいだろう」 「修羅場になりますわよ」 「そこがおもしろいんですよ!!」 拳を握って目をキラキラさせるアズラエルを呆れたような眼差しで一瞥するとタリアは大きく溜め息をついた。遅れてやってきたナタルはその様にアズラエルに人生をなかば預けたような自分は人生の道を誤ってしまったのかとやや後悔をし始めていた。 『第一問!!この曲をあててくださいっ!!』 曲がスタートした途端、ピンポーンとブザーが鳴った。 ニコルだ。 「チャイコフスキーのクルミ割り人形」 『正解です!!』 「俺の課題曲だったヤツだ」 「ちゃんっと覚えておこうね、アスラン」 アスランの呟きに早速キラのとげとげしい一言が突き刺さった。やめなさいよ、とフレイが止めなかったらアスランは多分泣かされていただろうと言うくらい、彼等の周囲の空気はとげとげしく、周囲の半径10メーターは誰も近寄ろうとしなかった。 「では点数の30点を囲碁部から」 「ぬわんですって〜〜〜〜!!」 晴れやかな笑顔で容赦なくそう告げるニコルをアビーはものすごい形相で睨み付けた。 にっこりと笑顔で受け流すニコル。 ルール通り囲碁部の点数は減り、ロック部に30点が追加された。 サイとルナマリアはホッとした表情を浮かべた。 「お、覚えていらっしゃい・・・・・」 アビーは歯ぎしりをして復讐を胸に誓った。 あとの二人は最早どうでも良くなっていた。 『えー次の問題。「エリゼ宮」はどこの国の大統領官邸?』 「ロシア!!」 ボタンを押すと同時にアビーが解答した。 『正解です。点数は・・・』 「ロック部からよ!!」 ロック部の点数が減り、囲碁部の点数が入った。 「へぇ。やるじゃないですか」 「ホホホ、勝負はこれからよ。身ぐるみ剥いで差し上げるわ」 「うふふふ、いつからそんなホラが吹けるようになったんです?」 「言ってくれるじゃない、ホホホホ」 「あなたほどじゃないですよ、ふふふふ」 「珍しく熱くなってるねー、ニコル」 ラスティは水を得た魚のように生き生きとした表情でクイズ合戦を見ていた。 ラスティはこういう奪い合いが大好きなのだった。 ミゲルはクイズがさっぱり分からんと頭をひねっていた。 アウルとシンもまた同様だった。 ステラはどちらでも良いらしく、ひたすらアビーを見つめていた。 そしてその後も。 ロック部と囲碁部の独断場は続き。 『アニメ「ムーミン」の主題歌「ムーミンのテーマ」の作詞者は誰?』 「井上ひさし!」 『ライオンタマリンという動物は何の仲間?』 「サル!!」 復讐に燃えるアビーはその後驚異的な粘りでロック部をねらい打ちし、 ロック部のニコルもまた同様にやり返していった。 「あたし達、忘れ去られてない?」 「・・・・・だよね」 ぽつんと残されたのはサイとルナマリア。 クイズ合戦の応酬をただぽかんと見守っていた。 そして。 『最後の問題!!これはなんと500点!!』 皆は身構えて問題の瞬間を待った。 「フフフ、この次でとどめを刺して差し上げます」 「ふん、その余裕ぶちこわしてあげるわ・・・・」 といっても殺気立っていたのはニコルとアビーであとの二人は蚊帳の外だったのだが。 『30年以上続いたアニメで最近声優の総入れ替えがあったアニメは!?』 「「え・・・・?」」 答えがまったく思い浮かばず、問題を聞いたまま固まるニコルとアビー。 ぴんぽーん・・・・。 そのとき申し訳なさそうに鳴ったブザーが一つ。 サイだった。 『はーい、電脳部さんっ』 ミーアの指名にサイはボソボソと自信なさそうに答えた。 「・・・・ドラえもん・・・・?」 『正解でーす!!』 ぱんぱかぱーんとファンファーレが鳴り響き、ミーアは正解を告げた。 『さあ、500点を奪い取る部を指名してくださいね〜〜〜〜』 「え・・・・・」 静まり返った会場にサイはきょろきょろと視線を落ち着かなく彷徨わせ、各チームのメンバーの顔を見やった。500点も取られてしまうと当然1チームは−となり、失格となってしまうか、優勝は絶望的になってしまう。これは半ば死刑宣告のようなものだった。 「他人を蹴落として上へと上がる。これも経験ですよぉ〜〜」 ニコニコとそうのたまうアズラエルにネオとナタルは性悪、とつぶやくのだった。 「・・・・えーと」 ニコルとアビーの表情を見てサイは凍り付いた。 ニコルはニコニコしていたが背後にダークなオーラを背負い、アビーは食いつかんばかりに彼を睨み付けていた。 サイはゆっくりと彼等から視線を外すと、申し訳なさそうにルナマリアの方を見やった。 「ごめん・・・・」 「良いですよ、センパイ」 溜め息混じりに頷くルナマリアに何度も頭を下げながらサイはテニス部、と告げた。 この瞬間、テニス部は失格。 3チームが決勝進出となった。 「ごめん」 「元気出せよ。負けたって良いよ、別に」 「そうだ、ここまでこれたのは正直言ってすごいと思うぞっ」 肩を落とすルナマリアの背中をばんばんと叩くカガリ。 アウルとシン、そしてステラも良くやったと彼女にそれぞれ敢闘の言葉を贈った。 「そ。相手が悪すぎたんだよ」 「ルナ、がんばったもの・・・・。・・・・元気、出して」 「ん・・・・」 みんなの言葉が聞いたのか、ルナはやっと顔を上げて笑った。 そして。 ルナマリアを心配して来ていたのか。 少し離れた所でレイが安心したような表情を浮かべていた。 2回戦を終えて戻ってきたニコルをロック部員達は彼の肩を叩いて敢闘を讃えたが、ニコルは勝負は終わってませんよ、とにこやかに笑った。 「次は運試し。カードゲームによる決着です」 「よーやく俺の出番だね」 思いっきり背伸びをしてラスティが立ち上がった。 「久し振りに生き生きしてきたみたいですね」 「だね〜〜〜〜」 久し振りにやる気を見せるラスティにニコルとシャニは珍しい物を見たように目をぱちぱちさせた。 「ようやく5月病が抜けてきたってヤツかなぁ。燃えるぜ」 「なげぇ5月病だったな」 「ま、6月のあの事件に便乗できてたらもっと早く抜けてたかもね」 苦笑混じりに自分を見送るミゲルにラスティはクスリと笑うと会場である体育館へと向かっていった。 「頑張れよ、ステラ」 「チームは違うけど、俺も応援しているからね!!」 互いを押しのけるようにステラに声をかけるアウルとシン。 「あたしの敵、とってねっ。ファイトォ!!」 「頑張れ」 チームは違え度応援の言葉を贈るルナマリアとカガリ。 そしてステラの先輩である、アビーはステラの手を握りしめた。 「健闘を祈りますわ、ステラ」 「うん、ありがとう。ステラ、頑張るね」 やや緊張した面持ちでステラはカードの列べられた席へと向かった。 席には電脳部のイライジャとロック部のラスティが既に待っていた。 そして第3ラウンドが始まった。 「勝負は運も大切だ。健闘を祈る」 「頑張ってね♪」 第3ラウンド責任者のバルドフェルドとアイシャがスタートを告げると早速ゲームがスタート。 最初はババ抜きだった。 ババ抜きはステラの得意な分野だった。 なんなく上がると後はラスティとイライジャの勝負を見守っていた。 「え、え〜〜と。今日の占いは最悪だったんだよな・・・。どっちが良いんだ?」 「はいはい。ここは男らしく、きめようぜ?」 残り2枚のカードで10分以上悩むイライジャをラスティは辛抱強く待った。 やがて意を決したイライジャがカードを引くと・・・・。 「バ、ババ・・・・・」 「残念だったわね、坊や」 肩を落とすイライジャの頭をアイシャが撫でると、サイとクロトが彼を迎えに来た。 「良くやった。相手が悪かったんだよ」 「そうそう。健・闘したんだからねっ!イライジャ、お疲れ!!」 「はい・・・・」 彼等に肩や背中を叩かれ、ねぎらいの言葉をかけられたイライジャはようやくホッとした表情を見せるのだった。 残り2チーム。 囲碁部のステラとロック部のラスティだった。 「ね、全部の点数賭けて一発勝負しない?」 早く勝負付くからと笑うラスティにステラは頷いた。 彼女もラスティも騒がしい会場は苦手だったからだ。 「種目はブラック・ジャック」 「・・・・?」 小首をかしげるステラにラステイは丁寧に説明をした。 「ディーラーとプレイヤーがいて、配られたカードを引いて21か21に近い数の合計のカードを持っていた方が勝ち。二人とも21だったら引き分け。2から9までのカードは、そのままの数字で数えて、10と絵札は10。エースは、1または11でプレイヤーにとって都合の良い方に取ると良いよ」 カードを配りながらラスティはステラを見てにこりと笑った。 ステラもつられて笑う。 「それとプレイヤーかディーラーが22以上となったら『バースト』といって自動的に相手側の勝ち。分かった?」 「うん」 「んじゃ、俺がディラーやるけど?いいかな?」 「うん」 真剣にカードを見つめるステラにラスティはにこやかにカードを配る。アウルとシンは固唾を呑んで勝負の行方を見つめた。 ステラの運とカンが勝つか。 ラスティの運と読みが勝つか。 恨みっこ無しの一発勝負だった。 「これは3・・・。もう一枚一枚・・・・8?」 ステラが次に引いたのはエース。 合計12。 あと一枚以上引かないと勝てない。 だが絵札を引いたら自動的に負けとなる。 ラスティも緊張した面持ちでカードを睨んでいた。 「もう一枚引く・・・」 「オーケー」 ラスティが頷くとステラはカードに手を伸ばした。 そしてカードが引かれた。 「・・・・・」 「・・・・・」 会場は静まり返り、ステラの反応を待った。 アウルは知らず知らずのうちにシンのシャツの裾を握りしめていた。 そしてシンもまたアウルのを。 ルナマリアは唇を噛みしめて行く末を見守り。 いつの間に側に来ていたレイも表情を変えることなく成り行きを見つめていた。 「・・・・あ・・・・」 息を吐き出したステラが見せたカードはジャック。 ・・・・絵札だった。 「バースト・・・・。俺の勝ち、だね」 ホッとラスティが息をつくと会場が沸き、アイシャがロック部の勝ちを告げた。 「ロック部、ラスティー・マッケンジーの勝ち!!おめでとう!!」 『これで全ての競技会は終了致しました。後ほど表彰を行いますので休憩を兼ねて20分後にグラウンドへお集まりください』 ミリアリアの放送に従い、生徒達は各々の場所へと戻っていった。 「アウル・・・・ごめん・・・なさい」 涙をためて謝るステラの頭を撫でながらアウルは必死に彼女を慰めた。 「馬鹿、泣くな・・・・。こういうこともあるって」 「でもステラ、アウルと一緒に部活したかった・・・・・」 「あ〜〜〜もうっ」 ボロボロ泣くステラに言葉に困ったアウルは腕を伸ばすとステラを抱き寄せて背中をとんとんと叩いてやった。スティングがいつもそうやってアウルやステラをなだめてきたように。 「あ、あ〜〜〜〜」 「今は邪魔をするな、シン」 「う〜〜〜〜」 「兄妹、なんだからな。今は」 「そうですわよ」 「そうそう」 アビーとカガリも同様に頷く。 兄妹、という言葉に弱いシン。口をぱくぱくさせて不満そうにアウルとステラを見やるシンを引き留めながらレイはふっと優しい笑みを浮かべ、お疲れとシンやルナマリア達にねぎらいの言葉をかけると、その言葉に表情を和らげたシンは大きく伸びをしてレイに向き直った。まだ不満そうではあったが、兄妹としてならと、敢えてアウルとステラを意識の外に置くことしているようだった。 「ま・・・ね。疲れたな。参加賞とかないのかよ」 「有る。今回は良い物を見れたとギルとアズラエル会長が功労会を予定している。参加賞も豪華だぞ」 「きゃー、らっきーーー」 レイは手を叩いて喜ぶルナマリアに微笑むとアウルとステラの邪魔をしないようにとシン達を外へと促した。 「優勝ですね〜〜〜。やっぱりラスティでしたね」 「これで資金と部員確保!!良くやった」 「ばんざ〜〜い・・・・」 口々にラスティを讃えるミゲル達にラスティは困った表情を向けた。 「あのさ、怒らないで聞いてもらいたいんだけど。・・・・特にシャニ」 「ん〜〜〜?」 シャニは顔を上げてラスティを見つめた。 怒らないでよ、となんども念を押しながらラスティは懐から一枚のカードを取り出し、言いづらそうに口を開いた。 「これ何か、分かる?」 「数字の9・・・ですね」 「だね〜〜〜〜〜って。・・・・ん?」 カードをのぞき込んだニコルがそう言うとシャニも同様に頷いて・・・・。そして止まり、紫の瞳がラスティを凝視した。ミゲルも思い当たったようにラスティを見やった。 「おい、確かステラ・ルーシェの合計は12だったよな・・・・」 「そ」 シャニの凝視を受け、ラスティは決まり悪そうに白状した。 「実は俺の負けだったんだ。20だったし。・・・・だからカードをすり替えた・・・・」 「・・・・イカサマ・・・・かよ」 「・・・・デスね」 ぽかんとするミゲル。 息を吐き出すニコル。 シャニは黙ってラスティを見ていた。 「カードってイカサマも有りでしょ。気付かなきゃね・・・・」 でも初心者相手には卑怯過ぎたかなと後悔してラスティは頭を掻いた。 ブラック・ジャックも知らない女子生徒に負けることはラスティの意地が許さなかった。が、頭が冷えてみるとやりすぎたという感は否めなかったのだ。 「いーよ、別に。勝ちは勝ちだし」 だがシャニはニッと笑うと歩き出した。 「でもステラ相手は今回限りだからね。今度やったら許さない」 アウルと同じ部なんてヤダしと今回だけは大目に見るよと付け加え、スタスタとグラウンドへと向かうシャニ。ラスティ達は顔を見合わせると彼の後を追うのだった。 太陽が紅く染まりかけていた。 数日後。 「・・・・・というわけで本日付で我が部員となったアウル・ニーダ、一年!!」 「かんげ〜〜〜〜い」 「・・・・・よろしく」 アウルは苦虫を噛みつぶしたような表情でミゲルの紹介を受けた。手を叩いて喜んでいるのかそうでないのか分からない声を上げるシャニ。クラッカーをならすラスティ。ニコルの手によってテーブルの上にはアウルの歓迎会が用意されていた。 「ちなみにジュースですからね。スティングセンパイとオルガセンパイから良く言い含められますから。歓迎しますよ、アウル」 ニコニコとアウルを歓迎するニコルに流石のアウルも表情が和らいだ。 そして同い年のラスティや穏和なニコルを少なからずも知っていたせいもあるのか、徐々にうち解けていった。 「お前さ、歌うまいんだって?」 「・・・・・・」 歓迎会の途中、とうとうつなラスティの言葉にアウルは思いっきりむせた。 「な、なんで・・・・」 「シャニセンパイから聞いた」 アウルがシャニをぎっと睨み付けると、シャニはにやにや笑いながら手をひらひらさせていた。アウルは人前ではまず歌わない。よほどのことがないと歌わないのだ。そして彼が歌えるのを知っているのはステラとシャニだけでスティングやネオでさえ知らなかった。 「良い声しているんだから・・・・。鍛えればいい物になると思う」 ビールを空けながらシャニは珍しくアウルを褒めた。 そして何よりも。 興味の無いものには見向きもしないシャニが彼を鍛えたいという意思表示を見せたのだ。その事はアウルにとっても。 そしてロック部にとっても愕くべき事だった。 コンコン。 その時部室のドアを叩く音がした。 ニコルが返事をして開けるとキラが。 そして続いてフレイ。 最後にロウ・ギュールと名乗る、蒼いバンダナをした少年がひょっこりと顔を出し、3人とも入部希望者だと言った。 あ、こんにちは、とにっこりと笑うキラにアウルは顔を引きつらせ。 フレイの姿にラスティは僅かに顔をしかめて見せた。 ニコルは蒼いバンダナの少年と自己紹介をし、ミゲルは大喜びで彼等を歓迎していた。 こうして。 アウル争奪戦でますます有名になったロック部は アウル争奪戦以前は部員部不足で悩んでいたのが突如4人ものの入部者を迎え、一気ににぎやかになったのだった。 「・・・・僕、いらねーじゃん?」 「だ〜〜〜〜め〜〜〜〜。にがさな〜〜〜い」 「折角同じ部になったんだから。仲良くしようよ、アウル」 「余計なお世話だっつーの!!」 やっぱり断れば良かったと、今更ながら激しく後悔するアウルであった。 |
あとがき 後編です。 ようやく終盤。 アウルら新入部員を加え、 ロック部はにぎやかになりました。 ロック部になったとはいえ、 アウルは多分運動部の助っ人はやめないでしょうね・・・・。 次でロック部編は一旦終了となります。 次回、騒ぎの後。 |