空は快晴。 雲ひとつなく、真っ青な空。 梅雨に入った夏にもかかわらず周囲を包む空気は、乾燥してひやりとしていた。穏やかな風が開け放たれた窓から入ってきては白いカーテンを静かに揺らす。夏に入り、すっかり衣替えを終えた教室には涼しげな白が目立ち、緑の濃い外ではセミが絶え間なくその生を謳歌していた。 夏にしては過ごし易いこの日は古典の朗読をしている教師の声は子守唄のようだ。良い風の入ってくる窓際の席でシン・アスカは己の眠気と格闘の真っ最中だった。少し離れた席のルナマリアは既に夢の中のようで鮮やかな紅を振り子のように揺らしていた。そんな彼女を見ていると眠気と必死に戦っている自分がひどく馬鹿らしく思えてくる。この分だと隣のクラスの蒼い頭も躊躇なく眠りこけているであろう。 シンは少しくらいならと黒紅を閉ざし、風の音に耳を傾けた。 風の音に混じって聞こえる起伏の少ない、古典の文章はシンの瞼をますます重くしてゆく。彼もやがてうつらうつらと夢の中をさ迷い始めたとき、不意に遠くから聞こえてきたかすかな爆音に彼は重い瞼を開けるとぼんやりと窓の外を見た。 遠い空の中で見えるは米粒のような黒い物体。 爆音をとどろかせ、それはやがてどんどん大きくなってゆく。 そしてその姿がはっきりしてきたとき、シンは瞳をしばたたかせてつぶやいた。 「・・ヘリ?演習か何かかな・・・」 シンのつぶやきのとおり、近づいてきているのは一機のヘリだった。 それも軍事用の大きなヘリだ。 このような市街地のど真ん中に来るとは演習か何かだろう。 すぐに通りすぎると予想してシンは再び目を閉じた。 だがヘリの爆音は遠ざかるどころか逆に大きくなって行き、どうやらこちらに下降を始めたようだ。予想もしなかったことにシンは目をむいた。 「ええっ!?マジかよっ!?」 他の生徒達もさすがに気づいたらしく、皆われ先と窓の傍に集まり、校庭を見下ろした。 当然もはや授業どころではない。 レイはいつもと変わらない表情で外を見やり、ヨウランはぽかんと口をあけ、降りてくるヘリを見ていた。ルナマリアを始めとする安眠を妨害された生徒達はやや不機嫌そうだ。 ほとんどの生徒達が注目する中、ヘリはゆっくりと校庭へと降りてくる。 そして大きな爆音とともにあたりの葉や土を飛ばし、そのヘリは黒い巨体を校庭のグランドへと着地させた。 「非常識だなぁ。何なのさ、いったい?」 2年のいる2階では貴重な睡眠を妨害され、ご立腹のラスティは腹立たしげに窓に寄りかかっていた。その隣で赤毛のクロトが濃いブルーを好奇心いっぱいに輝かせている。 「なんなんだ、あれはっ!?」 「ま、まさか・・・」 「あははは、すごいなぁっ!!私もああいうのに乗ってみたいぞっ!!」 その隣のクラスではアスランが驚きに身を乗り出して叫び、キラはそのヘリに見覚えがあるようで血の気を失った唇を震わせていた。そんな彼らの間でカガリだけが無邪気にはしゃいでいた。 「おいおいおい。勘弁してくれ。あのヘリに見覚えあんのは気のせいじゃねぇよな?」 3年の教室ではヘリを見るなりオルガが頭を抱えていた。 そのただならぬ様子にスティングはまたアズラエルが何かしでかしたのかと思ったが、彼の思考を呼んだかのようにシャニがぽつりと言った。 「・・あれ、おっさんのヘリじゃないよ」 なんで俺の思考が分かるんだよとスティングは不思議に思ったが、オルガが頭をかかえる理由として俺が考え付くことはアズラエルくらいしかないもんなと己を無理やり納得させた。 やがてヘリの爆音が収まると中から一人の少女が姿を現した。 まず目立ったのは燃えるような赤。 ルナマリアの紅とは違った、より炎に近い赤だった。 そして意志の強そうな紺青の大きな瞳に凛とした顔立ちをしていた。 予想通りの少女の姿にキラは震える声で何かをつぶやいていたが、周囲の喧騒にかき消されてしまっていた。 |
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第9話 お嬢様、襲来 |
多数の黒服を従えた少女が校庭に降り立ったとき、 教頭を務めるナタルが理事のネオとともに校舎から出てきた。 ナタルの表情からして怒り心頭のようだ。 校庭を荒らされた上に授業を妨害されたのだ。 彼女が怒るのも無理のないことだった。 「フレイ・アルスター!!本日の転入のことはきいていたが、 なんだ、これはっ!!」 「見ての通りヘリよ。それが何?」 フレイと呼ばれた少女はナタルの怒りを平然と受け流すと、 長くて紅い髪を掻き揚げた。 彼女の視線はもはや目の前のナタルにはなく、誰かを探すように校舎の窓から見下ろす生徒達に注がれていた。 そんな彼女の態度にナタルは更に怒りを募らせた。 ネオはその後ろで怖いねぇと肩をすくめるだけであって全くをもって役に立たない。 「ヘリで登校とは非常識だと思わないのかっ!? 原則的として遠方以外は徒歩だとわが高では決まっている!!」 「原則的として、でしょ?それにヘリで登校してはならないと校則になかったじゃない」 フレイはそう言ってめんどくささげにナタルを見やった。 彼女としてはさっさと校舎に入って目当ての人物を探したかったので、これ以上くだらない言い争いは無用と、彼女から折れることにした。 「ごめんなさい。もうヘリで登校しないわ。授業の邪魔になってしまうんでしょう?」 「?!わ、分かればいいのだ・・。以後、気をつけるように」 急に素直になったフレイにナタルは戸惑い気味に彼女を見やったが、謝罪して態度を改めた彼女にこれ以上怒りの矛先を向けることができなかった。 「もう行ってもいい?」 「まて。クラスの編夕手続きが終わっていないだろう?」 フレイを気遣うナタルに彼女は首をふった。 先ほどのふてぶてしい態度はどこにもなく、そこには一人の少女としての顔があった。頬を紅潮させ、期待に満ちた瞳をキラキラと輝かせている。 「そんなのどうだっていいの。会いたい人がいるクラスに行きたいのだから。手続きは済んでいるはずよ」 「「は・・?」」 ナタルとネオの声が見事にはハモった。 その頃。 キラのいる2年のクラスではパソコンをたたく音が響いていた。 その音は途切れることなく、滑らかでいてそしてせわしなかった。 まるでその指の持ち主の心中を表すかのように。 「何をやってるんだ、キラ」 ヘリから降りてきた少女を見るなり、鬼気迫る表情でパソコンに向かった幼馴染にアスランが心配そうに声をかけていた。 「は、はやく。何としても僕のクラスにならないようにしなくっちゃ」 だがアスランの声が届いていないかのようにキラは画面に向かったままだ。 ぶつぶつとしきりに何かをつぶやいている。 「こまりますねぇ、そんなことをされては」 間延びした声とともにキラのパソコンに手が伸び、強制的に彼のパソコンのスイッチを切ってしまった。 「あ〜〜」 悲痛な声を上げて、キラは振り返ってスイッチを切った張本人をにらみつけた。 「何するんですか、田中さん!!」 スパーーーン。 彼がそう言うが早く、その人物はどこからか取り出してきたハリセンで彼を思いっきりひっぱたたいた。 「おーまーえーはーなぁーー、円周率を20桁までいえる癖して俺の名前は覚えられないのか?あーーん?」 田中と呼ばれたその人物はキラをひっぱたたくと青筋をたて、分厚いめがねをかけた暑苦しい顔をキラのそれよりわずか数ミリのところまでせまった。暑苦しいからこれ以上近づかないでといわんばかりにキラは飛びのくと、思い出したように彼の本名を口にした。 「いやだなぁ、忘れるわけないじゃないですか。ダリダ・ローラハ・チャンドラU世さん〜。フレイがいつも田中って呼んでいたからそれが呼び名だと思っていたんですよ」 「フン、白々しいやつめ」 田中ことダリダ・ローラハ・チャンドラU世はめがねを押し上げてキラをにらみつけたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。 「にげるか?そうはいくか!!ふふん!お前をフレイ・アルスターにささげて、点数を稼ぎ、俺のお家再興の肥やしとなってもらう!!そしてその暁にはこの俺を田中呼ばわりをしてこき使ってくれた、あのクソ生意気な女をけっちょんけっちょんのケリケリ、ポイ!!としてやるのだ!!」 バックに炎をかかげ、拳を握り締めてそう誓う田中(仮名)をアスランはなんて腹黒いヤツだと呆れた。だがキラは半眼で薄笑いを浮かべ、ぼそりとこうつぶやいた。 「・・一生無理だと思うけど」 「なんか言ったか?」 数キロ先の悪口をも拾う地獄耳を持つ田中(仮名)はそんなキラをギロリとにらんだ。なんてことをと慌てるアスランに対してキラは冷静そのもので、ヘッと小馬鹿にした笑みを浮かべた。 「いいとこフレイの靴磨きじゃないの?」 「き、きさまぁっ!こういうときは『え〜、何もいってませんよぉ。気のせいでしょ、気・の・せい』というのがセオリーだろーがっ!!」 「どういうセオリーですか?」 自信満々にそう言ってのける田中(仮名)にさすがのアスランも呆れて大きく息を吐き出した。だが、田中(仮名)はそんな彼を無視し、大声でまくし立てた。 「俺はダリダ・ローラハ・チャンドラU世だぞっ!?由緒正しき家柄なんだっ!!アホ親父がトレーディング・カード集めで身代食いつぶしたりしなければ、今頃当主さまだぞ、わかってんのかっ!?」 「と、とれーでぃんぐ・かーど・・・?」 どうやったらそんなんで身代食いつぶせるのだろうかとアスランは心底悩んだ。だが思考は堂々巡りで答えは見つからない。 ・・・当たり前である。 そんなアスランをよそに田中(仮名)はますますヒートアップしていった。 「いつかあのアマ、下克上したる!!」 「何を下克上なの、田中?」 「はぅっ、馬鹿お・・じゃなかった、お嬢様!!」 そのとき背後に凛とした声が響き、田中(仮名)は文字通り飛び上がった。振り返るとフレイが冷ややかな視線を向けて立っており、その後ろには教室を案内してきたらしいカガリが物珍しそうにこちらを見ている。 田中(仮名)のさっきまでの威勢の良さはどこへやら。 彼は打って変わって、もみ手でフレイにヘコヘコしだした。 相変わらずの変わり身の早さだなぁとキラは素直に感心した。 だが、フレイは田中(仮名)を無視すると、躊躇なくキラに抱きついて微笑んだ。 「キラ、会いたかったわ」 その瞬間、おおっーーと言う声が教室に響いた。 そして覗きにきていた他のクラスの生徒達の中にはクロトやラスティ、ニコルの姿もあった。 「キラさんも隅におけませんね〜」 「やっぱフレイだ。転入してきたんだ、へえ」 ニコニコするニコルの横でクロトは懐かしそうに細い目を更に細めた。 「知り合いなの、アレと」 気に入らないものに対しては辛らつになるラスティはそんなクロトに冷めた面持ちでフレイを顎で指し示した。安眠を妨害されたラスティは早速フレイを気に入らないリストに入れてしまったらしい。そんなに怒んなくてもいいのにとクロトは苦笑した。 「家同士の付き合いで小学校が一緒だったんだ。そんなに長い時間一緒にいたわけじゃないけど」 「幼馴染、ってヤツですね。感動の再会じゃないですか」 「キラ以外興味ないみたいだけど?」 友好的なニコルとそうでないラスティの温度差はまるで春の陽光と極寒のブリザードの対比のようだった。コレはまた両極端になったなぁとクロトは感心した。でもキラもいる事だし、心配ないか。今は邪魔しない方がいいかな、と彼は今の時点では見物に撤することにした。 「あ、あのフレイ・・・。嬉しいけど・・・、その・・、恥ずかしいんだけど・・・」 キラはしどろもどろになりながら、ひっつくフレイを引き剥がそうとしたが、 どうも強く出れないでいた。一時期は崇拝するほど彼女に惚れ込んだ時期があったことはあったのだがフレイの思っていた以上の気の強さと強引なところで彼は少し苦手意識を持ってしまっていた。中学時代の彼女との日常を脳裏によみがえらせ、僕としてはゆっくりと時間を進めて青春していきたかったんだけどなぁとキラはフレイに腕を回したまま天井を仰いだ。 「久しぶりの再会だってのは分かってるからさ、そろそろ離れろよ。担任のアーサー先生が困っているぞ」 フレイをここに連れてきたカガリは驚きから立ち直るとさっそく生徒副会長らしいことを言った。彼女の言葉どおり、忘れ去られた感のあったクラス担任アーサー・トラインが泣き出しそうな面持ちでこちらを見ていた。 しっかりと胃を抑えているところみると、また例の胃痛だろうか? その姿にフレイは教師いじめは趣味ではないと言うようにカガリの言葉に素直に頷いた。 「分かったわ。わたし、キラの隣の窓際がいい」 「ええっ?」 フレイの言葉にその席にいたカズイ・バスカークが素っ頓狂の声を上げた。 自分が今座っている席なのだ、至極当然だろう。 「はっ。おい、お前。お嬢様がその席をご所望だ、どけ」 だがタリダこと田中(仮名)は恭しくフレイにお辞儀をすると、フレイに対する態度と打って変わって居丈高にカズイにそう命じた。 相変わらず変わり身が早いなぁとキラはあきれる。 当然、カズイは怒った。 「勝手なこと言うなっ!先生が示す空いている席へ行けよ!」 まっとうな意見なのだがそれがこの男に通用するわけがない。 そんなカズイの反抗に田中(仮名)はめんどくさげに舌打ちをした。 「ち、庶民め。金か?いくら欲しい?」 「ふざけんなっ!!」 あまりの言葉にプライドを傷つけられたカズイは怒りのあまり席を立ち上がって彼に詰め寄った。 当たり前の反応だな、とアスランが傍で頷いている。 田中(仮名)の行動は明らかに彼の騎士道精神に反していた。 カズイは田中(仮名)の目の前に来ると怒りにみちた表情で彼をにらみつけた。 「金持ちだからってなめんなよ!! たとえ札束で横っ面を張られようと僕は・・・!」 スパーン。 「えへへ〜。どうぞ、どうぞ。なんなら座布団もお付けしますが〜」 言葉どおり札束で横っ面を張られたカズイはさっきまでの威勢のよさまで一緒に吹き飛ばされてしまったのか ヘコヘコと席を譲った。 これも人間として当然のことかもしれない。 「・・・そういうものなのか・・・?」 そいうものなのです、生徒会長どの。 「よろしくね、キラ」 「う、うん・・・」 空いた席に優雅に腰をかけ、にこりと微笑むフレイに これでいいのだろうかとキラはぎこちない笑みを返した。 そのうち騒ぎは収まったのかと他の生徒達も徐々に席に戻っていく。 だが収まらないのはアーサーの方だった。 存在を無視された上、勝手に席を決められたのだ。 しかも彼の生徒を追い出して。 このことがセンパイのタリアに知られたら・・・と彼女の鬼の形相を思い浮かべ、彼は身震いをした。 ここはびしっと注意をしよう。 波風立てないように。 よし、そうしようと判断したアーサーはフレイの元へ行った。 「フレイ・アルスター。君がこのクラスに転入の話は聞いていたけれど、勝手に席を決めてはいけないよ。物事にはルールというものが」 「でもわたし、キラの傍がいいんです。 ずっと離れ離れでやっと父から許しをもらってこの学校にこれたのよ? これくらい多めに見てくれたっていいじゃない」 そういって悲しそうに目を伏せるフレイにアーサーは自分が悪者になった気がして視線をさ迷わせる。だがここはびしっと言わないとタリアが怖かった。 「でもね、君・・」 「お嬢様は2年近くかけてだんな様を説得したんだぞ!!それを引き離そうとするなんてアンタは鬼か!!」 チャンドラU世こと田中(仮名)の野次を筆頭にいつの間にか出現した黒服たちが同様にアーサーに対して野次を飛ばしはじめる。 「そーだ、そーだ!!」 「引っ込め、タレ目〜!!」 「鬼畜〜!!」 「可愛そうだと思わないのか、健気だと思わないのか!?」 「アンタの心臓は氷か!?鉄か!?」 「アンタの母さんはそんな冷たい男に育てた覚えはないと泣いているぞ!!」 「え、えええええええ〜〜〜〜っ!?」 突然の非難の嵐にアーサーは目を白黒させた。 同時に気の弱い彼の胃は今にも破裂しそうだった。 そして止めといわんばかりに黒服たちは一斉に彼を指差し、こう叫んだ。 『この人でなしっ!!!』 「え、えええええええ〜〜〜〜〜っ!?」 ボクってもしかしてとんでもない悪人・・・? 彼らの言葉にすっかりと洗脳され、自分がとんでもない悪人になったような気がしたアーサーは頭を抑えて目と口をOの字にして固まった。 脳裏に故郷で泣く母親の姿が思い浮かぶ。 彼はヨロヨロと2,3歩後じさってへたり込んだ。 私はなんて悪人だったんだと泣きべそをかいている。 ここまでやらんでいいだろうと生徒達が呆れる中、アーサーは泣きべそをかきながら立ち上がるとすまない、私が間違っていた、好きに座りたまえと フレイの肩をたたき、教壇に戻っていった。 「先生のお許しももらったし、これからよろしくね」 「う、うん・・・」 嬉しそうにキラの手を取るフレイにこれからの生活は波乱満ちたものになる予感がしてキラは更にぎこちない笑みを浮かべるのであった。 きんこーんかーんこーん。 「みなさん、ただいまからお昼の放送をお送りします。お送りしますは放送部員ミリアリア・ハウと」 「トール・ケーニヒです」 昼休みの鐘がなり、生徒達は待ってましたとばかりそれぞれの行動に出た。 机を寄せて弁当を広げる者。 仲間と連れ立って外に行く者。 パンを買いに行く者。 皆おしゃべりをしながらにぎやかに過ごしている。 その間の放送では音楽が流れ、それに合わせてトールとミリアリアが連絡事項を告げていた。 そのとき、ふいにがたんという音がスピーカーから流れ、生徒達は何事かとスピーカーを見上げた。 「ちょっと、やめてください!ミゲル先輩!!」 「いーじゃんか、ケチケチすんなよ」 トールの狼狽した声にかぶるようにミゲルの声が響き渡った。 「元気かみなの衆!!俺はミゲル!!ミゲル・アイマン!!」 その頃3年のクラスでイザークがその声に怒りもあらわに青筋を立てて怒鳴り散らしていた。 「ミゲルだとぉ!!あいつ午前中姿がなかっただろう!!今までどこにいたぁっ!!」 「昼休み直前に登校したらしぜ、アイツ」 怒髪天をつく勢いのルームメイトをなだめようと試みたディアッカだったが、彼の言葉は逆にイザークの怒りに油を注いだようなものだった。 「なんだと〜!重役出勤してこの悪ふざけかっ!!」 怒り狂うイザークだったが、その間もミゲルはマイペースに話を続けていた。 「・・というわけでロックは華だ!!魂の揺さぶりだ!!このミゲル様率いるロック部ではただいま部員を募集中だ。 我こそはというヤツは来い!!今ならこの俺の直筆サイン入りCDを・・」 「いーかげんにしなさい!!」 「ぐはあっ!!」 ミリアリアの怒鳴り声と共にとてつもない反響音がスーピーカーから流れ出した。そして奥で拳で殴りつける音ともに彼女の怒りの声が響いた。 「神聖な放送を手続きなしで勧誘の場にするなんて!!しかもあんたのせいでトールが肘をすりむいちゃったじゃないの!!この外道!!放送部の敵!!人類の敵〜!!」 「・・じょ、嬢ちゃん、たいしたパンチだぜ。どうだい、ロック部のマネージャーでも・・・」 「まだ言うか〜〜〜!!」 悲鳴と地鳴りがスピーカーから絶え間なく流れ、周囲の生徒達はぽかんと成り行きを聞いていた。そのなかでトールの慌てた声が放送の終了を告げた。 「え〜、すいません。本日の放送はここまでにさせていただきます。・・やめろよ、ミリィ!」 「こいつが、こいつがぁああああっ!!」 ぶつっ、放送は唐突に途切れ、あたりは静かになる。 生徒はしばらく呆然としていたが、やがて各々の行動を再開させた。 スピーカーを見上げたまま、惚れ惚れとした表情でディアッカがつぶやいた。 「グゥレイト・・・。さすがはミリィだぜ・・・」 「うちの学校はあんな女しかいないのか・・・」 そしてその隣で額を押さえて絶望の声を上げるイザークがいた。 「いっただきま〜す」 屋上で元気のいい声が風に流れる。 天気がいいこともあって、そこではなじみのメンバー達が弁当を広げていた。 なじみのメンバー達とはアウル、ステラ、スティングらロアノーク家とシン。 そしてオルガ、シャニ、クロトらアズラエル家3兄弟。更にアウルたちの友人達である、レイ、ルナマリア、ヴィーノ、ヨウラン。なぜか中等部のメイリンの姿もあった。 「へーえ、んな事あったんだ」 スティング手製のドカ弁をほおばりながらアウルは大きな蒼い瞳を見開いた。 「あんだけの騒ぎで何で気がつかなかったんだよ」 シンはアウルより2回りは小さい弁当を手に不思議そうな顔をした。 アウルは悪びれた様子もなく、弁当を掻き込む合間に少し考える仕草をして答えた。 「ん〜?気づいたら昼休みだった」 「・・・寝ていたのか」 やれやれと言わんばかりにレイが小さく息をつく。シンはシンであの馬鹿騒ぎの中で熟睡をしていられるなんてなんて図太い神経だと呆れてものが言えなかった。 「でもなんか凄かったわよね〜。あの転入生」 ルナマリアがそうつぶやくと、ヴィーノは箸を止めて目を輝かせた。 「すっごい美人だったよねぇ〜。優雅なお嬢様って感じで。彼氏とかいるのかなぁ」 「いい加減夢ばかり見るのやめろ」 そんなヴィーノにヨウランの辛らつな言葉が跳ぶと、なにさーとヴィーノは口を尖らせた。だがそれに止めを刺すようにオルガが箸を動かしながら口を開いた。 「その兄ちゃんのいうとおりだ。アイツには関わらねぇ方はいいぜ」 「オルガ?」 皆にお茶を配っていたスティングが彼を見やると、オルガは顔をあげた。その顔には苦渋の色がにじみ出ている。 「あいつはとんでものねぇ、ワガママじゃじゃ馬だよ。 下手に関わったらひでぇめにあうことを保障するぜ」 「・・転校してきた人、知ってるの?」 シャニとアウルの間に座っていたステラが問う。 ちなみにこの配置はじゃんけんで決まったものだ。敗者となったシンとクロトはその近くに座っている。レイはシンの隣、ルナマリアはレイの隣でその近くにヴィーノとヨウランがいる。メイリンはアウルの隣にぴたりと寄り添っていた。 「おっさんのとこに来たばかりの時、同じ小学校だったんだ。 一人娘だからとアルスターのおっさんに頼まれてオルガが面倒を見ていたね。ボクも良く遊んだけど。そんなにわがままだったかなぁ」 そう言ったのはクロト。 ちなみにシャニは彼女を覚えていないそうだ。 「オッサンに次ぐ胃痛の種だったよ、アイツは」 「その割には面倒見ていたよね」 「ほっぽっておけるか!」 オルガらしいやと皆が微笑む。 「知り合いならもう挨拶されたんですか」 おとなしく話を聞いていたメイリンがそう問うとクロトは首を振った。 「全・然!フレイのヤツ、キラに夢中だったからね。 キラと知り合いだったなんて知らなかったなぁ」 「ふーん」 アウルは興味なさそうに弁当をほおばる。 彼の弁当箱の中身はほとんど消えかけていたが、玉子焼きは手付かずだった。それに目をつけたルナマリアが箸を伸ばすものの、寸前のところでアウルの箸に阻まれた。 「おい・・・」 アウルがジト目で彼女をにらみつけると、ルナまりは口をへの字に曲げて自分の弁当箱から今日のメインを取り出した。 「なによ、けち!いいわよ、このピーマンの肉詰めあげるから」 ピーマンの存在にアウルはこめかみを引くつかせて、ルナをにらみつけた。 「てめぇ、なめてんのか?」 「え〜?あんたの好きな肉よ?」 「ピーマンがくっついている時点で食いモンじゃねぇっての!!」 ぎゃあぎゃあけんかをする隣でステラとシャニが仲良くおかずの交換をしていた。 「・・ステラ。コレ、約束の鱈のミリン付け」 「・・・ありがとう。これ、玉子焼き」 シャニは差し出されたステラの箸からひょいと玉子焼きを口に入れると、おいしいと微笑んだ。つられてステラも微笑む。それをアウルとシンがあっけに取られた様子で見ていた。たっぷり数分固まったと、我に返ると二人して一斉に怒り出した。 「シャニ!!てめぇ、何どさくさにまぎれてステラの箸からもの食ってんだっ!!」 「そうだよっ!!なんてうらやましい・・じゃなかった、ずうずうしい!!」 「うざい・・・」 そんな二人を心底うんざりしたように彼らを見やり、彼はお構いなしにステラのほうに擦り寄った。ステラはその状況を理解できず、頭上に疑問符を浮かばせている。だが大胆不敵な宣戦布告ともいえるシャニの行動ににアウルとシンの怒りは同時に臨界点を突破した。 「んだとこコラァ!!滅・殺!!」 「天・誅!!」 「ボクの十八番使わないでよ」 クロトの抗議を無視して一人対二人の乱闘が始った。 その様に私が食べさせてあげてもいいのになぁとメイリンがつぶやいたが、シャニを抹殺しようと躍起になっているアウルの耳には届かなかった。 「やめんかぁ!!」 「飯くらい静かに食え!!」 騒々しい空気にこの場の年長者たるオルガとスティングの怒声が響き渡る。 新しい生徒を迎え、微妙な恋模様の空気を漂わせつつも、シード学園は今日も平和だった。 |
あとがき フレイさん、転入してまいりました。 どちらかというと田中(仮名)ことちゃんドラ2世が出張ってしまいました。 フレイは転入したばかりでまだおとなしいですが、これから出張ってくると思います。 どんなフレイにしようかと迷いましたが、SEED前半のわがままフレイ寄りにしました。でも彼女が純粋にキラが好きな事もあり、アニメのようなことはありえないので、このSSオリジナルのフレイかもしれません。 チャンドラ2世さんには悪いのですが、イロモノキャラになっていただきました。 この二人をどうかよろしくお願いします。 次回ミゲルたちの部員探しが始ります。 どうなるやら・・。 ロック部の部員集め・・・の巻・・。 |