ある日の休日。
中間試験を終え、久しぶりのデートで
アウルとステラは雑踏を避けて一息を付くために喫茶店に立寄った。
窓辺の席からは忙しく行き交う人々が見える。
穏やかな秋晴れの日は絶好の行楽日和なのだろう。
家族連れやカップルが多かった。
みんなして考えることは同じかと頬杖をついてその光景を見ていると
じっとメニューを見ていたステラが不意にアウルの袖を引っ張った。


「ね・・・・、アウル」
「あん?」

メニューは決まったのかとステラを見やると、
彼女の視線は店の奥のほうに注がれていた。
何か気に入ったものを見つけたのか、菫色の瞳をきらきらさせ、
頬を上気させている。
そしてアウルのほうへと目を戻すと、
店の奥に向かい合わせで座っていた一組のカップルを指差した。


「ステラ・・・ね。あれやりたい」
「あれって・・・・ぶっ!」


ステラの示す方へと視線を向けると視界に飛び込んできたのは
アウルにとっては世にも恥ずかしい光景。
カップルは仲良さげに顔がくっつくかと思われるほど顔を寄せ合っている。
まるで世界でお互いしか見えないとでも言うように熱心に。
そしてそんな彼らの間にはカップルが二人して分け合って飲むものなのかと
思われる大きな入れ物に入ったドリンク。
ソーダかと思われる蒼い蒼いドリンクの上に彩りのフルーツと
細かい氷がひしめき合い、二本のストローがさしてあった。
その光景がとてもうらやましく映るのか、ステラは哀願の表情をアウルへと向ける。

「・・・・だめ・・・・?」
「恥ずかしいじゃねーか、あんなの!」

どうしてもそのカップルと同じことをしたいステラは
口元を押さえて真っ赤になるアウルになおも食い下がる。


「でもステラ、やりたい。あの人たち・・・・幸せそう・・・・・」


ステラだってアウルと一緒にいて幸せなのに何故出来ないの?

寂しげにメニューへと視線を落とすステラ。
開かれたページにカップルや家族向けと謳った先ほどのドリンクがあった。
しばらくそのメニューとステラにちらちらと落ち着き無く目をやっていたアウルだが、
やがて降参したように手をあげた。


「わーったよ!!その蒼い奴でいーんだなっ」


とたんステラの表情が輝く。


「本当?」
「ああ。こうなりゃなんでもやってやるよ。そこのおねーさん、あの二人と同じものちょーだい」


傍を通りかかったウェイトレスを呼び止め、アウルは先ほどのカップル親指で指し示してと伝えると、その方向をちらりと見やったウェイトレスは合点が言ったようにうなずいた。


「あれですか?分かりました、すぐお持ちいたします。ストローは2本でいいですよね?うふふふ」


ウェイトレスは目を細めて笑うとカウンターの方へと消えた。
アウルとしては顔から火が出るほど恥ずかしかったが、
期待に満ちたステラの笑顔にまあいいかと思い直す。
たまにはこんな少女マンガじみたシチュエーションもいいだろう。
実際自分たちがやっていることもそんなものなのだ。



今日のようなデートや
毎日一緒に通う学校。
手をつないだり。
キスをしたり。
抱き合ったり。
時には派手にけんかをして、
派手に仲直りをする。

そんな、毎日。


















日常は非日常

〜〜少女マンガもたまにはいいのかもしれない〜〜〜


















「お待たせしました」
「わぁ・・・・」


テーブルまで持ってこられたドリンクに
ステラは目を輝かせるといそいそと二本のストローを差した。
一本は自分の。
二本目はアウルのほうへと。
だがアウルはやっぱり恥ずかしいのか、口をつけようとせず。
頬杖を付いたままドリンクを横目に見るだけ。
それを往生際が悪いと不満に思ったステラが上目遣いで彼を軽く睨んだ。


「・・・・アウル。一緒に飲むって言った」
「・・・・だから」
「アウル」

自分の方へと差し出されたストローに頼んだだけで飲むと入っていないといいかけた言葉を飲み込み。
アウルは観念したようにストローを口に含んだ。
そして向かいに座るステラも頬をピンク色に染め、同じように自分のを口に含む。

甘いくて爽やかな甘みと共に
ソーダのシュワシュワ感が舌を刺激する。

この甘い感覚が好きなのかよ、ステラ。
それとも女というのがこんなのが好きなんだろうか。
ステラが喜ぶならと乗せられている自分も自分だけれど。

そんなことを考えているとステラと目が合った。
いつもならこれくらいの距離でアウルは照れるとかはないのだが、
どうも今は照れくさい。
直視できずに目を伏せると、こつんとおでこがあたった。
そんなに距離が近かったのかと顔を上げると
今度は自分の唇にステラのが触れた。





それはほんの一瞬のことで。




我に返るとステラはもう離れていてニコニコとストローに口をつけていた。


「おまっ、なにを・・・・っ!!」


頬を真っ赤に染めて怒るアウルを怖がるどころか愛おしいという眼差しをステラは向ける。


「アウル、可愛い・・・・。ネオが言ってたとおり・・・・」
「ねお?」


ネオ、という名にアウルは眉をひそめた。
ネオ・ロアノークはアウルたちのクラスの担任のことだ。
いつも飄々としていて生徒を困らせるのが生きがいらしく、
授業よりその事に一所懸命に
なっている不良教師。
ステラは何かと彼になついていてアウルとしては気に食わない奴リストのトップに名を連ねる男。
そのことを露知らず、ステラは得意げに笑った。


「うん、ネオがね。たまにはステラからしてあげなさいって。エヘヘ」
「・・・・っ」


ステラに恥ずかしいこと教えやがって。
あのエロ親父、絶対いつか殺す。
そう思いながらも火照った頬をどうすることも出来ず、
アウルはひたすらドリンクを啜った。
そしてその向かいでステラは幸せそうに同じドリンクを啜る。



まるで少女マンガやドラマのような一瞬。
でもそれは日常で実際にちゃんと存在するもので。
それは意図したものであったしても。
意図しなかったものであっても。
一見何事も無いような日常にみえても。
その中でドラマは確かに存在する。



それは恋愛だったり。
喜劇だったり。
武勇伝だったり。
あるいは悲劇だったり、実に多くある。





「そう。そういう、ものなのだよ。君がドラマを作りたいのはわかるが、もう少し・・・・」
「ふぁあああ。もう帰ってもいいですか、デュランダル理事長?」
「ロアノーク先生、君は説教されている自覚はあるのかね?」






ま、これも何気にドラマの一コマなのだ。




















あとがき

日記に書くショートSSがつもりが長くなってこの形に。
リク作品の同じ世界観の中でのアウステ学園パロ第2弾。
ちょとステアウはいってましたね。
ステラ、小悪魔風味(笑)