君は人形。 僕に生かされ、僕の傍でしか生きていけない、憐れな人形。 君の瞳は僕を見るためだけにあればいいんだ。 君の唇は僕の名を呼ぶためだけにあればいいんだ。 君の体は僕に抱かれるためだけにあればいいんだ――。 心なんていらない。 君が僕の傍にいて、他の誰のものになりさえしなければ、それでいいよ――。 ねぇ、僕を見て。 僕だけを、見て。 僕、だけを。 照明の落とされた部屋で月明かりだけが部屋を照らし出している。その月明かりの中に浮かび上がるアーシェの白い体はぞっとするほど美しかった。情事の激しさを物語るかのように所々に咲く紅い花。僕がつけた痕。アーシェが僕のモノだという、しるし。 「ほんと、君って浅ましいね。動物みたいだよ。僕もたまには君なんか抱かないで眠りたいよ」 冷笑交じりのつぶやきに僕を映すアーシェの蒼が揺れた。ああ悲しいんだろうかそれとも怒っているんだろうか。涙の痕の目尻からは怒りなど感じられなかったから、前者と判断する……彼女の深い海色が哀しみに曇るたびに僕は昏い喜びを見出すんだ。シーツの上に流れる銀髪を一房すくって口付けた。柔らかくて、綺麗な髪。これももう僕のもの。 「……本当に綺麗な髪、だね……」 今度は甘く、あやすようにささやくとアーシェはゆっくりと瞬きを繰り返し、喜びと戸惑いの入り混じった複雑な表情を浮かべた。その裏に見え隠れする、期待。 何を期待しているの? そんなアーシェが面白くて、憎くて。 生じる、衝動。 「淫乱のお姫様にはふさわしくないかもね。いっそ切ってしまおうか?」 「……!」 とたん、緊張の緩みかけたアーシェの顔がこわばった。 おなじみのパターンだというのに彼女は懲りる様子がなくてなお面白い。 『セイジュのような男にだまされないから』 そう言い放ったはずの彼女は今はどうだろう。女が喜びそうな甘い台詞にだまされ、喜ぶ。 ああなんて馬鹿なんだろう。 そのたびに僕はそんな彼女を再びどん底に突き落とす言葉を吐く。 とげと毒のこもった響きで。 そして決まってアーシェはまるで裏切られたかのように傷ついた顔をするんだ……傷つけたのは彼女のほうだという、のに。 アーシェ。 かつては僕を拒絶し、半身の元へと去っていった少女。 好きだった。愛していた。 レニなんかよりも僕のほうがずっと、ずっと。 つらかった。苦しかった。憎かった。 今のアーシェはその記憶はない。 それが余計憎い。 ……けれど。 「冗談だよ。そんな面倒なことはしないよ」 「ああ……っ」 何の前触れもなく、いきなり彼女の中に僕を挿入した。 けれど彼女の体は先ほどまでの熱が残っていて、たやすく僕を迎え入れる。僕はそのままアーシェを気遣うことなく、自分の欲望のまま彼女を荒々しく突き上げていった――体を揺さぶるように激しく。その荒々しささえ快楽なのかアーシェは甘い声を上げて僕にしがみついてくる。 馬鹿なアーシェ。 僕のお人形。 壊れてしまえ。 壊れた人形なんて誰も見向きもしないだろう。そうすればこの世で彼女を気にかけるのは僕だけになるのだから。 目の前の少女はかつて僕を拒んだ愛しい少女。 あれだけ僕を傷つけたのに。苦しめたのに。 何事もなかったかのように僕を忘れて、生意気とも言える態度に何度、憎しみを覚えたことか。 ……けれど。 それでもなお彼女を求めてしまう。 愛しくてならない、傍におきたいと心と身体が叫ぶ。 だから甘い言葉と毒で彼女を僕に縛り付ける。 「君はこの世で僕だけを頼りにすればいいんだよ」 君は僕の人形。 誰にも触れさせない。傷つけさせない。 君に触れてもいいのは。 君を傷つけてもいいのは僕だけ。この僕だけ。 「セ……イジュ……」 うわごとのように僕を呼ぶアーシェの声に我に返る。 同時に僕は胸の奥に滞っている息苦しさの存在を思い出した。 妙な息苦しさ。 いつもいつもの僕の中で存在し続けるこの苦しさはなんだろう。 アーシェをいいように扱っても気は晴れない。 苦しい、まま。 胸を蝕んでゆく、アーシェを壊したいという昏い想いと胸の奥で存在し続けるこの息苦しさ。 ねぇ、アーシェ。 僕のお人形さん、君は……いつかこの苦しさをわかってくれる? 開放してくれる? 僕が本当に君を壊してしまう前に。 あとがき サイト初の乙女ゲーム小説。セイジュ編。愛憎編・純愛編ともにゲーム中の彼は切なかったです。でも駄々っ子のようにアーシェをほしがるセイジュがかわいくて かわいくて。これからプレイされる方もした方もどうか彼を幸せにしてあげてください。管理人からのお願いでもあります。 |