『リスナーのみんな、こんばんは〜。ミーアちゃんで〜すっ。
今日もたっくさんのお便りアリガト〜。今夜も張り切っていっちゃおうー』

ラジオからアイドル、ミーア・キャンベルの元気な声が流れる。
ステラはラクスやルナマリアと共にそのおしゃべりに耳を傾けていた。

彼女たちは今、ラクスのいる孤児院に集まってのパジャマパーティだった。
とはいってもパーティーと言った派手な物が出来るはずはなくで、
女性陣パジャマで集まってのおしゃべり。
だが残念なことにメイリンは夜勤、ミリアリアは取材。
ミーアはご覧の通り、仕事だった。


『え〜となになに?「ミーアさん、こんにちは。いつも楽しく聞いています」きゃーうれしい、ありがとうね』


ご機嫌に続けるミーア。

『「今結婚一年目です。結婚した彼は当初とても優しかったのに今は冷たいです。
愛しているとさえ言ってくれません。
男の人って皆そういう物でしょうか?」・・・・何コレ、あてつ
け?』


一瞬険しい声色になったミーアにクスクス忍び笑いを漏らすラクスとルナマリアだったが、
ステラは意味が分からなかったのかきょとんとしていた。
ミーアはその後直ぐに生放送だったと言うことを思い出したらしく、
プロ根性で直ぐに気を取り直して後を続けた。

『人間いつもベタベタばかりしていられない物なの。これも一種の通過儀礼よ。
自己主張ばかりしないで一歩下がって彼を立ててあげたらいいんじゃないかな?
甘えてばかりいちゃ駄目だよ』

ミーアは昔の自分に想いを馳せるように一言一言大事に言葉を選んでいるようで。
それはリスナーに対してだけではなく、自分にも向けられているようでもあった。

『彼だってあなたとの生活のために頑張っているんだから、
励ましてあげたり優しくしてあげて。
まずはあなたが愛情を示して彼を癒してあげようね。
彼もきっとそれに気付いてくれるはずだよ、頑張って。
お便り、ありがとう!んじゃ、次ー』

そして努めて明るく締めくくった彼女に強くなったものですねとラクスは満足そうな笑みを浮かべた。
ラクスを名乗ることで自分を保っていた彼女。
今では彼女はミーア・キャンベルとして自分の道を歩き始めていた。
このラジオ番組を受け持ったのも自分の生き方を見つけるためだとも言っていた。
そのように続けられていくトークにステラ達は耳を傾けながら、各々の近況に華を咲かせた。

「シンったらねー、私が新隊員の教官になるって聞いた途端、不満そうな顔して行くなよって言うのよ。
上からの命令だから仕方ないじゃない」
「どうして行くなと仰ったのですか?」

ラクスが小首をかしげて問うとステラも同様に頷いた。
教官とは先生のことだと二人は理解している。
それはとても名誉なことのはずが、何故シンは快く思わないのか二人は不思議だった。
ルナマリアはホットミルクをすすりながらそんな二人に順序立てて説明をした。

「新隊員の教官って3ヶ月丸々拘束されるのよ。何も知らないひよっこ達に基礎をたたき込むのよ?
3ヶ月でも足りない位なのに早々遊びに出られなくなるってわけ」
「まあ」
「そう決まったら一旦プラントに戻るから、当然めったに会えなくなるだろうし・・・・。
下手をすれば3ヶ月ずっと会えなくなるかもって」
「・・・・シン、さびしい・・・・」

哀しそうにつぶやくステラにルナマリアは困ったような笑みを浮かべた。

「そりゃそうかもしれないけど・・・・。連絡を取り合う手段はいくらでもあるし・・・。
会おうと想えば会えるわよ」

アイツにそれだけの根性が有ればね、と付け加えて。

「大丈夫です。もう流され続けた彼ではないのですから。
彼からあなたに会いに行きますわ。わたくしが保証致します」

ラクスが何故そこまで確信めいたことを言えるのだろうかとステラとルナマリアは目をしばたたかせたが、
ラクスはそれ以上その事に触れず、少し寂しそうに微笑んだ。

「皆さんは良い方向へと向かって行ってるようですわね・・・・。
わたくしはそんなあなた達が羨ましい」










いつだってマイ・ダーリン

ふぁんたむ・ぺいんへようこそ












『ねえ、ステラ。あんたのとこはどーなの?ここ1年変わった?』


ルナマリアに話題を振られてもステラは応えることが出来ずにいた。
アウルは変わったのだろうか、昔と比べて。
今まで特に意識したことはなく、改めて聞かれると返答に窮した。
結局答えることが出来ず、ステラは自宅に戻ってきていた。




それから数日は仕事や生活に忙しく、その事はすっかり忘れていた。
そして再びやってきた休日。

定休日と言うことで当然ながら客の姿はない。
がらんとした店内はステラ達3人しかおらず、
つけっぱなしとなっているテレビの音とコーヒーのサイフォンの音だけが響いている。
スティングは喫茶店のカウンターでコーヒーのサイフォンとにらめっこ。
アウルは空調の効いた客席でクッキーを口にしながら雑誌に目をやっていた。
ステラはふと数日前のことを思い出し、アウルの方へと目をやった。

彼はここ数年間で変わっただろうか?

背丈や肩幅は大きくなったのだけれど、
ステラの大好きな蒼い髪や瞳はそのままで。


あの戦争から2年。
ここに落ち着いてまもなく1年がたとうとしている。


ステラの視線に気付いたアウルが彼女においでおいでと手招きをした。
何のようだろうかとステラは桜色の瞳をしばたたかせると彼の隣に座った。

「はい、あーん」

するとアウルはステラの口元にクッキーを刺しだし、食べろと促した。
差し出されたクッキーに疑問符を浮かべながらも口にくわえ、
少しずつかみ砕いていくと、ほのかな甘みとアーモンドの香りが口に広がってゆく。

「・・・おいしい」
「んー、よしよし」

ステラが食べるのを見届けるとまた雑誌に戻っていくアウル。



『何見てンだよ、ボケ』


蒼い軍服を着た水色の少年がステラの脳裏に一瞬浮かび、消えた。
戦中の彼同じ場面でも同じ反応と言うことはなく、
気の向くままにその表情を変え、本心は不鮮明で分からなかった。

いつも強いはずの彼は本当は一番弱くて。
自分の居場所を切に求めている人と分かったのは大分後のこと。

『アウル』

存在のない者。
その名に抗うように他を傷つけることで彼は自分の存在を誇示し続けた。
それはとても、とても哀しい事だったのだけれど。
彼は他の方法を知らなかったから。

だから教えてあげればいいのですと一人の女性は言った。

あなたが寂しいとき。
哀しいとき。
あなたはどうしてもらいたいと思いますか?
あなたがしてもらいたいことを彼にしてあげるのですわ。


彼が寂しがっていると感じたら。
彼が哀しいと泣いていたのなら。
大丈夫。
あなたは一人じゃないといって抱きしめてあげなさいと。
彼の心の痛みを見つめて受け止めてあげなさいと。


そうすれば彼もきっと・・・・。


彼女は、ラクス・クラインはそう言って微笑んだ。
それは2年前のこと。




ステラが頭を預けるとアウルはどうしたんだよと笑った。

『うっとーしー』

悪態をついて彼女を押しのけていたはずの彼は彼女を抱き寄せると大事そうにステラの髪に唇を落とす。


「アウル、すき」
「ん?」

小さな呟きをアウルが聞き取れないでいるとにステラは今度ははっきりとくり返した。


「すき」
「・・・・っ」


口に手を当てて、頬を染めるアウルの顔をのぞき込むとステラは問うた。


「ステラのこと、好き?」
「な・・・・な・・・・」


唐突すぎる質問にアウルはますます顔を紅くし、
カウンターにいるスティングもぽかんと成り行きを見ていた。
二人の動揺などまるで意識していないのか、ステラは真剣な表情で質問をくり返した。

「好き?」
「いきなりなんなんだよっ!?この馬鹿っ!!」

流石に恥ずかしさに耐えきれなくなったアウルはおもむろに立ち上がると
そのまま急ぎ足で居住区に消えていった。
残されたステラが哀しげにスティングを見やると、
スティングは苦笑混じりに彼女の横に座った。

「アウル・・・・怒ったの・・・・?どうして・・・・?」

ステラのこと、嫌いなの?と訴える妹分の頭を撫でてやりながら
スティングは困ったように笑った。

「アイツは照れるとああいう風にして逃げることしか知らねぇんだよ」
「照れる・・・?」

ステラは彼の言わんとしていることが分からず、大きな目をぱちぱちさせた。
スティングは頷くとクックッと喉を鳴らして笑った。
金色の瞳を僅かに細め、昔のことに想いを馳せる。

「気持をもてあましたり、どうしようもなくなったときは怒って逃げるのが、
アイツの昔からの常套手段だったからな」
「怒る・・・・」

ステラが昔のことを思い起こしてみればアウルは怒ってばかりいたような気がした。
悪いコトした覚えのないのにアウルは怒っていることもあって。
顔を紅くしたまま怒鳴ったり、部屋を飛び出していったり。
それは彼が『照れていた』のだったとしたら・・・・?

少しだけアウルの不可解な反応の理由が分かったような気がして、
ステラはスティングを見上げると彼は眉尻を下げて彼女の頭を撫でた。

「あんまりアウルをいじめんなよ?」
「ステラ、いじめてないもん」

ステラはぷうと頬をふくらませてスティングを見返した。
彼女としては純粋にアウルに気持を伝えて同じ言葉を返してもらいたかっただけなのだ。
さすがのアウルもそんな彼女には敵わないのだろう。
今も昔も。




「アウル・・・・?」
「うわっ、ななななんだよっ」


アウルの部屋をのぞき込むとベットで寝ころんでいたアウルががばっとその身を起こした。
まるで敵の襲撃にあったかのように身構える彼にステラは首をかしげた。

ステラはアウルが大好きなだけ。

傍にいてもらいたい。
抱きしめてもらいたい。
好きだよ、と言ってもらいたい。

だからステラはアウルにそうするの。

「ステラ・・・・ね。アウルのこと大好き」
「分かってるって」
「前だっていつだって好き」
「・・・・」

アウルは傍にいてくれた。
守ってくれていた。
愛していてくれたとステラが気付くのにすごくすごく時間が掛かったけれど。
大好きなのは変わらなかったと思うの。
好き、の性質が変わったとしても。

アウルの傍によるとステラは彼に腕を回して胸に顔を埋めた。
緊張しているのか少し早い鼓動。



『ま、俺たちは確かに昔とは違う。けど、お前のことに関してはあいつは変わっちゃいねーよ。ただ』

スティングはコーヒーのサイフォンをのぞき込みながら続けた。

『素直になっただけだよ、大分な』


触れようとするとネコのように全身の毛を逆立ててその手を拒否してきたアウル。
でも誰よりも暖かさを欲していたのは彼自身で。
受け入れてしまったらそれから抜け出せなくなるのを恐れて背を向けていた。
明日さえも見えなかったあの日。
ぬくもりを知ってしまったらそこで終わってしまうと思っていたから。
でも、今は。


私達はこうして生きている。


「いつだって大好き」
「・・・・ばーか」

細いけれど、ステラより大きな腕が彼女に回される。
暖かい、アウルの体温が少しずつステラに浸透してゆく。

「どんくらい・・・・。長く片思いしていたと思ってンだよ」

僕がさ、と耳元でアウルが囁いた言葉。
顔を上げたくてもきつく抱きすくめられて出来なかったけれど。
彼の声の震えが伝わってくる。

「好きじゃ足んないくらいだっての」
「うん」

こう言うときはどういうんだったのかなぁ?
あ・・・・。
そういえばシンがルナに言っていた。
その言葉を言ってあげればいい。

「愛してる」

そうつぶやくとアウルは苦笑混じりにこう言った。

「お前、その意味分かってンの?」
「分かってる・・・・よ?」
「馬鹿のクセして何処で覚えたんだか」

アウルの「馬鹿」には沢山の意味がある。
全てを読みとる事は出来ないけれど。

「僕も・・・・愛してる」
「うん」

とぎれとぎれにつぶやくと、大仕事をしたかのようにアウルは大きく息をついた。
天の邪鬼として生きてきた彼にとって想いを口にすることはとてもとても難儀なこと。
それを一生懸命言葉にしてくれた、彼なりの愛情表現。

これ以上はまだアウルにとっては重荷なのかもしれない。
アウルの腕の中に身をゆだねながら、
ルナマリアから教わった『ダーリン』を使うのはもう少し先にしておこうとステラは思った。










あとがき


久し振りのパラレル。
宣言とは違ってまたアウステになりましたが・・・。
これをきっかけにアウステがバカップルになってくれればいい(笑)
ここまで読んでくださってありがとうございました。