手を触れて


「スティングー、バスケしようぜ!バスケ」


アウルがばたばたと部屋に飛び込んできたのはステラがスティングに本を読んでもらっていたとき。


「アウル、お前あれほど廊下を走るな、とこの間言われたばかりじゃねーか」
「堅いこと言いっこなし!やろうぜ!」


眉間にしわを寄せるスティングを意に介する様子もなく、アウルは歯を見せて笑う。
彼が話を聞かないことはいつものことなのだが、スティングは溜め息をついた。

 

「オレは今ステラに本を読んでやってるんだよ、見て分からねぇか?」
「それはそれ。これはこれ。やろうぜ〜、な〜」
「ネオに相手をしてもらえ」

「なんか難しい顔して会議中なんだよ、オーブの変なヤツと」


アウルはそう言うと口をとがらせた。
最近設置されたバスケットのゴールポストがアウルは嬉しくて
仕方ないようで、暇さえあればバスケをやっている。

だが周囲の人間に敬遠されているアウルの
バスケ相手といえばスティングや上官であるネオだけだった。



「そんなの知るか。今はだめだ」
「ぶーぶー。スティングのいけずー。M字ハゲー」
「誰がハゲだ!!」


そう言いながらもスティングは無意識に己の生え際に手をやる。


クソ、何がハゲだ。



ん?待てよ?そういやぁ昨夜の風呂で抜け毛が多かったような気がする・・。


昨夜のことが脳裏に浮かび、アウルに対する怒りが沸々と沸いてきた。


・・・・誰のせいだと思ってんだよ。
俺がはげたら、アウル、てめぇのその跳ねっ毛を一本残らずむしってやる。


そんなスティングの心境など露知らず、アウルはなおもしつこく気下がる。



「スティングー」
「やかましい!!」
「・・ステラ、好いよ」


一向にあきらめようとしないアウルをスティングが一喝すると、隣のステラが読んでいた本を
ぱたんと閉じてそう言った。



「ステラ、お前」
「やりぃ!行こうぜ、スティング!!」


ステラの気が変わらないうちに、とアウルはスティングの袖をつかんで部屋から引っ張り出そうと
する。だが、彼は彼女の次の言葉でその場に凍り付いた。
そしてそんな彼に袖を引っぱられたままのスティングもまた。

 

 

 

「ステラもやる」

 

 

 

「嫌だね!お前、ルール知らねーじゃん。それにお前危なっかしいし!!」

「とんでもない!転んで足をくじいたらどうする!!」


硬直が解けると異口同音にステラを思いとどまらせようとする二人だったが、ステラは

珍しく自分の意志を曲げようとしなかった。


「ルール教えて?アウルとスティングと一緒に遊びたい」

 

 

 

「で、この線から出たらスローインな。分かった?」

「うん。分かった」

 

結局折れた二人がステラをつれてきたのはデッキの上にあるゴールポストの前。

アウルの説明を熱心に聞くステラ。


「んじゃ、復習。まずは基本のシュート。初心者のお前にも扱い易いシュートじゃねーかな。
あ、でもシュートの際、そのフォームと手首に注意しろよ?んで、こうする」


アウルはそう言うとボールをワンバウンドさせ、綺麗なフォームでふわりと舞上った。手首のスナップを
きかせると、ボールはアウルの手から離れ、綺麗な弧を描きながらゴールポストへと吸い込まれて
いった。


「アウル、すごい!!」


目を輝かせて頬を紅潮させるステラにアウルはふっと笑った。

ボールを放って寄越し、シュートするよう促す。



「まーね。お前もやってみ?姿勢と手首に注意してうまく狙えよ」
「がんばれ、ステラ」
「うんっ!!」


少し離れて見物するスティングの声を背に、ステラは嬉しそうにボールを受け取った。

そして力を目一杯込めて投げた。

当然かすりもしない。

ボールはゴールポスト手間で落下し、地面にワンバウンドして転がった。


「腕に力入れすぎ。手首のスナップを使えよ、ほら」


アウルはそういってまたボールを渡す。


「う、うん」


だが、今度はポストに当たって有らぬ方向へととんだ。


「・・・・」
「どーすんの?続けんの?」


黙るステラにアウルはボールをバウンドさせながら問いかける。


「・・・やる」


「へえ」


ステラの真摯な意志のこもった声にアウルは眉の片尻をあげた。
そして口元にかすかな笑みを浮かべて、彼女の後ろに回る。


「コツがあんだよ。狙うのはゴールポストの中じゃなくて、その後ろのバックボードな。
ゴールを取り付けている板が見えるだろ?」
「うん」
「肩の力を抜いて、手はボールに添えるように。・・そうそう」


ステラの腕に手を添えながらアウルは続ける。


「んで腕が伸びきったとき、右手首を返してボールを放る」


手を重ねて、アウルの呼吸に合わせてステラはボールを持ち上げた。
戦闘や訓練でいつも一緒だったから、彼のタイミングならつかめる。
感覚に忠実にステラはボールを手放した。


「お・・!好いコースだ」


スティングの呟きに応えるかのようにボールは綺麗な弧を描き、
バックボードに軽く当たると、ゴールに入っていった。


「アウル・・!!」


ステラは嬉しくてたまらないと言うように、その笑顔を向ける。


・・・いつもこんな風なら良かったのに。


いつもと違って生気の宿った瞳にアウルはこの余興も悪くないと思った。




「アウル・・?」
「あ、ああ。今度は自分でやってみ」
「うん!!」



こうしてステラの練習は夕方近くまで続いた。


シュート練習のあとにスティングも加わり、オフェンスとディフェンスに別れ、
練習は更に続いた。

時間を忘れ、バスケに熱中する三人。

辺りはもう人はいなかった。


そして日も暮れかけたとき、ステイングが自分の腕時計に目をやる。


「おい、そろそろ食堂が閉まるぜ?」
「げ、やべ。ステラ、急ぐぞ!」
「うん!」


アウルは軍服を掴むと、開いている片方の手の方でステラの手をとって走り出す。

そのすぐ後をスティングが追う。




運動をしたせいか、重ねた互いの手の平は少し汗ばんでいた。


でも。



でも何故かそれが少しも不快に感じられず。
互いのぬくもりがとてもとても心地よかった。

















あとがき



当初より話変わっちゃいましたが。
バスケをよく知りません。すみません。描写下手で。
コツとか知っていらっしゃる方、アドバイスお願いします。
修正します(笑)


バスケで遊ぶアウルとスティングの描写が
アニメでありましたが、ステラもいたら一緒に、だといい。
いつまでも3人で。




2005.5.2.初出
2005.9.25.改訂



    

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