アウステ&シンルナ
in 高校生パラレル
賑やかな町のクリスマス風景。
オーソドックスなクリスマスソングから最近のヒットソングといった歌声がにぎわう町に流れ、
町に施されたきらびやかな飾り付けが行き交わす人々の心を浮き足立たせる。
寒いのもなんのその、周囲は明るく活気付いていた。
そう、年に一度のクリスマスなのだから。
そんな雑踏を歩く、目立つ人影が4つ。
淡い水色と金。色彩のはっきりとした黒と赤紫。
仲の良さそうな4人が快活な笑い声を上げて人ごみを縫うように歩いている。
先を歩いていたルナマリアがふとある店のショーウインドウの前へと立ち止まると、紺青をキラキラさせて中のショーケースを覗き込んだ。カップルらしく腕を組んだアウルとステラも何事かと覗き込むと鼻っ面を押し付けた子犬と目が合う。
「ねーねーこの子かわいー」
「・・・・うん」
犬かぁ、僕は猫派なんだけどなという呟きを胸のうちに押し隠し、アウルは相槌を打ち、傍らから覗き込んだシンはまるでその子犬に挑戦するかのようにじーっとその子犬の目を覗き込む。子犬は何故そのような目で睨まれなくてはならないのかと目を瞬かせると、ウィンドウから目を離して背を向けてしまった。
「ふっ、勝った・・・・・」
「あんた子犬に何ガン飛ばしてんのよ!!!」
得意げに胸をそらすシンの後頭部にルナマリアの平手がクリーンヒットした。後ろ頭にものすごい衝撃を受け、目をチカチカさせるシンをまた始まったかという目でアウルは見た。だがステラがあんまり心配そうにしているのでどうも面白く無い。
「だって先輩、さっきから俺はほったらかしじゃないかぁ」
シンは頭を抑えてうずくまったまま恨めしげにルナマリアを見上げる。ルナマリアとアウルは同学年でクラスメイト。ステラとシンは同学年でやはりクラスメイト。幼馴染のアウルとステラを通して知り合った二人だったが、恋人と呼ぶにはまだ程遠く。男というよりはまるっきり弟扱いされているシンだった。
そんなシンは自分より犬がかまわれて途方も無く気に食わなかったらしい。
「だから悪いのは先輩とあの子犬!!」
「だからってあの子にケンカ売ることないじゃない」
無理矢理ルナマリアと子犬に責任転嫁をし、自分を構えとまで言い出す始末。
さすが、責任転嫁はシン・アスカのお家芸だぜとアウルは誰とも無くぼやく。
「俺だってアウルやステラのようにおそろいのものが欲しかったっ」
そして今度はアウルとステラのマフラーを指差して駄々までこねだした。
アウルとステラのマフラーはステラの編んだもので淡い水色のがアウル。淡いピンクのがステラ。
去年のバレンタイン用に編んだセーターとは違い、今回はちゃんとクリスマスプレゼントに間に合ったらしい。
あまりの子供っぽさに呆れたがその感情と同時に沸き起こるシンに対する申し訳なささにルナマリアは視線を虚空にさまよわせた。自分は手芸は苦手のうえ、そういうのをプレゼントするのは性に合わないのだ。そもそも男ってそういうものが苦手だと聞いた。まぁ、目の前のパステル調の二人は違うみたいだが。
それに。
あたしたちはまだ付き合い始めたばかりだし、お試し期間でしょーが。
少し腹が立ち、思わずぶっきらぼうな口調になる。
「あたしはそういうのが苦手なの!じゃあいっそあんたが編んだらぁ?」
「・・・・」
口から出たでまかせだったはずなのに口を閉ざして真剣に考え込むシンに本気なのかと叫びだしそうになった。
とんでもない、男の編んだものなんて。
ルナマリアは本気でそうしかねないシンに先ほどの自分の言葉を撤回しようと躍起になった。
「バレンタインまで待ってよ!編んだげるから、それくらい」
「やった!」
ガッツボーズをするシンにうまく乗せられた気もしないでもないが、ニコニコと満面の笑顔のシンを見て頑張ってみるかという気になる。
あたしだって女なのだから出来ないはずはないのよ、・・・・・多分。
ステラにでも教えてももらおうかしらとステラの方を見やると分かっているとステラが頷く。
ステラの隣で揶揄するように目を三日月にしているアウルにアイアンクローを食らわせてやりたかったが、ステラの前ではそうはいかない。
アウルを鋭く睨むと、ルナマリアは彼に向かって言葉を形作った。
『あ・と・で・覚・え・て・お・き・な・さ・い』
『や・な・こ・っ・た』
同じように無音で返された返事にルナマリアは顔をしかめたが、すぐに思いなおして顔を上げた。
こうなったらやり遂げればいいのだ。成せば、成る。そういうこと。
そんなときするりと手のひらに冷たい手がすべりんできて、その感触にルナマリアが驚いて声を上げた。
目線をあげると、笑顔のシンと目が合う。
「あんた、手ぇつめたっ」
「別にいーじゃないか。手が冷たい人って心があったかいって言うからさ」
「真顔で言う事?」
「真面目に言ってるから」
すまし顔でキザな事を言ってのけるシンがなんか心憎くてルナマリアは手を伸ばして彼の鼻をつまんだ。
「ひててて、んあにふんだよ、ルゥフナぁ!!!」
不意打ちで自分の名を呼ばれて思わず手を離すと、シンは紅くなった鼻を必死になでた。
でも片方はルナの手を握ったまま。普段から呼ばれている『先輩』になれすぎていて、名前で呼ばれたのがとても恥ずかしくて、くすぐったくて。
「あんた、初めてあたしの名前読んだ」
「ふぇ?」
ルナマリアのつぶやきにシンはから手を離してルナマリアを見やった。
ルナマリアも彼を見返してさらに繰り返す。
「ルナ、ってよんだでしょ」
「ごめん・・・・」
「怒ってないの。付き合ってんだからな名前で呼んでくれたほうがうれしいじゃない」
「あ・・・・うん・・・・」
照れ笑いを浮かべるシンが可愛く思えて思わず抱きしめたくなってけれど、ルナマリアはあえてとどまった。
まだまだもう少し。お試し期間が終わってから。
そう言い聞かせるとルナマリアはシンの手を握り返し、微笑んだ。
「ほらほら行くわよー」
「ちょっと待ってくれよ」
ぐいぐい引っ張られ、シンが引きずられるようにしてついてゆく様子をアウルとステラがクスクス笑いながら見守った。
そのとき冷たい風が彼らの間を横切り、アウルはその冷たさに体を震わせて、マフラーに顔を埋める。自分の片腕に腕を回していたステラが寒いとつぶやき、アウルの体温で暖を取ろうと彼の腕にしがみついた。
「俺らもあんな感じだったなぁ」
アウルが昔を懐かしむ言葉にステラは小首を傾け、記憶をたどる。
「・・・そう?」
「引っ張って引っ張られてそんな感じ」
昔のようにはしゃぐとは無くなったかもとアウルは付け足す。
相手の反応に一喜一憂して、恋の駆け引きを楽しんでいたあの頃。
そう遠くない過去のはずなのに何故かはるか昔のように感じた。
そして。
時折見る夢。
いつも同じ軍服をはおい、海風の中でつかず、はなれずいた。
恋かどうか自分でも分からなくて傍にいるだけでいてくれるだけで自分を満足させていた。
でもいじめるのがとても楽しくて気持ちは自由だった。
「そのほうがいい?」
アウルは自分を見上げるすみれ色にうなずき、そして首を振った。
どちらか判断つかずにステラが困った顔を見せるとアウルはにんまりと笑った。
「確かに楽しいと思ったけど不安も強かったし?かといって早々素直になれるほど僕は出来ちゃぁいなかった」
幼馴染という関係に満足していて。
でもどこかもの足りなくて。
そう思っていても自分からその関係を変えられ程の勇気も自信もなく、心地いい空気さえ失うかもしれないという怖さがあった。
夢の中の自分もやっぱり寂しくて失いたくなくて。
何かと彼女の気持ちをひきつけようと躍起になっていた。
「そう・・・・かな」
そう見えなかったよ、というステラに当然とアウルはすまし顔になる。
そう見えないようにしてきたもんね、と。
ぎゅううと。
ステラの腕に力が篭る。
不安に揺れた視線が涼しげな斜め上の視線と絡み合う。
「それで?結局・・・・どっちがいいの?」
「言わずもがな、だろ?」
今のほうがいいって。
幸せなんだから当たり前じゃん。
アウルの言葉に頬を染め、ステラは笑顔でアウルの肩に頬を寄せた。
アウルもステラの髪に唇を寄せる。
じゃれあっていたばかりいた片思い同士の日々を懐かしくあっても胸の高鳴りは消えたわけではない。
不安も消えたわけではない。
それでもちょっと過去を懐かしむ事があるのは人としての性というが、わがままというか。
「一種のノロケってヤツ?」
幸福に酔う。
そんな感じが一番近い。
「あんたらぁ、何道の真ん中でべたべたしてんのよ、早く来なさいよ。周りが迷惑そうよ?!」
「アウルのアホー、人を待たせんなよ!!」
お騒がせカップルの声でアウルとステラは我に返った。
シンとルナマリアの言葉通り、周囲の目が痛かった。
一瞬とはいえ、周囲を忘れていた自分たちが恥ずかしくなってアウルは慌ててステラを促したが、まだ彼女は夢から覚めていないかのように頬を上気させたままうなずいた。自分の頬もまだ熱くて、ひやりとした冬の空気が心地よく感じられる。アウルはポケットから手を出すとステラの手を握り、二人を待つシンたちの元へと急いだ。
あとがき
現代パラレル。もう一つの可能性。
実はこれ、以前書いた本編沿いの輪廻回帰のお話「RefrainLove」や「冬日和」と繋がってます。
分かりづらくてごめんなさい(汗)
シンとステラは同級生。
アウルとルナマリアはシンたちより一個上で同級生です。
生まれ変わっても一緒。
理想です(笑)
ここまで読んでくださってありがとうございました。
メリークリスマス!!