Merry Christmas!!
私立シード学園
アウシンステ+シャニ














「わぁ・・・・星が綺麗・・・・」


闇の中でも分かるほどの白い息を吐き出してステラは夜空を見上げた。
宝石箱をひっくり返したように散らばる星の海。
ちらちらと瞬く白い光。
淡く輝く青い灯。
キラキラ。キラキラと。
冬の澄んだ空気でそれらの輝きが一段と増す。


「ステラぁ、ちゃんと前見て歩けよ。転んでもしんねーぞ」
「そうだよ、気をつけて」


空に魅入ったまま歩き続けるステラの後ろを歩いていたアウルとシンがそんな彼女を心配して声をかけるが、帰ってくるのは生返事ばかり。彼女が手にしているサンドイッチは無事に済むだろうかとアウルはひそかに心配だったりする。


冬も本格化して先週初雪が降った。
毎日のようにに降り続ける雪はやがて町を真っ白なな銀世界へと変え、空気をも凍らせる寒気が土地を覆った。
足元の雪もところどころ凍りついていて危険だというのに、前を歩く少女はそれを一向に気にする様子も無く、大丈夫だろうかとアウルとシンは心配げな面持ちで彼女の背中を見つめた。


「きゃ・・・・」


そして案の定。
つるつるとした路面を踏んでしまい、少女はバランスを崩した。
両手とかたっぽの足を宙に上げたまま、仰向けに重力に引っ張られる。
サンドイッチの包みが宙を舞う。
少女の声に、少年二人ははじかれたように地を蹴った。


「せ・・・セーフ・・・・」
「よかった・・・・ぁ・・・・」


一瞬の静寂の後、
アウルとシンは肺から安堵のため息を大きく吐き出した。
ステラの右腕をアウルが。
もうか片方をシンが抱え。
ステラは背中と頭を地面に強打することなく無事に彼らの腕の中に納まっていた。


「ほら言わんこっちゃない」
「そうだよ」


珍しく意見のあった二人にステラは眉尻を下げてごめんなさい、と小さくつぶやいた。
あまりにも星が綺麗で目を離すのがなんかもったいなくて。
そんな彼女にアウルとシンは困ったように視線を交わす。


「今夜はずっと晴れているだろうから後で落ち着いてみようよ」
「付き合うぜ」


しょんぼりしていたのが、その言葉を聞いたとたんに笑顔になるステラに二人は現金だなと笑ってゆっくりと立ち上がった。
シンと一緒に丁寧に雪を払い落としてやりながらアウルはステラの持っていたサンドイッチの存在を思い出した。
確かステラと一緒に宙を飛んだから・・・・もはや原形をとどめていないかもと残念そうに周囲に視線を走らせる。
だが、落ちた筈のサンドイッチの包みは見つからず、どこに行ったのかときょろきょろと辺りを見回した。


「あうる・・・・?どうしたの・・・・?」
「サンドイッチ・・・・」
「探しもの・・・・これ・・・・?」


アウルがステラの言葉に答える前に背後からかかった声に3人が振り返ると、片手をポケットに突っ込んだまま、もう一方でサンドイッチを抱えたシャニがいた。隠れていないほうの紫が穏やかな光を称えて彼らに注がれている。
空中に投げ出された包みをちょうど通りかかったシャニがうまい具合に受け止めてくれていたらしかった。サンドイッチの無事を知り、安堵の息をつくアウルにシャニは感心したように紫の瞳を細めた。
た。


「・・・・サンドイッチよりステラを優先したから合格。とくにアウル。そうでなかったらこれ・・・・俺が踏んづけていた」


ステラに包みを手渡しながらながらシャニが珍しく純粋な笑みを浮かべて見せると、馬鹿にすんなとアウルがむくれ。シンはその傍らで懸命に笑いをこらえていた。



「それより早く行こう。オルガたちがしびれ切らせて俺を迎えに遣したんだ。スティングが遅い・・・・ってパニック起こしかけてるから」
「あ」


思い出したように互いの顔を見合わせる三人にシャニは更に追い討ちをかけた。


「あ、もう起こしているっけ。警察ーって騒いでいたから。あんまり騒々しいから迎えを名目に逃げてきたんだけどあえてよかった」
「それを早く言えよ!!げ!!着信が7件も入ってる!!全部スティングから!!」
「俺のも」
「・・・・ステラのも」
「・・・・かけなおしてやったら・・・・?」




その頃、クリスマスパーティー会場であるアズラエル家では。


「ひいぃーーーっ!!三人とも電話にもでねー!!事故だ、誘拐だ!警察!!消防署!!自衛たーい!!」


おちついてください、と使用人たちに押さえ込まれているスティングだったが、その押さえ込みもママオクレのパワーの前では無力に近い。一人、また一人と根競べに負けて一人また一人と脱落して行き、そのたびに新たなる使用人が補充に入るのだが、それも限度がある。


「コラ!!騒ぐんじゃありません!!ネオ、あなた父親でしょう!!何とかしなさい!!」


収拾がつかなくなって髪を振り乱したアズラエルがスティングの保護者のネオに食って掛かったが、ネオはのん気にこればっかなぁと肩をすくめて笑った。


「そう言われてもこうなったスティングは手が付けられないんだなぁ、これが。あはははは」
「笑っている場合ですかっ」
「笑っているんじゃない!パニックになっているんだっ!!」


余裕の表情とは裏腹に心中は既に飽和状態だったネオはついに我慢しきれ無くなったらしく、余裕とかっこつけをかなぐり捨てて同じように怒鳴り返し、だんだんと足を踏み鳴らす。そんな彼にアズラエルはぽかんと口を開けた。


「逆ギレ!?」


しばらくかんしゃくを起こしたネオを見つめていたが、やがて、彼もパニックに陥り、命と息子たちの次に大事な髪をかきむしりだした。この騒音の中でパーティに招待されていたナタルが迎えにいっているはずのシャニに連絡取るように冷静に指示をしていた。


「まだ連絡はつかないのか?」
「ナタル先生、ちょっと待ってください。今かけてます。シャニのヤツ、まだつかまんねーのか!!」
「ねぇ・・・・テーブルで振動している携帯、シャニのじゃない?」
「本・気?!げ!!ホントだ!!」


フレイが指し示したテーブルの上でほったらかしにされた携帯が無情にも振動していて電話の着信を知らせていた。







ジングルベールジングルベール。








騒々しいアズラエル家の広間に誰かがかけたたクリスマス・ソングがひたすら流れていた。エンドレスに。




















あとがき


クリスマスシーズンにこの辺境までお越しいただいてありがとうございました!

メリークリスマス!!


管理人