Merry Christmas!!

After the War
アウステベビー物語









今日はクリスマス・イブ。
アウステの双子たちはサンタさんが来た時のための準備と大張り切り。


「今年は何をくれるのかな。あ、そうだ。運動会で一番だったことも書いておこっと。」
「ねぇ、サンタさんの使うマグカップどこ?」


サンタさんへの手紙をそれぞれ一通ずつとサイフォンのホットコーヒー。
そしてお夜食のクッキー。
クッキーはアウルたちと一緒に双子たちが一生懸命焼いたもの。
不揃いで不恰好だけれども双子たちの精一杯の気持ちがこめられている。


「プレゼントの靴下、僕らのじゃ、ちっちゃいよね」
「いっぱい入らないね。どうしよう」


どこから仕入れてきた知識なのか。
プレゼントを入れてもらう靴下を用意しようと考えた二人は自分たちの衣類等が入ったクローゼットを漁り出した。


「これもちっちゃいよ」
「これ、あんまりのびないね」


あーでもないこーでもないと双子たちは自分たちの靴下をあれこれ物色していたけれど、
自分たちが満足できるサイズは結局見つからなかった。
でもそれは子供たちの足が小さいのだからから当然の事。
紅葉のような小さな手に、大人の握りこぶしもない小さな小さなの足なのだから。
だけれどそれで諦めるような子たちではなくて、すぐさま別の打開策を考え始めた。
そして。


「ねぇ、誰かの借りようよ」
「うん」


二人は互いに頷き合うと。
トコトコと向かったのはスティングの部屋。

ドアを開けるとそこは異世界だった。

畳の敷き詰められた床。コタツ。ふすま。壁には「日本一 スティング作」と達筆な筆字でかかれた掛け軸。
彼らが住む家のほとんどの部屋は洋室だが、スティングの部屋だけは何故か畳が敷き詰めてある和室だった。入り口より少し高めの敷居があって、ちゃんと靴やスリッパを脱いで上がる仕組みになっている。二人はスリッパを脱いで畳の上へと上がると、部屋の隅にドンと置かれている和風ダンスから次々と靴下を引っ張り出して物色を始めた。


「どれもおっきいけど出来るだけおっきーのね」
「わかった」


あれでもないこれでもないとやっているうちに、夕食だと二人を呼びに来たスティングが
自分の部屋のドアが開けっ放しになっている事に気づき、不思議に思ってひょっこりと顔をのぞかせた。
そして目に飛び込んできたうず高く積まれた靴下の山。
その中で双子たちがなにやらごそごそやっている。
ぽかんとしばらくその光景を見ていたスティングだったが、やがて我に返るとため息をついて双子たちに声をかけた。


「・・・・何やってるんだ、二人とも」
「「あ、おじさんっ」」


悪びれた様子も無く、二人はたくさんの靴下を手に我先にとスティングの元へ駆け寄ってきた。青とすみれの宝石をキラキラと輝かせ、プクプクとしたほっぺたは興奮でほんのり赤みを帯びている。そんな二人の顔に怒る気も失せ、ただ愛しさだけがスティングの心に残る。
スティングは二人と視線を合わせるように膝を折ると、彼らの頭に手を伸ばしてくしゃくしゃとなでた。双子たちはにぎやかな笑い声を上げると手にしていた、たくさんの靴下をスティングの前にさしだした。


「おじさん、あのね・・・・」
「サンタさんのプレゼント入れる靴下探しているの」
「靴下?」


双子たちの笑顔と自分の靴下を交互に見やるとああそうかと頷いた。
今日はクリスマス・イブ。
その伝承の中で靴下にプレゼントを入れる習慣があった事をスティングは記憶している。
それに俺の靴下をねぇと彼は苦笑すると再び双子たちを見やった。


「けど俺の靴下なんかで良いのか?」
「だって一番大きいもん」
「ねー」
「あー!!ずるい、ずるい!!」


何の前触れも無く割り込んできた声に三人が入り口の方へと目をやると、むっつりと口を尖らしたアウルがいた。
双子の片割れと同じ蒼が非難の色を帯びてスティングに注がれている。
きっとこの後すぐに「なんでパパのじゃなくてオクレのなんだよ!!」と言い出すに違いない。


「なんでパパのじゃなくてオクレのなんだよ!!」


ほら、言った。
「オクレ」が気にくわないが、まぁ子供たちに免じて勘弁してやろうとスティングは眉尻を下げる。
長年の付き合いだと次に飛び出す台詞が分かってしまうのが、なんとも奇妙というかなんと言うか。
そして次の行動も大体の予想がつく。


「チビ達、待ってろ!もっと良い靴下持ってきてやるから!!」


どたどたと派手な音を立て。
あっという間にドアの向こうに蒼い頭が消えると、すぐさま同じ音が戻ってくる。


「どうだ!!いいのを選んできたぞ!」


鼻息あらげに差し出したのはまだ新品の靴下。
おいおい、この間買ったばっかりの毛糸のヤツじゃないかとスティングは頭を抱えたくなった。
良い値段だったのに、と心の中で付け加える。


「パパ、良いよ。スティングおじさんからもらったし」
「うん、いらない」


『いらない』


最愛の子供たちに無下にそう言われたアウルが、ギギギギとぎこちなく頭をスティングのほうへと向ける。
アウルの背後にめらめらと燃える嫉妬と殺気の炎。
オマケに涙目になっていて。
スティングはそんなアウルに頭痛を覚えて天井を仰ぐと、双子たちにアウルの分ももらうようにとささやいた。


「どうして?」
「パパがくれると言ってるんだ。それにいっぱいあったほうがいいだろう?」
「分かった」
「パパぁ、やっぱりちょうだい」
「おー、そうかぁ。やっぱ僕のが良いよなっ」


素直にアウルの靴下を受けとった双子たちと機嫌を直したアウルの姿に安堵を覚えて一息をつくと、ふともう一つの気配を感じてスティングは顔を上げた。


「ステラの」


先ほどのアウルと同じように両手に靴下をぶら下げたステラがじーっと一同を見ていて、
そんな彼女の姿にお前もかよ、スティングは頭を抱えたくなった。
当然双子たちも戸惑ってステラとスティングを交互に見ている。


「ステラの・・・・は?」


靴下を手に言いも知れぬ迫力で双子たちに迫るステラ。
子供たちを脅しているようにしか思えない態度にスティングはこめかみを押さえ、
双子たちは困ったように彼を見上げた。


「・・・・おじさん」
「いーから受け取ってやれ」


一つが三つに増えちゃったね。
いいのかなぁ。

双子たちはそれぞれサイズの違う、三つの靴下を手にお互いの顔を見合わせた。






「大きいの。中くらいの。小ちっちゃいの」
「でもわたしたちのよりおおきいよね」


明かりの落とされた部屋の中で枕元にぶら下げられた三つの靴下。
カーテンの隙間からわずかに差し込む月明かりを浴びてわずかに浮かび上がって見える。


「森のくまさんみたい」
「この間絵本で読んだ?」
「うん」


双子の兄がもたらしたつぶやきに妹は幼稚園で読んだ本を思い出した。


森のくまさん。
森に迷い込んだ女の子が3人(3頭)のくまの住む家にたどり着いて、そこで起こった出来事を綴った物語。
大・中・小と並ぶ食器と食事。そしてベット。
女の子は勝手に彼らの食事を口にし、最後には一番小さいベットで寝てしまう。
そしてかえって来た親子熊に見つかって怒られてしまうというストーリーだった。
その熊たちはお父さん熊、お母さん熊、子熊。大・中・小。
スティングおじさん。パパ。ママ。


「きれいな3だよね・・・・パパたち・・・・」
「そう・・・・だね・・・・」


途切れ途切れに交わされた会話は徐々に小さくなってゆき。
やがて話し声が途絶えると、それは穏やかな寝息へと変わっていった。


鈴の音がどこともなく聞こえてきた。













アウステベビー、特別編。
クリスマスシーズンにここまでお立ち寄りくださってありがとうございました。
メリ−クリスマス!!


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