カヲレイ&others
in One&Only
母からクリスマスまでには戻れないとファックスが届いた。
出発からそのような事を言っていたから分かっていたけれどやっぱり少し寂しい。
年末近くになって突如舞い込んできた取材許可。
その場所はアジアの隅に浮かぶ小さな島国でそ科学と機械技術の水準は世界でも随一といわれている小国家で
母が前々から行きたいといっていた国だったものの、なかなかその取材許可が下りなくてずっと足踏み状態だった。
それもそのはず。
その国は永久中立国で他の国を侵略せず、されないと言う言葉をかたくなに守り続け、未だにどの国も取材許可をもらえなかったのだ。
だからその許可がもらえたときは母は狂喜し、その日のうちに旅立ってしまった。
『クリスマスに戻れなかったらごめん』
その言葉だけ残し、大きなリュック一つで荷物に出て行った母。
母らしいといえば母らしくて。
呆れると同時にとてもほほえましかった。
私には父はいない。
物心付くころから母一人子一人でわたしたちは二人きりで。
父に関して母は黙して語ろうとせず、誰も知らない。
そんなわたしたちなのにわたしがクリスマスが一人きりじゃないのは。
寂しさに耐えられるのは。
「全く子供残してファックス一枚かい」
「そのようですねぇ。あ、でもあのお母様の事ですから何か宅急便でも届くかもしれませんよ」
「・・・・へんなものじゃないと良いけど」
幼馴染で同居人のカヲル。
そして家政婦のはるさん。
二人して困りきった会話をしているけれど、二人の表情はほころんでいる。
彼らの手元には一枚のファックス。
お世辞にも綺麗とはいえない字でびっしりと埋まっていて最後のほうには一つの写真。
満面の笑みで大きなピースサインをしている母と。
現地で仲良くなったという喫茶店のマスターたちが仲良く並んでいて映っていた。
「元気そうね」
「ジャングルの中でも元気だよ、母さんは」
「それ、いえてる」
毒を吐いていても目元は笑っているカヲル。
母と二人だけだった世界に入ってきた新たな息吹。
ずっと一緒にいて、それとなく私を守ってくれている男の子。
でもカヲルは私にとって男の子だけれど男の子じゃない。
カヲルは兄であって。父であって。私であって。そして男の子でもある。
そんな不思議な感じ。
正直男の子は苦手だけれどカヲルだけはきっと別。
男の子であっても私はきっとカヲルを受け入れられると思う。
でもまだそんな自信はないから、その気持ちを心の奥に封じ込めている。
まだまだ仲の良い家族でいたいから。
ごめんなさい、ずるい私で。
そして。
「お夕飯をいただきましょうか」
母の代わりに家を切り盛りしてくれているはるさん。
父のいない母子家庭で、しかも年頃の男の同居人がいて。
母は家庭内で仕事(作家だから)。
近所が好奇な視線を向ける中、彼女は違った。
内輪に入って聞くわけでも無く。
取り入るわけでも無く。
彼女は静かにそこにいる。
「人にはそれぞれの想いがあります。辿ってきた過去があって人生があるんです。
それを人生の通りすがりに過ぎないわたしがほんの一部分を見ただけで判断したり。
好奇心で立ち入ってはその人に失礼だと思いませんか」
例えそれが善意であってもそれは人を知らず知らずのうちに傷つけるものなのです。
ですが、話を聞いてもらいたなら話を聞きましょう。
意見を求められたら言いましょう。
でも最終的な決断は自分でさせるべきだとはるさんは言う。
『私は意見を言いますが、その人の決断を肯定も否定もしません。
そうでないと何かあったらあとで他人のせいにして、その人はちっとも前へ進めないでしょう?
ご自分で決断して行動したのならどっちに転んでもそれはあとで大きな力になります。
だって自分で考え、決断して動いたんですもの』
冷たいと思う人もいるだろうけど、わたしはそれでいいと思うの。
人はそれでこそ”人”なのだから。
「メリークリスマス」
「カヲルも」
カヲルがどこからか持ち出してきたのはよく冷えたシャンパン。
母のコレクションを持ち出してきたのね、きっと。
あとでばれても知らないわよ。
軽く睨むとカヲルは内緒と人差し指を立てて笑った。
お酒のせいかカヲルの頬が少し紅くていつもより可愛く見えたと思ったのは心のうちにしまっておくとする。
母にはあとでクリスマスも模様を撮った写真をファックスで送ろうと思う。
きっと喜んでくれる。
向こうで仲良くなった人たちとすごしているかしら。
一人じゃないと良いけれど。
そう思いながらカヲルのほうへと、目をやると笑顔で差し出されたプレゼント。
「あけてもいい?」
彼がうなずいたのを確認して飽けると現れたのは銀のペンダント。
赤い石のワンポイントを施された小さなロザリオがなんとかわいらしかった。
「レイの白い肌に映えると思ったから」
「・・・・」
可愛い贈り物をもらってしまってとても照れくさかった。
こんなときどんな顔をすればいいか分からなくてとても悩んだ。
結局彼に返せたのは精一杯の笑顔とありがとうと。
手編みのマフラー。
我ながらワンパターンでさえないものだと思ったけれど、不器用な私にはそれが精一杯だった。
セーターは難しすぎて失敗に終わったの。
でもカヲルは今日から使わせてもらうよと喜んでくれて首に巻いて見せてくれた。
カヲルも私以上に色が白い。
だからちょっと濃い目の色が似合うと思って濃い目のグレーの毛糸を使ってみたの。
思ったとおりに違和感無くその色は溶け込んでくれて我ながらとても嬉しかった。
「レイ、あした早速町へ出よう」
珍しく笑顔の多いカヲル。
「そうですね。お二人でお出かけになられては?せっかくのクリスマスですもの」
ニコニコと笑っているはるさん。
ぽっかりと空いた一つのスペースがちょっと寂しいけれど、大丈夫。
母はちゃんとわたしたちの元に帰ってきてくれる。
カヲルが傍にいてくれて。
はるさんも隣で笑っていてくれる。
だから大丈夫。
でも。
カヲルから綺麗なプレゼントをもらったのにお返しはこのマフラーだと思うととても悔しくて。
来年のクリスマスこそはセーターを完成させようと私はひそかに決心した。
あとがき
学園パロから。
レイとカヲルと家族です。
わけありだけど、暖かい家族。
2日間あるクリスマスのうち一日でもを家族と共に過ごしてはいかがでしょうか?
ここまで読んでくださってありがとうございました。
メリークリスマス!!