もしこの世に神という者がいるのなら。
俺は彼女と巡り合わせてくれた事を感謝したい。
神は俺から大事な物を全て奪っていったけれど。
俺に再び大事な物をくれた。
聖書のヨブのように。



ヨブは神に仕えた裕福な商人。
たくさんの子供たちに囲まれた大きな家庭とたくさんの家畜を持ち、
幸福の絶頂期にあった。



「貴方がヨブから全てを奪ったのなら彼は貴方を恨み、背くだろう」


それをある日。
悪魔の挑戦を神は受け、ヨブを試すため彼から全てを奪ってしまう。
彼の大切な家族も。
家も家畜も財産も。
そして彼自身の健康さえも。
ヨブはそれでも屈せず、神を信じ続け。
それを喜んだ神は以前よりたくさんのものを彼に与えたという。



俺はヨブのようになれなかった。



奪ったものをひたすら憎悪し。
周囲を見ようとも。
周りの声にも耳を貸そうともせず、
全てを失ったかのように思えた。
家族も。
守るものも。
・・・・故郷も。
寂しさと庇護にあえぎ、涙した。
でもそんな俺にも残されたものがあった。
One and Only.

















ルナマリア。

























Merry Christmas!!
ガンダムSEED destiny
シン
ルナ











「シン!!見て見て、雪!!」









地上に降りてまもなく初雪が降った。
凍りつくような寒さだというのにロクに厚着をしないまま。
ルナは外に飛び出し、全身で雪を受け止めようといわんばかりに舞い散る雪の中で両腕を広げた。
いつもの姉ぶったそぶりは無く、純粋に雪を喜ぶ幼子のよう。
プラントにも一応冬があって雪もある。
なんでそんなにもはしゃぐ事なんだろう?
でもそんな彼女がとても新鮮で愛らしくて、雪の中ではしゃぐ彼女を視線で追う。


「雪初めてじゃないだろ。大げさだな」
「シンは地球の雪を見た事あるからそういうんでしょ」


真っ白い綿帽子をかぶったワインレッドが勢いよく俺を振り返り、駆け寄ってきた。
強い力で腕を引っ張られる。
ひやりとした感触。
この寒さだというのに手袋一つもしないでこのはしゃぎよう。
呆れてため息をつき、俺は手袋を外すとルナの両手にそれをはめてやった。
手袋の手をまじまじと見つめ、今度は俺をじっと見つめるルナ。


「なんだよ」
「ううん。意外・・・・」
「なんだよ、それ」


言葉通り心底意外そうに俺を見上げるルナに少しむっとして睨むと、彼女は


「ごめんごめん」


と舌をちらりと覗かせて謝り。
そして下を向くと上目遣いで続けざまにありがとうとつぶやいた。


ルナの頬がほんのり赤い。
空気の冷たさのせいかな。


手をのばしてルナの頬に触れると、彼女はびくりとその身を震わせたけれど
蒼い双眸を閉ざして大人しくされるがままでいてくれた。
ひやりとした冷気とルナ自身の体温が交じり合って冷たくて暖かい。
心からほっとする体温。


そうしているうちにふと生じた一つの衝動。
なんの前触れも無く生まれたそれは、強くそして静かなもので。
突き動かされるがまま俺はルナを抱き寄せ、彼女に口付けた。
突然の事でさぞかし驚いたんだろうな。
ルナが目を見開いて石のように身を固くしたのが閉ざされたまぶた越しでもわかった。
拒絶されるかもしれない。
そう、思ったけれど。




彼女もそっと目を閉じると。
その身を預け、俺を受け入れてくれた。
裾に引っかけられた彼女のこぶしの重み。
その重みが嬉しくて。
俺たちは雪の中で長い、長い口付けを交わした。

























あとがき


7日目です。

本編沿いシンルナ。
アウステとオクレ兄貴の次に大好きな二人。
寄り添う彼らがとても愛おしい。


プラントの雪って春のスキー場の人工雪と同じだと思うんですよ。
さらさらとした、なんか味気のない雪。
だから本物の雪が見れたルナはきっと嬉しくて仕方なくてはしゃぎまわると思う。
どんなにお姉さんぶってても彼女も年頃の女の子だもの。

ここまで読んでくださってありがとうございました。
メリークリスマス!



管理人。