アウステ&ネオスティ
「メリィークリスマース」
サンタの帽子をかぶったネオが陽気な声と共に談話室に飛び込んできたネオを出迎えたのは異なる3組の目。
マリンブルー。
スミレ。
そして金。
反応もまたそれぞれだった。
「変態がまたへんな事言ってる」
ソファーに身を投げ出し、行儀悪く雑誌を読んでいたアウルは辛辣な言葉を投げ。
「ガキじゃねーんだ。もうすぐ戦争だっていうのに馬鹿やっていられるか」
手にしていた単行本から顔を上げたスティングが年長者らしく理性的な言葉でネオをたしなめ。
「くりすます・・・て・・・・なに?」
部屋の隅で熱帯魚を眺めていたステラは小さな水槽から目を離して、ネオをふりかえる。
「知らないのかい?」
「知らないのか?」
ネオとスティングはその言葉に驚いて彼女を見やったが、アウルが続いてはいた言葉に二人は固まった。
「そうだよ、なんだ、それ?」
「おまえもか?」
「お前もなのかよ?」
なんでこんなもんも知らなねぇんだ?
スティングは頭痛を覚えながら、座りなおし、アウルとステラに前に座るよう促した。
素直に並んで座った二人を前に彼は本から仕入れた知識でクリスマスの概要の説明を始めた。
「いいか、クリスマスというのは元々年に一度、キリストという人物の誕生日を祝う祭りの事だ」
「だったら俺ら何の関係もないじゃん。な、ステラ?」
「うん」
「まだ続きがある、聞け」
早速興味を失いかけた二人をなだめてスティングは先を続ける。
いつの間にか隣に座っていたネオもうんうんと熱心に聞いていた。
「難しい事は省くが、その日を記念として、プレゼントを配る習慣が出来たらしい。有名なのがそれがニコラスとかいう司祭で彼は貧しい人々にプレゼントを配って歩いた人物でサンタクロースの前身といわれている」
「サンタクロース?」
「クリスマス・イブに良い子にプレゼントを配って歩くじいさんの事だよ」
アウルとステラの疑問に答えたのはネオ。
仮面越しでも分かる満面の笑みを浮かべて、その身を乗り出す。
「良い子にしていればクリスマスプレゼントもらえるぞぉ?」
「・・・・本当?」
「へぇ、気前いいじゃん?」
「ネオ、サンタクロースは・・・・もがっっ」
幼い子供のように目を輝かせる二人に余計な事を言いかけたスティングの口をふさぎ、ネオはにこにこと笑顔で告げた。
「という事で、今夜お前らのとこにサンタが来るかもなっ」
「ネオ、あんた何を」
ネオに引きずられ、彼の士官室に強制的に連行されたスティングは戒めを解かれると早速抗議の声を上げた。
だが、ネオは彼の間に人差し指を立てて、チッチッチと彼を逆にたしなめた。
「せっかくの夢を壊さんでもいいだろう」
「・・・・夢」
「そうさ。このご時勢だからこそ何かしら楽しみがあるといいだろう?」
ネオは珍しく真面目な口調でそういってのけると、用意した三つのプレゼントを披露した。
緑。
蒼。
そしてピンク。
「一つはお前のだ。残りはアウルとステラ」
「あんたがサンタか」
「まぁそういうこった。良い子のスティングにネオサンタからプレゼントだ」
ネオの茶目っ気たっぷりのプレゼントを受け取りながらスティングは苦笑した。
たまにこんな馬鹿なイベントもいいかもしれない。
心に広がる暖かさに胸がいっぱいになって、スティングは泣きそうになった。
ラボ時代になかった他人の暖かさ。
外の世界は本当に広くて・・・・暖かい。
「ところで残りなんだけど」
スティングはそんな自分の心境を上官に悟られまいとプレゼントに視線を落としたまま話を促す。
「どうするんだ」
「サンタとして二人にプレゼントしたい。二人が寝たら配るの手伝ってくれ」
「お安い御用」
それくらいスティングにとってたやすい事。
何よりも二人に夢を与えるという仕事が嬉しくてまたもや胸が震える。
朝起きてサンタが来た事を知ったら二人はどんな顔をするだろう?
「あ、俺はサンタの格好するから、お前はこれ」
そういってネオが取り出したのはある衣装。
「?」
スティングは頭上に疑問符を浮かべるとその衣装を受け取って広げた。
茶色のキグルミ。
頭に鈴のついた妙な角。
ご丁寧に蹄までついていた。
「・・・・これは」
「トナカイさ!!頼むぞ、ルドルフ!!」
ルドルフ。
サンタの導き手として有名な赤鼻のトナカイ。
得意げなネオの言葉ににスティングはその場で石化した。
本気なのかと思ってネオを見やったが、どうやら大真面目のよう。
しかも衣装はかなり大きめで長身のスティングでもすっぽり収まりそうだった。
・・・・よく俺のサイズが見つかったな。
というかどこで見つけた?
まさかヨナベで作ったというオチじゃねーだろーな。
早くも後悔を始めながらスティングは喜色満面のネオとトナカイの衣装を交互に見やるのであった。
「それにしてもアウルとステラのヤツ、まだ寝ねーのか?」
「うーん、困ったねぇ」
さてサンタとトナカイの姿になってアウルたちの部屋に向かった二人だったが、
途中の談話室からこうこうとした明かりが漏れているのに気づきいて立ち止まった。
ぼそぼそと話し声がする。
どうやらアウルとステラのようだった。
「サンタか、どういうジジイだろーな」
「紅い服着ているってネオ、言っていた」
談話室にこもったまま、寝る気配のない二人にネオとスティングは困った面持ちで顔を見合わせた。
早く部屋に戻って寝てくれまいか。
そう思っていた矢先、アウルの声が聞こえてきた。
「さて、準備よし。ぬかるなよ、ステラ」
「うん!!」
そしてうきうきとしたステラの返事も聞こえた。
一体何の準備かとネオとスティングは扉越しに首をひねった。
「これでサンタとかいうジジイ捕まえよーぜ」
「ステラ、頑張る!!」
「うまくいけばなんでも好きなもんもらえるなっ」
「うん!!」
なんちゅー事を考えるんだ。
二人の計画にネオとスティングはその場にへたり込みそうになった。
サンタの存在を信じる純粋さはいいが、考える事は邪である。
非常にコメントしづらい状況だった。
さてどうするか。
スティングとしてはこのとトナカイ姿を二人に死んでも見せたくなかった。
この恥ずかしい格好を絶対に見せてたまるか。
兄貴分としての沽券に関わる。
「仕方ない。ここは一つ、俺が寝かしつけてくる。お前は隠れて待っていろ」
「あ、ああ」
「プレゼントと衣装、持っててくれよV大事なものだからな」
「・・・・早く行け」
「やっ、そろそろ寝る時間・・・・うひょぉっ!?」
部屋に入ったとたん、入り口に仕掛けられたわなに引っかかり、ネオは逆さ刷りにされた。
天地が逆転し、茫然自失の彼をアウルが心底迷惑そうに見上げた。
「ち、サンタのジジイじゃなくて仮面のおっさんじゃねーか」
「おっさんじゃない!!」
「ネオ・・・・?」
逆さづりにされながらも自分の主張を忘れないネオをステラは茫洋とした顔で見上げている。
サンタを捕まえるはずが何故ネオが、という心境なのだろう。
「ネオには用ねーんだよ。ったく、せっかくの計画が台無しだ。どうしてくれんだよ、ボケ」
ステラに降ろしてもらいながらネオは咳払いを一つし、懇々と二人に説明をした。
「君たちね・・・・サンタは寝ないとこないんだよ?」
「え・・・?」
「んだと、寝込みに来るのか?変質者かよ」
きょとんとするステラに露骨に顔をしかめるアウル。
あまりといえばあまりなアウルの言葉にネオは頭を抱えた。
「ちがう!!サンタはな、恥ずかしがりやなんだよ」
「・・・・いい年こいて恥ずかしがりやかよ。ダセー」
「サンタさん・・・・来ない?」
「寝ないとな」
頭痛を覚えながらもネオはようやっとうなずいてみせる。
サンタ約はこんな芋大変なものだと、彼自身思いもよらなかったのだ。
俺の人生経験はまだまだだなぁと一人ごちた。
だがステラは不満そうなアウルと異なり、期待に目を輝かせて素直にうなずいた。
「分かった。ステラ、寝る」
「よしよし」
素直すぎるステラの頭をなでるネオに
アウルは肩をすくめて見せると、今度はそのマリンブルーにイタズラっぽい光を瞬かせた
「チッ。まあいいや。寝たフリしてとっ捕まえよう」
コラコラコラぁーーーー。
扉に張り付いていたスティングはその場に思わず突っ込みそうになるのをこらえ、先行きを見守っていた。
ネオはどう出る?
「そうだ、寝る前にネオ特製ココアを用意しよう。それ飲んで寝なさい」
「わーい」
「ガキみてー。まぁいいか」
しばらく部屋からごそごそぼそぼそと音や声がして、スティングは彼らの寝る時間を今か今かとまっていた。
それからどれくらいの時間がたったのだろうか。
日付が変わる頃だというのにアウルとステラは一向に部屋から出てこない。
だが、部屋は静まり返っていた。
さすがに心配になって部屋に入るか迷っていたとき、扉がしゅんと音を立てて開いた。
「やぁ、お待たせ。ところで悪いんだけど、二人を部屋に運ぶのを手伝ってもらえないかい」
「?」
不思議に思って部屋をのぞくと、ソファーに背中を預けて眠るアウルと、
彼の方に寄りかかって眠るステラの姿が視界に映った。
いつ寝たたのか理解できないでいるスティングにネオはにんまりと笑った。
「ココアに一服盛った☆」
「こらーーーーーーーーっ!!」
スティングの怒りの蹄キックが見事ネオを捕らえるのであった。
「乱暴だなぁ〜〜〜オクレってば」
「やかましい!!」
アウルとステラを運びながら文句をたれるネオにスティングは蹄パンチを食らわす。
部下に睡眠薬を盛るとは。
何考えているのだ、このアホ上司は。
少しイラつきながらスティングはステラを抱えて彼女のベットに降ろした。
ふうと息をついたとき、閉ざされたはずのまぶたが開き、すみれ色が現れた。
そしてじいいとっとネオとスティングを見やる。
(寝かせたんじゃなかったのかよ)
(なるべく残らないよう少なくしたつもりだったのだけど、それかな)
あせってぼそぼそ言い合う二人にステラはふわりと笑って、スティングの頭をなでた。
「サンタさん・・・・来た。トナカイ・・・・も。・・・・いい子」
無邪気に微笑むステラにネオとスティングは顔を見合わせた。
そしてネオはアウルをおぶったまま彼女に歩み寄ると静かにささやいた。
「そうだよ。ステラがいい子だからプレゼント、やるな」
「うん・・・・・」
安心したようにうなずくとステラは再び目を閉ざし、穏やかな寝息を立て始めた。
「驚かせやがって」
スティングはほっとした笑みを浮かべると、ステラの毛布を首元まで引き上げてやるとそっと頭をなでてやった。その様子にネオは仮面越しに目を細める。
「・・・・プレゼントは枕元に置いたら、アウルの部屋へ行くぞ」
「・・・・ああ」
次の朝、アウルとステラは昨夜の話で盛り上がっていて、スティングは昨夜の寝不足にうつらうつらしながらそんな二人の話に耳を傾けていた。
「プレゼントあったぜ。ちぇっ、捕まえてやろうと思ったのに」
「・・・・サンタさんとトナカイ、見た」
「マジ?!」
驚きの顔を見せるアウルにステラはうなずいて見せた。
昨夜のおぼろげな記憶をたどりながら、昨日のサンタとトナカイの事をアウルに話すと、ゆっくりとアウルの方を見やった。
「それでね・・・・サンタさんもトナカイさんも優しそうだった。ね、アウル・・・・」
「あん?」
ステラはサンタの姿を見れなかったことに不満げなアウルに微笑んで見せると、彼にやめよう?とつぶやいた。
「捕まえるの、やめよう」
「なんで」
「サンタさん、もう来なくなっちゃうよ・・・?」
「ブー、分かったよ。でも姿くらいみたいな」
もっともなステラの言い分にアウルはしぶしぶながら了承の意を示したが、どうしてもサンタの姿を見たいという気持ちは治まらなかったようだ。
ちゃんと話もしたかったと思うステラも同様ににうなずく。
「うん・・・・。来年こそちゃんと見たいね」
アウルはプレゼントを前になにやら一生懸命考えていたが、やがていい案を思いついたらしく、興奮で目をキラキラさせながらステラのほうを振り返った。
「よし!!来年は一緒にねよーぜ。どちらかが寝そうになったら片方が起こす!!」
「あ、それ・・・いい考え」
「だろー♪」
なんでロクでもない事考えるんだ。
がっしりと手を組んでチームワーク!!と騒ぐ二人を尻目にスティングは来年はどうしようかと頭を痛くして窓の外を見やった。
外ではラボの森と同じように雪が降り積もっていた。
あとがき
ちなみにネオはいまだ夢の中。
アウステがサンタとトナカイの正体を知るのはまだ先の事。
ネオとオクレ兄貴のクリスマス奮闘記でした!
メリークリスマス!!