拍手ログ8




オルガとスティング



アイツらは俺の全てなんです。


君色の瞳を持ったヤツははずかしげもなくそう言いきった。

自分以外が大切なんてどんな阿呆だよ。

面倒な役割を押しつけられてそう思いこんでるだけじゃねえのか?


たとえそうだとしても俺はそれが嬉しいんです。


救いようがねぇ馬鹿だ。

そうですね。


そう言ったらそいつは顔をほころばせて笑った。




そいつは時々暗い表情をする。

仲間とか言う二人にはぜってぇ見せねぇ顔。

消えたはずの幻影に惑わされ、彷徨う。


何だと聞いてもヤツは分からないと言う。

だけどとても辛いと。

思い出したくないと。

でも護らなくてはと。


矛盾してんなぁ。

だがそれがヤツを突き動かしてんだろうと容易に察しが付いた。

きっと何か大事な物をなくしたんだろう。

それを今も悔やんでいる。

だからこそ蒼と金の二人を護ろうと躍起になっている。


・・・哀れな野郎だ。



俺からあの二人を取ったら何が残ると思いますか?


ある日ヤツは思い詰めた表情でそう言った。

俺は訳が分からなかった。

お前は生体兵器。

戦うためだけに生きるモノ。

俺等の後釜。

それ以外何がある?


中盤の締めとも言えるサバイバル・ゲームで

蒼いヤツが危うく死ぬ所だったらしい。

その時のヤツはパニックになりかけたそうだ。


ルールは三人一組だもんな。

そう言えばそうでしたね。


忘れていましたとヤツは笑った。

おい・・。なんて馬鹿だ。

何感化されてやがる?

俺たちは生きた兵器じゃねぇのか、違うか。



そう言ってやったらそいつは頷いて、そして首を振った。

おいおいおい。
どっちだよ。


守る物のない兵器は・・・強いと思いますか・・・?


俺はその時答える事が出来なかった。

今でも出来ないでいる。

そしてその後のヤツの言葉が頭にこびりついて離れない。

アイツは遠くを見やってぽつりとつぶやいた、言葉。



あの二人を取られたら俺は抜け殻だけが残るような気がします。



よく分からねぇ。

分かりたくねえのかもしれない。

自慢じゃねぇが、俺はお前ほど面倒見が良くない。

自分よりシャニやクロトを必要としていない。

俺は俺。

アイツらはアイツら。


そう思うとなんか胸に隙間が空いたような気がした。

一瞬あの野郎に感化されたのかと思った。

けれどクスリを含んだ途端それが綺麗さっぱり消える。


アイツの事なんぞ知った事じゃない。

けどよ。

お前がそいつ等を失う心配なんてする事のねぇように

コーディネーターどもを一人残らずぶっつぶしてきてやるよ。







シャニとステラ




雨が降る。

夢うつつに聞く雨の音に混じって聞こえる優しい歌声。

おぼろげな雨の風景で揺れる小さな金髪。


・・・誰?


クロト?

違う。

アイツは金髪じゃない。


オルガ?

違う。

アイツはこんなに優しい金色じゃない。


だったら・・・だれ・・・?

聞く者を幸せな気持にさせてくれる歌声。

見る者を穏やかにさせてくれる金髪。


・・・だれ・・・?




雨は嫌い。

空が青くないから。

海が青くないから。

嫌いなモノを思い出させるから。


誰かがそう言っていたような気がする。

揺れる金の光。

口元にかすかな笑みを浮かべている。

顔は、みえない。


・・・だれ。


でもね・・・。

シャニといるときの雨は、好き。


そう言って笑った、彼女。


ああ・・・。

君か。

君だったんだね・・・。


触れたくて。

もっと近くに来たくて。

手を伸ばす。

彼女もまた手を伸ばす。


あと少し。

もう少し手を伸ばせば彼女に手が届く。

顔を見せて。

声を聞かせて。

触れさせて。

・・ラ。




その瞬間敵襲を告げる警報で現実へと戻された。

あと少しで思い出せたかもしれないのに。

どうしようもない焦燥感が胸を支配してゆく。


うざいな・・・。


重い身体を引きずって俺は機体の方へと向かう。

思い出したい。

けれど思い出せないこのもどかしさ。


邪魔する奴ら。

うざい奴らを全てこの世から消したら思い出せるだろうか。

あの歌声を。

遠くで笑っているあの金色の光を。






クロトとアウル



馬鹿なヤツだと思った。

変なヤツだと思った。

ガキっぽいヤツだと思った。


ボクとよく似ていて、それでいて違っていた。


蒼と紅。

対照的なボク等。


何が怖いのさ?

失うのが怖い。


何を?

母さんのように二人を失うのが怖い。


何故?

一人は・・嫌だ。



マリンブルーの瞳を伏せてアイツはぽつりぽつりとつぶやいた。

いつものやつは空元気かと思うと正直ガッカリだった。

けれど何故か殺す気にも突き放す気にもならない。


失うのを恐れるお前とそうでないボク。


はなっから期待なんぞしなければ何も恐れる事もないのに。

馬鹿なヤツ。

変なヤツ。

ガキみたいなヤツ。


でも何故、こいつを蔑む気になれないのだろうか?


・・違うよ。


ヤツはボクを見据えていった。


あんたと僕は似ているから。

同じ、だから。

自分は何も期待しない。

自分は何も求めない。

そう思いこんでいるだけ。

気付こうとしたくないだけ。

少し前の僕のように。


馬鹿言ってれば?



といったら。


馬鹿に言われたくねーよ。


とヤツは笑った。


それにあんたの仲間は強いからちっとやそっとでは死なないんじゃない?

後はあんた次第。


やっぱ馬鹿言ってるよ、こいつ。


そう思った。


あいつらとボクが見ている物が違う。

お前等と違うんだよ。

ボク等は3人でありながら一人ずつなんだよ。


・・・だったら俺等で二人じゃん?


ヤツはまた笑う。

こんなに無邪気に笑えるんだな。

うらやましいって思った。



・・・そう言う事にしてやるよ、ボクに勝てたらね。




結局アイツはボクに一度も勝てなかったけれど・・・。

元気でやってるかな?

ちゃんと生き残ってるだろうね?

帰ってきたブン殴ってやるって言っておいて

死んでいたら

あの世まで殴りに行ってやる。


早く。

早く戦争を終わらせて。

お前等の出番なんて無かったよ、ぶわーか!

って言ってやるンだ。

待ってろよ?




あとがき

スティングとオルガ。

守る物のある者は強い。
守りたい物のために命を賭けられるから。
守りたい、その想いが人を強くするから。
それを奪われた人はどうなるか?
22話のネオの「守る物のある者は強いね」
という言葉と
アニメのスティングを見てそう思いました。
オルガも仲間二人の事を気に掛けていたんだと思います。
彼自信が気付いたときはもう遅かったのですが。
でも。
大事なモノを奪われ、思い出す事もなく逝ったスティング。
土壇場で大事な物に気づいて逝ったオルガ。
どちらかというと、オルガの方がまだ救いがあったような気がしました。



シャニとステラ。

シャニは3人の中で最も純粋だと思います。
ステラと同じ空気を持っている。
シャニがアニメのように他の二人より
周囲に無関心だったのは
ステラのように心を開く者がいなかった。
また強化レベルが進んでしまっていたせもあったのだろうけれど。
彼にも大事なモノがあったと思いたいです。
ただ思い出せなかったのだろうと。




アウルとクロト。

物事をゲーム感覚で捉える者同士。
そうでなかったら生き残れないと。
自分の心を守れないと。
本能的に感じ取っていたのではないでしょうか?
アウルもクロトもさびしがり屋だったような印象を受けます。
アウルは分かっているけれど認めたくない。
仲間二人が大事で。
それを失う事を恐れ、怯える、弱い自分を垣間見てしまうから。
クロトは自分が寂しがり屋だという事に気付いていない。
他の二人は邪魔だし。
一人でいても自分は強いと思っているから。
でもそれは思い込みだったに過ぎなくて。
最初に一人で逝ったアウル。
最後に一人で逝ったクロト。
アウルは寂しいと思う間もなく逝き。
クロトはきっと一人は嫌だと思いながら逝ったのだろう。
どこまでも似ていて
それでいて
対照的な二人と思いました。