拍手ログその21
Good Dreams(良い夢を)
テーマは眠り。
時間軸はバラバラですが、眠りをテーマにしてみました。
今回は運命だけでは無く、種も入っております。旧連合の先輩たちです。
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スティングは連日の訓練で疲れていた。
少しくらい良いだろうと。
めったに使われない談話室のソファーに腰を下ろして目を瞑った。
うとうと。
うとうとと。
しばしの間心地よいまどろみにその身を任せる。
すると。
扉の開く音がして二つの気配が部屋に入ってきた。
「スティングー。・・・・寝てんじゃん」
「・・・・ねて・・・る・・・の?」
その気配は自分のところまで来ると周りをちょろちょろしている。そんな彼らに頼むから今だけ寝かせてくれと心の中でスティングは叫ぶ。だが二つの気配は一向に部屋から出て行こうとせず、ぼそぼそとしゃべりだした。
「見ろよーこの馬鹿面」
「スティング、馬鹿じゃない・・・・」
「何だよっ、スティングの肩持つワケっ!?」
「シーッ」
「チッ。あとで覚えてろよ、馬鹿ステラ」
そんなやり取りのあと、ふいに静かになった。
行ってくれたのか、とは思ったが、
部屋に気配は残ったままだ。
そしてまた近づいてくる。
今度は忍び足で。
今度はなんだよ、と浅い眠りの中で毒づくとバサリという音共にスティングの上に毛布がかけられた。
「これでよし・・・・と。
そのかっこのまんま寝てっと風邪ひくぜぇ?」
「風邪・・・・ひくよ・・・・?」
嬉しい事してくれんじゃねーか。
だが、ここで起きている事がばれたら元も子もない。
スティングはほころびそうになる口元を懸命に引き締め、狸寝入りを続けた。
「ふわ・・・・。僕もなんか眠くなってきた」
「ステラも・・・・」
そんな言葉が聞こえると、自分の両隣でどさりと音がした。
音だけではない。
新たに加わった二つの体重にソファーが一瞬きしみ。
毛布が持ち上がると、両肩それぞれに頭が預けられた。
「オヤスミー」
「あったかい・・・・」
スティングはすっかり身動きが取れなくなってしまった事に小さくため息をつくとそっと薄く目を開けた。
きょろきょろと金の瞳だけを動かすと自分に寄りかかって寝息を立てる蒼い頭と金の頭が見えた。
「やれやれだぜ・・・・」
そうつぶやくとスティングはかすかに笑い。
やがて自分も心地よいまどろみの中へと戻っていった。
こんな経験覚えはないですか?兄弟がいるとこんな事もあったり。気配に気づいてはいるんですが、なんとなく照れくさくて狸入りを続け。毛布をかけてもらったときはとにかく嬉しかった。そんな経験を元に出来ました。アウステはきっとこんな会話で兄さんを苦笑させて。二人は兄さんの双方に陣取って一緒に寝てしまう。そんな三人です。
「シーン、借りてた本返しに・・・・」
部屋に入ってきたルナマリアは借りていた本を手に、いるはずの本の主の姿を探してざっと室内を見渡した。必要最小限のものしか置いていない殺風景な部屋。
白い壁に。
白いシーツ。
白いカーテン。
白、と言う色だけがやけに目立つ。
その白い世界の中で一つの色が浮き上がって見えた。
「何だ、寝ちゃってたの?」
見るとシーツの隙間から黒髪がのぞいていた。
眠っているベットの主を起こさないようにと忍び足で近づき、その寝顔を覗き込む。
「・・・・シン」
そっと小声で声をかけたがおきる気配はない。
「まだ寝るには早い時間でしょうに」
ルナマリアは一つため息をつくと、シンの寝顔を見やった。
すやすやと穏やかな寝息を立てていて、
その寝顔はなんとも愛らしい。
短気で。口が悪くて。にくったらしいお子様の寝顔だとは思えないくらい。
その無防備さにちょっとしたイタズラ心をくすぐられ、ルナマリアはそっと顔を近づけた。
「起きないなら・・・・チューしちゃうよ?」
それでもシンはすやすや寝息を立てている。
その無邪気な寝顔に対する愛おしさにかられたルナマリアは
シンが起きないように自分の呼吸に注意しながら。
少しずつ。
少しずつ顔を近づけていった。
そして触れるか触れられないかの距離にまで来たとき。
「何をしている?」
背後から声をかけられ、ルナマリアは文字通り飛び上がった。
振り返るとルームメイトであるレイがこちらを見ていて、
いつも無表情な顔からは何も読み取れない。
早鐘を打っている心臓を押さえながらルナマリアは慌てて弁解し始めた。
「ああああああのね、ほ、本を返しに来たの。
起きているのかなぁと思って見たけれど
やっぱり寝ているようね、あはははは」
シンから借りたとレイに本を押し付けると、じゃあねぇっ!!と。
ルナマリアは慌てて部屋を出て行った。
しゅんと音を立てて扉が閉まると、部屋は元の静寂を取り戻す。レイは瞬きを一つするとちらりと寝ているシンを見やり、シンの机に本を置いた。
「・・・・もういいぞ。狸寝入りも大変だっただろう」
「・・・・いつから気づいていたんだよ?」
「初めからだ。寝息に弱冠の乱れがあった」
「・・・・・」
シンはむくりと起き上がるとベットの上に座りなおした。
うつむき加減のその顔は紅く、ぶすっとした表情。
「残念じゃねぇからなっ、絶対に!あともうちょっとだったに、なんて思ってないからなっ!!」
「・・・・余計な事をしてしまったようだな、すまない」
「・・・・もういいぞ。狸寝入りも大変だっただろう」
「・・・・いつから気づいていたんだよ?」
「初めからだ。寝息に弱冠の乱れがあった」
「・・・・・」
シンはむくりと起き上がるとベットの上に座りなおした。
うつむき加減のその顔は紅く、ぶすっとした表情。
「残念じゃねぇからなっ、絶対に!あともうちょっとだったに、なんて思ってないからなっ!!」
「・・・・余計な事をしてしまったようだな、すまない」
素直に謝るレイに狼狽したのはシンのほうで。
あ、いや、ホント怒ってないからっと慌ててフォローを入れようとする。
そんなシンが微笑ましく思われて、レイはわずかに口端を持ち上げると、更に顔を紅くしたシンは決まり悪そうにソッポを向く。
そして寝るからっ、お休みっ,と矢継ぎ早に言うと寝床にもぐりこみ、毛布を頭からかぶってしまった。
程なくして毛布は静かに上下し始め。
今度こそ本物の寝息を立てはじめていた。
しばらくそれを見ていたレイは自分も着替えて寝床にもぐりこんだ。
黙って見て見ぬふりをしなければならない事もあるものだ。
レイは静かにそうつぶやくと。
まもなく彼も眠りへと落ちていった。
少しイタズラ心を起こしたルナですが、すんでのところでレイに見つかってしまい、気まずくなってその場を逃げて行ってしまいます。シンは途中で目が覚めていたんですが、起きるに起きれなかった状態で。そして期待もあったと思います(小説によるとスケベなところはやっぱりあるみたいですから)。
レイも物事には見てみぬフリもしなければならない時もあるかとちょっと反省。日常のそんな一コマ、です。
「しばらくは待機だ。各自いつでも出撃できるようにコンディションを整えておけ」
ナタル・バジルールが3人の少年たちにそう告げたのは3時間ほど前。
コンディション・イエローが解除され、今日のところは出撃の必要が無くなった事を知るとナタルはふと3人の少年たちの事が気になった。
ずっと待機を命じていたが、今頃どうしているだろうか?
地球の時間ではもう深夜だ。
あの3人はさぞかし疲れているだろう。
労をねぎらって今日は休ませてやろうと、ナタルは艦長席から立ち上がると近くに座っていたアズラエルがこちらを見たので彼にも休むよう声をかけた。
「もう遅いです。今のところ敵襲の可能性はありません。お休みになられては」
「敵が来ないとは限らないでしょう?」
敵影の一つも見つけられなかったことに不満を覚えていたアズラエルの言葉にナタルは厳しい視線を向けた。
「休めるときに休まないと敵襲が合ったときに出来る対処も出来なくなります」
丁寧だががんとした響きにアズラエルはしぶしぶと重い腰を上げ、ブリッジを出る際に軽くウインクすると出て行った。アズラエルの姿が扉の向こうに消えるとナタルは重荷が降りたように深くため息をつく。
ふと自分に向けられている視線に気づいて顔を上げると、オペレーターのフレイと目が合った。
「君も休め」
「で・・・でも・・・・」
口ごもる少女にナタルは優しいまなざしを向け、再度繰り返した。
「今日はもう休め」
いたわりの響きを持つ彼女の言葉にフレイの顔がくしゃくしゃにゆがむ。
この戦場は彼女にとってどんなに心細いか。
恐ろしいか。
それでもなお彼女がここにいるのはあのコーディネーターの少年に逢うため。
・・・・・それだけなのだ。
そんな少女がナタルは哀れでならない。
だからせめて自分が出来る事をしてやりたかった。
待機所に入ると、3人の少年たちは思い思いの格好で眠っていた。
オルガは本をひざの上においたままその身をソファーの背に預け。
クロトはソファーの上にうつぶせに。
そしてシャニはいつものアイマスクで仰向けにその身をソファーに投げ出していた。
「・・・・やれやれ」
「・・・・あ、あなたたち・・・・」
苦笑するナタルの横にひょっこりと顔を出したフレイがやや呆れ顔で3人を見た。そこには先ほどまでの弱々しいしい少女はどこにもおらず、芯の強い、世話焼きの少女がいた。パタパタと毛布を取ってくると彼女は彼らに毛布をかけて廻り。最後にぱちんと室内の明かりを落とした。
「起きたら自分で自分の部屋まで戻ります。バジルール艦長がお手を煩わせる必要はないわ」
きっぱりとそう言うが、彼らを起こしたくない、と言うのが本音なのだろう。
優しい娘なのにもう少し素直になれたら。
そうすれば今と違う結果だったかもしれないのにな、とナタルは思う。
そしてこのような戦争などなければあの少年たちも別な人生があったかもしれない。
それはもはやどうにもならない事で。
とても哀しい事なのだけれど。
「アルスター曹長」
「なんでしょうか」
「いや、なんでもない。お休み」
「・・・・おやすみなさい」
まだ子供だと言うのに、彼女たちにはつらい事ばかりだが。
せめて彼女に幸せな夢を。
せめて眠りだけでも少年たちに穏やかな眠りを。
ナタルは遠ざかってゆくフレイの背を見送りながらそっとつぶやいた。
・・・・良い夢を、と。
フレイ。そして旧連合トリオ。
まだ子供で、しかも自分の意思でもないのに何故最前線に立たねばならなかったのか。キラのことを考えるとフレイがもう少し早く素直になっていれば・・・・と思わずに入られなかったですが、それだからこそ彼女は成長し、出会いがあったから。この3人に巡り合えたのだから。そんな中で彼らは心を通わせていたかもしれないなと思ってみたりすると、やはりこの展開でもよかったと思えます。
「キラァー、一緒に寝ようっ!!」
元気の良い声と共にカガリが部屋に飛び込んできた。
緑色のパジャマ姿で腕には大きな枕を抱えている。
「いいよ」
キラがくすりと笑って寝ていたベットの毛布を持ち上げるとカガリが中に滑り込んできた。
ひやりとした足が触れる。
「久しぶりだなぁ、お前とこうするのも」
「ふふ、そうだね」
ごそごそとしばし身動きをしたあと。
ちょうど良い場所を見つけたカガリはキラのほうへと向いた。
そして互いの息がかかるほど身を寄せ合うとクスクスと忍び笑いをもらす。
窓から月明かりが差し込んでいる。
キラの紫苑にはカガリが。
カガリの琥珀にはキラが。
鏡のように映し出され、輝いている。
「お前、やっぱ綺麗だな」
カガリがそうつぶやくと。
「カガリも綺麗だよ」
キラもささやく。
クスクス。
クスクス。
しばし笑いあったあと、カガリは静かに自分の半身を見やった。
「お前と姉弟でよかった」
そしてキラもまた。
「君が僕の半身でよかった」
腕を伸ばし、キラがカガリを抱き寄せると
カガリもおとなしくキラの胸に顔を埋めた。
静かな息吹。
暖かな鼓動。
母の胎内に戻ったような、安心感が満ちる。
生まれる前から一緒で。
例え今は離れていたとしても、
二人は同じ血を持つ姉弟である事は変わらない。
互いの場所以上に安心できる場所はない。
寄り添った影はやがて静かな時を刻み始め。
白い月だけが変わらず辺りを照らしていた。
双子のキラとカガリ。誰よりも近く。そしてとおい存在。
生まれる前から共に在ったけれど、二つに分かれて育ち、再び巡り合った。
血のつながりで近い存在だけれど。
何も知らなかった昔のような関係にはなれない。なる事が無い存在。
二人はとても近いけれど男女としてはもっとも遠い存在であるように思えます。
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