アウル編


何にもない真っ白な空間で視線の先に見えるは。
青いくせっ毛。
蒼い瞳。
白い肌。
口端に浮かぶ悪戯っぽい笑み。
見慣れた表情。


「なんだ、僕か」


近づいてみると一枚の等身大の鏡だった。
それに映り込むは自分の影。
鏡に触れると鏡の中の自分も同じようなことをする。
何故、こんなところにこんな物があるのだろうか?


「鏡はさ、自分の心を、希望を映し込む物でもあるんだぜ?」


不意に響いてきた声に顔を上げると、
鏡の中の自分が此方を見て笑っていた。
口元に手をやって自分は笑っていないのを確認する。
そして鏡を再び見やってもなお、鏡の中の僕は笑っていた。


「僕はお前だよ。あり得たかもしれないお前。
もうひとつの可能性」

鏡の中の僕はいつもの軍服ではなく、
黒いズボンに真っ白いワイシャツといった学生服を着ていた。
共通点と言えばオレンジのインナー。
そして胸元に光る銀色のペンダント。

「フザケんな。
僕は僕であって、おまえじゃねぇ。
同じであってたまるか」

こいつを肯定してしまったら
今までの自分は何なんだ。
『存在』しているのは僕だ、お前じゃない。
アウル・ニーダとして。
アビスのパイロットとして。
ファンタムペインの一人としてここに『在る』ンだ。

鏡はなおもくだらない質問を続ける。

「お前は戦うことない世界を望んだことはないのかよ」
「うっせえな。そんなもん願っていたら俺らは生きていけない」
「ステラやスティングとずっと一緒にいたくはないのかよ」
「ばっかじゃねーの。戦場だぜ?
あいつらはいつかいなくなるし、僕はいつ死ぬかも分からない。
気にしてられっかっつーの」
「嘘付け」

鏡の中の自分は瞳に鋭い光を湛えて僕を見つめた。

「誰よりも一人が怖いくせに。誰にも二人を取られたくないくせに」
「うるさいっ、だまれっ!!」

怒鳴っても鏡の中の影はしゃべり続ける。
聞きたくない。
耳をふさいでもなお声は響き続ける。

「二人を取られそうになったらお前、どうするんだよ?」
「黙れ、クソがぁっ!!」

叫ぶと共に拳を鏡に叩きつけると、澄んだ音を立てて、鏡は砕け散った。
破片に映るは無数の僕。
口元に笑みを浮かべている。

「ステラとスティングを僕から取ろうとするヤツは殺す。
ステラとステイングが僕から離れンならアイツらを殺す。
そんだけだよ」


響くは僕の声。
僕の本心。
僕が何処にいようと
どんな形であろうとかまわない。
それが戦場であっても。
たとえ地獄であっても。
アイツらがいるのなら、それで好いんだよ。



管理人「どんな形にしろ、アウルの望みは3人共にあること。
たとえ相手を殺すことになっても彼は共にあることを望む。
拍手、有り難うございました」





After the War
アウル編



なにもない真っ白な空間で視線の先に見えるは。
青いくせっ毛。
蒼い瞳。
白い肌。
口端に浮かぶ悪戯っぽい笑み。
見慣れた表情。


「いつぞやの鏡か、久し振り」


近づいてみると一枚の等身大の鏡だった。
それに映り込むは自分の影。
鏡に触れると鏡の中の自分も同じようなことをする。
何故、こんなところにこんな物があるのだろうか?
2年前に夢に見た鏡と同じ鏡。
あのときたたき割った感触が今でもリアルに思い出される。
けれど鏡はこのように何事もなかったように立っている。
そしてその鏡が映し出す影は2年前と異なる青年の姿。
寸分も違わない、今の僕。

「何も言わないのかよ、鏡よ鏡さん?」

鏡は何も言わず、正確に僕を映し出す。

「僕は今で幸せだよ。それを伝えたかった。
じゃあな。もうここに来ることもないけど」

鏡は何も言わない。

「お前は今度誰の夢に現れるんだろうな。
お前には望みあんの?・・て答えるわけ無いか」

鏡はやはり何も言わない。
僕は鏡に背を向けると元来た道を引き返す。
遙か向こうに見える光の先が僕の居場所。
光の中に足を踏み込んだ瞬間、僕の中で響いた、『鏡』の声。

「救いを。鏡をのぞき込む者の救いを私は望む」

お前はそれを望んで今日も誰かの夢に現れるのだろうか?




管理人「鏡は私や連合の救いを願う人の願いが
具現化したものです。
拍手、ありがとうございました」