拍手ログ16









夢か現か。




一面に広がるススキ野原。
頭上には白い月。
常に傍らにいたはずの少年達を探して
金の髪の少女は一人彷徨う。

水色の少年は。


「何処?」


萌黄の少年は。


「何処?」


二人は。


「何処?」


何処までも何処までも。
果てしなく続く黄金色の海。
どんなに探しても見慣れた姿はなく。
どんなに呼んでも少女の望む声は返ってこない。

心細くて。
哀しくて。

少年達を呼ぶ少女の声は次第に嗚咽へと変わってゆく。
その時。


一陣の風が野原の間を吹き抜けた。


「ばぁか、何やってんだよ」


水色の少年の声が響く。


「ここにいたのか」


そして萌黄の少年の声も。


涙に濡れたまつげをあげると
水色の少年が悪戯っぽい笑みを。
緑の少年は優しい笑みを浮かべ、
少女に手をさしのべていた。

少女は涙に濡れた顔を喜びに輝かせ、彼らの方へと手を伸ばす。
離ればなれになっていた手と手が互いにつながる。
幸福そうな笑い声が響いた。


同時に。


先ほどの風よりずっと強い突風がススキ野原を駆けめぐり。
風が止んだとき。



何処へ行ったのか。



3人の姿はなく。



黄金色のススキだけが静かに揺れていた。







*    *   *   *   *   *









「プラントの空ってつまらない」

亜麻色の少女がプラントの空を仰いで漏らした一言。
褐色の青年が怪訝そうに彼女を見やると、
少女は空を見上げたまま言葉を続けた。


「表情がないもの」
「表情?」


意味が理解できず、オウム返しにその言葉をくり返すと
少女はそう、と軽く頷いた。


「地球の空は季節毎に顔が違うのよ」



春の空は霞の掛かったほんわかとした空。
眠たくなるような空。

夏の空は雲の宝庫。とっても蒼くて、元気が良くて。

秋の空は高くて広くて。情緒のある変化を見せてくれるわ。

そして冬の空はとても透き通っていて青々しいの。特に星が綺麗なのよ。



「私は秋の空が一番好き」


亜麻色の少女は笑った。
人の心のように移ろいやすいけれど、
何処までも広くて自由だから。
何処までも飛んでいけそう。


「・・・・・」
「何よ、納得したような顔をして」
「なんでもない」


褐色の青年はぶっきらぼうにそう答えると
そのまま先を歩き出した。
いつもなら揶揄するように笑って
皮肉の一つや二つを言うだろうに。
彼らしかぬ態度に少女は首を傾けて数度瞬きをしたが、
すぐに小走りに後を追った。


俺がお前を捕まえられないわけだよ。


木の葉を舞あげる秋風に紛れた青年の呟きが
彼女に届いたかどうかは。




神のみぞ、知る。






*    *   *   *   *   *








・・・・チリーン。




何処からか響いてきた透明な音が秋の空気を震わせた。


「綺麗な音だな。何の音だい」


窓辺に寄りかかっていた金髪の男が傍らの女性に問う。




チリーン。




また鳴り響いた。


「ホラ、聞こえるだろう」
「ええ、風鈴でしょう」


栗毛の女性がそう答えると
男性は紺碧の瞳を閉じて音に聞き入った。




ちりーん。




「この澄んだ音はまるであの子達のようだ」




萌黄の少年。

水色の少年。

そして金の少女。




彼らと過ごした日々を懐かしむように

男はそう呟いた。






*    *   *   *   *   *






「もうすぐ彼女の命日だね」


紫苑の少年はそう呟くと空を見上げた。

秋が訪れた空はとても高く、広い。

少年の傍らに佇む桃色の少女も静かに空を仰ぎ見。

そして少年の横顔へと視線を戻す。

その青い湖水は穏やかではあったけれど、

湖底に寂しさを湛え。

けれどそれを少年に気付かれまいと

少女は敢えて微笑んで見せた。



手を伸ばせば触れられる距離のはずなのに。




紫苑の少年は

秋空のようにとても、とても遠く感じられた。






*    *   *   *   *   *








「今月は十五夜だな」


カレンダーををなぞっていた紅の少年の呟きに
紅の少女は顔を上げた。


「十五夜?」


聞き慣れない単語に小首を傾ける少女に頷くと
少年は部屋の窓を開けた。

秋夜のひやりとした空気が頬を撫でる。


「中秋の名月のこと。綺麗な満月なんだ。すっごく明るくて」


闇夜に浮かぶ上弦の月。
明るい光が彼を照らす。


「この比じゃないんだよ?」
「ふうん」


紅の少女は彼の傍らに来ると同様に月を見上げた。

プラントには月はない。

地上に降りた後も連戦続きで夜空など見上げたこともなかった。


「マユは十五夜になると月見だってはしゃいでたっけ」


昔の面影に想いを馳せた紅の瞳が懐かしさに揺れる。


「月見団子用意して。ススキ飾って。一緒に月見をしたんだ」


不意にくんと袖を引かれた。
視線を降ろすと肩越しに紺青とぶつかった。


「なんだよ」
「だったら今年は一緒にお月見しよ」




あんたは一人じゃないのよ?




言葉尻にこめられた少女の想いが嬉しくて。



少年は彼女を抱きしめた。









あとがき


テーマは秋。
今回はアニメ本編準拠。
小説でだいぶ救われたので書いてみたくなりました。
ペイン3人とフレイは亡くなっています。




ススキ野原はこの世とあの世の境目。

ぎりぎりの精神状態でアウルと兄さんを
思い出したステラ。

先に逝ってしまっていたアウルと
先にアウルの元へと着いてしまった兄さんが
ステラを迎えに来る。
そんな場面。

キララクとフレイ。
・・・・アニメでフレイを思いやって欲しいという
願いもこめて。


ネオマリュ。

ネオには回想するなら
哀れみとかそういうのではなく。
精一杯生きた彼らとの思い出を
思い起こして欲しい。

シンルナ。

幸薄い君たちに幸あれ。





Destiny小説3巻発売記念。
そしてアウルたちへの追悼もこめて。