ぱしゃん。


湯船の水が跳ねた。














BatheingTime2
〜青少年の主張〜
















「あ・・・・アヒルさん、待って」

 広い浴場に浮かぶ三つの影。
 その中の一つであるステラがゆらゆらと湯に揺れて離れてゆくアヒルのおもちゃを追う。水圧のせいかなかなか前へと進むことが出来ず、アヒルとの距離は開いてゆくばかり。
 
 それでも諦めきれずにステラはその後を追う。

 アウルは、というと湯に使ってのん気に鼻歌を歌っていて我関せずのご様子、スティングは・・・・頭を洗っている真っ最中だった。


 ゆらゆら。
 ゆらゆらとアヒルは行く。
 ユラユラ。
 ユラユラと。
 この後の騒動のことなど知る由もなく。




「うわぁっ?!」



 不意に響いたアウルの素っ頓狂な声にスティングは何事かと声の方へと見やると、アウルの背中越しにステラがアヒルの方へと手を伸ばしていた。
 ステラに背中に乗っかられ、アウルは前のめりになってしまっている。湯船に顔を突っ込むまい、と顔を真っ赤にして必死にたえているようだった。


「アヒルさん、捕まえた・・・・」
「ざけんな、コラぁ!!」


 ようやく捕まえたアヒルのおもちゃを持ち上げて笑うステラにアウルの怒鳴り声が飛んだが、彼女は彼が怒っている理由が分からずにただきょとんとしていた。
 そりゃあ湯に顔を突っ込むところだったものな、怒るだろうとスティングは苦笑したが、そのあとのアウルの言葉でそれは失笑へと変わった。


「人の背中に生乳押し付けてんじゃねーよ!!デリカシーのねー女だな!!」
「そっちかよ!!」


 思わず突っ込みを入れるスティング。
 人前で平気でいちゃついているくせになぜこういう事でアウルが恥ずかしがるのか彼はまるで理解できなかった。


「だって生乳だぜっ?!信じられねー!」


 呆れたようにため息をつくスティングにアウルはますますムキになって怒った。ステラはアウルの怒っている理由が一向に理解できずにきょとんとしたまま、アウルの言葉に首をかしげた。


「なまちち・・・・・ってなに?」
「裸の胸のことだよ!!」


 ステラの言葉に一瞬言葉を詰まらせたアウルだったが、すぐに答えを怒鳴り返した。ステラはますます彼の怒る理由が分からなくなったらしく、自分の胸に手をやると不思議そうにアウルを見つめた。


「でもアウル・・・・ステラの胸いっつも・・・・」
「アーアー、何も聞こえねー何も聞こえねー!!」


 ステラの言葉はアウルのわめき声によって唐突に断ち切られた。


「アウル・・・・胸」
「アメンボ紅いなぁっ!!あっいっうっえっおーーーーっ!!」


 それでもなお言葉を続けようとする彼女を躍起になって邪魔をしようとアウルが声を張り上げ続ける。顔を茹蛸のように真っ赤にして。


「や・か・ま・し・い!!風呂場で騒ぐな!!」


 そして。
 反響音でいつもの数倍も脳を揺さぶる金切り声に耳をふさぎながらスティングもまた声を張り上げるのだった。


「あうる・・・・」
「わーわー!!」
「わめくな、この馬鹿っ!!」


 アウルのわめき声とスティングの叱責の声で広い浴場はそれは騒がしく、艦内中に響き渡っていたという。






「大佐・・・・浴場は騒ぐところではないはずですが」
「誰か止めてやってよ・・・・・トホホホホ・・・・」









あとがき

 改めて意識してしまうとアウルは恥ずかしいみたいです。でもそれはあくまで彼の基準であって、ステラやスティングにとっては「??」だったりします。
 普通の人なら恥ずかしいと思う事であってもアウルにはなんでもないとか。多分行動によってその基準が変わってくるのではないでしょうかね。