この頃ステラの体調が悪い。

熱っぽい上、飯もろくに食わねぇ。

何かとトイレに駆け込んでいる姿を最近よく見かける。

どうしたんだよ、風邪か?

具合が悪いんだったら迷うことはない。

僕とスティングはとっとと店を臨時休業にしてステラを病院へと連れて行った。

ところが何かやたらと時間が掛かって

俺らはイライラして待った。

何故こんなに時間が掛かるのか。

ステラに何かあったのかと心配でならなかった。

そして。

ようやく顔を見せた医者は

僕を見るなりこう言った。


「おめでとうございます」


気が付くと僕はその医者を殴り倒していた。






アウステベビー物語


第1話
アウル、パパになる









「てめぇ、なめてんのか!!

ステラの具合が悪いのがそんなにめでたいのか、ああっ!?」

「おいっ、アウルやめろ!!」


怒り心頭のアウルをスティングは後から羽交い締めにして

押さえつけると、彼の代わりに医者に謝った。


「すいません。こいつ馬鹿で・・・」


その間もアウルはスティングの腕の中で暴れ回っている。

だが悔しいことに彼はスティングの腕力にかなわず、

怒りをぶつけられないまま

言葉だけが空しく空に飛んでは消えていった。


「はなせっ!!こいつ、殺す!!」

「話を聞け、この馬鹿!!」


幸い医者はコーディネーターであったらしく、

歯を折りはしたモもの、アウルの攻撃に何とか耐えられたようだ。

医者は看護婦に支えられておきあがると

暴れるアウルをひびの入った眼鏡越しに冷ややかに見つめた。


「・・・お子さんが出来たのがそんなにめでたくないのですか?」

「は・・・?」


その言葉にアウルはぴたりと静かになると、呆けたようにつぶやく。


「………こ、子供・・・?」

「はい。今、3ヶ月ですね」

「やっぱりな。そうじゃねぇかと思ったぜ」


医者が頷くとスティングはアウルを抱えたまま、はああっと大きく溜め息をついた。




そして次の日。

ステラの妊娠を聞き、シンとルナマリアが店に駆けつけてきた。

臨時休業の看板を下げた店内で

ルナマリアはガトーショコラを突っつきながら

ステラの妊娠のことを切り出した。


「でもステラの妊娠、思ったより遅かったわね。

一緒に暮らし始めたらすぐ出来ちゃうかと思っていたのに。

避妊でもしてたの?」


そしてそんなルナマリアのとなりでシンがコーヒーをすすりながら馬鹿にしたように

鼻を鳴らす。


「無計画なこの馬鹿にそんな考え在るわけないだろ」

「それもそうか」

「お前ら、来るなりその言葉かよ」


本人の前で無遠慮な会話を交わすシンとルナマリアを

アウルは苦々しく睨み付けた。

だがルナマリアはそんなアウルを全く意に介さず、

フォークの先を立てながらマイペースに話を続けた。


「でも、入籍前に子供出来ちゃったんじゃない。どうするの?」

「へ?別にイーじゃん。スティングに嫁さん来るまでいーよ。

ステラもそれが良いって言ってたし」


「あきれた・・・」


入籍の気が全くないと笑うアウルに呆れて息を吐き出すルナマリア。

シンはシンで、口をぽかんと開けてこいつ本物の馬鹿だとつぶやいた。

とりあえずそれ以上は突っ込むまいと、ルナマリアは話題を赤ん坊の話に切り替える。


「でどっちなの?」

「まだ3ヶ月だって。わかんねぇよ」

「じゃ、どっちが良い?」


ルナマリアの言葉を待っていたかのように

アウルはマリンブルーの目を輝かせた。


「僕は女かな。一姫二太郎が好いって言うじゃん?

でもステラのヤツは僕そっくりの男がいいって」


ステラとの会話を思い出してアウルが白い頬を染めそう照れると、

惚気てんわねぇとルナマリアはクスクスと楽しそうに笑う。


「あはは、分かるぅー。ステラ、あんたの髪と目大好きだものね。

それに小さい頃のあんたってむちゃくちゃ可愛かったって言ってたわよ〜。

抱きしめたいくらいだったって。見てみたいわ、どんな子だったか。

男だったらいいのに、ホント」


そしたらこんな風に抱きしめたいわね、と、大きく自分を抱きしめる仕草をしてみせた。


「はは、いや〜。そっかぁ?そうだよなぁ〜」

「それがなんでこんなに憎たらしい、性悪になったんだろうね。

ホント悲劇だよ」


照れるアウルにシンが辛辣な言葉を投げると、殺意が芽生えたアウルの盆を持つ手に力がこもる。


「・・・この野郎」

「やるか、この!」


当然その気配に気付いたシンは立ち上がり、二人は互いににらみ合った。


「やめなさいよーもー」



そんなやり取りをやっている皆の後ろで、

アウルのありがたくない嫁さん宣言に

スティングは半眼で余計なお世話だとぼそぼそといじけていたが、

誰一人として気にとめる者はいなかった。






「ステラ、そんなにベビー服買い込んでどうするの?」




カメラマンとして近くまで取材に来ていたミリアリアは

街のベビー服の店にいるステラをウィンドウ越しに見つけると

彼女に声をかけた。


「子供、出来たから」


会話の間もベビ−服を物色する手を休ませずにいるステラを

ミリアリアほほえましいな、と笑みを浮かべた。


「あら、おめでとう。今何ヶ月?」

「3ヶ月」

「え・・・?」


ステラの言葉にミリアリアは僅かに眉をひそめて

うずたかく積まれたベビー服を見やった。


「服買うのにはまだ早いんじゃないかしら?

男の子か女の子か分からないんだし」

「・・絶対男。

アウルにそっくりな男の子を産むの。

青い髪と青い目の小さいアウルを」


「そ・・そう・・」



男を産むのだと、気合いの入っている彼女にミリアリアはそれ以上つっこめずに

曖昧な笑みを浮かべた


出産予定日まで後7ヶ月。

男か女かは神のみぞ、知る。







後書き

勢い余って書いてしまいました。

アウステベビー物語(笑)

その過程も書いていきたいとのでベビーはまだ登場しませんが、

おつきあい頂けたら嬉しいです。